第四話
この世界に、魔法なんてものは存在しない。だが、時々生まれつき特別な能力を持って生まれてくることがある。
それをシンプルに、”能力”と言う。能力を持っているものは、大抵依頼を受けて、それを達成する。
依頼は基本、政府やどこかの機関等から出される。汚れ仕事やまともな仕事までさまざまだ。
能力を持って生まれたものは、”能力者”と呼ばれる。能力者であることがわかった時点で、政府または専用の機関に引き渡される。
水龍の実家は、代々能力者が生まれる名家だったので、幼いのに力の強い水龍はとてもちやほやされていた。そして、制御できるように訓練していた。このように、どこにも引き渡さず家で育て、訓練するところもある。
能力を持っていることどころか、このような能力が存在することすら、一般人は知らない。巧妙に隠されているからだ。知れば、それを利用しようとするやつらが出てくるからだ。
やっと終わった。
「ふう」
疲れてもいないのに、軽いため息が出る。めんどくさい仕事だった。この前夏花とやった仕事と違って、ソロな上に相手はお偉いさんと密会中の組だ。よからぬことを話しているのは一目瞭然である。時折下卑た笑みを浮かべている。それをとっ捕まえるか、病院または墓送りにすればいいっつう仕事だ。相手の人数は15人。格闘で、しかもソロではかなり無理があると言われているが、俺は平気だ。まず、気づかれないように近づき、3人の頭をナックルダスターの中でも威力が物凄いやつをつけた手で一気に殴り飛ばす。これでこの3人は終わった。残りの12人の内の2人が銃を取り出して構えた。俺は一瞬で距離をつめ、銃を小さくした。そう、俺の能力は触れたものの大きさを自由に変えることができる。最初はしょぼいと思ってたが、この能力は最高だ。
『小さな巨人』
俺の能力を発動させるときに言う言葉。スペルって言うんだ。ちょっとばかし恥ずかしいけど平気だ。そして、銃が小さくなって
「なっ、何で!?」
「どうなったんだ!?」
とか驚いてる2人の鳩尾に、キックをお見舞いしてやった。呻いて倒れてたな。残りの中の5人がスタンガンもって反撃して来た。2人に顔面パンチ、1人にローキック、残り2人に顔面キック。側転をして、途中で乱入して来た3人の顎に足をぶつけた。側転の勢いに乗っていたからかなりのダメージだ。残り2人。足元の石を岩ぐらいの大きさにして、片方に投げつけた。野球のボールぐらいの早さだった。
「ひぃっ!」
残りの1人、結構人気がある政治家だ。そちらを向いただけでこんな声を上げている。できれば無傷で刑務所に、という依頼主からのご要望があるからな。精神的に懲らしめるついでにちょっとからかってみる。
「なぁアンタ。アンタ結構人気だよなあ。そのお偉い政治家さんが、こんなことしてていいのかなぁ?今の、ぜぇ~んぶ録画してあるんだよ?(嘘だけどな)どうすんの?」
ここまでを一息でいうと、「うぅ」とか「えと・・その・・・」とか言った後に、「きっ、君は!!私を誰だと思っているんだ!!」と逆ギレした。
「私は地位も高くてお前みたいなガキh「じゃあその人気の政治家さんがこんなことやっていいのかって聞いてんだよ!」ヒィッ!」
ちょっとイラついたから怒鳴ってみたらまた情けない声出しやがった。あーイラつく。ブッ飛ばして・・・は駄目なのか。めんどくせえ。
その後もたっぷり脅s・・・説教してやったら、だいぶおとなしくなった。こんな奴が俺は大嫌いだ。早く警察に引き渡して帰ろう。
イライラする仕事を終えて、ゆっくり徒歩で帰っていた。真っ赤な夕日が綺麗だ。今日は休みだったから、のんびり仕事ができた。まあ結局は、イライラして終わりだったが。
「うわああっ!来るな!来るなぁっ!」
何かいきなり悲鳴がした。ここらは全くと言っていいほど人が来ない。おあつらえ向きな廃墟が1つ在るだけだ。とりあえず見物にでも行って見るか。
廃墟に入ってまず目にしたのはおびただしい数の死体と血の海だった。軽く50人は居るだろうか。この廃墟は無駄に広くて中が見えにくいから、交渉とかそういうのにはピッタリだってわけだ。いったいどんな凄腕の奴がやったんだよ。
「ん?」
銀色の光が視界の隅に映った。直ぐに振り向くが、銀色に光りそうなものは何一つない。
「へえ、金縛りが効かない。面白い、面白い!じゃあこれは?」
突然背後で声がした。油断しきっていた。でも今の声どっかで聞いたような気がする。すぐさま背後を向くと、頭にピリッという刺激がきた。続いて身体の倦怠感。俺は急いでウエストポーチから万能解毒薬を一瓶取り出して一気に飲んだ。
「あっぶねえな!後3秒で死ぬとこだったじゃねえか」
今の症状、確実にラスガエルの毒だ。ラスガエルの毒は触れたところは黒く変色し、摂取した場合わずか10秒ほどで死に至るというとてつもない毒だ。俺が作ったどんな毒でも大丈夫な万能解毒薬があったから助かった。
「ふ~ん、毒は効くんだね。毒についても知っているようだ。それに君には『魅了』も効かない。僕と同じくらいの力量ってことだよね?でももう帰らなきゃ。今夜は新月。月が昇る前までに帰らなきゃ。それじゃあね」
やっぱりどっかで聞いたことがある。結局姿さえ見せずに声だけしてたからなぁ。ふと足元を見ながら、ボソッと呟いた。
「これ誰が片付けるんだろ」
最初のほうに説明を入れるのを忘れていたので。
後付っぽくてすみません。