第三話
夏花と約束をした場所で待つこと3分。やっと夏花が走ってきた。
「ごめん!遅れちゃった・・・」
全力疾走をしたはずの夏花は息も切れていない。そんな夏花は、だぼっとしたパーカーを着ている。
「暑くねえか?それ」
今は春とはいえ、さすがにパーカーは暑いだろう。
「いや、そんなことないよ」
なら大丈夫だろう。
「ほれ、行くぞ」
そう言って目的地に向かう。目的地は海辺の使われていない倉庫。
「にしてもベタだよなあ」
「うんうん、ベッタベタだよ」
今回はこいつに任せてみようかな。どの位の実力か、知りてえし。
「おい、夏花。今回はお前とは初めてのペアなんだから、俺はお前の実力を知らない。だから、お前に任せてみようと思う」
いや普通逆でしょと言う夏花は無視して、目的地に急ぐ。
「海のにおいがするね」
「当たり前だろ」
などと話しながらも倉庫に着いた。ここでもうすぐ、麻薬の取引、密売があるというのに、夏花は意外とリラックスしている。
俺は、無言で屋根に登り、一箇所開けておいた穴から中に降りた。夏花も後に続く。
扉から入ると、ターゲットに中にいることを気づかれる可能性があるからだ。
待つこと6分。俺と夏花は、息を潜めて隠れていた。扉が開いて、ターゲットの内の3人が来た。
(そろそろだぞ。夏花)
(分かってるよ)
アイコンタクトで会話し、身構える。いや、俺は身構えなくていい。今回は夏花に任せるんだから。そう思って俺が力を抜いたところで、ターゲットの残り3人が来た。
何か確認を済ませた後、大きなトランクを交換しようとしたそのとき、夏花がだぼだぼのパーカーから出した銃を構えて、片手で狙いを定めた。そして、トランクが交換される瞬間に発砲した。
ドンッ ドンッ ドンッ
倉庫の中に、銃声が響き渡る。
ドンッ ドンッ ドンッ
続けてもう3発。ターゲット達はパニックになっている。ヒュウ♪と口笛を吹いて夏花に言う。
「へえ、意外と上手いじゃん」
夏花が撃った弾は全て、ターゲットの眉間に命中していた。
「ね!だから言ったでしょ!」
と、夏花は笑顔で言う。勘違いしてはいけない。こいつは今笑顔だが、自分の数10m離れたところには、自分が撃ったばかりの死体が転がっているのだから。
ま、俺もそうなんだけどな。むしろ嬉々とした表情で殺しまくってるって言われたことがあるし。
「それじゃ、仕事も終わったし、報酬もらいにいくか」
「あ、ちょっと待って」
珍しく、夏花が待ったをかけた。夏花はパーカーのポケットから、日本酒のようなものと、お猪口をとりだして酒を注ぎ始めた。思わず「飲みてえ」と言うと、「いいよ」と俺の分も注いでくれた。俺は、ぐいっと飲み干してから、呟いた。
「うまい」
すると、夏花は満面の笑みを浮かべ、
「でしょでしょ!!これ僕が造ったんだよ!」
思わずお猪口を落としそうになった。
「まじで?」
頷く夏花。まず未成年の俺と夏花が酒を飲んでいるのもおかしいが、造っているなんて、
思いもしなかった。
「まぁいいや。もう一杯くれ」
切り替えが早いのも、俺の長所だ。
そうして何杯か飲んだ後、指定された場所に行って、報酬をもらった。結構大量だ。
「じゃ、また学校でな」
「じゃ~ね~!」
と夏花と別れるときには、夕方になっていた。長いときは夜まで続くから、今日はまだいいほうだ。
そういえば今日は花瑠雅特製プリンがデザートにあったっけ。
「プッリン~♪プッリン~♪」
知らず知らずに小声で歌いながら、家へと急いだ。