みきことゆき
みきこが私の名を呼べば、私は条件反射で振り向き、本能のままみきこに飛び込む。
みきこが泣いていたら私も悲しくて一緒に静かな時をすごす。
みきこが怒ったら私は反省して、それと同時に悲しくなる。
みきこが嬉しそうに笑ったら私も嬉しくて。
みきこが、私を忘れても、それは変わらなくて。
「可愛い子。君はなんていうのかな?」
よしよしと頭を撫でるみきこは私を忘れる。
一日たったら忘れてしまう。
「みきこ、その子はあなたの大事な親友だよ。」
「そっか…ごめんね。」
謝らなくていいから、私の名前を呼んで欲しいと願う。
「ゆき、っていうんだよ。」
「ゆき、ね。絶対忘れないから。」
初めて小さいみきこに会ったとき、「君は白くてきれいだね。雪みたい。うん、ゆきって名前がすごく似合う。」そう言って私の名前を決めてくれた。
ゆきって名前、私はすごく気に入った。
みきこがゆきと呼んでくれるのが嬉しかった。
「ゆき、おいで。」
ああ、やっと呼んでくれたとおもい、嬉しくてみきこにだきつく。
みきこはビョーキで私を忘れてしまう、そう言っていたよしこは悲しそうに私たちを見ていた。
私を忘れても、みきこは今までとかわらず私を大切にしてくれた。
本当に、昔とかわらない。
私を忘れたなんて嘘のようだった。
みきこは夜泣く。
明日になったら今日を忘れることが怖くて。
私は側によってみきこをなぐさめる。
ごめんねと言って撫でる手は昔とかわらず温かく、私はとても安心する。
みきこが私を忘れても、みきこの手は私のことを覚えてくれているという確信があった。
いつだってみきこは私を受け入れる。
小さいときも、大きくなっても、ビョーキになっても私とずっと一緒にいてくれた。
みきこが私を忘れても私はみきこのことを忘れないからそれでじゅうぶん。
みきこのビョーキはなおらない。
なにもわからない私にもそのことはわかっていた。
「君はなんていうの?」
「君の名前は?」
「君はだあれ?」
「綺麗な白。雪みたい。」
みきこは最後そう言って、私を撫でた。