おしまい TYPE-H
男の孫は双子の姉弟でした。
ところがある日、突然、弟が一言も話さなくなり、犬とばかり一緒に居るのです。
犬の名前は「バク」といいました。
この事が原因で息子の身に離婚騒動がおこったので、息子は姉弟と犬を男に預けたのです。
男と姉弟と犬の生活がはじまりました。
ある日、男は車で海に行こうと言いました。
男の車はトヨタのカローラという実用的なファミリーカーでした。
姉が助手席に、弟と犬が後部座席に座りました。
男がカーラジオのスイッチをひねるとブルース・スプリングスティーンのロックン・ロールが大音量で流れてきました。
よく晴れた明るい日でした。
男と姉弟は砂浜から海をながめました。
犬は大喜びで砂浜を走り回っています。
姉弟は海をながめるのに飽きると、姉はモンゴメリの「赤毛のアン」を、弟はヘルマン・ヘッセの「車輪の下」を取り出して読みはじめました。
犬は流木をかじったりなどしていましたが、やがて遊び疲れたのか、弟の側に座り込むと眠りはじめました。
爽やかな風が一行の間を吹き抜けてゆきました。
男はニッコリとやさしく笑いました。
「
海蒼く
空の太陽
慟哭す
」
次の日、男が台所で食事の支度をしていると、姉が飛んで来ました。瞳を大きく見開いて、
「弟とバクが図書館の壁に突然開いたトンネルの中に入って行った!」と言うのです。
男は姉と図書館に行きました。
図書館の壁には男がしゃがんで通れる大きさのトンネルが開いていました。
姉の話によると、犬のバクが図書館の壁をしきりにひっかいたりうなったりしていたら、突然トンネルが開いてバクが中に入って行ったと言うのです。弟もバクを追いかけてトンネルの中に入って行ったそうです。
男と姉は、弟と犬をさがしに行く決意をしました。
姉は何を思ったのか、男の家中をさがし回って、右手にトンカチを、左手にノコギリを持って現れました。
男は何を思ったのか、ご飯をにぎりはじめて、右手に風呂敷一杯のおにぎりを、左手にお茶を入れた水筒を持って現れました。
男と姉は顔を見合わせました。
準備は整いました!
男と姉はうなずくと図書館の壁に突然開いたトンネルの中に入って行きました。
(TYPE-H おしまい 最終更新日22年06月19日)




