おしまい TYPE-G
男の孫は男の子でした。
ところがある日、突然、一言も話さなくなり、本ばかり読んでいるのです。
お医者さんは自閉症だと診断し、転地療法をすすめたので、息子は孫を男に預けたのです。
男が孫を預かる前日でした。
男の近所におばちゃんが住んでいました。
おばちゃんは世界中の子どもを愛していました。
おばちゃんは男に向って風の噂で聞いた、保護者が子どもを殴り殺した事件と焼き殺した事件を話しました。
男は腹が立ったので杖をにぎりしめると、おばちゃんに殴りかかろうとしました。
おばちゃんはキッ!と男をにらみつけました。
杖が無くては満足に歩けない男より、おばちゃんの方が強かったのです(おばちゃんは護身術を体得していました)。
男は卑屈に笑いながら揉み手をしました。
おばちゃんは非の打ち所の無い正論ばかり言うと、さっさと帰って行きました。
男は泣きました。
男は悔しくて泣きました。
男はヘルマン・ヘッセの「車輪の下」を読みながら悔しくて悔しくて泣きました。
男は若い頃から、苦しい時、怒った時、悲しい時、辛い時、いつもヘルマン・ヘッセの「車輪の下」を読みながら歯を食いしばってきたのでした。
次の日、孫が来ました。
男はニッコリとやさしく笑いました。
男は孫を図書館へ連れて行きました。
孫は大きな机の上に置いてあるヘルマン・ヘッセの「車輪の下」を読もうとしました。
けれどもその本は男の涙でボロボロになっていて読めませんでした。
図書館には車が来て数学の本を読んでいました。
それは日産のシーマというみんなの憧れの高級車でした。
男が車に孫を紹介すると、車が孫に突然襲いかかりました。
車は孫を犯しはじめました。
男は止めようとして、車に飛び付きましたが、車に軽々と跳ね返されました。
男は本棚に頭を打ち付けて、尻餅をつく格好で崩れ落ちました。
男の目の前で車は孫を犯し続けました。
孫は声一つ上げません。
男は後頭部に鈍痛を感じながら、ぼんやりと目の前の光景をながめていました。
大きな机の上に置いてあるヘルマン・ヘッセの「車輪の下」から、涙がポロリと一粒こぼれ落ちました。
(TYPE-G おしまい 最終更新日22年06月22日)




