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  作者: 紀ノ川
第1部 孫を預かる男
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おしまい TYPE-C

 男の孫は双子の姉弟でした。

 ところがある日、突然、弟が一言も話さなくなり、犬とばかり一緒に居るのです。

 犬の名前は「バク」といいました。

 この事が原因で息子の身に離婚騒動がおこったので、息子は姉弟と犬を男に預けたのです。

 男と姉弟と犬の生活がはじまりました。


 男の図書館で、姉はモンゴメリの「赤毛のアン」を、弟はヘルマン・ヘッセの「車輪の下」を読みはじめました。

 ところが困った事が起こりました。

 犬のバクが本を食べるのです!

 男は読書家でしたが、愛書家でもありました。大切な本を食べられる事に我慢出来ませんでした。男はこの犬に強い不満を抱きました。


 姉弟は男のつくる食事に強い不満を抱きました。

 男の用意する食事はご飯とみそ汁と漬物だけなのです。

 姉弟はハンバーグや鶏の唐揚げや卵焼きを食べたいと願っていました。

 男は姉から、「タコさんウインナーを食べたい!」と言われました。

 けれども男は「タコさんウインナー」が、タコなのか、ウインナーなのか、それとも男の知らない全く新しい食べ物なのか?それさえもわからないのでした。


 男は図書館で「タコさんウインナー」について調べようとしました。

 男の図書館には料理の本も沢山ありました。

 けれどもそれらの本は全て犬が食べてしまっていました。

 男と姉弟はビミョーな関係になりました。


 そんなある日、男は鍋料理をつくりました。

 鍋にはおいしそうなお肉がたっぷり入っていました。

 姉弟は大喜びです!

 姉弟は夢中になって食べました。

 鍋の〆にはご飯と卵を入れて雑炊にして、汁の最後の一滴まで残さず食べ尽くしました。

 姉弟はお腹一杯になりました。

 姉弟は大満足です!


 ところがその夜を境に犬の姿が見えなくなりました。

 姉弟は何日も何日もバクをさがしました。

 けれども犬は見つかりませんでした。

 弟は犬が居なくなってひどいショックを受けました。

 姉はあの夜に食べた鍋料理のお肉の事を思いました。

 男と姉弟はますますビミョーな関係になりました。


 それから数日後の朝、男は布団の中で死体で見つかりました。

 男の死体を警察が調べた結果、男は無数の人間の子どもに生きたまま食べられたという事がわかりました。

 男の顔は苦痛に激しく歪んでいました。


 姉弟は警察で話をしました。

 姉は、「昨日の夜は朝までぐっすり眠っていました。物音一つしませんでした」と言い、弟もうなずきました。

 そして警察で出された簡単な食事をおいしそうに食べました。

 姉弟は引き取りに来た息子の手にそのまま渡されました。


 男の葬式には大勢の人が参列しました。

 その数の多さに喪主をつとめた息子もビックリしました。

 男の葬式には、男がニッコリとやさしく笑っている写真が飾られました。


 参列者の中に愛に満ちあふれた目で姉弟を見守るおばちゃんがいました。

 弟は姉に小さな声で言いました。

「あのおばちゃんの方がおいしそうだよ」

 姉はそのおばちゃんをじっと見つめました。

 その姉の目には、もう決して埋め合わす事の出来ない「喪失」が浮かんでいました。


(TYPE-C おしまい 最終更新日22年06月22日)

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