おしまいのおしまい
ある日、男の息子が小学6年生になる孫を連れてやって来ました。
男は孫を預かる事になりました。
男の孫は女の子でした。
息子の身に離婚騒動がおこったので、息子は孫を男に預けたのです。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
男と孫の生活がはじまって1年経ちました。
ある日、息子の嫁がやって来ました。孫の母親です。
男は息子の嫁とはじめて会いました。
息子の嫁は男の死んだ妻に似ていました。
息子の嫁は孫に「ママと一緒に暮らそう」と言いました。
孫はこれまで男に隠していた、極上の笑顔の花を咲かせました。
男は激しいショックを受けました!
息子夫婦の離婚騒動がどうなったかなんて興味がありませんでした。
男は孫と離れたくなかったのです。
男は不思議でした。自分にこんなにも人間らしい感情が残っているとは思いませんでした。
息子とケンカ別れ、妻と死に別れ、孤独だけが男の友達でした。面倒事は全て金で解決してきました。
男はこの1年間、孫を無視し続けたのです。食事と洗濯、そしてお話を書いて物語ってやる以外は何にもしませんでした。
近所に住む、世界中の子供を愛しているおばちゃんが男の家に出入りして、孫の面倒を見ていたのでした。
孫は「女の子の悩み」を世界中の子供を愛しているおばちゃんに相談していました。
そして世界中の子供を愛しているおばちゃんが男へ、必要な情報だけを伝達していたのでした。
男は自分を冷酷な人間だと思っていました。それは孫の為に書いたお話によく表れていると思いました。
男は孫を預かるのが嫌で嫌で堪りませんでした。
男は孫の件も金で解決したかったのです。
男は孫への嫌がらせに「孫を預かる男」というお話を書いて物語ったくらいです。
男は調子に乗って「CDをプレゼントする男」と「耳かき男」と「黒ニキビ男」というお話を書いて物語りました。
それらのどれもが退屈でつまらないお話でした。
孫もハッキリと「おもしろくない!」と言いました。
男が「禁煙男」というお話を書いて物語った時には、孫はアクビを連発し、とうとう居眠りをはじめたくらいです。
孫と息子の嫁は幸せな一夜を過ごしました。
男は心苦しい不安な一夜を過ごしました。
男は孫の為に、お肉を沢山使った料理を覚えるつもりでした。
男は孫の為に、もっともっとおもしろいお話を書くつもりでした。
男の頭の中では次の3つの考えがグルグル回っていました。
その1
孫がいなくなるのは寂しい!
孫と一緒に暮らしたい!
その2
けれども、孫がいなくなれば、夜の時間を読書の為に有意義に使える。
この1年間、孫がテレビを見ては大笑いするので、読書に集中出来なかった。
その3
母娘で暮らしてもどうせ上手くゆかない。
男の元へと孫はすぐに戻ってくるに違いない!
翌朝、孫と息子の嫁はこれからの予定を楽しそうに語らいながら、朝食の席へと現れました。
男は困りました。
孫への想いが涙となって次から次へと溢れ出して来るのです!
はしゃいでいた孫と息子の嫁は、男の涙を見ると、顔を見合わせて黙り込んでしまいました。
ポロポロポロポロ
ポロポロポロポロ
男は涙となって溢れ出す孫への想いを止める事が出来ませんでした。
(おしまいのおしまい 最終更新日14年06月06日)




