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  作者: 紀ノ川
第3部 耳かき男
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第8章 耳かき男、南へ

 耳かき男は耳かきをやめました。

 耳かき男には耳かきをやめた理由がわかりませんでした。

 不思議な事に、朝、起きても耳がかゆくないのです。

 環境が変わったせいかもしれません。

 加齢で体質が変わったせいもしれません。

 中学3年生の時から25年以上、耳かきを続けてきました。


「時熟」


 この言葉を耳かき男はじっと見つめました。

 耳かきは耳かきをするから耳かきがしたくなるのです。


 耳かきをやめたといっても、月に一度か二度の耳かきをやめる事は出来ません。

 爪が伸びるように、鼻毛が伸びるように、生きている限り耳かきをやめる事は出来ません。

 食欲がなくならないように、排泄欲がなくならないように、それは人間の業です。

 やめようと思ったら死ぬしかありません。


 難しく考えるのはやめましょう。


 耳かきをやめた耳かき男は、耳かきをギターに持ち替えました。

 右手でピックをつまみ、左手で弦を操り。

 耳かき男のギター・テクニックは最高でした。ダイアー・ストレイツのギタリストであるマーク・ノップラーにも負けず劣りません。

 耳かき男が弾くギターの音色に心惹かれて、ひとり、またひとりと人が集まってきました。

 いつしか耳かき男の後ろに「押すな、押すな!」の大行列が出来ました。

 人々は噂しました。

 耳かき男が弾くギターの音色は、美しい女神の歌声のようだと。


 耳かき男はギターを弾きながら、大勢の人々を引き連れ、南を目指して歩きはじめました。

 南には幸福の楽園があるのです。


「ハクション!」


 くしゃみ男がその様子を見ていました。

 くしゃみ男は爪楊枝で鼻の穴をチョンとつつくだけでくしゃみが出るのでした。そして1日中、爪楊枝で鼻の穴をチョンとつついてはくしゃみをしているのでした。


 くしゃみ男の隣に美しい婦人が姿を現しました。

 鼓膜女です。


 くしゃみ男が、

「あんた、耳かき男の知り合いかい?ハクション!」

 鼓膜女は、

「はい」

 鼓膜女は耳かき男に耳かきをしてもらったおかげで、耳かきへのトラウマを克服出来たのでした。


 くしゃみ男が、

「あんた、耳かき男に会わないのかい?ハクション!」

 鼓膜女は、

「もうこんなおばさんですもの……」

 そう言う鼓膜女の手には耳かきが握られていました。あの日、あの時の耳かきです。


「ハクション!」

 くしゃみ男がくしゃみをしました。






カリカリカリ

耳かき男が南へ行くよ


カリカリカリ

耳かき男がギターを弾きながら


カリカリカリ

ギターに伴って 駅の便所で殺された耳かきの女神が歌うよ


カリカリカリ

耳かき男が南へ行くよ


カリカリカリ

耳かき男がギターを弾きながら


(おしまい 最終更新日22年05月23日)

「男 第5部 黒ニキビ男(耳かき男外伝)」もお楽しみ下さい!

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