第7章 耳垢男
ガリガリガリ
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耳かき男が耳かきをしています
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耳の奥の壁をかいています
二十年以上の時が経ちました。
耳かき男は40歳を過ぎました。
天皇陛下が崩御されたので、耳かき男は恩赦で牢屋から出されました。
耳かき男は天皇陛下に対して申し訳ない気持ちで一杯でした。
けれども犯罪者に対して世間の風は冷たかったのです。
耳かき男は「耳姦、耳姦!」とバカにされたのです。子供達から石を投げられたのです。
耳かき男は牢屋から出ても一日中、耳かきをしています。
朝から晩まで一日中、耳かきをしている自分がみじめでした。
「朝から晩まで一日中、耳かきをしているのか?!」と父親が激しく罵りました。
朝から晩まで一日中、耳垢にまみれている自分がみじめでした。
「朝から晩まで一日中、耳垢にまみれているのか?!」と父親が激しく罵りました。
父親は何故、耳かき男を激しく罵ったのでしょう?
犯罪者の家族に対して世間の風は冷たかったのです。
父親は「耳姦、耳姦!」とバカにされたのです。子供達から石を投げられたのです。職を失ったのです。
母親は重度のうつ病を患い、一年以上寝込んでいたそうです。
家事は全て父親に任されたそうです。
そんなある日、母親が突然外出し、耳かきを100本買ってきたそうです。
そして耳かきをしながら、
「耳かきもやりだすとクセになるわ~毎日やらんと気が済まんわ~」
と言って笑ったそうです。
童女のように笑ったそうです。
翌日、耳かき男の母親は首を吊って自殺したそうです。
耳かき男は母親のお墓参りをしました。
墓石には真っ赤なスプレーで「耳姦」と落書きがされていました。
耳かき男の母親は死んでもなお辱めを受けているのです。
耳かき男は子供の頃、母親の膝の上でしてもらった耳かきを思い出していました。
その時、突然、激しい痛みに似た焼き付くような耳のかゆみに襲われた事を告白しなければなりません。
折れるまで歯を食いしばり、血の涙を流しながら、母親の墓前で耳かきをした事を告白しなければなりません。
いつの間にどこから現れたのか、巨大なムカデが、母親の墓石を這いずり回っていました。
耳かき男は家に帰ると泣き崩れました。
耳かき男は自分を耳垢男だと責めました。
父親が号泣しながら激しく罵りました。
「耳垢男!耳垢男!」
(つづく 最終更新日22年05月23日)




