第4話:つぶやきは無視されるのが世の常です
途中から視点が変わります。
「失礼します。」
目の前の男から数歩下がった瞬間かわいい声とともに16歳くらいの女の子が入ってきた。
あっぶなー!!あと数十秒早かったらいろいろとおかしな事になってたよね!?
………いや、もしかして見てて入りづらかった可能性とかもあり?あぁぁぁ、あれはちょっとした事故ですから!
そりゃ最後なんかギュってなりましたけど、そういうことじゃないですよ!……ね?
ちらりと男を盗み見ると少女の方に振り返り、私の前に来るようにうながしていた。
少女は足早に近づき男の横に並ぶ。エメラルドグリーンの瞳が部屋に差し込む光できらきらと輝く。
少女が横に並ぶと、男は流れるような仕草で私の手をとり、ちゅっと小さく音を立てキスをした。
えーーーーーーー!!
この流れでしますか普通!?
絶対いりませんよね?
ほら、隣の子目細めちゃってるよ!
エメラルドグリーンの瞳がすぅっと細められるのが視界に入った。
こんなこと普通の人にやられたら吐き気がするだろう。
それでも、いきなりで意味不明な行動があまりに自然で様になっているから、むしろカッコいいとさえ思ってしまう。
イケメンって恐ろしい。
「ご挨拶が遅れました。クイスピス国騎士団、第一部隊副隊長のシュゼ・ハクス・アーベルです。」
男―――シュゼは顔を上げにっこりと告げた。
…騎士団?ってかクイスピス国って言った?
シュゼが後ろに一歩下がると、今度は女の子がきれいな仕草でお辞儀をする。
腰まで届く蜂蜜色のふわふわカールヘアがゆれる。
「今日から侍女としてお世話をさせていただきます、ゼラ・リース・クラウドです。」
にっこりと微笑むゼラは天使みたいにかわいい。
けど、そろそろ真面目に確認したいんです。
がんばってゼラの天使の笑みを真似ながら自己紹介をはじめる。
「木佐原希です。あの、一つ確認したいんですがここって日ほ「異世界です。」……なんですか。」
「それって、異世界召喚とかいうの「ではないですよ。」……ですか。」
笑顔で私の疑問を全否定してくるシュゼ。
しかもわざわざ被せて。
「そう、ですか……。」
力ない返事を返す私。
「あら?驚かれないんですか?」
不思議そうに私をみるゼラに苦笑いを返す。
「えぇ、まぁなんとなくそうじゃないかと思ってましたから……。」
いやさ、信じたくなかったけどね?
言葉をかぶせてくるくらいの勢いで全否定されたら、現実として受け止めるしかないでしょう……
ショックで放心状態の私の事は無視して話は進む。
「そうですか。ではまずは着替えていただきましょう。ゼラ。」
シュゼがゼラに声をかけるとゼラが私をベッドの方へとうながす。
ゼラは私をベッドに座らせるとプチプチと私の前ボタンをはずしていく。
ピッピー、イエローカード
「ちょっ、いや、ひとりで着替えれるよ!!?」
危ない、うっかり脱がされるところでした。
(お決まりだから予想はしてたけど、服くらい着替えられるし、だいたいシュゼの前では脱げないって!)
ちらりとシュゼを見やるとちょうど部屋から出て行ったところだった。
行動が早くて何よりです。
「いえ、コレが私の仕事ですし、着方がわかりませんでしょう?恥ずかしがらないで下さい。」
困ったように笑う姿はやっぱり天使のもので、うなずきそうになる。
しかし、ここで負けてはいけない。
いくらなんでも、自分より年下の子に着替えを手伝ってもらうなんて気分が悪い。
「で、でも、見たところパンツスタイルだし、大丈夫だよ!だからゼラちゃんは外で待ってて?」
ここはゆずらない!!といった顔で言うとしぶしぶながらも了承してくれた。
ドレスならともかく、パンツなら大丈夫だろう。
「……わかりました。ですが、わからないところがあったらすぐに呼んでくださいね。あと、
どうかゼラとお呼びください。」
そう言い残すと手に持っていた服を私に手渡して、ゼラは扉を開けて出て行った。
(異世界か……
まさかそんな事が本当に、しかも自分に起こるとはね…)
手渡された服に着替えながら、クラスで流行っていたラノベを思い出して微笑する。
(…まぁ、がんばってみますか……)
出窓からさしこむ光がキラキラとよく晴れた青空を背景に光っていた。
「でも……私、もどれるんだよね?」
つぶやいた言葉はぽかんと開いた口に吸い込まれた。
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「あなた、いつからそんなキャラになったの?」
ゼラは廊下に出ると、壁に寄りかかっている幼馴染に声をかけた。
「や、だってあの子の反応かなりおもしろいじゃん。思ってることがすぐ顔に出るし。」
さっきとは打って変わって砕けた調子で答えたのは―――シュゼだった。
「確かに私も、こんな小さい子にお世話してもらうなんて!っていうような顔されたけど、今日からは私のお仕えする方なんだから、からかわないでほしいわ。」
ぷぅっと頬を膨らます仕草はどこから見ても幼い少女にしかみえない。
「おい。26にもなる女がそんな事するなよ。」
シュゼはやれやれといった表情で首を軽く揺らす。
「あら、でもキサハラ様は自分より年下だと思ってるわよ。」
「その見た目で今までどれだけの奴が騙されてきたか………全く、恐ろしい隊長だぜ。」
クイスピス国騎士団、第一部隊隊長、ゼラ・リース・クラウド。
これが彼女の本当の肩書きだった。
「失礼なことを言うのね。……で、言われたとおり彼女に渡してきたけど、いったいどういうつもりなのかしら。あの人は。」
「さぁな、あー早く出てこないかなぁ。」
うーんと考え込むゼラをよそにシュゼがくっくっと楽しそうに笑う。
迎えにいった部屋には16歳くらいの少女がうずくまっていた。
自分を見るなり見開かれた瞳は漆黒だった。
―――夜の王を連想させる黒真珠のような瞳と、上質な絹のように艶やかな黒髪に思わず目を見開く。
直後、少女の眉間にしわがより、がっくりとうなだれる。
正直、あせった。
少女の目が覚めた事は10分以上前に知っていた。
だが、そう深く考えずのんびりとここまできてしまった。
彼女を守るのが、与えられた自分の役目。
もし彼女が慣れないもので怪我をしてしまったというなら……それは自分の責任だ。
急いで駆けつけ体を支えると、トンっと体を預けてきた。
その行動があまりに無邪気で愛らしく感じられた。
指に絡まる黒髪のやわらかさに儚さを感じ、腕の力を強めてしまう。
そっと少女の頭をなでようとすると、バっと体をそらせ目をまん丸に見開く。
今にも消えそうな儚さをまとっていながらもその瞳には強い光が宿っていた。
その瞳をじっとみつめていると、急に何か言いたげに口を開けたり閉じたりしはじめた。
その顔は真っ赤だった。
照れているのだとわかると少し意地悪してみたくなった。
おでこに手をあててみれば急に立ち上がり、大丈夫だと主張された。
おもしろい。
ちょっとからかってみればすぐ思っていることが顔にでてあせっているのが見てとれる。
さらには一歩近づけば一歩下がるしまつ。
さっきまでの儚さはどこへいったのか、微塵も感じられなかった。
必死に間をとっていた少女は次はいったいどんな反応をみせてくれるのか。
「はやく、着替え終わらないかなー。」
小さく、つぶやく。