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水の都の乙女  作者: 姫青
第2章
21/22

第20話:顔は読むものではないと思います

2章に移動させました。

閑話というより…とおもったので

つん

むにっ


つんつん

むにむにっ


つんつんつっ――


「いい加減にしてください!!」

そう言って私の指から逃れると柔らかそうな、いやとっても柔らかいほっぺたを守るように懸命に小さな手で隠した。


な、何この生き物!!ものすごくかわいいっ!!




私、キシャーラ・アゼイルはクイスピス国騎士団第二部隊パラダイスにいます。




「おねがいですから、ちゃんと話を聞いてくださいね。まず指定された位置に立ってください。それから――」

ところどころに金の混じったブロンズのお下げが胸の辺りで揺れている。

黒縁の鼈甲眼鏡と相まってどこぞの文学少女みたいだ。


「うん。大丈夫、さっきも聞いたからばっちしだよ!それにヴィクの言うとおりにしておけばいいんでしょ?」

「そうですけど…ヴィクリアス様のお手間をとらせないようにと思って…」

「ごめんね、こんな朝早くから来ちゃって。ヴィクもまだ来てないのに……急いで来てくれたんだよね?ありがとう……え、えーっと……」

「チシャエラ・ガレット・シーハンです。ヴィクリアス様がみんなより遅いのはいつもの事です。朝が苦手らしくて…それに今日はゼラ様の事もありますから」

「……ゼラ?……あ、帰ってきた」



腰のベルトに剣を取り付けながら部屋に入ってきたシュゼは、ものすごく疲れた顔をして私たちの居るガラス張りの小部屋への階段を上ってきた。おっ、眉間に皺を寄せている。そんな事しておじいちゃんになったとき眉間だけ異常な程しわくちゃになったら……おもしろそうだからいっか。



「あいつを起こすのっていつも誰がやってるんだっけ?」

私たちの座っているソファの向かい側にあるもう一つのソファに腰掛けたシュゼはおもむろにチシャエラに問いかけた。



「前は、罰ゲームか隊員が日替わりで起していたんですけれど、その惨状を見かねたゼラ様が『自力で起きませんと、もうお茶を入れて差し上げませんわ。』と仰ってからは時間ぴったりに第二部隊に来られています。でも今日からは、また私たちが起しに行かなくちゃ行けませんね」

「それは、災難だな」



はぁ…

と同時にため息をつく二人。



え!?何、なに?

罰ゲーム……ヴィクってどれだけ寝起き悪いんですか!?

た、確かにさっき何処かから爆発音とか、金属音とか聞こえてきましたけど、まさか、ね。



むにっ



「ところで」

遠くを見ていたシュゼがこちらに目をやる。



「さっきからアゼイル、お前は何してんだ?」



「え?……あぁこれはちーちゃんのほっぺたが気持ちよくてつい…」

「だ、誰ですか!?ちーちゃんって!!」

「それは、もちろんチシャエラのチをとってちーちゃん!!」


ちーちゃんのほっぺたを人差し指と親指ではさめばマシュマロみたいな感触が気持ちいい。

あぁ、本当小さい子って癒される…。

あれやったら怒るかな?怒るかな?……あーでも、やりたい!!

……えい、やっちゃえ!!



「手を離せよ、アゼイル」

秘儀、《ほっぺたタコさんばさみ》をやろうとしたらシュゼに窘められた。

なんでやろうとしたのが分かったんですか!?予知能力者ですか。

「顔に書いてあるぞ」

心を読むとは!!プライバシーの侵害で訴えますよ。



そんな私の脳内主張虚しく、私の手から解放されたちーちゃんに「見張っててくれてありがとう。助かった」と言って仕事に戻るように指示してしまった。


「何てことするんですかー!!」

「お前、あと一歩踏み出したら変質者だぞ」

「なっ!!」



子供が、動物が好きでなにが悪い!!スキンシップでしょ?あんなのは!小さい子のほっぺた触ると喜びますしね!!……少なくとも従兄弟の健一は喜んでたし。とまぁ、そういう事だからシュゼの発言は誤解の極み!!発言撤回を要求しますよ!


「…なんだよ」

「……べつに」


などと言って、ふざけんなって怒られるのは嫌なので言いません。

思うだけです。



あーあ…あのマシュマロほっぺ……なんかルノさんのに似てたかも…。

以外と普通の人だったなぁ。ルノさん。




昨夜の騒動はルノが帰ったことでおさまった。けど、ルノが帰った後すぐにゼラの具合が悪くなってしまったので、シュゼが付き添って部屋から出て行ったんだよね。お城にも保健室みたいな所はあるらしい。私は、『どうぞ気にせず、お休みください』とゼラに強く言われたので、ゼラの心配をしつつも大人しく部屋に居ることにしたんだ。レオールと二人で。








『キシャーラちゃん、ごめんね。』

どこからだしたのか、テーブルの上にはお茶の用意がされていた。

紅茶の香りがふんわりとあたりに広がる。

王子様も魔法は使えるんだね。

『そりゃ、いきなりでびっくりしましたけど、でも結婚してくれって間違いだったみたいですし』



ルノさんもわざと間違えたわけじゃなさそうだしね。

私のおばあちゃんもあの海外製品の売ってる大きなお店のこと、何度も間違えてるよって言ってるのにコトスコって言うし。あれ?これはちょっと違うか?



『じゃなくて、ルノから聞いてない?この部屋に行けって、僕が言ったって』

『あ…』

『やっぱり、聞いてるね。本当にごめん。あの子をあげるって言ったのは、僕が君の事を自分の所有物だと思っているとか、裏切ったとかそういうんじゃなくて――』



そうだ。私は裏切られた訳じゃない。水の乙女なんてすごい人じゃない私が今ここに居るのは、王子様のきまぐれ。



『ただ、僕は――』

『一つ、聞いてもいいですか?』

これだけは聞いておかなくちゃいけない。

何よりも一番に尋ねなければいけなかった事。


『……いいよ』



『私は元の世界に帰れますか?』


声が掠れた。

こんなの、答えはなんとなく分かるけど、その言葉を聞くまでは信じない。

信じたくない。


その言葉を待つように、ゆっくり瞼を閉じた。



『わからない』

耳から聞こえる情報は肯定でもなく否定でもない言葉。



『時空を専門とする召喚魔法を行える人も居ないことはないけど、もと居た場所に帰すのは、その場所を知っている呼び出した本人しかできないんだ』



音が、声が、神経を無視して直接脳に響いてくるようなそんな感じ。



『そして、最近で召喚を行った国は報告されてない』


時間さえもが王子様の手中にあるのか。

ひどく、流れが遅い。


『だから、君が召喚された可能性は0だよ。ただ、突発的に現れたんだから、また急にもとの世界に戻ることは考えられるけど、そうならない限り――』



王子様が言葉を切った。

次の言葉を言うために息を吸い込んだその音が、時を流すための合図。



言わないで。



『君は、帰れない』



あれ、なんだっけ…

さっき見た夢。思い出せないや。

すっごく楽しくって、暖かくて、気が休まって……


あの、懐かしい家の匂い。


胸の奥で小さく振動していた何かが、ぶわっと花が咲くように全身にいきわたった。

今私の指先を切り落としたら、流れ出てくるのは鮮血なんかじゃなくて、きっと、涙だ。





『キシャーラちゃん、ごめんね』

『いえ、王子様は悪くないです。ルノさんの事にしたって、王子様は殺せなんて言ってない』

大きく息を吸い込めば全身に染み渡った涙をまた、仕舞い込める気がした。


『えっ!?ルノ、キシャーラちゃんの事殺そうとしたの?』

不可解な驚愕の声が上がる。


『……え?』

王子様の顔からは驚いていることしか読み取ることができなくて、嘘ではないことが分かった。



『そんな、ちがうよ。ただ僕は、君が必要なんだ』


それって……一体…どういうこと…?








結局、王子様は私にルノと仲良くしてもらいたかったみたい。裏の仕事では信用できる人はいないからって事で。私が異世界人でルノに対して恐怖心とか持っていないって事もあるみたいだけど、出会いですでに持ってしまったんですが。まぁ、最後があれだったんでそこまで強く恐怖心をもっているわけではないからいいけどさ。


そのあと、私はレオに一つどころじゃない量の質問をした。此処にいてもいいのか?とか私の立場は?とか、何をすればいいのか?とか。そうして決まった私の肩書きは『レオの他国の友人で視察のためしばらく滞在。性別、男。』水の乙女なんて言うと混乱がおきるからって男装は基本装備になりそうです。



『あ!でも、団長さん達には王子様がスカウトしてきたってシュゼが言ってたから、それじゃ矛盾しちゃう』

そこでふと気づいて、今の設定を口にすれば


『なんでそういう事勝手に作って言っちゃうかな。仕事を増やして欲しいのかな。シュゼって』

と黒いオーラをバックに言っておられたので今後は忙しくなりそうだね、シュゼ。



ちらとシュゼに労わりの視線を投げつければ、不思議そうに目を細めた。

まぁ、そのうちわかるよ。



帰れないってのはやっぱりショックだったけど、レオの話を聞く限り、何らかのことが起こって帰れる可能性は0じゃないらしいから、それに賭けてみようと思う。とりあえずはレオに命の保障もされたし、今できることやろう。流されるだけじゃなくて自分からも動けるようにはなったんだから。



そんな風に前向きなことを思いながら騎士団第二部隊用の部屋というより、研究室ラボのような真っ白で大きい倉庫で働く子供たちを倉庫の端、二階の高さに匹敵するガラス張りのヴィクの執務室から目で追っていると、いつの間にか向かいのソファから身を乗り出したシュゼが腕を伸ばしていた。


「あいたっ!!」

「あいつらは子供じゃないぞ。来る前に話しただろ」


で、でこでこ、でこピンした!!

しかも痛っ!!ベチンっていった!この痛みは赤くなるレベルですよ!


「覚えてますよ!!あれでしょ?ま、魔力が多い人はその………ふ、副作用?で体が小柄な人が多いって。そういうことですよね?」

十数分前に言われたことを忘れるわけがないでしょう。馬鹿にしないでほしいですよ。


「50点」

「へっ!?」

「言ってる事だけなら80点だが……今、どこ見たんだ?」

なんだ、こいつ!!めざといな。そーですよ、今ちーちゃんにヒントだしてもらいましたよ!

でも、副作用ってところだけだし。……はっ!!ちーちゃん、隠れて、隠れて!ちーちゃんまでこの二重人格男に怒られちゃう!


「…顔に書いてあるぞ」

はぁ…と本日二度目のため息をもらしたシュゼがさっきまで座っていた私の向かい側のソファに腰を下ろしぽつりと言った。


「ちーちゃんは関係ありません」

「口にもだしてるぞ」


何が…?…あ…そうか。シュゼは背中向けてるから誰がヒントだしてるかわかってなかったんだ……


やっちまった。と頭を抱える私にシュゼが小声で話しかける。

「さっきからチシャエラにかまってるけど、お前は今、男なんだぞ。チシャエラからしたらお前はセクハラ男だぞ」



……なんだって!?

つか、そうじゃん!忘れてた!やだ、ちーちゃん、私はセクハラ男じゃないよ!

違うんだよ!!


「きょどるな。とにかく、あんまり、その、ベタベタすんなよ。性別がばれるかもしれないだろ」

「……了解」


私、ちーちゃんに嫌われたくないし。女だってばれるのも困るから、もうベタベタしません。したいけど。


「にしても、ヴィク遅いな」

「そうですね」

「……」


私の返事が気に入らなかったのかジト目で見られた。

な、なんでしょうか…。


「お前ってわけわかんね奴だな」

「はい?」

「敬語のくせに敬う気持ちなんて微塵ももってないし……主に顔に書いてあるけど」


お前も、ゼラやルノも意味わかんね、とぶつぶつ言うシュゼは放って置いてそんなに私の考えは顔に表れているのかと驚く。

気をつけねば……目指せ、ポーカーフェイスってところかな。

ん、そういえば……



「レオにも言われました。『キシャーラちゃんは思っていることが顔にでやすいみたいだから気をつけてね』って」

「レオって…お前『王子様』とかって言ってなかったか」

「それもレオに『やめてほしい』って言われたから、レオって呼ぶことにした」

「……へぇ…レオとずいぶん仲良くなったんだな」


なに、その『へぇ』って…嫌な感じですよ?


「……気にするな」


うおっ!

今、顔で話が通じた!……これってどうなんでしょう?



「シュゼ様、キシャーラ様、ヴィクリアス様がいらっしゃいました」

隅のほうでファイルの整理をしていたチシャエラがこの倉庫の入り口に目を向け、ヴィクがきた事を教えてくれた。


様づけで呼ばれるのは嫌なんだけどな……

私、そんな偉い人じゃないし。


「諦めろ、チシャエラは代理とはいえ、副隊長だぞ。お前の立場くらいもう知ってるはずだ。何を言っても敬称はつけるだろうよ」


そっかぁ…

王子様の友人って事になるんだもんね。だったら、当然っちゃ当然だよね。




……って、だから私何も言ってませんよ!?


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