第18話:それについての説明を詳しくお願いします
序盤はシュゼ視点です。
「だから、僕は何もしてないよ。」
「したからこんな事になりましたのでしょう!!」
後ずさりながらレオが自分の潔白を唱えている。
ったく、往生際の悪い。
「っ!?ちょ……ぢょっとジュゼ…ぐ、苦しい!!」
レオの背後に回り、後ろから首に腕を回せばバシバシと腕を叩かれた。
仕方なく放してやると、恨めしげに睨んできた。生意気な。
「ねぇ!二人とも自分たちが何なのか分かってる?騎士団第一部隊の隊長、副隊長なんだよ?力加減を考えて!!」
「はっ!そんな軟じゃないだろうが。俺たちの王子様は。」
「そうですわ。これくらいで根を上げるようには教育しておりませんもの。」
「これくらいってねぇ……。」
そういいつつも、ゼラも俺もそろそろ終わりにするべきだと思っている。
傍から見たらじゃれているようにしか見えないかもしれないが、さっきからちょくちょくゼラはレオに対して魔法を使っている。魔力を大量に消費したという事くらいゼラにだって分かっているはずなのに、まだ魔法を使うということはもう諦めているのだろう。
これじゃあ、明日からしばらくは俺一人だな。
「何故、あの人を呼んだんですか。」
「それはさっき説明したよね。」
「納得いきませんわ。」
「納得いってくれないと困るんだけど。」
前後を俺とゼラに挟まれたレオはやっと諦めたのかじっとしている。
俺が聞きたい事はほとんど聞き出したがゼラにはまだ残っているらしい。
そしてそのゼラの質問から逃げていたレオの様子からよほど大切な話なのだろう。
「だって、それだけじゃないのでしょう。」
「………」
「違いますか。」
「……疑問符がついてないよ、ゼラ。」
なんだよ、それだけじゃないって。
二人の間には二人だけにしか分からないもつれた糸が張られていて、時折それは顔を出す。
そんな時、絡まりあった糸の先を探り合う二人の間はいつも緊張感で浸されている。
俺には分からない。二人のように鋭くないから。
いつも、置いていかれる。
「確信していますもの。」
「……気づくのが早すぎだよ。」
「そうですね。私も知りたくはなかった。」
「でも、忘れてはくれないんだよね。」
「………それは、命令ですの?」
「いや、質問だよ。」
「ならば、答えは否ですわ。」
「……命令にしておけばよかったかな。」
「貴方様にとっては。」
「…邪魔させるつもりはないよ。」
「私が何もできないという事は十分ご承知の上でしょうに。」
何の話だよ。
ついていけない二人の会話に疎外感を感じてイライラする。
まったくもって訳が分からない。
確かにレオは王子だけれども、ゼラが本気で殺しにかかればものの数秒で方がつく。
そりゃあ、しばらくは何もできないだろうけど、ずっとじゃない。
だからゼラが何かを知ったとしたらレオのことを邪魔する事はできるはずだ。
なのに、ゼラは何もできないと言う。
意味がわかんね。
ダンッ
音がしたほうを向けば、ルノと異界から来た少女が身を寄せ合うようにして座り込んでいた。
しかも少女はじっとルノの方を見つめている。
「……何くっついてんだよ…」
イライラが募る。
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周囲を拒絶するように身を丸め、黒のマントに身を隠すルノからは寂しさがにじみ出ていた。
……んー、どうすっかな。
だってなんか私がこの雰囲気つくったみたいじゃん。いや、つくったけどさ。
でも、悪意があってやったわけじゃないし。かといってこのままルノさん放置って後味悪いしなー。
うーん……。
こういうのってあれでしょ。心に傷を負った少年?青年か。夜の王って言われ続けて本当の自分を見失ってしまった……みたいな。
ベストアンサーは可愛くて優しい女の子と出会い、次第に心を開いていくってところかな。
……侵入してくる部屋間違えてるぞ、ゼラの所行きなよ。きっと優しい言葉をかけて……くれないか。なんか犬猿の仲っぽかったし。てか、黒髪の女(私)が目当てだったんだから行くわけないか。
うーん………
……んんんんんんんんん!?なんか来た!!
「のわっ!!??」
ついさっきまで吠えていた野犬が足早に近づいてきたと思ったらぐいっと腕を引っ張られ、それにつられるようにして立てば私の腕をつかんでいたのとは反対の腕が胴にまわされて、気づけばシュゼに抱きかかえられていた。
「何、なにすんの!?」
「何でこんなにくっついてるんだよ!」
首を捻ってシュゼを見ればなんか知らないけどムッとした顔をしていた。
なんでさ!くっついてないのに!!誤解だよ!
つか放してくんさい!浮いてるんですよ、5センチ程!宙ぶらりんなんですよ!!
「見ろ。」
命令口調で言うシュゼの目線の先にはルノがいた。
フードから僅かにのぞく頬を涙に濡らして。
「えっ!?何で、どうして?だ、大丈夫?」
心の傷口が開いたか!とわたわたする私の耳元で馬鹿にするようにシュゼが「姫はもっと周りをごらんになったほうがよろしいかと。」と言った。でたよ、偽シュゼ。姫って誰ですか。
「お前、同情を誘ってアゼイルを連れて行こうとしただろ。」
「……っち…」
「悪いがこいつはこっち側のだから。」
「……そっちに行けと?」
「これないんだから諦めろってことだバカ。」
「…………筋肉バカ………」
うわっ。ぼそっとだけど聞こえたよルノさん。
私が思うに、シュゼは細マッチョよりかなって所ですよ。いや、直に見たことはないけれど。
「お前なんかなぁ―――」
なんか罵り合い始めちゃったけどもうルノさん泣いてなかったしスルーで。
というか同情を誘って……ってどういう意味だろ?
連れてくってのは……おそらく闇の光にでしょうけど。
ありゃ?でも私の事男だと思ってるのになんで連れて行くんだ?
うーん……
意味分かりません。
「そっちだって人手が足りてないかも知れないけど、こっちだって足りてないんだよ!!」
あ、ルノさんの子供っぽいver.だ。
「しかもそっちよりも人が集まりにくいし……。そっちがこっちに仕事回しすぎるのがいけないんだ!」
お仕事の話かな?
「一人くらいスカウトしたって………あ……」
ん?なんか勢いが止まりましたよ?
それに『あ』って嫌な感じがしますけど。
「……間違えてた。」
「は?」
怪訝そうな顔で首をかしげるシュゼ。
何を間違えたんだろうね。
「………帰る。」
それだけ言うと、ルノはばっと立ち上がり窓のほうへ向かった。
あぁ、窓から帰るんだ…。
「なんだよ急に。」
気勢が削がれたのかシュゼはようやく私を降ろしてくれた。
うん、やっぱり足が地面についているっていいね。安心するよ。
誰かが横に来たと思って見上げればゼラだった。
ってあれ?なんで見上げてんだろ?ゼラって私より背が低かったはず……。
目線はほぼ同じだったよ?あれれ?
「まさか……」
横でぽつりとつぶやくゼラ。
ん、何?
「どうしたんだよ。」
そう言ってルノに近づいたシュゼがルノのフードをはずした。
「具合でも………!?」
「スカウトと求婚を間違えたのでは……」
……んな、まさかぁ。確かにプロポーズは申し込むって意味だけど。さすがにそれは無いよ。
ありえない、とルノの方を見ればルノの顔を覗き込んだシュゼが驚いた顔をしていた。
そして、帰ろうとするルノの後ろ姿からは――――
「……帰る。」
「あ、あぁ。」
「ルノ、またおいでよ。」
そんなシュゼとレオール二人の見送りの言葉を後にルノは窓から姿を消した。
3階のこの部屋の窓からどうやって帰るのだろうかと気にもなったけどそんなことより聞きたいことがある。
「あの、聞きたいんですけど、もしかして……もしかしなくても、ルノさんの耳って赤かったですか?」
「赤かったねw」
と王子様。
「顔も赤かったな。」
とシュゼ。
「私の考えで正解……ですわね。」
とゼラ。
……まぢかっ!!
じゃあ、ルノさんって同性愛者とかじゃなくて単純に人手を探してたって事?
……プロポーズじゃなかったんだ……なんか、それって…
若干浮かれてた私って……なんなのさ!!
ルノの去った窓のカーテンが夜風で揺れているのを視界にいれつつ
希は呆然と立ち尽くしていた。
自意識過剰とは認めません。私は被害者です。
by希
これにて1章終了です!!
2章も読んでいただけたら幸いです。