表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水の都の乙女  作者: 姫青
第1章
18/22

第17話:犬派ですか、猫派ですか?


さて、みなさん問題です。


あなたはいきなり暗殺者にプロポーズされました。

あ、ちなみに三人ほど周りにいます。



以下の選択肢からお選び下さい。

1、とりあえず断る。

2、とりあえず周りの人に助けを求める。

3、とりあえず誰かが喋るまで待つ。

4、とりあえず誰かが―――――






「ふぐっ!!」




―――――タックルしてくるのを待つ。




「ゼ、ゼラっ!?」


ふわふわの髪をゆらして懐に飛び込んできた女の子に目を見張る。

「キシャーラ様、離れて下さい!!危険です!!」

そ華奢な体からは想像できない強い力で抱きつかれ、くるりとゼラの背に隠された。

顔を出さないで下さいと横目で言うと同時に、フードをかぶった男に片方の掌を向けてカメハメ波らしきものをぶっぱなした。


おぉ!すごい、生カメハメ波だぁ………ってカメハメ波!?

ゼ、ゼラって孫悟空の縁の人だったんですか!?


「馬鹿っ!ゼラやめろ!!」

シュゼが大声で叫びながらゼラを止めにかかる。


「やめませんわ!!あなたも早く、キシャーラ様をお守りしなさいっ!」

そういってカメハメ波をまたしてもぶっ放す。一瞬のうちに部屋は光に包まれ、急に明るくなったものだから目がちかちかして痛い。


「アゼイルッ!!」


ごめん、無理。私がゼラの後ろにいるからってとめれないよ?だからそんな子犬のような顔をするのはやめてください、シュゼさん。


「なぜ、あなたがここにいるのっ!?」

膨大な量の光を放ちながら叫ぶゼラにこたえる人はいない。

そして何度目かにゼラがカメハメ波をだしはじめたとき、パンっと音がしてふっと光が消えた。

部屋はまた薄暗がりに戻る。



「はい。おしまい。」

レオールが叩いた手をおろした。

「……邪魔を…しないで…下さ、い…」

弱弱しい声を漏らし、ふらっと後ろに倒れてきたゼラを抱きとめて顔を覗き込めば真っ青だった。

「だ、大丈夫?ゼラ、顔色が…」


お人形さんのようだと思っていたゼラの顔が今は本物の人形・・・・・になりつつあった。


「だって、これ以上やったら、死んじゃうよ?」

ゼラの体から生気が抜けていっているとおいうのに、にっこりと口元に笑みを浮べて王子が言う。

「彼のことだから部屋に防御魔法をかけてるみたいだけど、これ以上は部屋も、ゼラももたないでしょ。」


「ゼラっ!!」

カメハメ波に遮られてゼラに近寄れなかったシュゼが駆け寄ってくる。

身をかがめ、私の膝の上に体を横たえるゼラの顔にかかった髪をやさしく払いのけて頬を何度か叩く。

「しっかりしろ、ゼラ!!…レオっ!」

反応がないのを確認したシュゼは仰ぐようにしてシュゼを見上げた。

「わかってるよ。」


歌うように応えたレオールはゼラにそっと手をかざした。

力なく、ぐったりとしているゼラの胸の辺りに置かれたレオールの手が明るく光り始める。

レオールの手はかすかに震え、息をもつめているのに、その口元に浮かんでいた笑みは深くなる。

「……うっ……あ……」

小さなうめき声を漏らすゼラの額には汗が滲んでいて、苦しそうに眉がきゅっと寄せられている。


「な、なんで?どうしたの、ゼラ?」

何が起こったのか全然わからない。ただ、目の前には呼吸を荒くし、愛らしい顔を苦痛に歪めたゼラがいた。

「魔力を消耗しすぎたんだ。精霊もいないのに、あんな威力の魔法を何度も出すなんて今のゼラには……」

私の隣でシュゼが心配そうにゼラを見守る。


一体どうすればいいの?でも、私が動いたところで役に立つとは思えないし、私にできることなんて何もない……こんなに苦しそうなのに、私には見てることしかできない。



青白い顔を前に自分の無力さを感じる。






**************************






数分の後にゼラの呼吸が規則正しく、穏やかになってきた。


レオールがすっと腕を引き、一つ大きく息を吸う。

「もう大丈夫。だけど、ゼラを落ち着かせるためにも、君は帰ったほうがいいね。」

顔色が良くなってきたゼラにほっとしていた所で――――思い出した。


そうだ!あの人!!


「……そうさせてもらう。」

窓辺に立つ男は未だにフードを被っていた。


あれだけの攻撃だったから、この人もひどい怪我を負っていないかと心配したけど特に目立った外傷は……というよりかすり傷ひとつない無傷だった。


なんか腑に落ちない気もするけれど無事で何よりだよね。

もともと私は苦しいのとか駄目な人だからこれ以上弱った人は見たくなかったしさ。


「よかっ――「ふざけんなよっ!」」


ほっと漏らした声を遮るようにして、シュゼが男に飛び掛る。


えっ、ちょ何やってんですか!?

と思う間もなく、男はシュゼに跳び蹴りされてた。うわっ、痛そう。ブーツ硬そうだし。


「なんで無断で此処にいるんだよ!?ゼラがいる事くらい分かってただろうがっ!!」

よろけてふらついた体勢を立て直した男の首元を掴んで叫んだ。

「…無断じゃない。レオールは知ってる。」

「レオが、知ってた?」

はっと後ろを振り返ったシュゼの瞳がレオールへと向けられる。



「こいつが来るって事を知ってたのか。」

「んー、もちろん。」


相対するレオールとシュゼの間には、バチバチと火花が飛んでいるとまではいかなくても、ピリピリとした空気が流れていた。


な、何でしょうこれ。

二人のピリピリ間が伝わってきて肌が痛いんですが……。



「……後で話してもらうからな。」

先に目を逸らしたのはシュゼだった。

「そうだね。こっちも聞きたい事あるし。」

少しウェーブのかかった金色の前髪をいじりながらレオールが言う。


そんなやりとりの間に隣ではゼラがもぞもぞと動き始めた。

顔色はさっきよりもすごく良くなっていて一安心。


「私もお話を窺いたいですわ。」

起き上がったゼラはさっきよりも声がしゃんとしていた。

「平気?まだ立たないほうが…」

それでもさっきまでは虫の息だったんだから安静に、安静に。とか思ってゼラの背に手を回しながら声をかけたらキッと睨まれた。

ク、クールビューティー…?


「キシャーラ様!!」

「は、はいぃ!!」

軍隊ばりの返事をしただけじゃなくて、敬礼もしようかと思いましたよ。だってゼラの目があまりにも鋭いんで。正直、メッチャ怖いデス。


「何故、すぐに私達を呼んでくださらなかったのですか!?シュゼも隣の部屋に居りましたのに!!」

「えっと…なんかあっという間の出来事だったので…」

さすがに脱走時間5秒じゃあ助け呼べません。それに、口塞がれた上にナイフ突きつけられてたので。たとえ呼べたとしても、もがもがーっ!だよ?


「一言、一声だけでも鳴いて下さればこんな目にあわれる事はなかったのですが。」


鳴くって…一応私人類なんですが。

って、あれ?私、鳴いてはいないけど、結構喋ってたよ。


「そんな事無理に決まってるよ。ルノだもん。音が漏れないようにする事くらい当たり前。」

すごい剣幕で問いただしてくるゼラに押される形で一歩づつ後退していた私の方に向かってレオールが近づいてくる。


えーっと、それは魔法で防音って事ですかね。なるほど。どうりで誰も来なかったわけですか。

でもそれって、一歩間違えば殺されて一晩放置の可能性もあったって事ですよね?

……部屋に来てくれて真面目に感謝です。


「じゃあ、どういうつもりだよっ!?」

部屋の隅からものすごい怒鳴り声が聞こえたと思ったらシュゼだった。


「なにもやましい事がなければ、堂々と城にくればいいのに。わざわざ怪しまれる入り方をするって事は何かするつもりだったんだろ?」

「…つもりだっただけで何もしなかった。」


そう言って男はシュゼからじりじりと距離をとっていた。

ゼラが怒った子猫なら、シュゼは野犬だね。ギラッギラしてる目に肉食動物の性が見えます。



「はぁ?つもりだったとか言ってる時点で駄目だろうが。大体、こんな事する暇があるなら他にやる事あるってわかってるだろうが。」

「す、すまない。」

「こっちは団長が脱走するし時間もたりないしで大忙しだっていうのにな。」

「すまない。」

「謝るって事は、明日からちゃんと働いてくれるって事だよな?」

「すまな……いや、わかった。明日からはできるだけ顔出すようにする。」


な、なんか…ていうかやっぱり…暗殺者さん弱くないですか?

「すまない。」しか言ってないような…。シュゼに押されてますよね?

そしてシュゼ、偉そうにしてるけど本当に仕事してんの?って思うのは私だけじゃないはず。

だって、シュゼってちーっとチャライよね。弄んだ女は星の数…って言われても頭から信じる自信がこんなにあるのはなぜだろうね。



「自分の仕事はちゃんとこなせよ。―――っと俺はふざけてても仕事はしてるからな。」


あ、付け足した。

やっぱりふざけてる自覚あるんですね。



「――――――……し…下さいね!!」

「ふぇ?え、何?」

シュゼ達の方に意識を向けていたからゼラの言葉を聞き漏らしてしまった。


そうでした!こっちまだ終わってませんでした!

「えっと、ごめん!もう一回言ってもらえ……マスカ。」


ひぃぃぃ!!やめて、ゼラ!背景にフシャーーー!!っていう効果音が見えるんですけどっ。

恐怖です!怒った子猫は怖いです!!


数秒じっとゼラに見つめられた後小さくため息をついてもう一度言ってくれた。

よかった毛は逆立ってない。


「……ですから、今後はこの人と関わったりしないで下さいと言ったんです。」

「でも、それは難しいでしょ。いくらゼラでも―――」

ゼラの後ろからひょっこり現れたレオールが口をはさむ。

すると向こうで暗殺者さんにお説教してたシュゼまでもが叫んだ。


「あなたがそれを言うんですの!?」

「レオがそれ言っていいのかよ!?」


「え?なんで僕に怒るの。――っそれに、二人とも怖いんだけど…。」

軽い身のこなしで二人と一定の距離をとるレオールにずいっと近づく二人はどこまでも息ぴったりだった。



えーっと、矛先が王子様に向きました。ファイトっ!王子様。

さてと…んじゃこの間に安全地帯に避難しましょうっと。え?王子様をほうって行くのかって?

あの野生動物達の間に入っていく勇気なんて私にはありません。




ぴと



「ん?」


気配を消してそろり、そろりと後ろに下がったとき手の指が何かにあたった。

ひんやりしてて気持ちいい~。あれ?でもこの部屋に金属製の物ってあったっけ?



むにっ



……むにっ?

え、なんで柔らかいの?コレって…――



「あぁぁぁぁ!!ご、ごめんなさいぃ!!」



くるりと体を回転させて見えた光景にびっくり。

だって普通、まさか私が触ってたひんやり、むにっな物が暗殺者さんのほっぺただったなんて思わないですから!!


「いや、気にしないでいい…。」


壁にもたれかかってぐったり座り込んでいる暗殺者さん。原因は…あそこで吠えてる野犬ですか。お疲れ様です。

ってか、肌気持ちいいですね!!もっちもちのすっべすべでしたよ。いったいどんなケアをしてればこんな柔肌になるんですか?師匠っ!



認めよう。この時私は暗殺者さんの肌理細かい肌がものすごく羨ましかった。直に触ってしまったものだから余計にその秘密を知りたかった。だから、思わず言ってしまったんだ――



「一体どんなお手入れをしてるんですか?」




……って何言ってんの、私!?違うでしょ。プロポーズについて聞くべきだよね?スルーされ続けて、もう私の空耳なんじゃないかなって思い始めてるんだよ!!それなのに、なんで暗殺者さんとお肌の手入れの話なんか…――ほへ?


脳内ぐーるぐるな私の前に差し出されたのはさっき暗殺者さんが私の首に突きつけていたナイフだった。


えーっと…これをどうしろと?


「自分で手入れとかしてる訳ではないからよくわからないけど、興味があるなら見なよ。」

「あー…はい…。」


受け取りましたよっ!だって怖いですもん。とりあえず向き変えたり握ってみたりして「いい剣ですね。」とか何とか言って返しましたよ。お肌の手入れの話?この状況でその話に戻せる人がいるのなら見てみたいですよ。


「そういうのに興味があるなら、やっぱりちょうどいい。」

私が返したナイフをしまいながら男がぽつりと言う


「な、何がですか?」

小さな声だったけれど、私に向かって発せられているのでそれに答える。


「俺の傍にくる気ない?」

「ふぇ?そ、それって……」

「さっきの続き。」

「い、いやいやいやいやいや!!んなおかしいですってっ!」



つーか、なにこの人さらりと言ってんのーー!?

一大事件ですよ、お母さん!!どうやら、さっきのプロポーズは空耳じゃなかったようです。


「それに…なんというか、その……そこまで武器には興味ないというか…。」

ほら、暗殺者が自分の旦那さんだと、武器とかが家にあるから嫌でも手入れとかで扱うでしょ?そういうのって無理だもん。

私は痛いの、怖いの、危険なの大嫌いです。


「…なら、近くにいるだけでもいい。」

「近くにいるのも難しいかと…。」

「少しの間も?」

「す、少しの間も。」



一見求婚しているかのようにみえるこの光景。皆様、忘れないで欲しいのがこの暗殺者、私を殺しに来ているって事です!!もう、いつばれるかとヒヤヒヤものですよ。


「…そう。仕事の手伝いをしてもらうだけでも、結婚とは難しいんだな。」

「………。」


……あなたの仕事の手伝いをするために自分の素性を隠した生活なんてどれだけ難しいことか。女だってばれたときが私の命の終わりなんて最悪じゃないですか。あー、本当に男装しててよかっ―――-




ん?




あ、なんか汗がでてきた…



ってちょ、ちょっと待った!!

私、男!今、男!!

それはこの人も知ってるはず。だって『あなたは……男?』って言ってたし。部屋に来て、私が女じゃなくて男だったから『女はどこにいるんだ』って聞いてきたわけだし…。


なのにこの人…



プ ロ ポ ー ズ し た ! !



だから、つまり…………同性愛者ってことですよね!!?

……ごめんなさい。正直に言います。実はプロポーズされてちょっと浮かれてました。

私の時代到来じゃん!?とか馬鹿な事思ってました。そうですよね、そういうオチですよね。



「ん?何。」

「いや、ちょっとつかれたなーと思いまして…」


嘘です。念の為少し距離をとろうと思ったんです。

半歩下がっただけなのに、気づくってさすがですねぇ!!


「座ればいいよ。」

座れと?あなたの隣に!?

「お気になさらずにっ!!立ってる方が楽なんで!」

全力拒否です。


「ならいいけど。」

男がうつむき加減に言う。


あれ?

不機嫌?何で?


男のふてくされたような声音に疑問がわく。


あれか?私が上から見下ろしてるのがだめなの?そうだよね、きっとそうだ。気遣って座ればいいって言ってくれたのに断ったからだ。はぁーー…少し離れて座ればいいよね。


人一人分離れて腰をおろすと男が顔をあげてちょっとこっちを向いた。

「あー…やっぱ座ろうかなと。」

「ん。」


あさっての方向を見ながら適当に繕えば少しうれしそうな声で返事してくれた。

男と同じように壁に背をあずけ、体育座りして立てた膝の上に顎を置く。

視界に入るのは男が投げ出した長い足。


うわー、嫌味なぐらいに足が細いですね。モデル並みじゃん。こんなので暗殺業とかやっていけるもんなんだね。すごいよなー、この人。私と歳そんなに変わんないと思うのに、ルノなんてやってるんだもん。王子様から聞いたルノっぽくは全然ないけどね。


そうなんだよねー。ルノとかいうのとはイメージが違うんだよねー。と特にすることもないので体を揺らしながらひとりごちる。


「何?」

不意に横から声をかけられる。

あぁ、聞こえましたか。


「えっと、ルノって何歳から…とかって決まってないんですね。イージス、でしたっけ?のトップっていうからもっと、その……」

もっとちゃんとした大人がやるものだと思った、なんて言える訳もなく言葉につまる。

と、男のほうから助け舟を出してくれた。


「年寄りがやるものだと?」

いや、おじいちゃんとかも似合いませんけど、まぁそういうことですね。

「えぇ、まぁ。」

どんな顔したらいいのかわからないのでとりあえず愛想笑い。日本人特有のスキルです。


「あなた、この国の人じゃないね。道理で俺の事見ても驚かなかったわけだ。」


私の怪訝そうな顔を見てとったのか、「この国の人との対応と比べたら全然驚いてないよ。」と付け足された。何だ?この国の人はどれだけ驚くのさ、とか思ったけど、普通夜に勝手に誰かが部屋に入ってきたら驚くか、と納得した。私も結構驚いたんだけどなー。あれじゃあまだまだなのか…。


夜の王ルノを誰がやるのかっていうのは生まれたときから決まっているのは知ってる?」

朝に王子様から聞いたのでこくんと首を縦に振る。


夜の王ルノは必ず一人この世にできる。それが呪いだかなんだか知らないけれど、平たく言えばその一人が死ななければ次の夜の王ルノは生まれない。つまり夜の王ルノになる人間は生まれたときから夜の王ルノなんだ。だから夜の王ルノは子供から年寄りまで、死に逝く寸前までいくつだろうが関係ない。」


ほほぉ。理解しましたよ。

赤ちゃんのときからルノなんて大変ですね。ん?じゃあ…


「そのルノが赤ちゃんのときは誰が代わりに……その仕事するんですか?」

人を殺すなんて事も言えないので言葉を濁す。


闇の光イージスっていう組織が代理を務める。子供の夜の王ルノはそこで使えるようになるまで教育される。」

ぎしり。と音がしたと思ったら男の歯軋りだった。


え、そんな憎たらしく。

触れてはいけないところだったのかも。

ひどい組織なのかな……ルノもそこで育つって事は、この人もそこで育ったわけでしょ。

ま、まさか………虐待とか…



「……は・・・いつかぶっ倒す…」


イージスって所でひどい目にあってたらどうしよー!!って青くなってたときに聞こえてきた男の言葉。



え?何て…?

『ぶっ倒す』って言った?


……こ、怖ぇぇ!!


そーだよ。この人ルノじゃん!その恐ろしい組織イージスのトップじゃん!はわぁぁぁぁ!!

すっかり忘れてた!あぁ、もう!忘れっぽすぎるでしょ、自分。さっき怒鳴ったこと謝らないと…。


「あの、さっきは怒鳴ってしまってごめんなさい!!」

すばやく体勢を正し、頭を下げる。


「あ?……あぁ、気にしないで。俺も、その…泣かせたから。」

泣かれた事を思い出したのか男はきまり悪そうに言った。

「泣かれるのは…慣れてないから……。」

「もう泣きませんよ。」

「……ん…。」


控えめに返事が返ってくる。きっとまた私が、暗殺者のくせに!って怒ると思ったんだろう。

私がまたキレるかもしれないのに、二度も同じように泣かれるのは嫌いだと言うのは、本当に慣れてないって事だからもう怒るつもりはないです。あの時はむしゃくしゃしてたからキレちゃったんだけど。


ていうか暗殺者さん結構しゃべりますなー。

暗殺者ってイメージ的に無口な感じがしたけど、そうでもないんですね。

ただの暗殺者ってわけでもないし。トップだし。口下手じゃやっていけないか。あんひゃふっ………噛んだ…。噛んだよ私!脳内なのに!!ろれつが回らなかった…。


「すみません。名前、教えてもらえますか。」

主に脳内で使うので。

「…ルノ…」

「本名でお願いします。

「……ルノ」

あれ?ルノって職名じゃないの?職か知らないけども。


「本名が、ルノなんだ。」

「えっ!?そんな事って……」

ばっと口を押さえたけど、時すでに遅し。ばっちり聞こえたようです。

「あるんだよ。……ったく、いまいましい!ただでさえ夜の王ルノって呼ばれるのに、名前までルノにしなくても……」


後半は独り言のようにぶつぶつ言う男…ルノのブーツの先が床を腹立たしげにコツコツコツと連続して叩く。


「る、ルノって名前の人はルノさんの他にもいるんですからそこまで気にすることないと思いますよ。」

「……この国では人気のある名前じゃない。」


コツコツコツコツコツ……

床をならす音がだんだんと早くなってくる。


やっぱり職名と本名が一緒なんて嫌だよね。

だってルノって暗殺者のトップが呼ばれる名前なんでしょ。それってこの人自身の名前と言うより、本当に……その役から逃げられないようにする呪いの言葉みたいで………


夜の王ルノ夜の王ルノ夜の王ルノ夜の王ルノ!!含みなくルノと呼んでくれる人は少数だ。」

「……。」



ダンッと床を強く踏み鳴らして強い口調でそう言ったルノは、スッと足をマントの中に引っ込めて小さく丸まった。

俯き、己を抱くその姿は、周りとの関係を断ち切っているようで声をかけられなかった。





なのに





(―――なんであなたは、そんなに寂しそうなの?)






文中に同姓愛傾向を否定するような表現があります。

ご不快に思われた方、申し訳ありません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ