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水の都の乙女  作者: 姫青
第1章
14/22

第13話:川の流れのように




団長室は想像していたのより質素な部屋だった。

団長室といわれれば、剣や鎧などが飾ってあって汗臭いイメージだったけれど、奥のほうに大きな窓が一つあるだけで、後はこの部屋の主の書類やなにやらで覆い隠された大きい机と来客用のテーブルとソファア、そしてぎっしりと中身の詰まった本棚のみの事務的な部屋だった。

ベイルが腰を下ろした机だけでなく、テーブルにも本が散らかっていたので適当に山を一つ作って、そこへゼラから受け取ったカップをおいた。


ソファアに腰を下ろし、カップを口元にもっていくとふわっとやさしい香りが広がる。

一口啜ると心地よい暖かさが胸の奥でじんわりと染み渡った。




カチャリとカップを受け皿においてヴィクがゼラに詰め寄る。

「で、いい加減に説明してくれますよね?」

お茶にしてからとはぐらかされたヴィクは今度こそと勢い付いていた。



ゼラ信者として(勝手に確定)私とゼラの関係を知りたいのは分かるよ?

私もまだ自分の立場よくわかってないしさ。

でもさー、まだ一口しか飲んでないよ。

もっとゆっくり――――




「こいつの名前はキサハラ・ニョジョミといってレオが連れてきたんだが剣も魔法もまったく駄目だから騎士団で面倒を見てくれということになったんだが自分の立場もまだあまり分かっていないようなので下手をしないようにゼラがつく事になったんだ。」





――――っはっぁ!!

長っ!!そして何そのモールス信号みたいな淡々とした言い方!?

シュゼ!息継ぎ!つられて息止めてたら軽く窒息死しそうでしたよ!!

ほらニョジョミって噛んじゃってるじゃん!句読点入れないからだよ!




「なんだ、入団希望者じゃなくて、レオの預かり物だと言うからどこかの坊ちゃんかと思ったが、拾い物か。」

「……よく言うよ。あんなところに正規の入団希望者が来るわけがないの知っているくせに。あらかた、探しに来た団員にちょっかいかけようとか思っていたんだろ。」

「さぁ?何の事だ。入団希望者の力量をはかろうと思っただけだぞ。」

そ知らぬ顔で椅子を揺らしながらベイルが言う。


団長さん……頼みますから反省してください!

まぢで怖かったんですから!



「………ゼラさんが侍女をやっているのはレオール様の指示ですか。それなら、僕にも声をかけていただければゼラさんのお手伝いができるのに。」

唇を尖らせて我侭な子供のようにヴィクが物々と言う。



……やばい、何か可愛い。

いや、ショタコンとかじゃないけどさ!

小さい子好きなんで!!ヴィクのサイズは非常にやばい。日本で言ったら小4,5くらい?

ランドセル背負ってほしい。あー何か、ヴィクの拗ねた顔とか見てるとぎゅってしたくなるよ!




「それは、お前の場合ゼラと一緒に居たいという下心ぐぁっ!!」


抱きしめたい衝動をソファアに爪を立てることで和らげていたらシュゼのうめき声が聞こえた。

嫌な予感が…と思いつつ、声の聞こえた方に首を回せば、シュゼにみなまで言わせずにヴィクが拳銃をねじ込むようにシュゼの懐に勢いよく埋めていた。


「同じ立場の経験者として、仲良くできるんじゃないかと善意で思っただけですが。他に何か?」

すっと細められたヴィクの目には善意とは無縁の下心がはっきりと映っていた。



……ヴィク、口止めは分かるけど、拳銃はいらないよね?


いつか没収しよう、と決意しながら

「同じ立場?」

気になって声をかける。



「僕も、貴方と同じでレオール様に連れてこられたんです。僕の場合は魔力の質を認められての事でしたからすぐに第二部隊に入る事になりましたが、貴方の不思議な気はどう変化するのか………。でも、いずれはお城か騎士団ここで働く事になるのは間違いないですから安心してください。」

レオール様は見捨てたりはしませんよ。と付けたし、今度はちゃんと善意の色が窺える言葉をかけてくれた。



でも―――





「……働く?」

私まだ17歳なんですが。じゃなくて、お城か騎士団ここで?



困惑する私にヴィクが眉をひそめる。


「まぁ、所属がはっきりしないうちは客人扱いにはなると思いますが……。失礼ですが、お歳は?」

「あと一ヶ月で18になるけど……?」


脈絡の読めない問いかけにはたと首をかしげる。





「「「「えっ!?」」」」






瞬間、部屋に驚愕の声が溢れる。






「なんだ、坊主。落ち着いているからもうちょっといってるかと思ったぞ。」

「僕もです。」

「どこがだ。顔見ろ、顔。がんばって15だろ。」

「私も15だとばかり……。」






異世界トリップして日本人が幼く見えるのはラノベで読んだ事あるから知ってるけど「顔見ろよ。」ってとことん失礼極まりない奴だな!!


大人びて見えると言った(言ってない)団長さんとヴィク、それと可愛いゼラは見逃すが、シュゼの言いようにはムッときた。

日本人はのっぺり顔が美点なんですよ!童顔の何が悪い!!

内心ムカムカだったけど、ここはご要望どうりの大人な対応をしてあげようじゃないですか。



「幼く見えるとはよく言われます。でも、落ち着いてるなんてはじめて言われました。」

「確かに、表情がくるくる変わるところからしてみたら落ち着いているとはいえないんだよな。」

まるで品定めをするかのように、上から下。下から上にベイルが私のことを見る。


「まぁ何にせよ、15を過ぎているなら十分大人ですから働けますね。この国では15が成人なんですよ。」

「へー、そうなんだ。早いんですね。私の国では20が成人ですから。」

15と言えば中学生か。それで成人とかすごいな。どうりでヴィクが落ち着いてるわけだわさ。

私が中学生の時なんて、だらだらしてて一人立ちなんて考えられない状況だったんだけど……。




「しかし、急だな。」

「そうなんだよな。部屋は空いたら教えてくれ。」

ベイルは後ろの棚の書籍に手をのばし、パラリとページをめくって確認してあぁとこたえた。





「あのさ、ヴィク。」

「はい?」

なにか話し始めた二人をよそにヴィクに声をかけた。

「同じ立場の経験者って事はヴィクも連れてこられたの?」

「そうですけど。」

「それってどうして?何の為に?」




王子様から聞いた話と、今シュゼが言っていた事が噛み合わないのはシュゼが私のことを乙女だと隠しているからというのは分かる。けど、隠すなら隠すでどういった設定にするのかを知らなくてはこっちだって困る。まったく、先に説明しといてほしいよねー。……気絶してたけどさ。




「……本当に何にも説明を受けてないんですね。」

そこでヴィクは話し込んでいる男二人のほうを見てはぁ、と短くため息をついた。

「僕の出身は北のアレビリア王国です。2年前にアレビリアで起きたクーデターは知っていますよね。」

「うん。」

いや、知らないけどね?

ヴィクの後ろでゼラが首を縦に振ってるから。やりますよ、知ったかぶり。


「………その争いからこの国へ逃げている途中、レオール様によって保護されたんです。その時僕はかなり衰弱していて、あの時助けていただけなければ間違いなく死んでいたでしょうね。」



なるほど、命の恩人パターンか。

それなら私も何かそういう話をでっちあげるべき?でも、それはさすがに……




「ま、僕が死にそうだったから助けたって訳ではないんですけどね。」





……はい?





「とにかく、僕の魔力がよかったもんだから自国の為にスカウトしたって所ですね。あなたもそうなんですよね?そんな不思議な気を持っている人にレオール様が興味を惹かれないはずがないですからね。」


「………。」


「だから同じ立場の経験者ということですよ。」


「………。」


横からお茶のおかわりをゼラが入れてくれる。


「あぁ、ゼラさん、今度第二部隊を観に来て――――」

私の沈黙を話は終わったと考えたヴィクはウキウキとした声でゼラと話し始める。





(えっと…王子様が連れてくる=スカウトって事はわかったけど………死にそうだったから助けた訳じゃないということは純粋にヴィクの能力だけをみて保護スカウトしたってこと?それじゃあ……ヴィクに魔力がなかったら……)



脳裏に王子様の黒いオーラが思い浮かぶ。



で、でもヴィクが王子様は見捨てたりしないっていってたし大丈夫だよね!?

水の乙女じゃないからってぽいっとかってならないよね?



よく考えれば、自分が水の乙女としての役割がないのにお城ここに居るという事自体がおかしいのだ。

知らない場所に放り出されるのは怖いけれど、意図のみえない好意の方がもっと恐ろしい。



(……もう一度王子様にどういうつもりか詳しく話を聞かなきゃ。)



「ねぇ、ゼラ。王子様に会うにはどうしたらいい?」

「今日は無理でしょうけれど、キサハラ様が会いたいとおっしゃれば明日にでも会えます。」

言ってから会話の邪魔だったと思ったけど、ゼラはちゃんとこたえてくれた。ゼラ、ほんとにいい子だよ。


「そっか、ありがとう。それから、私のことは名前で呼んで?苗字で様付けって何か私じゃないみたいだから。」

やっぱり、自分より小さい子に様付けさせてるって嫌な感じだし………年上ならいいってわけでもないけど。でも年下の子に言われるほうが堪らない。






「「「「えっ!?」」」」






………え?

何?急にどしたの、皆さん?





八つの瞳が一斉に希に向けられる。




「キサハラが名前じゃないんですの?」

ゼラが小首をかしげて聞いてくる。






「えっと、キサハラが性ですよ?」


びっくりしたー。シュゼと団長さんも振り向くから何事かと思ったよ。





「のぞみが名前です。」



「ニョジョミ……。」

シュゼが反芻する。





「………シュゼ…また噛んだね。」



「は?噛んでないだろ。」



「……のぞみだよ?」



「だからニョジョミだろ!?」






……だめだ。

コレはアレか?異世界トリップならではのものか?

でもなー、こういうときってあだ名使うけど、あだ名って言ったらな……





「………のんちゃん?」



「ノンタン……?」



ぽつりと過去のあだ名を口にすると予想外の言葉になって返ってきた。





違うから!ウサギ!それウサギの名前だから!!

手書き感たっぷりの絵本の主人公だから!

ん?あれってウサギだっけ……?

曖昧な記憶を探るけど思い出せない。





「やっぱり、キサハラでいいです…。」

「何だよ。最初のまんまでいいんじゃん。」


俺は間違ってない!と言わんばかりに胸をはるシュゼに小さくため息をつく。



「というか、キサハラも発音間違ってますけどね。」


なんというかキサハラというよりキシャーラに聞こえるんだよね。

もしかしてキサハラを名前と間違えたのってキシャーラって聞こえたからかな?

確かにそれなら名前に聞こえなくもないけど……



「キサハラの方が名前らしいからいいだろ。」

横からベイルが口をはさむ。


あぁ、やっぱりキシャーラ……。

こうなってはもう、郷に入っては郷に従えだ。



「じゃあ、キシャーラと呼んでください。」

しぶしぶと新しい名前を口にするとシュゼがはっと目を輝かせる。

「ニョジョミもアゼイルにしたらいいんじゃないか?」


「シュゼ……どっからどーなってニョジョミがアゼイルになるわけ?」

もはやいい間違えとかのレベルじゃないんですが。


「や、だってニョジョミって言いにくいし。」

「そりゃ、そうだけど……。」


てか、言いにくいなら最初からのぞみって言ってほしかったよ!


「アゼイル……いいですね。この国では名前でよく使われますが、他国では苗字としてもありますし。」

こくこくと賛成の意をみせるヴィク。


くっ…!可愛い!

可愛いけど、いい加減すぎませんか?


「キシャーラ・アゼイルですか。この国らしくなりましたわね。いかがですか?キシャーラ様。」

たたみかけるようにゼラがうるっとした目で見てくる。


あぁ!ゼラ、そんな目で見ないで!!

可愛いすぎるよ!



「よし。キシャーラ・アゼイルだな。」


えっ!?ちょ、団長!何勝手に決めてるんですか!?

まだいいって言ってな――――




「気に入りませんか?」









目の前に光の塊がふよふよと浮かんでいた。











「気に入りました。」

口が勝手に動く。

















……あれ?

何ですか、今の?













希は子供と動物が大好きです。

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