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水の都の乙女  作者: 姫青
第1章
12/22

第11話:前方確認、両手確認

今回長めです

眩しくて目を細めてしまうほどの晴天の中、金属のぶつかり合う音が響く。



キーーン

カンッ、キッ




広い練習場ではたくさんの人たちが自らの腕を磨いていた。

相手の剣を受け、一歩下がる。が、すぐに勢いよく切り込む。相手はそれをすっとかわし、技を繰り出

す。その姿はまるで踊りでも踊っているのだろうかと思えるものだった。





「すごい、あんなに滑らかなものなんですね。私もっと切迫としたのを想像してました。」

城と騎士舎をつなぐ渡り廊下から見える景色に感心する。



「あれは、流れ技だからな。だいたい、ウォーミングアップで切迫していたら暑苦しいだろ。」

先導してくれているシュゼが練習場の方を見て答えた。


「そうですけど、でも本当にすごい……。」

目の前の光景に感嘆の声を上げる。



「お前の世界には騎士団はなかったのか?」

「ないですよ、自衛隊はありましたけど。騎士なんて御伽噺にしか出てきませんからね。」

御伽噺…とシュゼが小さく繰り返した。


あ、シュゼも騎士だったけ。御伽噺なんて気悪くしたかな?


こっそりシュゼの顔をのぞいたらすぐに気づかれた。

おぉ、さすが副隊長。

「なんだよ?」

「いや……団長さんに会いに行って大丈夫なのかなと思って。」

さして気にしているようではなかったので、これからの事について尋ねた。



「心配すんなよ。その格好なら団長にお前が女だとは絶対にばれないし、ばれてもお前のせいにはならないからな。」

大丈夫だろ、ともう一度私の姿を確認したシュゼはうんうんと頷く。


まぁ、騎士舎を見学するにあたって挨拶するだけだとおもうし?(もちろん普通に)

髪も短く見えるし、ばれる心配はないと思うけど。



ゼラがかけてくれた魔法は幻術?のようなもので、くるくると首元でまとめた髪が男の子のように短く見えた。

ただし、触れば見た目と違う感覚にばれてしまう可能性があるので気をつけなければいけない。



「団長は熊みたいなひとですが、中身はやさしくて朗らかな、いいお方ですわ。」

「………。」



私の横を歩くゼラが教えてくれた今から会う人物についての情報に数秒停止する。




……え?




何!?熊って!?こわっ!!

熊みたいって毛むくじゃらってことですか?

それとも、凶悪犯顔みたいって事でしょうか??

………会いたくないんですけど…。




まだ見ぬ熊団長に会うのが嫌になった、ちょうどそのときだった。

騎士舎の棟に入ろうとしたところへ前方から深緑色の髪をした少年が声を荒らげて走ってきた。



「シュゼさん!!大変です、団長が……!!」

「なんだ、またいなくなったのか!?」



肩で息をしながらはい、と頷く少年にシュゼはチッと舌打ちをする。

「なんであの人は、肝心なときに余計なことをするんだよ。悪い、団長にはまだ会えそうにない。」

くるりと私のほうに振り向き事を伝える。



「……いなくなった?」

「団長は仕事に煮詰まるとそうやって隠れて遊ぶんですの。」



状況がつかめない私にゼラが教えてくれる。

そこで私たちの存在に気づいたのか、少年が目を丸くして驚いたように問う。



「ゼラさん!?何をしていらっしゃるのですか!?」

「私、この方の侍女をやってるの。そんなことより、早く団長を見つけないと大変なことになるでしょ?私達も団長に用があるから協力するわ。」

ふふふ、と笑いを含みながらかわいくゼラが微笑む。



「……そうですね、あの人を早く見つけないと危ないですからね。協力してくれると助かります。でも、ちゃんとあとで説明してくださいね!!僕は東側を探してくるので北側をシュゼさん、お願いします。」

誤魔化す様なゼラの言い方に多少むっとしているのか、少年の眉にしわが寄る。




…えっ?団長さんってそんなに危険人物なの?


深緑色の少年の発言がひっかかる。

てきぱきと話をすすめる三人に対し突然の事に私は一人うろたえていた。




「ん、分かった。後で、団長室集合な。」

じゃ、と駆け足でその場を去るシュゼのあとを少年がついていく。



「では、私達は西側を探しましょう。」

そう言って歩き始めたゼラは意外と足が速くて、駆け足で追いかけた。





ゼラの背中を追いながら三人の会話から分かった事を頭の中でまとめる。



(えっと、団長さんがお仕事に煮詰まって脱走したって事だよね。

 で、団長さんは危険人物だからすぐ見つけなくちゃいけない…と。

 それでその団長さんの特徴は……熊みたいな人。…なんかこれって……熊狩り?)



そこで、はっと顔を上げる。






「……あ…。」



顔を上げた先にあったのはゼラの背中ではなく、青々と茂った、草花だった。

いつの間にはぐれたのか、気がついたら一人で歩いていた。





うわー……。まさかの迷子ですか?私。

しかも、ここってもしや、あの迷路みたいなお庭でしょうか?

前方にあの噴水がみえるんですよね~




水の乙女の話をおもいだして、アハハー…と苦笑い。

自分がわるいんだけどね。ゼラ達の話聞いて、熊狩りかっ!!とか思ってたからさ。

とにかく、立ち止まっていてもどうしようもないので噴水を目指して進んでみる。




(ていうか、いなくなるって何してるんですか熊団長!!

 シュゼが『また』って言ってたから常習犯なんだろうし。仕事しろ、仕事。)




まったくおかげで迷子だよ!!…と会ったこともない団長に八つ当たりしながら迷路のようにくねくねとした庭を歩く。








ドスッ








………。







つま先が鈍い音をたて、何かもっこりしているものに勢いよくつっこんだ。

そっと、目線を足元に落とす。






自分のつま先は黒い物体にめり込んでいた。







……なにかいるぅぅぅぅぅぅ!!???









しかも、ものすごくデカイデスヨ。

でね!?








足、抜けないんですけどぉ!!!??





くっ、くっと自分の太ももを掴み力いっぱい引っ張るがビクともしない。

がっしりと足首をつかまれている。







ぎゃー、何これ!?これは、あれか?熊狩り?とか思ったからですか!?

うん。ごめんなさい、悪気はないんです。思いついただけなんです。

だから離して!!




深緑色の髪をした少年の団長は危険人物発言を思い出し

嫌な汗がじわじわと背中を湿らす。



(あぁ、どうしよう!!蹴っ飛ばしちゃったよ!!)




どれだけひっぱても抜けない足をみて青くなる。



(大体、なんでしゃがみこんでるんですか!?見えなかったですよ!!こんなの……)



逆切れしかけてきたところで、はたとある言葉を思い出す。






「見ぃつけたっ!!」




若干の悲鳴と共に叫べば、足にかかっていた強い力が弱くなり、つま先がすぽっと黒い塊から抜けた。

後ろへ重心が傾く勢いを利用して、すばやく後ずさる。



「あーぁ、見つかったかぁ。」

黒い塊がのそっと立ち上がり、ぐわーっと背伸びをする。


目の前に現れた大きな黒い壁、否

熊団長はとてつもなく大きかった。


団長を見上げてじんじんと痛んできた首の角度を元にもどすと、見えるのは熊団長の肩から下で、160cmの私よりはるかに背が高いのだという事がよく分かった。



「よぉ、はじめましてだろ?騎士団長のベイル・ユース・エリシスだ。」


ベイルは深くかぶったフードの下でにかっと笑って、自身を覆う黒いマントの下から手を出し握手を求めてきた。



「……は、はじめまして。」

名前を言ってもいいのかな?……とりあえずあいさつの言葉だけで。


わずかに見える口元からはさっき蹴った事に対して怒っているようには見えなかった。

おずおずと手をさしだすとごつごつとした温かい手に包まれた。




謝らなくてはと思い、口を再び開いたときだった


ぐっと腕を引かれ視界がぐらりと揺れる。

「さっきは蹴っちゃってごめぶゃ!」



謝罪の言葉を言い終わらないうちに、黒いマントにすっぽりと抱え込まれていた。


「かわいいっ……!!」

頭上から聞こえる低い声。





びゃあぁぁぁー!!!!


ば、ばれた!?


なんで?声??

そんなに高くないと思うんだけど…

てか、団長さん…力強すぎっ。


ギュッと力を加えてくる腕が肩ではなく頭を抱いているのは、ベイルの身長が高すぎるからだ。

私の身長が低いわけではない。絶対にない。

なぜかって?私はチビだけど、今はゼラがくれた上げ底靴を履いていますからね!

ほほほほほほ!これが160cm台の景色…ぐふっ、くっ苦し…!


気管が圧迫されて苦しいので、腕を解こうともがくと意外とあっさり離してくれた。

おぉ、普通の対応。シュゼや王子様みたいにほっぺに……げふんっげふん、しないんですね。

……いや、抱きつきも普通じゃないか。







「……えっ?」





少し離れて、団長を見上げた先の光景に頭がくらくらするのは団長が力を込めすぎただけではないだろう。




「ゼラさんの仕える方に余計な事はしないで下さい。」

「団長、ちょっと距離感おかしいんじゃないか?」






よく晴れた空に輝く太陽の光をうけて黒光りする拳銃とその光を反射する剣。

二人の持ち主はピリピリとした空気を纏いながらそれをベイルに突き付ける。






シュゼ!?

な、何してるんですかぁ!!??




「おい、別にとって食おうってわけじゃないのに物騒な奴らだな。」

首元にシュゼの剣を、心臓に少年の拳銃をつきつけられているベイルは朗らかに笑っている。



いやいやいやいや、笑うところじゃないですよ絶対!!

首元みて!




「じゃあ何ですか、その手は。」

光の加減だろうか、青くみえる髪を揺らして少年がベイルのマントの中に隠れていた左手をつかむ。



カランっと音をたて、露わにされたベイルの左手から小さなナイフが落ちた。





……はいぃぃぃぃぃ!?


目の前に現れた、小さくするどいあきらかな暗器に目を見開く。





……声を大にして主張しよう!あんた(団長)が一番物騒だ!!

初対面の人を傷つけようとするとか、どんな挨拶ですか!!??

私の挨拶よりたち悪いですよ!!




「なんだ?入団希望者じゃないのか。」

つまんねーとでも言いたそうに明らかにがっかりと肩を落とす。

「団長、こいつはレオからの預かり物なんだ。」

カチャと剣を自分の腰の鞘に納めたシュゼの言葉に、おっとベイルが姿勢を正す。


「そりゃあ、悪い事したなぁ。坊っちゃん。」

あっはっはと笑いながら謝るベイル。



何この人。

ちゃんと謝らないし、背高いし、背高いし、背高いし…

別にうらやましくなんかありませんけどね!!



いやに楽しげに聞こえてくるベイルの笑い声にギッと睨みあげると(その身長5cm分けろ)、さっきまで深くかぶっていたフードがはずされていた。ゆるくウェーブのかかった赤茶の髪は大雑把に後ろで一つに結ばれていて、りりしい眉の下の瞳は、燃え盛る炎のような赤褐色だった。

無精ひげこそ生えているものの、ベイルは毛むくじゃらではないし、凶悪犯顔でもなかった。

むしろ……




くわぁっぁぁああ!!

かっこいいじゃないかぁ!!!

その下町のおっちゃん雰囲気発動するの止めて下さい!

なごんじゃいますから!


その道うん十年の頑固オヤジが笑ったら風の団長の笑顔に向ける先がなくなった目が泳ぐ。




「団長、その挨拶やめろよ。今回みたいに無関係の奴がまき込んだら危険だろ?」

わたわたしている私を隠すようにシュゼがベイルとの間に入る。

「まぁ、無関係の奴じゃなかったんだしいいじゃないか。」

ぷいっとベイルが明後日の方を見てこたえた。



ちょっとまてーい。

今の挨拶だったんですか?……




「きっとゼラさんはもう団長室ですよ、行きましょう。」

深緑色の髪の少年が銃を納め、くるりと踵をかえす。


「んぁ、また仕事か~。」

はぁ…とため息をつく団長。


「ほら、ぼーっとしてないでいくぞ。」

シュゼに声をかけられ、慌てて三人について行く私。






この国…美形と、変な挨拶多くないですか?



とか思いながら。


ベイルは34歳で見た目は若いけど、纏っている雰囲気が何となくおじさんっぽいという曖昧なキャラです

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