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水の都の乙女  作者: 姫青
第1章
11/22

第10話:限度というものがありまして


肩を押さえて私のことを恨めしげにみつめているシュゼに、ちょっとやりすぎたかな?…いや、あれは挨拶だ!断固主張する!!とか、なんとか正当化しようと思っている私の耳にくすくす笑いが届く。



「キサハラ様、それくらいでお許し下さい。彼には後できつく言っておきますから。」


ね?というようにゼラが小首をかしげる。その拍子肩にかかる蜂蜜色の髪がふわふわと揺れる。

あぁ、可愛い…。こんなに可愛い子のお願いを聞けない者がいるだろうか、うちの兄なら火の中、水の中、どこへでも行くだろう。



「今のは挨拶だから、もうしないよ。」

まぁ、一応挨拶と強調しとこう。

「ありがとうございます。」

ぺこりと頭を下げ、ゼラは視線をシュゼへと向ける。



「懲りてないみたいですから、後でお話しましよう?」

「!!……また……。」

にっこりと笑うゼラにシュゼはびくりと反応する。




……あれ?気のせいかなー??なんか、ゼラの笑顔が姉のに似ているような……。



「では、髪を少し整えましょうか。こちらにお座りください。」

私の方へ向き直ったゼラはさっと椅子に私を座らせる

髪を後ろで一つに束ねていた白いリボンをしゅるりとといて、どこから出したのか、櫛で丁寧に私の髪をとかしてくれた。



「きれいな黒髪ですね……。しなやかで、まっすぐ。」

「あ、ありがとう。ゼラの髪だってふわふわで女の子らしくて可愛いよ。」



親のいいつけで友達のように染めることのできなかった髪は生まれたときのままに黒い。

1、2年前に切って以来、姉の真似をして髪を伸ばしているから、胸の辺りまで伸びている。

クラスで唯一一人の髪色がとても嫌だったのに、ほめられると、やっぱり嬉しい。



「さっきみたいに結ぶのもいいけど、短くしたほうが怪しまれなくていいんじゃないか?」

丁寧に髪をとかしてくれているゼラの横に立ったシュゼは、あごに手をあて、どうだろうかと問いかける。


「私はべつに髪を切ってもいいですよ?」



新しい世界で生活を始めるなら、昨日までの世界に決別するべきだ。

そうしないと、いつ痛い思いをするかわからない。

だから、そのために髪を切ることになんのためらいもなかった。



「却下です。こんなにお綺麗な髪をしていらっしゃいますのに、男装のためだけに切ってしまうのはもったいないですわ。」

「そりゃ、そうだけど…でもなぁ……これは少し長いような気もするしな……。」

うーんと唸るシュゼ。






……はい、ストーップ。今『男装』っていいました?





「あの、私、女ですよね?」

「えっ………ちがうのか?」





自分の性別の認識に対しての発言だったが、言い方が悪かったらしい。

ものすごい怪訝そうな顔で全身をじろじろと見られた。


「いえ!!女ですよ!ただ、何でこの格好なのかなと思いまして……。」

首元に手を伸ばし、シャツのボタンをいじる。



(いじめです。って言われたら、すぐ降参しよう。)

一応心の準備をしておく。



「あぁ、そうだったな。悪い、説明するの忘れてた。」

なぜかホッとした顔をしたシュゼが椅子を持ってきて目の前に座る。

忘れてたのかよ!!とか思ったけど、まぁ、いじめではないみたいだし、私も気絶していた訳だからおとなしく話を聞く。



「お前が乙女だって事はさっきの話で分かっただろ?」

「はい。でも、なぜこの格好なのか……。」


意図のつかめない言葉に口を挟む。



「まぁ、聞けって。今、この世界には精霊があふれているからお前の役割はないけれど、お前自体の価値は変わらないんだよ。わかるか?お前はこの世界を救った救世主と同等なんだ。そんな奴が現れたと知れば、何が起こるかわからない。」





シュゼが言いたいことはわかった。

権力をもちたい者達にとって、救世主の生まれ変わりのような自分の存在は喉から手が出るほど手に入れたい存在だ。そして、自分をめぐって争いがおこるだろうと。







だから、隠すと。





「なるほど、分かりました。」

うつむいていた顔をあげると、シュゼが唇をかんで私を見つめていた。



保護と言えば聞こえはいいが、男装をさせこの国に隠すということはすなわちこの国に所有されることを表す。そんな私に対する哀れみの目。





「まぁ、これは俺の勝手な考えだ。レオがどう思っているのかは知らないが、あいつは悪いことはしない。だから、安心しろ。」

やさしく、頭をなでられる。





うん、シュゼ大丈夫だよ。

だって

だってね?







私、精気流すとかできませんから!!!

歌なんて超がつくほど音痴ですし?チートな兄姉とは違うんでね。

絶対に乙女じゃないですから大安心ですよ。





「そうです。こちらだって、キサハラ様の為に特注でつくらせたのですもの。」

後ろで髪を梳かしてくれていたゼラがすっと黒い玉のついたブレスレットを差し出す。



「なんですか、これ?」

なんか見覚えのあるブレスレットを手に取る。


「他者からの呪いや魔法を弾く……さっきの魔よけと同じようなものですね。」

にこりと笑って教えてくれるゼラの言葉を聞いてはっとシュゼが顔をあげる。



「そうだ!ゼラ、魔法で髪を短く見えるようにしたらどうだ?それなら切らなくてもいいだろう。」

「あぁ、そうですね、そうしましょう。まだ、ブレスレットを付けないでくださいね、キサハラ様。」





……うん。大丈夫まだつけないよ。

ありがたいんだけどね?ありがたいんだけどさ!!

これはないでしょ!!?




黒い玉で出来ているとおもっていたブレスレットはあろうことかミニアントニオ○木の顔が連なって出来ているものだった。





…あぁ、顎がぁ、顎がぁ…



ギラギラと睨んでくるたくさんのミニアントニオと睨めっこしている内に、髪は短くなっていた。



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