勇者様、昨晩はぐっすり眠れましたか?
馬鹿な人間なんで汚い文です。すみません。
息をするのも気が引ける程に空気が重い空間に机を叩く音が重く響いた。
机を叩いたのは紫色の肌と無数の皺、そして背広を着ている年老いた魔物。彼の名はドーベル。四天王の一人。
「このままじゃ…魔界は」
整えられていないボサボサの少なからずの白髪。余裕のなさがそこからも見れる。
「落ち着け。まだ魔界は終わっていない」
「だがこのままじゃ負け戦じゃ!そんなの落ち着けるか!」
「だからこそ今、ここで幹部が集まり考えているのではないか」
図体が大きな魔物が髭を撫でながらドーベルを自制させる。彼もまた四天王の一人で名はガングロ。
「……幹部と言ったって四天王。四人の知恵合わせで解決する問題じゃない……しかもアイツは黙ったまま、もう一人はここにおらずじゃ。もう四天王じゃなく二天王じゃないか」
隅っこには、明らかに苛つきを激らせている長髪をポニーテールに纏めているスーツ姿の魔物が黙って突っ伏していた。彼の名はスペル。
「まずは俺を二天王の一人にしてくれてありがとう……しかしアイツは機嫌が悪い。戦いで敗れたからだ」
「百歩譲って許してやる。だが来ない奴は許せん」
「アイツは……俺も知らんな。もしかすると寝坊かもな」
「四天王の会議に寝坊とは…許せん。許せん許せん!寝坊も魔界の劣勢も全てに許せん!!!」
またもドーベルは机を叩いた。それと同時に扉が開く。
「遅れました!」
息を切らして扉から入って来た。
「お前!!なぜ遅れたのだ!!」
遅刻をした奴の姿を見た瞬間に怒りが沸騰し、席から立ち上がり叫び散らかすドーベル。
「魔王様と喋っていまして」
「魔王様と…!」
ドーベルとガングロは驚く。
「本当です。魔王様に私の考えを提案してきました」
「へ?提案だとぉ?」
ドーベルは突然の事に戸惑う。だがガングロは落ち着いて遅れてやって来た彼に冷静に声をかける。
「とりあえず詳細に説明をしてくれないか?」
重い空間は続くが新しい風が入ってきたのもあり空間は息ができる様にはなっていた。その風である遅れた彼の名はハスデイ。彼も四天王の一人である。
ハスデイが席に座り、皆に対面する状態となり会話はまた始まる。右からドーベル、ガングロ、スペルという順で座っている
「私はガングロさんとスペルさんの様な力を持たないしドーベルさんの様にも魔法を使えない。なら私は非力である者としての考えも魔王に提案しました」
「勿体ぶらずに早く言うんじゃ」
ドーベルは提案の真相が気になり、ハスデイを急かす。
「提案したのは勇者暗殺計画です」
「……暗殺か。それは無理だな」
するとスペルが口を開く。先程まで機嫌が悪く、無口を突き抜けていたのにも関わらずハスデイに苦言を呈す。
「アイツは強い。戦闘中も戦闘以外でもずっと気を張っていた。あんな人間は初めて見た…」
スペルが言う事は本当であり、勇者は強い。いや強過ぎた。
勇者が現れる4年前までは魔王軍は優勢であった。だが勇者という者が一人現れた途端に魔王軍は押されてしまい、今や魔王軍は劣勢となっていた。
それほど、強くて戦場に影響のある人間なのだ。だからスペルは暗殺計画に苦言を呈した。
だがハスデイは飄々としていた。
「それは私も知っています。だから暗殺計画を企てるということは勇者が唯一、気を張れない瞬間を知っているからです」
「なッ!?」
スペルは驚く。あの勇者にも油断をする瞬間があるのかと。
「それは単純です。これは魔物も人間も同じ事です。この四天王もしかり魔王様も同じです」
ドーベルとガングロはハスデイの言いたい事が分かった。しかしあまり納得をしていなかった。
「だが戦場でそれは無理だろ。それは安心し切ったからこそ起きる物だ」
ガングロは言う。
「しかも勇者には仲間もおるしな。偶然、勇者がそんな風になったとしても周りに仲間もおれば攻撃は防がれるに間違いない」
ドーベルは言う。
「は?俺だけ分かっていないのか?」
スペルは戸惑いながら言う。
そして笑うハスデイ。
他の三人は急に笑うハスデイに、急に何だよ、と驚いてしまう。
「御三方。それを全て解決できる物が一つあるんですよ」
人差し指を立てる。
「なぁ俺まだ理解出来ていないんだって!それを説明しろ!」
スペルは怒鳴る。ハスデイは分かりましたと言い、スペルに説明をする。
「勇者を暗殺が出来る瞬間とは、これは単純に睡眠中です。ほら四天王でも寝てる最中は巡回兵をわざわざ扉の前で警戒させるでしょ?」
「……ほぉ」
「それで二人が言っていた戦場で、それと仲間達。それを解決するにはですね」
人差し指を下ろす。
「宿屋です」
その一言は重い空間には耐えきれなかった。数秒間の無言の時間が流れ、その流れをガングロが止める。
「魔王様の反応は?」
「………まぁ」
「駄目だったのか」
「そりゃそうじゃ」
ドーベルとスペルは溜め息を吐いた。二人はハスデイの提案に期待していた分、落胆が大きかった。
しかしハスデイは慌てて言葉を連ねる。
「いや!魔王様からは否定の言葉じゃなくて絶賛の嵐でしたよ!」
「……嘘じゃ」
「嘘をつくな」
「まぁ嘘をつきたい心は分かるが、魔王様が宿屋の暗殺計画に絶賛の嵐は流石に無いな」
三人対一人という形は変わらずにいた。だがハスデイは諦めずに魔王様の言葉をそのまま彼達に伝える。
「正直、絶賛の嵐は嘘です」
「だろうな」
三人とも呆れる。
「ですが魔王様は何でもいいからやってみろと言ったんです。だからもう宿屋暗殺計画は進んでいるんです」
「……それも嘘じゃろ」
「嘘じゃ無いです。もう責任者も宿屋を経営する店主も決めているんです」
「いや早過ぎだろ!」
まだ信じきれていない三人は頭を悩ませていた。
ドーベルはハスデイに聞く。
「その責任者と経営するのは誰なんだ!」
「まぁ責任者は私…それとドーベルさんガングロさんスペルさん。四天王です」
おい!という言葉を三人から言われるが無視するハスデイ。
「宿屋を経営するのは魔界で唯一の宿屋を経営していた店主さんに任せようと思っています」
「まぁそれはいいが、責任者は四天王とは聞いていないぞ!」
四天王の三人からの文句が雨の様にハスデイに降り注ぐが心を傘でガードしているのか平然と無視している。
「それで宿屋は人間界で営業するので責任者の一人が店主さんと同伴してもらい人間界に潜り込み、店主さんと一緒に経営をお願いしたいです。次に文句を言ってきた人が同伴です」
ピタリと文句が止む。
「これ文句じゃないからな?質問だからな?その人間界に潜り込むってどうやってなんだ?」
「はい。ガングロさん質問ありがとうございます。人間界に潜り込む方法は簡単です。変装です」
「んー…………」
文句を言えない三人は黙り込む。三人とも心の中では、変装だけじゃ無理だろ阿呆野郎と思っていた。
ガングロは人間の二倍である身体の図体のデカさ。ドーベルは紫色の肌に無数の皺。スペルは獣の血が入っている為、歯は鋭く、牙の様になっており人間とは異なっている。
「人間と同じ言語ですし文化も近しいです。変装すれば、変なことをしない限り気付かれたりはしないです」
「その宿屋の店主さんもか?」
「はい。宿屋を経営する際も変装して頂きます」
ドーベルは眉を顰めて質問する。
「それは怪しまれないのか?」
「………文句ですか?」
「ち、違う違う!文句じゃない!質問じゃ!」
「…はい。怪しまれないかでしたね。まぁ大丈夫でしょ」
軽いな、と三人は呆れる。
「まぁ同伴は追々で、あとは宿屋をどう人気店にして勇者を誘い込むかを考えましょう」
「え?人気店?」
三人とも不思議そうに言う。
「説明してなかったですね。勇者を宿屋に泊まらせるにはそこらへんにある宿屋じゃ来てくれません。なので勇者を泊まらせる為に我々は宿屋を人気店にしなくてはなりません」
「…なんだか面倒臭いな」
ガングロは文句を垂れた。その瞬間、ハッ!と口を両手で塞ぎ込む。ハスデイに見つめられ、両隣の二人にも見つめられる。
「同伴は決まりましたね。じゃあ説明を続けていきます」
「ちょ!言い訳ぐらいさせてくれ!!」
「嫌です。続けますね。勇者は」
ガングロ。
力は凄く、大木を一握りで圧縮し枝にする程であった。そして知性もあった。冷静沈着。そんな彼を魔界では最強の戦士として呼ばれていた。魔王の右腕とも呼ばれる程に強い魔物であった。
そんな彼は今、泣いていた。一粒の涙が頬を伝っていた。
彼は魔王様に役に立つのなら立ち上がり、是非に動くのだが、この勇者暗殺計画とやらに信頼を置いてない彼は本当に嫌であったのだ。
元から彼は戦場の前線に立ち、戦闘において役に立ちたいと望んでいた。
なのに四天王という立場で魔王軍の統括などで前線にはあまり立てず、立てたとしても勇者などがいない日と重なり、満足しない毎日であったのだ。
そんなある日、人間界に変装して赴いて宿屋を開いて人気店にしろという事になり彼は満足しない毎日のストレスとこの日のストレスでいっぱいとなり泣いてしまった。
それを間近で見ていた同じ格闘派であるスペルはガングロを慰める。
ドーベルも彼に同情していた。
そしてそんな中、意気揚々と勇者暗殺計画を説明するハスデイ。
四天王は今日もこれからも元気であった。
その後、勇者暗殺計画は始まり、人間界に魔物が経営する宿屋が開きました。
それでいろんな苦労を乗り越えて宿屋は人気店の仲間入りを果たし、勇者一行が宿屋にやって来ます。
そして勇者の暗殺はどうなったのか。それをここで言うのは野暮ですのでタイトルに書きました。
そしてネタバレですが、この宿屋は人間界と魔界の平和の架け橋になります。




