第1章 やさぐれシスター(part9)
前回は過去のソフィリアさんと神父の微笑ましい?日常回でした。
今回は、前回の最後に謎に女性が現れた所から話が続きます。その女性の正体は誰なのか?確認してみて下さい
突然知らない女性に話し掛けられたため、過去のソフィリアさんはとても戸惑っているようであった。
ソフィリアさんは気まずくなったのか、すぐに立ち上がり逃げるように階段を降りようとしたが、知らない女性によってその行動は制止された。
「違う、違うのよ~。私は怪しいものじゃないよ~」
優しく甘い声の女性は両手を広げながら彼女を通せん坊した。
ニコニコして人当たりが良さそうではあったものの、言動と行動が完全に矛盾しており、客観的に見たら危ない人のように見えた。
わたしは言動に目が向いていて、その女性の服装をよく見ていなかったが、よくよく見てみると、現在のソフィリアさんの服装を白色に反転した衣装で、首には十字架の首飾りがしてあることに気が付いた。
その反転した色の服装の女性を見たことで、わたしは彼女がシスターと確信できた。
この女性とソフィリアさんはきっとこの教会で何かしらをして過ごした重要な人物なのだろう。
だが、わたしの考察とは裏腹にその女性の目の前にいるのが警戒度の高いソフィリアさんであることから怪しくないと断言することは、きっと今の彼女には難しいのだろうが……。
ソフィリアさんは強引な態度の知らない女性に対して怪訝そうな表情を向けていたが、その女性は気にすることなく話し出した。
「あのね。実は私はここのシスターなの。お嬢ちゃんは何か用が合ってここに来たのかな?」
わたしの予想は当たっていた。まあ、修道服を着ている人をシスターと予想を立てるのは誰にでもできることであり、推理もへったくれもないことだが……。
女性改めてシスターの問に彼女は「特に……」と一言だけ小さく呟いた。
シスターはその回答を疑うかのような視線を彼女に向けた。
「本当かなあー?こんな真昼間の平日に用もないのに教会に足を運ぶ人なんて信者でもいないわよ」
シスターはとんでもないことを口走った。
だが、彼女は特に突っ込むこともせずに繰り返すように「特に……本当にたまたまです」とだけ言った。
彼女のぶっきらぼうな様子にシスターは臆することなく続けた。
「しょうがないなあ~。ちょっとだけ、本当にちょっとだけ来てくれる」
シスターは言いたいことが終わると、同意なく彼女を持ち上げ教会の中に半ば強制的に連れて行った。いや、連れ去られる小動物のような姿で……。
「では、我々も入りましょう」
降魔さんは教会の中に向かって歩き出した。すると、あと一歩のところで、立ち止まり言葉を追加した。
「あなたはどうするのですか、ソフィリアさん?」
わたしは降魔さんの一言で振り返ると、教会に近づこうとしないで、立ち止まる彼女の姿がそこにはあった。
「私は……」
どうやら、彼女は教会には入りたくないらしい。
「まあ、来たくないのであればそこでお待ちしても構いませんよ。今回も無理強いするつもりもございません。ただ、この機会を逃すとこの瞬間の想い出に触れることは未来永劫、敵わなくなります。それは、あなたの中にしこりを残す結果になるかも知れません。それに記憶というものは存外、いい加減だと感じたでしょう。生きていた時に覚えていて、絶対に合っていたと思っていた記憶もいざ、目の前で見ると少し違う。いや、もしかしたら全く異なっていた部分もあったかも知れません。死後もなお記憶は徐々に消えていくでしょう。今見ている記憶の想い出のように……」
降魔さんは一通り、言い終えると今度は、立ち止まることなく教会の中へと消えてしまった。
この状況にわたしはとても悩んだ。
わたしは案内人補佐官であるため、行かないと流石に不味い。
行かなければ、職務怠慢で首になるかも知れない。
まあ、わたしを辞めさせる権利が彼にあるかは不明だがー最悪の可能性の一つだ。
わたしはやっぱり降魔さんのように接することはできない。
そう思うと自然と体が動いていた。
「ソフィリアさん……。わたしの独り言を聞いてもらえますか?」
彼女の手を両手で半ば強引に握り逃げることのできない状況をわたしは無意識に作り出しゆっくりと語りだした。
「あのね、ソフィリアさん。わたしはあなたに後悔して欲しくないの。あなたがこの先に行くのは、天国かもしれないし地獄かも知れない。現送りでもう一度新たな人生を始めるかも知れない。それを踏まえれば、生前の記憶は役目を終えたもので必要性はない、そう切り捨てるのも一つだと思う……。だけどね、この記憶がいらないということはないとわたしは思うの。だって、現にあなたは彼女と同じシスター衣装を身に纏っているでしょう。相当ここに思い入れがあったはず。それにこの記憶はあなたの人生の転換期でしょう。良い行いをして幸せになった。悪い行いをして不幸になった。あなたのように、何もしてないのに悪いことに巻き込まれた。死後に生前の記憶そのものを見る必要も知る必要も本当はないのかも知れない。だって、先が続いてないし後も消えている。直進しかできない人生の列車から降ろされた人たちはもう、その列車に乗ることもできない。次の列車が来るのを待つのみ……。だけど、だけどね、あなたには新しい列車に乗る前に後退して欲しいの。何も知らないわたしが言うのは不謹慎かもしれない。でも、向き合ってほしい。それにー」
わたしは最後の一言の前に彼女の手を離し、数歩進んだのち振り返った。そして彼女にとってのピンポイントな弱点を指摘した。
「お母さんに会うのでしょう?なら、こんな中途半端な気持ちで会ったらきっと、怒られて幻滅されてしまいますよ」
悪魔のような微笑みを彼女に向けた。
彼女は頭を掻きむしり「あーー」とため息交じりの大きな声を上げた。
「仕方ないから、入ってやるよ。それで、満足だろう。ったく、面倒な担当さんだこと」
嫌がりながらも彼女は納得してくれたみたいだ。
彼女はわたしに目線を合わせることなく、先に教会の入り口の前に立った。そして、扉の端に吸うことなく残った煙草の箱を丸ごと置いた後、声を張り上げた。
「責任とれよな」
「責任……」
責任……。
これは恐らく彼女のお母さんの捜索のことだろう。
だが、実のところ新米の案内人補佐官であるわたしに彼女のお母さんを見つけることができるのかどうか、全く見当の余地がない。
わたしはどうやら、重要なことを安請け合いしてしまったようだ。
後悔はないが責任は重大。
そんな彼女はわたしの言葉に返事することはなかったが、教会に入るときに微かに声が聞こえた。小さいながらもはっきりと。
「ただいま」という声が。
※※
わたし達は遅れながら教会に入った。
教会内は昼間だったが誰もいなかった。
神父さえもだ……。
神父は確か教会に居ると言っていた気がするが、どうやらタイミングが悪かったようだ。
わたしは先に入ったシスターと過去のソフィリアさんがどこにいるのか分からず、キョロキョロしていた。すると、ソフィリアさんはわたしの手を引っ張って、まるで、こっちだと言わんばかりに強引に引いてきた。
「ごめんなさい。わたしは降魔さんと違って記憶世界のあなたの探し方を知らないから助かります。何処か心当たりがあるのですか?」
「心当たりってーそんなのあたり前だろう。ここは、私の記憶なんだから」
彼女はニヤリと笑いながらわたしに答えた。
だが、言われてみればそうだ。降魔さんばかりが詳しいと思っていたが、実際に経験してきた彼女の方が知ることが多いのは当然である。
初歩的なミスだ。
「なあー、芽郁。告解室って聞いたことあるか?」
久々の名前呼びであった。
残念ながらわたしは告解室という言葉に馴染は無かった。恐らく声に出したのも初めてだろう。
わたしは初めて聞いた言葉だと、彼女に素直に伝えた。
「―そうか……。じゃあ、懺悔室ならどうだ。恐らくこっちの方がイメージしやすいと思うけど……」
懺悔室のことを言いたかったのか。それなら、無知なわたしにもわかる。文字通り、懺悔をする部屋である。
「懺悔室、それなら聞いたことがあります。確か小さな部屋の真ん中に仕切りが置いてあり、そこで教会の方に対して自分のした悪い行いを告白するーそんな感じだったと思います」
「ほぼ、正解だね」
「ほぼ……」
残念なことに満点解答とはいかなかったようだ。
「まあ、一つ補足するだけだから、大体は合ってるよ。仕切りの有無とかそういう些細な事は良いとしてー懺悔は教会関係者の誰でもが行う訳ではなく、神父が行うのが通例なのさ」
「そうなんですね。それって……。」
わたし達の話は途中だったが、懺悔室いや告解室にそうそうに着いてしまった。
その前には、降魔さん一人だけが立っており、二人は告解室でお互いが向かい合うように座っていた。
わたしはもっと閉鎖的な空間で扉が閉まっているものばかりだと思っていたが、ここの告解室は戸を閉めなければ、外からでも見えるようだ。
「思ったより早いご到着ですね」
「遅れて申し訳ありません」
遅れたことを素直に謝罪した。
だが、降魔さんの発言はどうやら、わたしに対するものではなかったようで一言訂正してくれた。
「あなたはあなたのできる仕事をしたに過ぎません。だから、遅れていません。私は彼女に言ったのですよ」
心なしか降魔さんの機嫌が先程よりも良いように思えた。
ソフィリアさんは降魔さんの問に対し知らんぷりをしているようで、彼に対して無言を貫いていた。
恐らく、照れ隠しだろう……。
「まあ、いいですよ。辻屋さんはこの個室をご存知でしょうか?」
わたしは仕入れたばかりの知識を出し惜しみすることなく、さも最初から知っているように振る舞った。
「告解室ですよね。悪事したことを神父さんに告白するという特別な個室空間ですよね」
予想に反した答だったためか、彼は少し感心したようにわたしを見た。
「詳しいですね。日本出身のあなたには馴染みがないと思ったので念のため確認しようかと思いましたが、あなたには不要なようですね」
わたしは彼に見えないように手をグーの形にし、ガッツポーズをした。その様子を隣で見ていた彼女は軽く押すようにどついてきた。一方的かも知れないが、友達のようなコミュニケーションができて楽しいとわたしは思ってしまった。
告解室に座る二人。
今回は神父ではなくて、シスターが座っている。ソフィリアさんから、聞いた話では告解室で懺悔を行うのは神父と聞いていたので、多少の違和感を感じたが、誰もいない教会では悪目立ちすることもないのだろう。
仕切りで隔たれた空間の二人の表情はまるで違った。シスターは早く早くと懺悔されるのを楽しむような表情を、一方の彼女は話すことがわからないのかただただ、そこに座っていた。
返事が待ちきれないシスターは彼女が語る前に自身の負い立ちを話し始めた。
「シスターちゃん懺悔、いや、告白したいことがあるけどよろしいでしょうか?」
シスターは子どもでも分かりやすい言葉に置き換えて話し出した。子どものソフィリアさんをシスターちゃんと呼び、まるで懺悔のやり方を教えるかのように。
だが、残念なことに彼女からの返事はなかった。
「シスターちゃん、シスターちゃん聞いてよ。ここの神父酷いのよ。夜中に私が食べようとして取って置いたパンを勝手に食べてしまったのよ。最低だよねー」
懺悔ではなく密告であった。
それでも彼女は無言を貫いた。だが、シスターの話はまだ続いた。
「でもね……。実はそのパンを食べたのは私なのよ」
支離滅裂な発言をするシスター。
「私ね。この教会に来る前は孤児だったの。孤児ってわかる。パパとママがいない子どものことだよ。それでね。いろんな人のところで生活したのよ。最初は父方の親戚でその次は母方の親戚だったかな。運の良いことに親戚の人は、みんな優しかった。優しかったけど、とても居心地が悪い……。家族になり切れない家族みたいな変な違和感だけがずっとつきまとっていたの。分かりやすく言うと一つの家庭内に二つ目の家庭が入り混じるような……やっぱり、上手くは言えないわね。何と言えば……そうだ学校の先生みたいなものかな。先生は学校内では優しい。だけど、一緒に暮らすとしたらお互い他人行儀な振る舞いで会話が弾まないみたいな感じかな。近い関係だけど他人のように感じる。あなたにもそんな経験はなかったかしら?」
「…………」
「だから私は出ていくことにしたのよ。お互いの幸せのためにね。それで、紹介されたのがこの教会だったという訳。最初私はてっきり修道院に入ると思っていたけど、神父が養子として引き取ってくれてね。気が付いたらここのシスターになっていたのよ。だから、神父の財産であるパンを食べたのは私なのよ。まあ、私の話はここで終わり終わり。それで、ソフィリアちゃんは今後どうしたいの?」
シスターは仕切りの方に目をやって、彼女の返事をするのを待ち続けた。
暫くすると彼女は小さな声で質問の返事をした。
「―どうもしない……できない。だって、私は卑しいから……」
否定的な回答だった。
それに対しシスターは諭した。
「卑しい?あなたが?どこがよ。まったく卑しくないわよ。あまり、自分のことを低く評価してはダメだよ」
「シスターさん、懺悔して良い」
彼女はポツリと発した。
「いいに決まっているよ。私はシスターだからね。吐き出せ、吐き出せ。吐いて楽になろう」
自信満々のシスターに後押しされた、彼女は頭を一瞬上げ浅く呼吸をした後、静かに懺悔を始めたのである。
ご読了ありがとうございました!
本日は多くの意味で進展のあった回でした。過去のソフィリアさんとシスターとの出会い話や死後のソフィリアさんが過去に向き合う、シスターが懺悔を行うといったてんこ盛りでした。
次回はソフィリアさんが懺悔が話題の中心となります。どういった懺悔がなされるのか是非確認してみて下さい。
お時間のある時にまた読んでいただけると嬉しいです。
※ 現在のストック
第1章 やさぐれシスター(part12)
投稿後に続きを執筆し、予定通りに(part13)まで終わらせたいですね(本当は投稿時に終わらせるつもりでしたが……)。




