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第1章 やさぐれシスター(part19)

 前回は神父さんとアウロラさん、ソフィリアさんの三人で《最後の晩餐》を行ったところで終わりました。

 今回は、10年近く時が経過して始まります。

 過去の記憶世界に不具合でもあったのだろうか、映画のように素早く何度か場面が切り替わった後に、落ち着いた。


 今までにも記憶の世界に変化が生じる場面は多々あったが、立て続けに場面が変わることはわたしの見逃しが無ければ恐らく今回が初めてだろう。


 何度も、何度もめまぐるしく状況が変わる。

 これは、一体どういうことなのか……。


 それに、故人のソフィリアさんの話に合った《最後の晩餐》という言葉。

これの意味することは何なのか、とにかく疑問が尽きることは無かった。


 わたしは分からないながらも、自問自答していると降魔さんがわたしに声を掛けてきた。

「あのー、ソフィリアさん、大丈夫ですか?」


「あっ、はい、大丈夫です。申し訳ありません。ソフィリアさんの記憶世界の変わり方がいつもと異なるように感じたため、少し戸惑っていただけです」


「そうでしたか」


 降魔さんはわたしの言葉に対して、特に何か指摘したりといったことはなく、相槌がてら返事をするのみであった。


 まあ、わたしのことは一先ず置いておくとしよう。


 今回のソフィリアさんの記憶世界は、教会や神父の自宅ではなく、全く見ず知らずの街にいた。


 この街には海の潮風の匂いが漂っており、街並みは同じような赤茶色の屋根の建物がいくつも軒を連ねていた。


「ここは、初めて来た記憶世界の街……ですよね……」


 わたしは恐る恐る尋ねた。


「そうだな、初めてだな。ここは、先の記憶でシスターを辞め、家を追い、いや家を出た後に向かった街だ。流石に幼少期の街よりも記憶に新しいな……」


 わたしの誰に対してかはっきりしない問に対し、故人のソフィリアさんは懐かしながら語りだしてくれた。


「じゃあ、店に向かえばいいのかな?」


 彼女は降魔さんの方を振り返りながら尋ねた。


「そうしていただけると助かります」


 降魔さんの返事に対して、彼女は「はいよー」と軽い受け応えをしながらその店なる場所へ向かいだした。


「ソフィリアさん、店ってもしかして、以前の記憶で仰っていたケーキ屋さんのことですか?」


「おう、そういえば言ってなかったな。あの後、この街でケーキ屋を始めたんだよ。だから、店のケーキを楽しみにしていてくれな。きっと、気に入るものがあると思うからよ」


「ケーキ……ですか……」


「どうした?芽郁の大好物のケーキだぞ、楽しみじゃないのか?」


「いや、そういう意味では無くてですね……。最後の晩餐。この言葉がどうしても頭から離れなくて……」


「ああ、そういえばさっき言ったな……。悪かったな、気を遣わせてしまって。まあ、それについては、店に着いてから詳しく話すとするよ。だから、少しだけ時間をな」


 彼女は視線を逸らしながらも淡々と答えた。

 本当に淡々と。


 わたしとソフィリアさんの話が終わった後は、特に目立った会話は無かった。


 沈黙。


 この時間はどうもわたしは苦手だ。


※※


「よーし、着いたぞー!ここがケーキ屋だよ」


 ソフィリアさんが、到着したことをわたし達に告げた。


「案内、ご苦労様です。では、店内に入るとしましょうか?」


「おう、入った、入った。どうぞ」


 お客さんを店内に招き入れるようにソフィリアさんは、ケーキ屋の扉を勢いよく開け、手で誘導した。


 わたし達は彼女の招きに従い入店した。


「いらっしゃいませー」


 店内奥から元気な女性の声が響いた。

 その声の主は、お店の扉が開いたのに誰も入ってこないことを疑問に思い不思議がっていた。


「あっ、あれ?誰もいない……。えっ!えっっ?えっっっ⁉」


「なに一人で騒いでいるんだよ、姉さん?」


「フィリアちゃん、訊いてよ、訊いて。今、扉がひとりでに開いたのよ?」


「姉さん、何を言っているの?扉が勝手に開く訳ないだろう。誰かのイタズラだろう」


「本当よ、本当。扉が内側いっぱいまで押されていたんだから、誰かがやっていないと不可能よ」


「そんなわけないだろう。じゃあ、見て来てやるよ……えーと…………内も外も誰もいないけど」


「えっ……じゃあ、お化けさん……。嫌よー。フィリアちゃん、他の店舗にお引越ししよう。ねえ、ねえ、ねえ……」


「お化けなんていないよ。……それに、ようやく軌道に乗ってきたんだから、ここを離れたくないよ」


 時間にしてはほとんど経過していなかったが、二人のやり取りを見るとなぜか懐かしさを覚えた。


 その声の持ち主は、アウロラさんと過去の記憶世界のソフィリアさんだった。


 彼女たちは、以前と比べて見た目が更に大人っぽくなっていた。


 アウロラさんは以前と同様、容姿の変化はほとんどなかった。相変わらず綺麗なままだ。


 一方のソフィリアさんはというと、以前よりも大人っぽい雰囲気になっていた。以前が18歳ぐらいだったことを考慮すると、今回もある程度の年月が経過しているように見えた。


 わたしは年月が経過してもなお、仲の良さそうな彼女たちを見て嬉しい気持ちになると、同時によからぬことが頭によぎってしまった。


《最後の晩餐》ってもしかして……。


 そんなことを考えていると故人のソフィリアさんは呟くように独り言を喋っていた。


「この記憶……どういうこと……?」


 どうやら、ソフィリアさんは混乱しているようであった。


 様子のおかしい彼女。


「あのう、ソフィリアさん、どうかしましたか?」


「……ああ、いや何でもない。何でもない。思っていたよりも年月が経っていて驚いただけだよ。この記憶だけだと正確には分からないが、最後の方だと仮定すると恐らく……7年ぐらいは経っているはずだよ」


「7年ですか……。これは、結構経ちましたね」


「そうだな、7年、7年かぁ——」


 時間の重みを感じているのか、ソフィリアさんはひたすらに7年を連呼していた。


「ああ、そうだ、そうだ、忘れていたよ。ケーキを振る舞うって約束だよな。今日は過去の私からの奢りだ、ショーケースにある物を好きなだけ食べて良いぞー」


 ソフィリアさんはかつて自分が作ったケーキを手差し、自慢げにわたし達に見せるのであった。


 ショーケースには宝石と言っても良い代物がたくさんあった。誰もが知る、王道のショートケーキや、チョコレートケーキ、カステラのような長方形のプリン、見たことのない白色の謎のプリン、丸い生地の真ん中に白いクリームの入ったパンのような物など、見るだけでも幸せになれるようなデザートが大量に並べられていた。


 もちろん、ここには彼女のルーツであるティラミスも置いてあった。


 わたしは大量のデザートが目の前に急に現れて大いに歓喜し悩んだ。


「では、私はあちらで座っていますので、気にせずにごゆっくり選んでください」


 降魔さんは、デザートに目もくれずにそそくさと席に戻って行った。


 もしかして、降魔さんは甘いものが苦手なのか、そのようなことを考えながらも、今のわたしは目の前のショーケースケーキに集中するとした。


 わたしはショーケースにあるデザートから悩みに、悩みぬいた選りすぐりの数種類を選んで、席に向かった。


「申し訳ありません。お待たせしました」


 わたしは戻るのが遅れたことを謝罪したが、降魔さんは特に気にする様子もなくこの状況を受け入れているようであった。


 席に着きソフィリアさんの戻ってくるのを待っていると、奥から何やら物の割れる音がした。


 わたしは音のなる方を覗いたら、そこには故人のソフィリアさんがお皿を割ってしまったようだ。


 彼女はすまんという表情を浮かべながら、わたし達に頭を下げていた。


 そして、奥からは悲鳴が聞こえた。


「ああ、さ、皿が勝手に割れた……。お気に入りだったのに……」


 お皿が割れたことで過去の記憶のソフィリアさんはショックを受けていた。


 そして、この様子を見ていたアウロラさんと共に、「お化けだー」とお互いに騒ぎ出す始末であった。


「やっちゃった……。すまない」


 騒がしい店内の様子に故人のソフィリアさんはただただ、謝罪するのみであった。


 暫くして、机にはわたし達が持って来たデザートとソフィリアさんが奥から持って来たお花柄の可愛らしいティーポットと人数分のティーカップが置かれており、傍から見たら今から女子会でも始めるような、そんな緩い空気が辺りには流れていた。


 こんな女子会ムードの状況のせいか、降魔さんという一人の男性の存在がとても浮いて見えた。


「もしかして、甘いものが苦手か?コーヒーゼリーなら食べられるか?」


 ソフィリアさんは降魔さんがデザートを取りに行っていないことに気が付いていたのか、多めに持って来たコーヒーゼリーを彼に手渡していた。


「別に甘いものが苦手とかそういうことではないですが……まあ、ありがとうございます。いただきますね」


 シスターさんの気遣いは本当に素晴らしい、

 誰かさんと違って……。


 わたし達はソフィリアさんがティーカップに飲み物を淹れたのを確認した後、ティータイムが始めた。


 ちなみに、飲み物はアウロラさんが淹れたカモミールティーらしい。


 カモミールティーは初めて飲むが、スッキリとさわやかな喉越しで、最初はそのスッキリとした風味に違和感があったが何度か口に運ぶうちにこの飲み物の良さが理解できた。


 例えるならスルメイカのように噛めば噛むほどに味が出ると言えば分かるだろうか。


 わたしはカモミールティーについて、考えているときに最初に話し出したのはソフィリアさんであった。


「芽郁はいっぱい持って来たな。ショートケーキにプリンにババロア、それにティラミス。良いチョイスだ」


「ババロア?もしかして、この白いプリンみたいなのはババロアと言うんですね」


「知らないで取ってきていたのか?そういえば、最初にティラミスを食べたときも知らなかったもんな。芽郁は亡くなって結構経つのか?」


「ええと……どうでしたかね?だいぶ昔のこと過ぎて正直、覚えてないんですよ」


「覚えてないって、やっぱり、忘れてしまうもんなのか……」


「どうなんでしょうね……やっぱり、年月を経るとわたしみたいになってしまうのかも知れませんね。他の人に確認したことがないので確かなことは言えませんが……」


 わたしはこの会話中に生前のことを何度も思い起こそうとしたが、何も思い出すことができなかった。


 本当に何もだ……。


 思案しているわたしをよそに、降魔さんが代わりに話し出した。


「生前の記憶の保有は個人差が大きいですね。覚えている方、忘れている方それぞれで千差万別です。ちなみに、私はすべて覚えています。亡くなった瞬間や死後の振り分けを含めて全てです」


「いやいやいや、逆にそこまで覚えているのはおかしくないか。正直自分なら怖いよ……」


「あら、そうですか?でも、あなたもどちらかというと、私側だと思いますけどね。違うといいですね」


 降魔さんは含みを持たせながら笑顔で答えていた。


 しばし、三人でのデザートタイムが続いて後半に差し掛かったとき、再び彼女が口火を切った


「ところで、芽郁。さっきの話だけど……」


「さっきの話……もしかして《最後の晩餐》のことですか」


「そう、それ……。もう、薄々気が付いていると思うが、あの日の最後の晩餐は神父……エルネスト・デムーロ神父だったんだよ」


 ソフィリアさんはショーケースの前に立つアウロラさんの方を見つめながら静かに噛みしめるように答えた。

 ご読了ありがとうございました!

 本日は投稿が遅れまして大変申し訳ありませんでした。

 次回も呼んでくれると嬉しいです。


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