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第1章 やさぐれシスター(part16)

 前回はソフィリアさんと父親との会話がメインでした。あまり書くとあれですので、この辺にしておきます。

 今回は、二人の対話後から始まります。

 教会を後にした、わたし達は神父の自宅に向かっていた。


 そういえば、今回は記憶の世界は変化することなく、ずっと続いていた。今までの記憶の世界でも必ずしもではないが、基本的に重要な事柄が終われば、次の記憶の景色に切り替わり、新たな記憶と対峙するこれが通常だった。


 なのに、今回は続いている。

 ということは……。


 わたしはソフィリアさんの語った言葉を思い起こしていた。

 この先はもっと辛くキツい……。

 この言葉はどのような意味なのだろうか。


 ソフィリアさんが。

 神父が。

 アウロラさんが。


 ダメだ、ダメだ。このような考えを持ってはいけない。

 わかっている。わかってはいるけれど、それでも、わたしは考えずにはいられなかった。


※※


 わたしが考え事をしていると、降魔(ごうま)さんは神父の自宅前で歩きを止めた。


「では、入りますがよろしいでしょうか、ソフィリアさん?」


 降魔さんは珍しく家に入る前にソフィリアさんの許可を求めていた。

 どういう風の吹き回しだろうか。


「ご自由に。お好きなタイミングでどうぞ」


 ソフィリアさんは丁寧に降魔さんに返答した。


 それを聞いた降魔さんは「では、失礼します」と、言いながら神父の自宅に入っていった。その姿はまるで、家宅捜索をする警察のように、淡々と冷静に無感情に。


 降魔さんが神父の家に入るのを確認した後、わたし達もそれに追随するように戸をくぐった。


 家に入ってすぐには、いつも食事をしているリビングがある。

 だが、その場所には独特のピリピリとした居心地の悪い雰囲気がそこにはあった。


 重い空気といえば良いのだろうか、とにかく、その室内はいつものような平穏さはなく、ただただ、どんよりとした空気だけが流れていた。


「エルネスト神父、考え直してください。どうか、どうか、フィリアちゃんを許してください。どうかお願い致します」


 切羽詰まった声を上げていたのは、いつもおっとりとしたアウロラさんであった。


「ダメです。ソフィリアさんの還俗(げんぞく)はもう決まったことです。変更するつもりはありません」


 どうやら、神父とソフィリアさんの間に揉め事が起きたようだ。あの後に一体何があったのか。わたしには考えもつかなかった。


 ただ、それよりも、わたしは還俗?という聞きなれない言葉が気になった。

 わたしはその聞きなれない言葉に首を傾げていると、降魔さんが一言。


「還俗とは、一般人に戻ると言うことです。よく、反社会的な方が足を洗って一般人、つまり堅気(かたぎ)になるということは聞いたことがあるでしょう。還俗はそのシスターバージョンとでも言えばわかりやすいでしょうか。日本馴染で例えるなら、出家して僧侶になった者が再び一般人に戻るとでも言えばよりわかるでしょう。つまり、この状況はソフィリアさんがシスターとしての職を辞する決定をあの神父がしたということです」


 降魔さんはわたしが疑問に思っていることを、質問前に的確に教えてくれた。


 ということは、今アウロラさんと神父が話していることはソフィリアさんの進退。つまり、ソフィリアさんがシスターを首になるということだ。なぜ彼女がそのような目になったのか、いや、ならざるを得なかたのかは、わたしにはわからなかった。


 わたし達が見ていない間に何が起こったのか。

 疑問は尽きることなく増える一方だ。


 アウロラさんと神父が激しくヒートアップ、というよりも、どちらかといえばアウロラさんだけだが……そんな二人の会話にソフィリアさんも割って入ってきた。


「気持ちは嬉しいよ、ありがとう姉さん。でも、これはエルネストさんが神父として決定したことだから私は素直に受け入れるよ。私は教会に訪れた人間に手を挙げた。これは事実……。だからシスターは辞めるし、エルネストさんの言う通り明日までにはこの家からも出て行くよ」


「そんなことを言わないでよ、フィリアちゃん。あなたは何も悪くないじゃない。あなたが殴ったのは、お父さんであって他人では……あっ」


「あの人と私は他人だ。今の私の身内はエルネストさんとアウロラの二人だけだよ」


 ソフィリアさんは作った笑顔を二人に向けながら答えた。


「で、でも……ああ、そうだ。フィリアちゃんは昔に一度、教会の信者さんを殴ったでしょう。その時、その時も追い出さなかったじゃない。それと、今回は何も違うことがないでしょう。だから……ねえ、エルネストさん……」


 神父は必死なアウロラの訴えに対し、眉一つも動かすことはなく、目を閉じながら首を横に振った。


「何もかも違いますよ。あの時のソフィリアさんはシスターではなく私の子ども、つまり、娘です。ですから、還俗の対象ではありません。ですが、今の彼女は娘であることに変わりありませんが、シスターで大人です。大人なら、自分の行った行為には責任を負う必要があります。例えそれがどんな理由があっても……です」


 アウロラさんは神父の発言に納得できない、というより納得する気がない様に駄々をこね続けていた。


 非論理的で非合理で筋の通らない矛盾した発言。

 ほとんど同じ意味でもアウロラさんにとっては違う。

 彼女にとっては是が非でも神父に還俗の撤回をして貰うことに必死であった。


 だが、そんな彼女の声は虚しくも神父に届くことはなく、話は打ち切られた。


 神父は教会に、

 家にはソフィリアさんとアウロラさんの二人だけが残された。


「フィリアちゃんは大丈夫よ。私がどんなことをしてでも神父に還俗を撤回させて見せるから、だから、だから安心してね」


 アウロラさんは尚も諦める様子は無かった。だが、ソフィリアさんはそんなアウロラさんに対し、悟ったように語り掛けた。


「姉さん、ありがとう。でも、もう良いの……」


「ダメよ!そんなの良くないわ。これじゃあ、ソフィリアちゃん……フィリアちゃんがあまりに救われないじゃない」


「姉さん、私は救われているから大丈夫だよ。エルネストさんの言う通り、明日ここを出て行くよ。だから、最後に一つだけお願いしたいんだけど良い?」


「そんなこと言わないでよ……。私はお姉ちゃんなんだから、妹のフィリアちゃんは何も心配することはないのよ。だから、ねぇ……」


 ソフィリアさんはアウロラさんに返答することなく話を続けた。


「あのね、私は明日にはここを出るわけだ。だから、今日は家族三人で仲良く夕飯を食べたいんだ。文字通り最後の晩餐を」


「フィリアちゃんその冗談は笑えないわよ。それにいくらフィリアちゃんのお願いでも、それだけは無理よ。私にはフィリアちゃん、あなたが必要なのよ」


 今日のアウロラさんにブレーキはないようだ。

 止まることのないアウロラさんに対して、ソフィリアさんは顔を上に向けると、今度は体を脱力させ、その後、呟くように静かに語りだした。


「あのな、姉さん。実は、私にはやってみたいことがあるんだよ。昔した話を覚えているか?私の家は貧乏でも母さんが誕生日には美味しい食事を作ってくれてな。その中でも特に、ティラミスの味が忘れられないんだよ……」


「前にも言ったよね、私がフィリアちゃんの話を忘れるはずがないでしょう。それにフィリアちゃんがケーキを作るのが好きなのも知っているわ。だからといって、それが今回の理由付けにはならないわよ。だって、フィリアちゃんはシスターとしてのお勤めを誰より熱心にやっていたじゃない。私なんかよりもずっと、ずっと、ずーと、ねっ」


「そんなことないさ。私には姉さん、いや、アウロラというシスターに近づきたかった。ただ、それだけだ……。それに、今言ったよな?私が誰よりも熱心にシスターとしてのお勤めをやっていたと……なら、もう満たされたよ。憧れのシスターに認めてもらえた。ただ、その事実で私自身ここでやり残したことはもう無いんだよ。だから、最後にもう一度お願いさせてくれ、家族三人、笑顔で食事をさせてくれ。いいだろう、()()()()()


 ソフィリアさんは満面の笑みを浮かべると同時に少し照れた表情でアウロラさんに再度提案した。


 アウロラさんは満足気な彼女の表情を見ると「卑怯……卑怯よ、フィリアちゃん!そんなこと言われたら、断れないじゃない」と言いながら、悲しい顔をソフィリアさんに向けていた。


 嘆息。


 アウロラさんは納得こそしていなさそうだが、彼女の意志の強さを確認すると、根負けしたようだ。


「わかった……わかったわよ。私の方からエルネスト神父に相談しておくよ。夜を楽しみにして待っていてね」


「ありがとう、姉さん。ケーキでも作って待っているとするよ」


「お姉ちゃんでしょう。まったく、もうー。でも、わかったわ。私はフィリアちゃんのケーキに合う茶葉を用意しておくわ。とっておきの最高の茶葉を、ねっ」


 アウロラさんはそう言い残すと、早々に家を出て教会に向かうのであった。


※※


「では、私たちはどうしましょうか?このまま、ここにとどまっても良いですし、他をあたっても良いです。今回はソフィリアさんに一任しようと思いますが、どうします?」


 降魔さんの提案にソフィリアさんは悩んでいた。


 詳しいことは、わからないがこの提案には深い意味があるのだろう。


 降魔さんが彼女にそのような提案をした理由は恐らく、教会にいる神父とアウロラさんの会話を聞くのかどうかの判断を委ねているに違いない。


 こればかりは、当時の彼女でも知り得ることのできない情報。

 だが、こればかりは彼女の判断次第。


 聞くもよし。

 聞かぬもまた、よし……。


「提案自体はありがたいけど、今回ばかりは遠慮させてもらうよ。本当に魅力的な提案で残念だがな……」


 ソフィリアさんが拒絶の意思を表すると記憶世界の景色に変化が生じ始めた。少しずつ変化する景色を彼女は羨ましそうに呆然(ぼうぜん)と眺めていた。

 ご読了ありがとうございました!

 本日は投稿が遅れて大変申し訳ありませんでした。

 今回のストーリーは、第1章のストーリーに大きく影響するため、何度も推敲して作りました。

 ソフィリアさんとアウロラさん、それに神父さんそれぞれに思うところがあるとは思いますが、これからどのように展開していくか楽しみにお待ちください。


※ 明日のお知らせ

  X(旧Twitter)の方では昨日お知らせしましたが、明日の投稿時刻は諸事情によりいつもと異なる可能性があります。本日に引き続き2日連続で大変恐縮ですがご理解の程よろしくお願いいたします。

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