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第1章 やさぐれシスター(part14)

 前回はかなり時間が経過し8年後の教会からのスタートでした。

 本日はソフィリアさんの回想が主です。

 ソフィリアさんの予想通り、神父によるお祈りの時間はそれから程なくして終了した。


 お祈りが終わるとすぐに教会を出る者や余韻に浸っている者など、その行動は千差万別だ。


 また、教会側の人間であるソフィリアさんやアウロラさんといったシスターの方々はお祈りのために訪れた人々に積極的に挨拶をしたりしながら、各々交流していた。


 疑っていた訳ではないが、ソフィリアさんの見た目があまりにシスター向きではないことから、実際にシスターとしての業務をみるとそのギャップに驚くばかりだ。


 それに挨拶をしている二人を見ていて予想外なこともあった。


 アウロラさんの周りに集まる人の多くは、お年寄りや男性が中心であり、これは案の定というべきか、おっとりとした言動の彼女のイメージと合致していた。


 一方のソフィリアさんはというと、あの砕けた性格ゆえに子ども人気が高かったのは言わずもがな、意外なことにお年寄り、特におばあちゃん世代からの支持が厚いように見えた。


 さらに、驚くことに全体としてはアウロラさんよりもソフィリアさんの方に人が集まっていた。


 人気商売ではないため、このようなことを言うのは正しくないが、正直シスターのイメージだとおっとりとしたアウロラさんの方が人気があって当然と思ってはいたが……やっぱり、表面だけでは人の心を読み切ることはできないのだろう。


 暫くすると、シスターたちの周りから人が捌けた。


 各々やることが決まっているようで、外に掃除をしに行く者や教会内の片付けを行う者など、人により業務は異なるようだ。


「はー、よーし、そろそろ行くとしますかー」


 腕を上に伸ばしながらゆっくりと体を伸ばす女性。


 過去の記憶のソフィリアさんである。


「ちょっと、フィリアちゃん!教会内ではあまりみっともない態勢をしないでよ。フィリアちゃんの黒い修道服はここでは目立つし、何より他の方も見ているのよ」


「大丈夫、大丈夫。誰も見ちゃいないよ。それに正直に生きろと言ったのは姉さんだろう」


「また、姉さんって……。いつも言っているでしょう、私のことはお姉ちゃんでしょう。それに正直に生きて欲しいとは言ったけど、自由奔放という意味じゃないのよ。もおーー」


 8年ほどの年月の間に何があったのかは分からないが、二人の立場が完全に入れ替わっていた。


 それにこの二人の関係を見てわたし自身一つの疑問が生まれた。


 もしかしたらソフィリアさんはぐれていないのかも知れないと……。


 その疑問を解消するために今度は、ソフィリアさんが怒らないように慎重に言葉を選んで訊いて見た。


「あのー、ソフィリアさんは反抗期とかは無かったんですか?神父さんやアウロラさんに対して……とか……」


 わたしに対して一瞬、怪訝な表情を彼女は浮かべたが特に怒ることなく普通に応えてくれた。


「反抗期?デムーロ神父やアウロラに対してか?そんなのあるわけないだろう。こんなにもよくして貰っているのに反抗できる理由がどこにあるんだよ?」


 その真っ直ぐな彼女の言葉を聞きわたしは納得できた。ソフィリアさんはアウロラさんの言いつけを守っている、ただそれだけだと……。


 詳しいことは分からないが、恐らくソフィリアさんは素直にアウロラさんの言いつけである『正直に生きて欲しい』を実行しているだけとわたしは解釈した。正確にいうなら、意味をはき違えている気もするが、まあ、不器用な彼女らしい対応と言えば少しは納得できるとは思う。


 ソフィリアさんとアウロラさんはそれぞれ教会の奥の方にある小さな個室の方に向かった。


 その個室は、以前彼女たちが懺悔(ざんげ)で使用していた。告解室(こっかいしつ)と同様のもので先程ソフィリアさんが言っていた通り二人は懺悔担当のようだ。


 二人はそれぞれの配置につくと、信者たちの懺悔を丁寧に聴き始めた。


「結構様になってるだろう?」


 ソフィリアさんは再び自信満々にわたし達に聞いてきた。


「そうですね。馬子にも衣裳と言ったところでしょうか?」


 相変わらず降魔(ごうま)さんは彼女に対して毒舌であった。


「ですが……いえ、なんでもありません。あなたは結構人気があるのですね」


 降魔さんは何かを言おうとしていたが、途中で話題を変えた。


「まあ……そうですね。こう見えても懺悔は……得意でしたからね」


 ソフィリアさんはぎこちなく降魔さんに伝えた。その様子に彼はため息を交えながら諦めたように答えた


「説明のときはいつも通りで大丈夫です。話の腰を折るのは、私としても不本意ですので」


 それを聞いたソフィリアさんは「承知しました」といい、通常の話し方に戻した。


「まあ、人気かどうかは置いといて、私が神父の真似事をするようになった経緯を話すとしようか。あれはそうだな、私がデムーロ神父に引き取られてから、数カ月?いやもう少し経過した後だったかな。今日のように教会のお祈りがある日によく訪れる子供連れの信者さんがいたんだよ。その信者さんの子どもは5、6歳ぐらいの小さな男の子だったけど、家族3人で毎回楽しそうに来ていて、仲の良い家族で羨ましいと当時の私は見ていたな。だが、そんな家族にも変化があったみたいで、ある日を境にお父さんと男の子の2人でお祈りに訪れるようになって、その辺りから目に見えてその男の子から笑顔が消えていってな。その親子の家庭環境をあの時の私は知らなかったけど、その様子を見ると過去の自分と重なってなんとなく気掛かりになっていたのは覚えている……。まあ、そんなこんなで何回かお祈りに訪れたある日、お祈り後に男の子が居なくなったとお父さんに泣きつかれたんだ。デムーロ神父もアウロラもたいそう焦ってな、私も含めて全員でその男の子の捜索に当たったんだよ。デムーロ神父は顔の広さを利用し捜索人数を増やし、アウロラは念のために少し離れた商店街の方まで探すというように、各々が必死に迷子の男の子の捜索に乗り出した。私も教会内やその周りを重点的に例えば、椅子の下や告解室など身を隠せそうな場所を中心に探したんだ。だけど、なかなか捜索は難航してな。それで、見てないところを考えたら庭園を思い出してそこを探したんだ。ぱっと見では誰もいなさそうだったが、奥の方で植物の枝や葉が密集している死角に男の子が(うつむ)きながら座っていたんだ。それで、私が『大丈夫』と声を掛けたわけだ。だけど、その男の子は『うるさい、黙れ、ババア、どっかいけ』そんな生意気なことをいうんだよ。それで、流石の私もプッツンよ。それで、なんやかんやあって大泣きした男の子を父親のところまで連れて行き事なき終えたというわけで―それで……」


「ソフィリアさん、待ってください。なんやかんやとは何をしたのです?」


「まあ、いろいろね……」


 ソフィリアさんは頭を搔きながら笑っていた。


 ハッキリしない彼女に対し、わたしは最終手段を使った。


「降魔さん、これは良くないですよね。案内人補佐官として、ソフィリアさんが子どもを泣かせたというのが事実であるなら、案内先の判断材料としてしっかり吟味(ぎんみ)しないといけないとわたしは思うのです」


 さあ、どう返してくるか……。

 わたしは降魔さんの返事を待った。


「そうですね……。私自身は聞く必要はないと思いますが、着眼点としては悪くありませんし、理にはかなっているため結論だけでも良いのでソフィリアさんの口から語っていただけますか?」


 降魔さんに言われたら、ソフィリアさんも諦めたような表情をした。


「なら、話すけど……。別に大したことはしてないぞ。5歳の子どもの暴言に10歳の私は切れて、チョップを一発お見舞いしただけだ」


 普通に大したことだった……。


「ソフィリアさん、流石に酷くないですか?」


「違う、違う。まだ続きがあるんだよ。まあ、男の子が泣き出したから流石に不味いと思ってな、仲直りの印に牛乳を家から持って来たわけ」


「泣いている男の子を放って……」


「…………」


「…………」


「まあ、いいだろう。それで、牛乳を飲ませて落ち着いた後に話を聞いたんだよ。どうして、父親から逃げたのか。私自身、過去に父親に虐待に近いことをされていた訳だからすぐに父親にあわすのは良くないと思ったんだよ。だから、直接事情を聞いてからにしようと……。それで、聞いたところによると、男の子の母親が現在体調を崩しているのに、ろくに世話をすることなく父親が教会を優先していたそうでな。この一言で私はまたプッツンときてな。教会の方に男の子を連れて行こうとしたら、教会の前にデムーロ神父とアウロラ、それに父親の三人が居て、男の子を見るや父親は大いに喜び、二人も安心したような表情を浮かべていたんだよ。そこに、私が水を差すようにグーで父親をぶん殴ったというわけだ」


「殴ったんですか……あの良い子のソフィリアさんが大人を……」


「そうだな、初めて大人を殴ったな。それで、周りが止めるわけだよ、デムーロ神父もアウロラも大慌てでな。それでも、私の怒りは収まらなくて父親に暴言を吐いた。確か『教会より母親を大事にしろダメ親父!』とか言った気がするな……。教会にいる私がいうことでは無いんだけど、あのときは勝手に口から出ていてな。それで、父親も気が付いたみたいで、自分が祈りを捧げるよりも妻と子どもの三人でいた方が良いとな。それで気が付けるんだから、根が悪い父親ではなかったみたいで、こちらもそれで安心した。それに私のことも特にお咎めもなく終わったしな。まあ、その後に平謝りはしたが……」


「随分と危ない橋を渡ったんですね。これで、さらに評判も悪くなって大変にならなかったのですか?」


「いや、それが逆でな。教会の前で暴れた私を見ていた人が結構いて、男の子や母親を(かば)うような言動を見ていた人から、暴力的だけど根が良い子という噂が流れて、正直暴力的というのは嫌だったけど訂正することもできないでいたんだよ。そしたら今度は例の親子の母親が元気になって、また教会に来るようになり、変な噂を流されるようになったわけ、親子揃って『あの子はこの教会の天使だ、私の祈りが届いた。我が家の主人を更生させてくれた救世主よ。あの優しいお姉ちゃんに相談すると願いが叶う』とか意味不明なことを吹聴(ふいちょう)してくれたお陰で、私に対する風当たりが良くなり、いつしか私に懺悔を聞いてもらいたいと言う人が増えて、神父でもないのに懺悔を行うようになった。これが経緯だ」


 なるほど、これが彼女の言うところの「レモンを手に入れたらレモネードを作れ」なのだろう。


 例え今回のことが偶然だとしても、自らの力で逆境を解決できるということは簡単ではない。


 母親を亡くした彼女だからこそ、後先考えずに行動できたことができた稀有(けう)な例であり、これは神父やアウロラさんでは恐らく、その男の子の悩みを解決することは難しいだろう。


「それに、これには続きがあってな。今目の前で私が懺悔している若い男性がいるだろう。それが当時の男の子なんだぜ。凄いもんだよな。私が懺悔をするようになったのは、あれからもちょこちょこあったが、本格的に告解室で行うようになったのは5年前ぐらいだけど必ず来るんだよな。毎回、毎回違う懺悔をしてくるし、どれだけ罪深いんだろうな」


 わたしは『罪深いのはソフィリアさんの方』と言いたかったが、すんでのところで止めた。これは彼女と彼の日常の一コマだ。これに物申すのは不躾であり指摘するべきではないだろう。


 彼には申し訳ないが、綺麗な記憶のままに留めてさせてあげることにした。


 ソフィリアさんは本当に罪深い人だ……。

 ご読了ありがとうございました!

 本日はソフィリアさんが懺悔を行うまでの過程話でした。

 明日の分をまだ執筆していませんが、次から少し重くなると思います。


 明日も読んでいただけると嬉しいです。

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