第1章 やさぐれシスター(part13)
前回はシスターと過去のソフィリアさんが抱える問題を解決し、今回は一気に時間が進みます。
今日は説明中心です。
わたしは過去の二人の出来事が解決したため、しんみりと感傷に浸っていると、いつものように記憶の世界の景色が変化した。
記憶の世界の景色自体は変化したようだが、わたし達の居る場所は変わらず教会のままであった。それでも、先程までとは異なり、教会内には多くの人で賑わいを見せていた。
「凄いですねー。今日は何か催しでもあるんでしょうかね?」
教会で多くの人を見たのが初めてでつい口走ってしまった。
「ああ、これはミサだよ。ここの教会では休みの日にこうして多くの信者、まあ、信者じゃなくてもいいんだけど……。一言でいうならお祈りをするために多くの人が訪れているんだよ」
「そうなんですね。わたしこういうのを見るのは初めてなので、ここまで人が多いのは驚きましたよ」
「ハハハ、そうだろうなあー。まあ、日本出身だったよな?それじゃあ、まあ……馴染はなくて普通だよ」
ソフィリアさんは笑いながら、無知なわたしに簡潔に説明してくれた。
「それよりも、今度はまた随分と年月が経ったものだなー。この賑わいを見るにわりと最後の方かも知れないな……。7年、いや8年ぐらいは経過した感じかな?」
7、8年というと以前のソフィリアさんの年齢が10歳ぐらいだったことから、恐らく18歳前後のことなのだろう。
今までは数年単位の記憶の変化だったことを考えると、今回は随分と長い時間が経過しているようだった。
これだけ、時間経過が長いということはそれだけ、彼女自身に悪いことがあまり起きていないという裏付けであり、その点ではとても喜ばしい限りである。
今まで苦労した彼女だからこそ、少しぐらい報われて欲しいと思う。
そんな考えのわたしは決して可笑しくはないだろう。
だが、わたしは彼女の発した「最後の方」という言葉。その言葉だけはどうしても頭から離れることはなかった。
きっと、これから起こることは、ソフィリアさんにとって教会に来なければよかった理由そのものに繋がる不幸な事柄である可能性が高い。でなければ、彼女が頑なに教会に来たくなかったと言うはずがない。
それは、過去の彼女を見ていれば誰にだって分かることだ。
不幸なことーなんだろう……怖い。そんなことを考えていると、自然とわたしの中で緊張の糸が張り詰められていた。
「おーい!おーい!聞こえてるか?」
わたしはその声でハッとなった。
「なんで、私じゃなくて芽郁が緊張してんだよ。気にするなよ。これは、過去の私の記憶で責任も全て私にある。だから、芽郁は気にする必要はないからな。それに、もしかしたら……いや、何でもない。それはこっちの話だ」
ソフィリアさんは明るくわたしに接してくれたが、表情は固く何か覚悟を決めているような真剣な面持ちであった。
「それじゃあ、過去の私を探しに行こうぜ。っと、その前に……」
彼女は降魔さんの方に顔を向けて何か訴えているようであった。
降魔さんも彼女から向けられた視線に気が付くと、少し話があるからここで待つようにとだけ言い、二人揃ってわたしの居る場所から離れていった。ソフィリアさんは離れる際にわたしに対して「ちょっとだけだから悪いな……」とだけ、言うと祭壇の奥のステンドグラスの方まで行き何かを話し出した。
わたしの居る場所からは二人の会話は聞こえなかったが、ソフィリアさんが降魔さんに対し、ジェスチャーを交えながら何かを訴えているようには見えた。必死な彼女の様子から察するに恐らく、過去について何かしら話している、いや、相談しているのかも知れない。
相談中の彼女の視線が時々わたしの方を向いていることから、その内容をわたしには知られたくはないのだろう。
理由はわからなかった。
わたし自身、彼女の沸点の上昇に寄与するようなことを今はしていないはずだし、なにより置いてけぼりのこの状況はただただ、寂しかった。
暫くすると二人の会話は終わり、わたしの居る方に戻ってきた。
降魔さんはいつも通りのポーカーフェイスで何事もなかったように、一方のソフィリアさんは「ごめんな」と、一言わたしに謝罪してくれてはいたが、顔の表情は心なしか引き攣っているように見えた。
「では、記憶世界のソフィリアさんの所に向かうとしましょう。いいですよね、ソフィリアさん?」
「ああー」
「ああー。ですか……?」
「よろしくお願いします……」
「はい、では行くとしましょう」
わたしは何が起きたのか理解できなかった。先程、二人がどういった会話をしたのかは分からないが、この数分でソフィリアさんの牙は完全に抜かれてしまったようだ。
これには、流石のわたしも驚きを隠せなかったため、抗議した。
「どうしたのですか、ソフィリアさん?あなたらしくないですよ……。それに降魔さんもあまり、彼女を虐めないで下さいよ」
わたしの訴えに降魔さんが答えることはなかった。
「いいんだよ、芽郁。これは、私が頼んだことの対価だから降魔さんは今私を試しているだけだ」
「試すって……。良いんですか、自身のプライドを曲げてまで……」
「これが、自分の為のお願いだから仕方ないんだよ……」
どうやら、ソフィリアさんは降魔さんと何かしらの取引をしたようだ。
理由こそ話してくれなかったが、彼女にとって苦手な降魔さんにそこまでするということは、それだけ、彼女にとって重要なことなのだろう。
わたしは心配した表情で二人の顔を交互に見た。
それに気づいた降魔さんはため息交じりに答えてくれた。
「別に私も鬼ではありませんよ。それでも、彼女がどうしてもとお願いしてきたから仕方なく、本当―に仕方なーく引き受けただけです。それに、この約束自体そう長く続くものではないです。私が引き受けたことを終えたら、これまで通りで良いと優しい私は譲歩してあげているんですから。ねっ、ソフィリアさん?」
「おっしゃる通りです……」
「では、無駄話もこれぐらいにして向かうとしましょう。いいですね?」
二人の密約はわたしには何も分からなかったが、とりあえず、二人が納得してのことなのでわたしは気にしないことにした。というより、気にしてはいけない、そんな空気感が二人からひしひしと伝わって来た。
わたし達は降魔さんに連れられるように教会の出入口の方に向かった。
「あれ?どこにもいませんね……」
後ろから教会を見渡したが、ソフィリアさんらしき人物を見つけることができなかった。
「よく見て下さい。左側の一番後ろの席、そこに彼女たちがいますよ」
「彼女たち?」
わたしは降魔さんに言われるがまま指示された席を見た。すると、そこには現在と同じぐらいの背丈、かつ、服装が死後のソフィリアさんと同様の黒がかった紺色の修道服を着たソフィリアさんの姿があった。見た目も今目の前にいる故人のソフィリアさんと大きな変化はないように見えた。
一方、隣りには白い修道服を着ている女性、アウロラさんの姿も確認できた。アウロラさんは見た目の変化はそこまでないが、顔つきが以前よりもキリッとしており、しっかりとした印象を受けた。
二人は楽しそうに他愛も無い会話をし、時々笑っていた。
過去のソフィリアさんを見ているとこのような日常の光景はとても微笑ましく見ているだけで胸がいっぱいになった。
だが、そんな幸せ空間においても、わたしは一つ、どうしても一つのことだけが気掛かりでならなかった。そして、それは不意に言葉として自然に溢れ出ていたのだ。
「―やさぐれている…………」
わたしの一言が聞こえたのかソフィリアさんは手のひらをわたしの背中の方に向け軽くどついてきた。
「おい芽郁!誰がやさぐれているって?」
その一言で我に返ったわたしは慌てて彼女に謝罪した。
「違、違うんです。前に見た記憶のソフィリアさんが本当に、本当に可愛かったから、ええと……そう、ギャップです。ギャップ萌えです。やさぐれていてカッコイイ、そう思っただけです」
「可愛い……バカかー」
ソフィリアさんの表情は赤面していたが、怒りに対するものか可愛いという言葉に反応してなのかは分からなかったが、先程よりもトーンダウンしていることだけは分かった。
「はいはい、イチャイチャもこれぐらいにして、ソフィリアさんはこの状況を説明できますか?」
降魔さんの一言でわたし達は一気に現実に引き戻され冷静になった。
そして、ソフィリアさんは咳払いをした後この当時の状況を語りだした。
「ええと、これはお祈りをしようと席に座ってデムーロ神父を待っている。そんな状況だな。たしか、この時はそろそろ18歳になろうとする年齢で服装からも分かる通り、私も姉……アウロラと同じようにこの教会のシスターになったんだ。今着ているこの服もこの当時のものだな。やっぱり、一番印象深かったんだろうな。ほら、前を見てみろ。神父が祭壇で挨拶しているだろう」
わたし達は彼女に言われるがまま祭壇の方に視線を向けた。祭壇に立つ神父は前回の記憶の世界から8年程度の時が経過していることから少し老けていた。老けたとはいっても、通常の範囲内であり、変化のほぼないアウロラさんの方が異常ではある。
「それで、今デムーロ神父が話しているだろう。教会では決まった日にミサ、さっき言った奴な。ミサではお祈りや聖書の朗読といったことをするんだよ。そして、お祈り後には告解室で懺悔を行うってのがここでの通例なんだ。前にも話したけど、懺悔は神父が行うのが一般的だが、ここでは少し特殊で私とアウロラもやっていたんだ」
「でも、それって大丈夫なんですか?宗教的に……」
「どうなんだろう?厳密に言えば良くないんだろうな。だけど、ここでは少し事情があって容認された。そんな感じだろう……」
「容認?」
「そう容認。なら、私がここのデムーロ神父の養子?で良いのか……。まあ、いいや。養子になった後の話でもするか?大丈夫ですよね?」
ソフィリアさんは話が脱線するのが気になったのか、降魔さんの方を見て了承を求めた。降魔さんは「構いません」と言うにとどめた。
「許可が下りたということでお構いなく話させてもらうな。えーと、養子だったな。養子になった当時の私はここでの生活に馴染むのが難しかったんだよ。それは、別にデムーロ神父やアウロラとの関係に問題があったということではなく、純粋に私の評判が悪かったんだ。前にスリをしたと言ったろう。いくら教会の代表であるデムーロ神父が良いと言っても、素性の知れない悪い奴を周りが簡単に許してくれるはずがない。そのせいで教会から信者が減っちゃってさ、結構大変だったんだよ。それが原因で、恵まれない人のために行っている炊き出しのお金もほとんど無くなるぐらいにな……。流石の私も自分のせいで教会の信用が無くなるのを見るのはきつかったよ。二人は気にしなくて良いと言ってくれたが、どうしても当事者意識が消えなくてな……」
わたしは彼女の話を聞くまで全くこういった事態を想定していなかった。彼女は微笑しながら話してはいたが、その実情はかなり大変だったに違いない。
信用というのは面白いことに築くのにはかなりの労力を要する、一方、崩れるのは一瞬だ。
それは、商売や経営など多岐にわたる。
大きな会社なら信用を多少失ったところで、それでもなお、離れない固定客がいる。だが、教会といった宗教関連ではどうだろうか。
宗教では神様や仏様といった偶像崇拝。つまり、神聖な行為を行う場だ。そのような神々しい場において信用を欠くということは相当な痛手に違いない。
ゆえに、大変だったことは想像に難くないだろう。
「まあ、そんな大変な時期はあったけど、結果として以前より人が増えたから良いってもんだよ。レモンを手に入れたら、レモネードを作りなさい。つまり、ピンチをチャンスに変えたということだよ」
馴染みのない言葉だが、意味から察するに「災い転じて福となす」に近い諺なのだろう。
「さてと……長話もしたしそろそろ時間かな」
「時間ですか?何か始まるのでしょうか?」
「ああ、違う違う。そろそろ一通りのお祈りも終わって、これから懺悔の時間って訳。まあ、折角だからな、見ていくと良いよ。ここからが、あんたらの言うやさぐれシスターの腕の見せ所だよ」
と、彼女はわたし達に笑いながら自信満々な表情を見せたのであった。
ご読了ありがとうございました!
本日は一気に時間が経過しました。教会内でのお話はそろそろ終盤ということで、この先も読み進めていただけると嬉しいです。
ちなみに、まだ気は早いですが最初に書き始めた時からこの章のラストは決めていますので、今後どうなるか予想しながら読んでも楽しいかも知れません。
※ ストックのお知らせ
やさぐれシスター(part14)
ストックは増えていませんが明日も問題なく投稿できますので、楽しみにお待ちください。今日の小説で書きましたが、これは私と読者様にとっての信用ですので必ずお守りします……はい。




