第1章 やさぐれシスター(part12)
あけましておめでとうございます!今年も当作品をよろしくお願いいたします。
前回はシスターとソフィリアさんのデート回でした。今回はその続きでシスターだけが知る彼女の行動について明かされます。
シスターはソフィリアさんが神父と出会った日のことを語りだした。
「ソフィリアちゃんは気付いてなかったよね?実はあの日、私は商店街に行っていたのよ」
彼女は顔を少し上に向けると同時に目線も泳がしてその日の記憶を思い起こそうとしていた。だが、少し考えた後に目線をさげ首を横に傾け見ていないことをシスターに示した。
当然、あの時に体調を崩してベンチにいたわたしもシスターの存在を認識することはできなかった。
わたしと違って降魔さんなら気が付いていた可能性はあるが、彼の性格的にそれについて語ることはないだろう。
「じゃあ、あの日の私の行動をお話ししようかな。今回もソフィリアちゃんが私の懺悔を聞いてちょうだいね」
先程までとは異なり、シスターは平常通りのテンションに切り替えた後に明るく語りだした。だが、表情は何処かもの悲しげにわたしには見えた。
恐らく、空元気なんだろう……。
「私はあの日、エルネスト神父に頼まれて商店街に買い物に行っていたのよ。そしたら、あなたがお店の周りで何かを物色していたよね。だけど、あのときの私は特に気にも留めていなくてね……。そして、気が付いたらソフィリアちゃんがお店の人に殴られて倒れていたのよ。ここまでは、ソフィリアちゃんの言った内容とほぼ同じだと思うけど、そうよね」
「……そう……です」
「私は酷いシスターだよ。近くで殴られた女の子一人助けに行くこともできなかったのだから。小さい女の子が無抵抗で殴られる。その光景は私にはとてもショックだったわ。私は本当に、本当に心の底から後悔したのよ。シスターでありながら、肝心な時に少女一人を守るために立ち上がれなかったことをね。それで、申し訳なさでいっぱいになった私、いや、違うわね、本当は自分のための何だろうね……。うん……。ごめんね、続きね。それで怪我をした女の子に対してせめてもの罪滅ぼしとして、買い物後に神父に頼んで暇を頂き、山や庭園で怪我に効く薬草を集めて薬を調剤したのよ。」
「もしかして、あの日の夜の薬。それに……」
彼女の言葉にシスターは静かに頷いた。
「そうよ、あの日の夜にソフィリアちゃんが使用した薬は、私がエルネスト神父に事前に渡したものだったのよ。気が付かなかったでしょう。ソフィリアちゃんには私が見えていなかったもんね」
ソフィリアさんは全て見透かされていたかのような諦めた表情を浮かべ、続きを話すようにシスターにお願いした。
「わかったわ。ええと、薬を調剤した後からだったね。私は調剤した薬を怪我したソフィリアちゃんに届けるために商店街の周辺を探したのよ。でも、残念ながら私にはソフィリアちゃんを見つけることはできなかったの。だから、私は諦めて帰ろうとした。その時に、偶然ソフィリアちゃん、あなたとすれ違ったのよ。あなたは顔を隠すようにして歩いていたから、私のことなんて見えてはいなかったと思うけど、私には一目でその歩いている子が商店街で見た女の子と一致したのよ。薬を渡すのは簡単だったけど、あの時はほんの気まぐれでソフィリアちゃんの後をついて行くことにしたの。警戒心の高いあなたの尾行は正直大変だったわ。すぐに振り向くからね。だけど、尾行していて気付いたの。あなたは男性に対してのみ注意を払っていて、女性である私には無関心であると……。そのときは昼間の店主のこともあったから男性のことが怖いのかと思っていた。だけど、あなたは男性が気付くまで、教会周辺をウロウロし、そして、男性が自分に対して不信感を募らせているのを確信すると、庭園に見せつけるように入り野菜を食べ始めていた。その瞬間私はソフィリアちゃんを助けるよりもエルネスト神父に助けを呼ぶことを優先としたの。この先のことはなんとなくわかったからね。とても情けない話でしょう。結局、私は二度も逃げたわけだからね。これが、私の懺悔よ」
シスターは彼女との出会いを最後まで言い切り懺悔した。
わたしからすると、シスターは普通の女性だ。ソフィリアさんよりも少し大きいだけの非力な存在に過ぎない。
ゆえに、彼女のとった行動は至極全うで、自然なことであり、非難されるようなことではない。それはそうだろう。男性店主が女の子に手を出してはいたが、店主自から積極的に行ったものではなく、彼女の盗みという行動が原因ということが実情。彼女の傷を見るに確かに店主の行動は度が過ぎていたかもしれないが、裏を返せば店主にとってお店の商品は生きるために欠かせない物であり、その一つが欠けることを容認できる謂れもない。
だからか、商店街での盗みによる暴力は暗黙の内に容認されてきたのだろう。商店街近くにスラムのような場所があることからも、わたしが見ていないだけで多くの恵まれない人がそこで盗みを働いてきたはず。
だから、誰も彼女を助けないし、店主に加勢もしない。
これが、形骸化され歪なものとなったのだろう。
もちろん、教会の男性の件だって似たようなものだ。男性は正義感から彼女を捕らえた。だが、それは彼なりの正義感ゆえの行動であり、その男性を非難するのはお門違いだろう。
ましてや、その男性が教会の信者でもあれば尚更だ。
シスターたちはお互いに喋りたいことを言い切ったのか、じっと、その場で座ったままであった。
そんな沈黙を最初に破ったのは意外にも、過去の記憶のソフィリアさんだった。
「ごめんなさい……。私のせいでシスターに懺悔させてしまって……」
シスターはその言葉に小さく笑って彼女を撫でた。
「そうよ。ぜんぶ、ぜんぶ、ぜーんぶ、ソフィリアちゃんのせいだからねー。私だってか弱い乙女だよ。小説の世界の王子様やお姫様のような勇敢さや度胸なんて持ち合わせてない。だけどね、そんな私にも度量はあるわ。わかるよね?」
「えっ……」
「さあ、どうする?言わないと一生後悔することになるよ。いや、言っても後悔するかもしれないけどね」
「えっ、えっと……」
ソフィリアさんは言葉を詰まらせながら固唾を吞んだ。
そして、シスターの前まで行き恥ずかしそうに一言述べた。
「アウロラさん、どうか私をデムーロ神父さんと一緒に家に過ごす許可をいただけませんか?」
彼女の一世一代の告白であったが、シスターは顔を横に背け「堅苦しい。お姉ちゃんじゃないと嫌だ」と、拗ねるようにボソッと応えた。
その様子を見たソフィリアさんは焦って先程の言葉を訂正した。
「お、お姉ちゃん。い、一緒に暮らしたいです……。こ、これでいい……かな?」
シスターは「よく頑張りました」と言いながら彼女を素直に褒めその提案を了承してくれた。
「だけど、エルネスト神父と暮らすにはいくつかの条件があるのよ。それは今後守ってくれるよね?」
彼女は二つ返事で了承した。
「では、1に自傷行為はダメ。これは絶対よ」
「自、自傷行為?」
「そうよ、自傷行為。自分の身体を傷つけるという意味よ。私お手製の薬を塗っていてあんなにも治るのが遅いわけないでしょう。それに、あなたの背中に誰が薬を塗っていると思っているのよ。私が気付かないとでも思っていたのかしら?」
「ご、ごめんなさい。もうしません……」
シスターの気迫にソフィリアさんは完全に押されていた。
ソフィリアさんも怪我が治るとこの生活が終わるという恐怖心からの自傷行為だったのだろう。
シスターはよく見ているものだと感心した。
「あと、お腹の方は傷つけてないでしょうね?ソフィリアちゃん、お薬のときにお腹の方を頑なに見せようとしなかったから、ちょっと心配していたけど、まさかねー、傷つけていたりしていないわよね?」
「大、大丈夫です……。背、背中しかやってません」
「そう……じゃあ、ソフィリアちゃんを信じますよ。良いのね?」
「は……はい……」
「本当に良いのね」
「…………」
「…………」
顔を横に背けた彼女に対して、シスターは深いため息をついた。
「はあー、もう仕方がないわね。今日からはお腹も私が塗ります。文句ないわね」
ソフィリアさんは観念した表情で力なく「はい……」とだけ言って諦めていた。
「じゃあ条件その2ね、丁寧な口調もダメよ。これは、私の勘違いだったら悪いけど、ソフィリアちゃんのその喋り方は素じゃないよね。私には何だか無理しているように見えるのよ。取ってつけたような……。だから、これからは正直に生きて欲しいのよ。家族としてね。いいよね」
「わ、わかりました」
「違う、違うよ」
「わかった」
「はい、よくできました。じゃあ、そろそろデートを引き上げて帰るとしましょうか、っとその前に、忘れてた、忘れてた……ちょっと目を瞑っていてね」
シスターは彼女に目を閉じるように指示し、目を閉じたのを直に確認すると今度は何かを探すように自身のワンピースのポケットに手を突っ込み小さな金属製の光った物を取り出した。
そして、シスターは彼女の背後に回るとその光る物を彼女の首にあっという間に着けた。
「目を開けて良いわよ」
彼女が目を開けるとシスターはニヤニヤしていた。
だが、シスターがなぜ笑っているのか理解できないソフィリアさんは戸惑った顔で彼女の顔を覗いていた。
そんな状況を察したのか、シスターは自身の胸元の真ん中にある首飾りを指さし、その後、彼女に手のひらを向けてアピールした。
その仕草を見て彼女はようやく理解できたらしく、自身の首元に目線を向けた。
「これは、お、お姉ちゃんとお揃いの十字架の首飾り……」
「いいでしょう。私とお揃いよ。だけど、ただのお揃いじゃないのよ。この十字架の裏を見てみるといいわよ」
「裏?ええと……ソ・フ・ィ・リ・ア。こ、これ、私の名前?」
「そうよ。そして、私のこの十字架にはアウローラと刻印されているの。いいでしょう。今日が私たちの家族記念日、やっぱりちょっと待って、初デート記念日?いや、これもなんか違うわね……えーとー」
「姉妹だから―シスター記念日は、どう……かな?」
「シスター記念日‼いいわね。では、シスター記念日のプレゼントということでこれからもよろしくね、ソフィリアちゃん」
「う、うん……」
彼女は嬉し涙を浮かべながらシスターから貰った十字架を手で握りながら胸に何度も軽く打ち付けていた。
そして目を閉じながらこの瞬間の喜びを嚙みしめているように見えた。
シスターもそんな彼女を微笑ましいといった優しい表情で見守っていた。
「よーし!今度こそデートを引き上げて帰るとしましょうか、ソフィリアちゃん」
彼女はその一言で何かを思い出したかのようにシスターに訊いた。
「で、でもデムーロ神父さんにまだ……このことを……」
「大丈夫よ。エルネスト神父はこのことを知っているからね」
シスターは彼女の手を取り教会を後にした。
ソフィリアさんの表情が嬉しそうなのは言わずもがな、それ以上にシスターの方が喜んでいるようにわたしには見えた。
「ソフィリアさん、ソフィリアさん?大丈夫ですか?」
降魔さんはこの間ずっと大人しかったソフィリアさんに声を掛けた。
「聞こえているよ。うるさいなあ。一回呼ばれれば分かるって。まったく、あんたは人に対する配慮の欠片も無いものなのかね?まったく……もうー」
彼女の目はほんの少し潤んでいた。何に対して涙を浮かべていたかは真の意味ではわたし達には分からないだろう。
けれど、ここから彼女の第二の人生の出発点になる。そういう大事な想い出の一幕を見れたことに対して、わたしはなぜか誇らしい気持ちになった。
「そうだな。この日が私にとって人生の大きな、本当に大きな転換点だったと言ってもいいな。いい意味でも、悪い意味でもな……。デムーロ神父にお姉ー、アウロラは私には勿体ないぐらいの超が付くほどのお人好しだったよ」
ソフィリアさんは懐かしむようにわたし達に伝えてくれた。
その感情は優しさと供に、ちょっとした不安が入り混じっていた。複雑怪奇と言う方が正しいかも知れない。
これから彼女、いや彼女たちに何が起こるのか、この時のわたしには想像もできなかった。優しさと残酷さその両方を見ることになるとは……。
ご読了ありがとうございました!
今回はシスターとソフィリアさんの心の内が明かされました。最後不穏なことを書きましたが、次回は安心してください。暗いお話にはなっていませんので……。
前書きでも書きましたが、今年は積極的に投稿していきますので、引き続き当作品を読んでいただけると嬉しいです。
※ ストックの状況
第1章 やさぐれシスター(part13)
とうとう、明日までしかストックがないですが、私は追い込まれたらやるタイプ。しっかり書き上げて投稿を続けます。明日も楽しみにお楽しみください!




