表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/19

第1章 やさぐれシスター(part10)

 前回は知らない女性が現れた所からで、その正体がシスターであり、その後色々ありシスターが懺悔をしていました。

 そして、今回はソフィリアさんが懺悔を行う場面からです。

 ソフィリアさんは壁越しのシスターに対し苦虫を嚙むような表情で懺悔(ざんげ)しだした。


「私はパ、父からおっ、……お金を盗みました」

「私はこの町で……盗みをしました。なんども……なんども」

「私は野菜を盗みました。教、教会の庭園で……。そ、それから……」


 彼女は思いつく限りの懺悔を声を詰まらせながらも一つ一つ吐き出していった。順調と思われた懺悔であったが、3つ目の懺悔を言い終えると突如として声が搔き消えた。


 どうやら、最後まで言い切れなかったようだ。


 呼吸は激しく乱れ身体は小刻みに震えていた。


 一方のシスターはというと、そんな彼女の懺悔一つ、一つに耳を傾けながらときには頷くようにして丁寧に聞いていた。


「―それから……」


「………………」


 彼女はそれでも喉の奥から懸命に声を出そうとしていた。


 暫く沈黙が続いた。時間にしては十秒にも満たなかった思う。だが、彼女にとってこの十秒はさぞ重く、長い時間のはず。


 辛く、辛く、必死なほどに。


 シスターは彼女の沈黙に付き合い続けてくれた。その表情は先程までとは異なり、真剣そのものな表情で。


「………………」


 彼女は完全に口をつぐんでしまった。


 その姿はまるで古民家に昔からたくさん並べられて置いてある人形のようであった。


 あるのが当たり前で、誰からも相手にされない。

 一つ消えても誰にも気づかれない。


 空気とも言うべきか、わたしには今の彼女は空気のように儚く消えてしまいそうな存在に見えてしまった。


 それでも、シスターは彼女からの懺悔を待った。

 待って、待って、待ち尽くした。


 それでも、彼女から返事が返ってくることは無かった。


 シスターは返事のない彼女のことが心配になったのか、そっと告解室(こっかいしつ)の仕切りを横にスライドさせた。


 彼女は開いた仕切りに気が付くことなく、横を向いた状態で膝に顔を当てていた。すると、シスターは告解室から出て彼女の目の前に行き、膝をつく姿勢で彼女に抱きつき頭を撫でた。


「長い間一人でずっとがんばってたのね。ソフィリアちゃんは誰よりもずっと、ずーと立派で偉いよー、良く吐き出してくれたね。辛かったね。この先はもういい、いいのよー」


 シスターの優しい言葉で我慢していた感情が溢れたのか、彼女の涙腺は激しく緩んで崩壊した。


 わたし達からはシスターの顔色は見えなかったが、このときのシスターはまるで、本物の聖母と言っても良いようなそんな、優しさと温かさがきっと彼女を安心させたのだろう。


 泣きつかれた彼女の目は赤く充血していた。すべての懺悔は出来なかったが心のとっかかりの一部は解消されたためか、その表情は先程よりも少しだけすっきりしているように見えた。


 そんなとき突然、教会の扉が勢いよく開く音がした。誰かが教会に入ってきたようだ。


 だが、その足音はどこかせわしなく、あちこち歩き回る、いや、走り回っているようであった。


 足音がどんどんこちらの方に近づいてきて、告解室の方でその足音は止んだ。


 足音の止んだ先を見るとそこには神父がいた。


 どうやら、騒がしい足音の主は神父だったようだ。


 神父は(ひたい)には汗が流れており、呼吸も少し乱れているようであった。


「ここにハア、いましたかー。ハア、心配しましたよ」


 息が切れていたせいか、言葉に交じって呼吸音が聞こえて来た。相当焦っていたようだ。


「アウロラさんあなたの仕業でしたか?」


 神父はシスターに文句を言いたそうな表情で尋ねた。


「私のせい……?」


 心当たりはどうやらないようだ。


「あなたソフィリアさんを勝手に連れ出したでしょう。様子を見るために教会から家に帰ってみたら、ソフィリアさんが居なくなっていて、それで慌てて探した訳ですよ。まあ、それよりもここに居て安心しました。大丈夫ですか、ソフィリアさん。彼女に酷いことはされていませんか?」


 どうやら、神父とソフィリアさんは入れ違っていたようだ。


「人聞きが悪いですよ、エルネスト神父。私がこんないたいけな女の子に何かする訳ないでしょう。ソフィリアちゃんからも言ってくださいよー」


「…………」


「ほら、ソフィリアさんが何も言えない程に恐怖しているではありませんか。それに、ソフィリアさんの瞳が赤く腫れ上がっているように私には見えるのですが、気のせいですかね?」


「こ、これは……彼女が向き合った(あかし)、すなわち勲章(くんしょう)ですよ」


「勲章?」


「そうです。勲章です……」


「もしかして、懺悔でもさせていたのですか?」


「…………」


 神父はシスターの顔をまじまじと覗き込んだ。シスターはたまらず顔を横に背け、そして一言「はい」とだけ言った。


 それに対して、温厚な神父は怒りだした。


「可哀想でしょう。怪我だらけの子に無理やり懺悔させるなんて……傷に加えて心までも(えぐ)る必要はないでしょう」


「でも、エルネスト神父もいつもやってますよね」


「それは、尋ねて来た人に対してであって、無理やりには行っていませんよ」


「そうでしたっけ……」


「そうです」


 シスターの納得していない表情を見て、神父は頭を抱えながら小さくため息をつくのであった。


「まあ、いいでしょう。私はもう少しやることがあるので、アウロラさんはソフィリアさんを先にお家まで送ってくださいね」


「もう帰っていいの、やったー!じゃあ、お姉さんと手を繋いで帰りましょうね。ソフィリアちゃん」


 彼女はシスターに半ば強引に引っ張られるような形で歩き出した。その通り際に神父は彼女の方に視線を向け一声掛けてくれた。


「少しはスッキリできたようですね」


 彼女は引っ張られながらも、ぎこちない笑顔で頷いた。それを見た神父は満足気な表情を浮かべ、教会の入口まで彼女たちを見送ったのであった。


※※


「シスター、いや、アウロラさんは素敵な女性でしたね」

「そうですね。どこかのお節介さんを彷彿(ほうふつ)とさせるような方でしたね」


 降魔(ごうま)さんは不敵な笑みを浮かべながら答えた。


「ですが、それよりも目論見(もくろみ)と少し違ったのが気掛かりですが……」


「目論見ですか?」

「別に大したことではありませんよ。あの白シスターさんの性格だともっと強引に踏み込むと思っただけですよ。ですが杞憂(きゆう)でした」


「杞憂ですか……」


「そうです、杞憂です。」


「…………」


 沈黙した空気が流れると同時に記憶の世界に変化が生じた。


※※


 次の記憶の世界は先程と同様、神父の家から始まった。


 ここでは、ソフィリアさんと神父そして、シスターの三人が食卓を囲って「いただきます」をしていた。


 どうやら、現在進行形で「いただきます教」に入信しているようだ。


 シスターは相変わらず明るく、神父がそれにツッコミをいれるというのがこの家での日常的な光景らしい。


 そして、ソフィリアさんはというと、以前と比べて目に見える変化があった。今でも自分から多くの話をすることはないが、シスターの振りで話に混ざっては時々ぎこちない笑顔を見せるというように、少しずつだがこの生活に馴染もうと頑張っているように見えた。


「どうしたの、ソフィリアちゃん?今日は少し元気がないみたいだけど……」


 シスターは心配そうな表情で聞いてきた。


「そ、そんなことないですよ」


 そんな彼女の返事は少しぎこちなく聞こえた。シスターの言う通り何かしら問題を抱えていることは明らかだ。


 それが、何かは分からないが……。


 三人は食事を終えた。


 結局彼女の悩みが何だったのかはわからずじまいだった。


 わたしがそうこうソフィリアさんの悩みを思案していると、何だか部屋が騒がしくなっていることに気が付いた。


 騒がしい原因はどうやら神父のようだ。


 この日の神父はいつも以上に忙しいらしく、出かける際、シスターに「申し訳ありませんが、いつも通り今日もソフィリアさんのお薬をお願いしますね」と、だけ頼んでそそくさと足早に家を出て行った。


 どうやら、薬の担当はシスターらしい。


 これは、きっと神父なりの彼女に対する配慮なのだろう。


 神父が出たのを確認するとシスターはソフィリアさんをソファーの方に呼び出し、自分の膝をトントンと両手で叩き寝転がるように催促していた。


「さあ、お薬ヌリヌリのお時間ですよ~」


 シスターの表情は早く早くと言わんばかりにとてもノリノリであった。彼女はシスターに呼ばれるがまま目の前に立って傷口を彼女に見せた。


 そんな彼女に対してシスターは少し膨れた表情で「寝た方が絶対に楽なのに」と、不満を漏らしていた。どうやら、薬を口実に膝枕をしたかったらしい……。


「お薬をヌリヌリしますよ~。少しの我慢よ~」


 シスターは優しく薬を塗ってくれた。


 腕や足といった目に入る傷を中心に丁寧に、丁寧に。


 薬の効果が良いのか、あるいは、日数がある程度経過しているのかは分からなかったが、一目で傷口は以前よりも目立たなくなっているように見えた。


 これだけでシスターや神父の優しさが伝わり、わたしはとても嬉しい気持ちになれた。


「はい、終わり。次は背中よ~」


 彼女は服を(まく)り背中を見せた。


「腕とかに比べて背中の傷口はなかなか塞がらないわね?仰向(あおむ)けで寝ているからかしら?ごめんね。ここはかなり()みると思うけど、ちょっとだけ我慢してね。」


「うっ……」


 どうやら、かなり沁みたようだ。

 彼女は拳を作り必死に痛みにあらがおうとしていた。


「背中もこれで終了。あとはお腹だけどどうする?頼んでくれれば、今日こそお姉さんが塗ってあげるよ~」


 期待した眼差しを彼女に向けたが、「もう大丈夫。ありがとう」と、当然のように断られた。シスターは「女の子どうしだから気にしなくていいのに……」と、ボソッと彼女にそう呟くにとどめた。


 薬を塗り終えた二人は家の中でのんびりとお互いの時間を過ごしていた。ソフィリアさんは何か気になることがあるみたいか、少しそわそわしていた。


「アウロラさんは、今日は教会に行かないのですか?」


 珍しくソフィリアさんの方から、シスターに声を掛けていた。


「ブッ、ブー。違うでしょうソフィリアちゃん。私のことはお姉ちゃんかあだ名でといつも言っているでしょう。さあ、今日こそは呼んでみて」


「…………お、お姉」


「お姉⁉」


「アウローラさん」


「それは省略前の名前を呼んだだけだよね。もー」


 シスターはその場で両手をグーの形にし、思いっきり真下に振りながらたいそう悔しそうにしていた。


「それで、教会には……」


 彼女は再度同様の質問をシスターに投げかけようとしたが、シスターは不貞腐れたように被せて答えた。


「お姉ちゃんじゃないと、教えてあげないもん」


 凄く大人げなかった。


 彼女は少し悩んだのち、再び口を開き、頑張ってシスターの要望に応えた。


「お、おねえちゃん……」


 耳を澄ませないと聞こえないぐらい小さな声だったが、シスターには聞こえたようで、とてもはしゃいでいた。


「もう一回、もう一回だけだからー」


「お、お姉……恥ずかしいのでもう言いません」


 二度目のお姉ちゃん呼びは叶わなかったが、それでも、シスターはものすごく満足した表情で彼女の望むべき返答をしてあげた。


「教会だったね。うーんとね」


 シスターは部屋を歩きながら少し考えていた。そして、何度か彼女の方をチラチラ見た後、とってつけたように、「よし、今日は休みよ」と答えた。


「えっ、本当ですか?」


 彼女は完全には信じていないようだった。


「本当に決まっているわよ。その証拠に今だってこうして、家に居るでしょう」


「でも、行かないとデムーロさんが一人で困ってしまいますよ。さっきだって、急いで出ていったみたいだし……。」


 彼女の言うデムーロとはどうやら神父のことらしい。エルネスト・デムーロこれが神父の本名らしい。


「大丈夫よ。エルネスト神父は超人だから一人でできるよ。私は陰ながらに応援しているわ。それにソフィリアちゃん、良く聞くといいわよ。世の中には有給休暇という素晴らしい言葉があるのよ」


「有給、休暇?」


「そうよ。有給休暇とはつまり怠惰(たいだ)(むさぼ)りながら給金を貰うことよ」


「……怠惰?―貪り?」


「ごめんね。難しい言い方をしちゃったね。つまり、ソフィリアちゃんと遊べる上にご飯も食べ放題ということなのよ」


「ここの教会にそんな素晴らしい制度があるんですね」


 ソフィリアちゃんはこの無茶苦茶な発言を素直に信じた。


「うちにはないわよ。恐らく、たぶん……ねっ。でも、あるところにはあるらしいみたいよ。礼拝に出席した方から、聞いたから間違いないはず」


 シスターは人を疑うことをあまりしない性格なようだ。

 末恐ろしい女性だ……。


「さあ、私たちもお出掛けに行くとしましょう。そして、デートに行きますよ~」


 彼女は言い終えると、両手を二度叩いた。


 シスターの突然の提案であったが、彼女の表情はそれほど驚いてはいなかった。


 いつも通りの平常運転なのだろう。


「出かけるって、何処に行くのですか?」


「それは、行ってからのお楽しみよ。きっと、最高の一日になるはずよ。じゃあ、準備ができ次第、教会の前にあるベンチに集合ね」


 シスターは言い終えると彼女の返事を聞く前に、その場でクルリと回りながら自身の部屋に上機嫌に戻って行った。


 どうやら、このデートに拒否権はないようだ。

 ご読了ありがとうございました!

 今回はソフィリアさんの懺悔とシスターの人柄をよく知ることができた回だったと思います。私自身二人の関係性は微笑ましく、執筆していてとても楽しめましたね。

 次回は、シスターとソフィリアさんのデート?回です。

 引き続き読んでいただけると嬉しいです。

 あと明日の投稿についてですが、少し遅れる可能性があります。年末最後に割り引かれたスーパーの戦利品を買いたいので、もしも遅れてもお許しください……。

※ ストックのお知らせ

  第1章 やさぐれシスター(part13)少し不味いですね……。頑張ります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ