『羽沢のお菊とプレスマン』
羽沢というところに狐が住んでいて、人を化かすので有名であった。化かすときに菊の花を用いるのが少しばかり粋で、羽沢のお菊と呼ばれていた。
あるとき、速記者が、羽沢の近くを通ったとき、野原で数匹の子狐が追いかけっこをしてるのを見て、たまたまいなり寿司を背負っていたのを取り出して、投げてやった。子狐は、あやしがって、すぐには取りに来なかったが、危険なことはないと理解したものか、一斉に寄ってきて、争うように食べた。
町で用を済ませて、帰りにまた羽沢を通ったとき、野原に一面の菊が咲いていた。速記者は、おっかさまや女房や娘に摘んでいってやろうと思って、摘めるだけ摘んで、持って帰った。
家に戻って、菊の花を女たちに手渡すと、不思議そうな顔をしている。菊は仏花で縁起が悪いからかと思って尋ねると、これは菊ではありません、と言う。速記者は、花に詳しくないので、菊に似た別の花だったかと思い、では何だと尋ねると、これはプレスマンでございます、と言う。プレスマンとはどのような花だと尋ねると、プレスマンは花ではございません、高性能の速記シャープでございます、と言う。速記者は、速記シャープのプレスマンを知らない者などいるものか、としかりつけて、花を見ると、確かにプレスマンであった。さては羽沢のお菊にだまされたか、と皆で大笑いした。
教訓:稲荷神を狐だと思っている人がいるが、狐は稲荷神の眷属である。牛が天神様ではないのと同じである。




