マッチポンプの大活躍
「魔物の群が出たぞ!」
のどかな村にそんな叫び声が響き渡った。普段は魔物なんて出ないような平和な村のことである。最低限の備えこそあるが、それは一匹二匹だけ現れたはぐれ魔物を追い払うためのものに過ぎない。
群ともなるとどうしようもないのだ。
「私たちに任せてください!」
村の中心近くにある広場でどうするかと話し合いをしていた村人たちの耳にそんな声が聞こえてくる。村人たちの視線が一斉にそちらへと向いた。
視線の先では酒場の前で腕組みをしている革鎧を身に纏ったその少女が立っていた。つい先日連れとともにこの村へとやって来たその快活そうな褐色の髪を持つ少女は村人たちの視線が自分に集まったことを確認すると佩いていた剣をバッと抜いてポーズを決める。
「私たちが追い返しましょう!」
「なんでお前はいちいちそう目立ちたがるんだ」
少女の言葉を遮るように酒場からもう一人の人物がのっそりと現れる。真っ黒なローブを身に纏った長身の男性は日の光が眩しいのか目を細めながら顰め面をしていた。
しかし少女はそんな男性の言葉などお構い無しにその手を取ると、魔物の群の方へと凄まじい土埃をあげて走っていってしまった。
村人たちはその勢いを止めることも出来ずにただ見送ることしか出来なかった。
それからいくらかの時が経ち、落ち始めた日が村を赤く染める頃にその二人の冒険者は村へと戻ってきた。
「もう大丈夫です!」
ところどころが魔物の血で汚れた少女はニコニコと笑いながらそう宣言する。たしかに魔物の群はいなくなったようだった。
感謝した村人たちはこの二人の冒険者に礼として金品を渡そうとするが、しかし受け取ろうとする少女を抑えて男性がそれを丁重に辞退した。
「いえ、当然のことをしたまでなのでそれは受け取れません」
そして明日この村を出ることを伝えてくる。
村人たちは残念がるが、しかし村の恩人の意向を無視するわけにもいかない。その日は村をあげてのお祭りとなった。
その日、寝る前に布団に潜り込んだ少女は隣で眠る黒衣の男性へと話しかける。
「こんな村に魔物の群なんて普通来るわけないのに、案外気が付かないんだね〜」
「頼むから目立たないでくれ」
「それじゃ、おやすみ」
魔物を呼び寄せてしまう体質ゆえに魔物の王と呼ばれ幽閉され続けたその少女は、自分を救ってくれた勇気ある者と一緒にいられることを喜びながら眠りについた。