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 果たして翌日。

 偶にお菓子や食事を持って様子を見にくるエドと兄のお陰で、食べては寝ての幸せな1日を過ごしていた私は、なんと誰からも起こされることなく目を覚ました。

 「アウローラ!」と大声を出しながら入ってきたエドも、私が起きていることに驚いている様子だった。


 なので、「すごいでしょう」と得意気にしてみせたところ、「あれだけ寝れば、さすがに起きるだろう」と言われた。

 ……おかしい。アウローラちゃんは褒めて育てるべきですよ?


 今日もまたエドに身支度を整えてもらった後、自分の部屋へと戻り、さらに進んだジャングル化にちょっと遠い目をしているエドの横でシュアの花をぶちぶちとありがたみもなく採取し、採取したのでもう用はないとシュアを根絶やしにしようとして怒られ(貴重だからもったいないらしい)、いいからシュアの花だけ持って本院に行けと転移陣に乗せられた。


 そうして移動した本院で、―――なんと今日は朝食をとることになっている。


 さあご飯だ!と意気揚々と部屋の外に出たら、


「あれ、ミシェル?」


 扉のすぐ横に立っていた人物に、私は首を傾げる。


「こんなところでどうしたの?」

「案内役よ。……アウローラ。あなた、食堂の場所を知らないでしょう」


 言われてポンと手を打つ。

 普段の本院の配置は大体覚えているが、食堂はこの試練の間だけの臨時のものであるため、私の記憶にはない。


「確かに。そういえば知らないね」

「むしろ何を考えて外に出てきたのか聞きたいね……」


 困った子を見るような目を向けられた。

 いやあ、すみませんね。悪気はないんですけど、反省する気もないんです。


 今日も素敵な筋肉ですねという褒め言葉で無理やり話題を変え、なんとか追及を誤魔化そうと画策したところ、ミシェルは仕方なさそうに誤魔化されてくれた。


「食堂はここよ。……いい?アウローラ。中には他の聖人候補もいるのだから、良い子で過ごすのよ」

「はーい」


 良い子の返事で了承し、ミシェルに見送られつつ食堂の中へと入った。さて、中には誰がいるかな―――……いや誰もいないじゃん!




 結局待てども食堂に来る人はおらず、1人寂しく朝食をとった後、私は試練の会場へと向かった。


 会場に入ってまず目が合ったのは、リリアちゃんである。先日に続いて今日もまたお兄さんの隣を陣取っている彼女は、なんとお兄さんと手を繋いだままこちらに近づいてきた。


「お姉さん、紹介しますね。わたしの婚約者のケントさんです」

「え、なんて?」


 間髪入れずに聞き返した。

 だが仕方ないだろう。この数日の間に何をどうしたら、こんな歳の差の婚約者が爆誕するというのだ。


 ケントさんとやらに視線を向けると、そこにはただただ穏やかな表情があるだけで、何の情報も得られない。

 仕方がないので、私はリリアちゃんに視線を戻した。


「ケントさんは、わたしの婚約者なんです」

「……なんで?」

「そう決まったからです」


 違う。私が聞きたいのはそういうことではない。


「……お二人は、元からのお知り合い?」


 この前の様子から考えても、まさかそんなわけないと思いつつ尋ねると、やはり「いいえ」と否定された。


 たとえどの方向から攻めたとしても、目の前にいるリリアちゃんの鉄壁の笑顔はどうやら揺らぐことがなさそうだと理解し、ここはもう真正面から聞くしかないと腹をくくる。


「どうして急に婚約者になったんですか?」


 すると、リリアちゃんは一瞬真顔になった後、ケントさんに「ちょっとごめんね」と断ってから、「お姉さん、こっち」と私を少し離れた場所へ誘導する。


 そして再び真顔に戻り、小声で「実は」と切り出した。


「わたし、2度と家に戻りたくないんです。わたしの家、2年前に両親が再婚したんですけど、新しいお父さんが連れてきた人……お姉ちゃんが物凄く怖くて理不尽なんですよね。

 お姉ちゃん、お父さんとお母さんの前ではいい子のふりをするけど、わたしと二人になった途端に豹変するんです。あれはもう、人間ではありません」

「……そうなんですね」

「ケントさんの家は皇国で商会を経営しているんですって。だから、まずは婚約者として、勉強のために住み込みで働いて、そのままケントさんと結婚すれば、家に戻らなくて済むかなって思ったんです」


 私が言うのも何だけれど、だから以下の思考が思いっきりぶっ飛んでいるんだよねぇ……。


「……ケントさんの了解は取れているんですか?」

「はい!わたし、全力で頑張りました!ケントさんの周りにいる人たちを蹴落として、ケントさんにわたしと結婚することで得られる利点について言い聞かせることで本人にも納得してもらいました!」

「ちなみに、その利点って?」

「秘密です!真似されたら困るので!」

「そっかあ……」


 大量に突っ込みどころがあったような気がするけれど、本人たちが納得……しているとみなせば、私が口を挟むこともないだろう。


「ええと……お幸せに」

「ありがとうございます!」



 ―――ちなみに。


「聖人になれば家に戻らなくてもいいですよ?」

「わたし、自分もケントさんも聖人になれるとは全く思えないんですよね」


 むりむり!と答える彼女は、未練一つない大変いい笑顔だった。

 あのでも一応、まだ試練は終わっていませんよ?



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― 新着の感想 ―
食堂、誰もいなかったの何かあるのかな。 それにしても衝撃!!!
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