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第4章 幕間 メデューズの間

ミッドガルド評議国 最奥地 メデューズの間


かつてこの世界に最初にに降臨したとされる

大いなる文明の神

“火の神テオドール”が催した世界最初の議会室-とされている-


「さて、よくぞ集まってくれた。人類の叡智たる46人の賢者達よ。」


薄いホログラムのモニター後ろからこの議会の最高権力者。

“最高議長”が口を紡ぐ。


「早速本題だが、諸君らももう分かっていよう。本日の議題はあの”エルフ”だ。」


議会室に忌々しく、そして重々しい空気が立ち込める。

それぞれ数字が1から46まで施されたモニター。しかしそれは地位を表すものではない。また、モニターが拡散機となり声が全員に届く様にされている為、誰が最高議長なのか分からない仕組みになっていた。


「また、あやつですか。此度は何をしでかしたのです?」


萎れた老婆のような声が響き渡る。

だが、コレもモニターにより加工された声。画面の後ろにいる存在は少年かもしれないし、声通りの老婆であるのかもしれない。


「ミッドガルド領における、西部平原。彼の地にて、アルフヘイム辺境に住まうゴブリン達の襲撃があった。」


アルフヘイム

このユグドラシルにおける9の世界が一つ。

偉大なるエルフ王が統治する、この世で最も美しい自然が広がるとされる幻惑の世界。


そう、あの忌々しきエルフ王の収める国

そして、此度の議題の主役


エルフ王家”元”第3王子

トレス・アルフヘイムの故郷だ


「あぁ、聞いている。どうやら我らと同じ様に、かの”神樹の秘宝”が零れ落ちたと言う情報を聞き付けてやってきたらしい。」


「やはり、彼奴が情報を流したのではないかえ?アルフヘイムといえば奴の故郷。何らかの手段で親族に通達し、ゴブリン共を唆したのでは?」


「いや、それは有り得ん。奴は明らかにエルフ王家を憎んでいる。でなければ、律儀に200年も我らの忠臣で有り続ける理由がない。」


トレスがこの地で頭角を表し始めたのが、現在より約200年前。当時、とある男が組織した、人間種の上位者部隊


その名も”神狩りの使徒”


奴は、その特殊部隊の筆頭格だった。

女癖が悪く、当時その隊長の娘との間に子を設け、現在に至るまで人類の守護神としてこのミッドガルドの防衛を担当している。


奴は、その娘を本心から愛していた。エルフといえば人間を蔑み、同じ空気を吸う事にすら嫌悪を抱くほどだとされている。事実、今まで戦闘があった際に獲得したエルフの捕虜も男女問わず同じ反応であった。


だが、奴は違った。蔑まれながら、疎まれながらもこの地に留まり続けるのもそれが理由だと、民間人は口々に言っている。

実際、我々も奴と画面越しではあるものの奴と会話した際は、多少口が悪く傲慢な性格ではあるのもの、実に誠実で聡明だった。そして、どんな命令でも忠実に、そして奇天烈な発想でその任務をこなしていた。


恐らく、この人間の国で幼少期から過ごして来たが為に感性が人間に近いのだろう。

実際に、エルフの赤子を大人まで育てたら、文明的なエルフに育ったと言う実験結果もある。


だが、同時に不気味でもあった。異常なほどに忠実なのだ。

そう、我らが奴の娘を敢えて迫害しようとも。

奴の妻が死んで以降、差別的な配下や伝達者を当てがっても、多少の暴力沙汰は起こすものの1人として死者は出していない。


何が、その男をそれ程までに縛り付けるのか、いくつか推察こそ出来るものの結論には辿り着けていないのが現状だ。


「恐らく、人間の妻を娶ったのも奴等への当て付けなのだろうな。あの男は酷く合理的だ、民の言うように愛の為に動く男ならあんな悍ましい戦法は取らんよ。」


そう、彼は我ら人類の叡智が戦慄する程の戦法をいくつも、それも何食わぬ顔でやってきた。


例えば、我がミッドガルドの国民が-厳密には起源を持つ子孫が-ミノタウロス共の家畜として長年苦しめられ続けていた。彼らからすれば、我らにとっての豚に等しい存在らしい。

その、人間達を送還させる為にあの男が何をしたか。


ミノタウロス王を殺害し、その様子をかの国民全員へ中継。ここまでは良い。

問題はここからだ、ミノタウロス王は人間の赤子が好物だった。あの男は




ミノタウロス王の息子娘達を、国民の眼前で生きたまま喰らったのだ。




コレには、かのミノタウロス達も戦々恐々とし、何と悍ましい事をするのかと憤慨した。

だが、彼はこう続けた。


“コレが、君たちだ”と


ミノタウロスは家畜に此度は捕食される側になる事を悟った。

当然そんな事はしない。だが、彼等からすればそう捉えられたらしい。

放送が終わった直後、奴は”本当に気持ち悪そう”に嗚咽し吐瀉物を撒き散らした。


当然、我が国民にそんな悍ましい光景を見せる訳にはいかなかった。

我らは、我が国防軍が武力をもって国民を救ったのだと報道した。

しかし、その嘘は直ぐに民衆たちに虚偽の報道である事が知れ渡った。


何故なら、救出された人間が誰1人として国防軍などに会っていない。この国に来て初めて存在を知ったと語ったからだ。

口減しの為に、せっかく救出した民衆を殺害すべきとする声もあったが、結局遂行できず、口封じのインフラの提供も意味をなさなかった。


そう、あの男は人類を守る為ならどんな事でもやる”悪神”なのだ。

目的は未だ見えて来ないが、それだけは事実だった。

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