第4章 1幕 3 竜狩りの英雄
「ッ!?…そ、総員迎撃準備ー!!!!」
(ハメられた!あのクソったれのエルフ親子、眼前で漫才かまして時間稼ぎしてやがった。しかも、ついでに不意打ちまで!)
「ぎぃいやーーー!!!!!」
「逃げる!逃げる!」
「げげーき????」
騙された事に、こんな事にも気づかなかった愚かな自分に、命令の意図を理解できない愚かな同胞”部下達”に激しい憤りを覚える。
「人間を殺せって事だ!!!」
凄まじい怒気を放ち、強引にゴブリン達の意識を一つにする。人間でも、亜人でも、魔物でも、ドラゴンでも、そう最初から死んでいるアンデッドでさえ感じるとされる共通の感情。
恐怖
恐れのあまり、ゴブリン達の目の色が変わる。ここで、眼前の敵を打ち払わねば、我らの上官によって命が奪われる。
故に、死力を尽くして敵を撃ち払い、生き残る為に。
「さぁ、人間どもよ。我らが楽園を脅かす不届きものを打ち滅ぼし、この西部平原を、ゴブリン共の血で染めよ!!」
先程とはまるで違う、上位者、そして王族たる風格をその体全体で表現する長身のエルフ。
動く左手に携えた槍を真横へと突き出し、ニタニタと嗤うその姿は正にかの大逆人”エルフ王”の血を引く、邪神の如き形相だった。
「フハハハハハ……ッあで!!」
(ん?)
「あなたも戦ってください?」
「あ、はい」
(前言撤回。やっぱり、バカだ。)
「お父さーん!こっちこっち!この人がこのゴブリン軍団のボスだよー!このゴブリンだけやたらと”生命力”が強いの!」
(は!?た…探知系か!!不味い、というかさっきまであの野郎の傍にいたよな、一体いつ!!)
あのエルフの娘と思わしき、黒髪のウルフカットに金髪のメッシュ。バツバツと、しかし非常に上品で妖艶に生えた金色のまつ毛。細身のエルフと違いその顔立ちはどこか丸みを帯びており、美少女という言葉がそのまま動いているかの様な可憐な娘。
(このラティナとか言うガキも化け物か!クソ!!)
「でかしたぞラティナ、とっとと転移で後衛に逃げていなさい。その豆森くんは私が相手をしよう。」
「ゴブリン隊長の”オンジ”だ!なんだマメて!どう言うセンスしてんだよ!!」
「あはは…それはちょっと同感。じゃね、ゴブリンさん!」
-転移-
先程まで居た筈の少女が既に姿を消していた。
時空系の魔法は殆ど全てが高位から超位魔法。
確定だ。あの小娘も、コイツと同じ上位者だ。
(だが…ん?待てよ)
悪寒がオンジの全身を走る。
(さっきの大爆発は、もしかしてコイツじゃなくてあの女の子がやったのか?いや、流石にあの歳であのレベルの魔法を使えるのは流石に…でもさっきのは高位…)
混乱と恐怖で何がなんだか分からなくなる。
現在進行形で、黒服の人間達に蹂躙されている部下達の様に”バカ”であればここまでの恐怖は覚えなかっただろう。
だが、中途半端に強いが故に、そして知恵者であるが故にその絶望は計り知れなかった。
(“戦場では、自分を特別だと思い込んだ半端者が真っ先に命を落とす”…か。)
-偽りの竜王-
あの、長身のエルフの背後から、まるで巣穴から頭をのぞかせる蛇の様に、左右の瞳の色の違う、邪神が姿を表した。
「…え?竜狩りの…英….雄!?」