第4章 1幕 最強親子見参!
本当は、娘の二つ名が
頭痛が痛いみたいで嫌だ
というやり取りがありました。
「ミッドガルドである!」
「である!」
やたらと、形式だったまるで打ち合わせでもしたかの様な口上。
(片方の人間…いや、アレはエルフか)
腰まで届こうかという、銀色の長髪には所々金色のメッシュが入っている。よく見ると右耳が半分程度欠けている。そして、あの瞳の色。左目が金色で、右目が銀色という何とも不自然なもの。
稀に、人間やゴブリンにも”オッドアイ”と呼ばれる、ある種の突然変異個体は現れる。
だが、問題はその右目に敢然と輝く銀色の瞳だ。
(王の血族か…)
ユグドラシル初代エルフ王の血を引く子供には、いずれも”王の相”と呼ばれる王家の証があった。
よくオッドアイ=王族と勘違いするが、真の王の相とは奴の銀色の瞳。
そう、エルフ王はオッドアイではない。
何か、特殊な手段で自身の瞳の色と母親の瞳の色を混ぜた子供が生まれる様に調整しているらしい。
悍ましいという人もいるが、自分的には寧ろ有難い。
何故なら、王家の血を引いているというだけである程度の実力を察することが出来るからだ。
(最低でも高位階級、下手をしたら超位階級か…)
魔法には大きく分けて3つの基準がある
一般人でも、余程才覚がない限り使用できる”低位魔法”
魔法使いに注力し、努力すれば大抵は辿り着ける”中位魔法”、一部の限られた天才のみが使用できる”高位魔法”
そして、存在はするものの次元が高すぎて使用できるものが殆どいない超級の魔法。
神々の寵愛を一心に受けた選ばれしものの魔法
“超位魔法”だ。
(恐らくあの男が今の魔法を使ったのだろう。それにしても不味いな…。俺1人なら最低でも逃げ切るくらいは出来るが部下達はそうではない。まず、確実に部下は犠牲になる。では、早々に逃げてしまうか?いや、奴らが俺如きのスピードに追いけないとは思えん。なんて日だ!)
「貴様等の様な、下等生物が立ち寄って良い場所ではない。即刻立ち去るが良い。」
「立ち去るが良い!」
やけに息があった口上だった。よく見てみれば、男の方は”片脚がない”ではないか。左脚が太腿からバッサリと斬られており、その脚を庇う様に右半身をやや斜め前にしこちらを牽制している。右肩には傷でもあるのか、金属の保護具の様な物が装着されており、右手はそれを証明するかの如く力なく、たらんと地面に伸びていた。
左手には、美しい芸術品とも言える様な純銀の槍。美しい頭身の持ち手には、細く長い”龍”が巻き付く様に装飾されている。そして、何より刃の部分が大太刀を思わせるが如く不自然に長い。遠目からは槍ではなく刀と勘違いしてしまう物もいるかも知れないほどだった。
「オ…オンジ、あれ…ヤバい…!!」
「ヤバい、臭いがヤバい!死の臭い!臭い!!」
(分かってるよバカ!この前も、恐らくこいつの兄弟か何かの軽戦士にとんでもない目に遭わされた。確かアイツは”ヤシサシンリード”とか名乗ってたか?)
「人に向かって臭いとは失礼な、身の程を弁えよ。私達を誰だと思っている。」
一瞬で空気が張り詰める。その威圧感は正に、このユグドラシルの頂点に君臨する超越者の放つ威光そのものだった。
「祖国ミッドガルド最強の護り手 私の名は
トレス・ミリスレギナ!」
「そして、そのトレスの娘
ラティナ・ミリスレギナ!」
「「我らの楽園を脅かす物には、悍ましい死があると知れい!!」」ドッコーーン!!!
「ヒッ…ひぃぃいいい!!!!」
「オンジ!!逃げる!!命大事に!!!あれ化け物!」
「ええい!やかましい!!分かっとるわそんな事!!」
あの2人が口上を終えた瞬間に、彼らの背後を凄まじい爆発が襲った。
正に、神にも等しき最強の存在。
かの”上位者”達が目の前に降臨したのだった。