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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪役令嬢「せや!吊り橋効果や!!」

ふわふわ設定で主人公二人ともわりとクズですm(__)mよろしくお願いします!!(*´∀`*)

 婚約の、初顔合わせのお茶会。

 相手からお茶をぶっかけられ、クリスティアナはここが別世界に存在した乙女ゲームのなかだと理解した。


「貴様のようなブスと結婚なんかするもんか!」


 そして目の前のゴミ……ステイヤ王子が攻略対象であり、自分はいずれ浮気され断罪されるということを。


 殺すか〜〜


 前世の記憶といったものは特になく、乙女ゲームの内容だけビビッと降りてきたので、そう思ったのは元々のクリスティアナである。そういう性格をしている。


 しかしそれは最後の手段だ。殺害自体は簡単だが周囲の了解を得るのが手間なのだ。難しくはないが。

 ステイヤ王子はアホの子なのでぼちぼち冷遇されている。これ引き取ってくれるなら多少融通きかすよーということでの婚約で、しかし互いに絶対必要な訳でもない。コイツが消えれば双方別にまあよしだったりする。温情で下賜されるだけなので。わりと気の毒ではある。


 そんな立場のこいつが断罪して効力などあるのかと言う話だが、ヒロインの男爵家に押し付けられるならそれでよく、ついでに侯爵家(クリスティアナは侯爵令嬢である)にケチつけとくかという方針転換でもあったのだろう。

 

 クリスティアナは断罪され蟄居を命じられていたが、二人のその後も描写がないのでまあ多分適当なとこで殺されている。

 王弟が男爵家で生きる事をあの王太子が許すとは思えない。あとやらかすし、また、多分。

 

 クリスティアナは心優しいので、彼の立場に涙を禁じ得ない。


(先程から間抜けな犬のように延々吠えている。語彙もない。情けない。よく飽きない。喉が強いのだけは美点だわ。私って人のいいところを見つける天才ね)


「聞いているのかブス!」


(すごいわブスってもう128回言ってるわ。表現方法を知らないのね。教師は何をしているの。美的感覚もどうかしている。自分の顔を見すぎたのね気の毒に……)


 あまりの気の毒さにクリスティアナはポロポロと涙を溢した。

 王子はクリスティアナを傷つけられたと高笑いをしている。性格まで悪い。

 

(こんなかわいそうな生き物をむざむざ殺すなんて非道、私にはとてもできない……。ノブレス・オブリージュに反するわ。)

 現時点では王子の方が身分は高いのだが。

 

 ではどうすれば…。クリスティアナは俯いた。王子はクリスティアナが落ち込んだと喜んでいる。


 これを飼うなら躾が必要だ。しかし精神汚染系の魔法は禁止されている。

 これが今まで放置されているのは、こいつにそれを使用するのを王家が認めなかったということ。勝手に使えばお小遣いが減らされるだろう。

 暴力という手もあるが、クリスティアナは平和的な人間なのでできれば自ら従順になってもらいたい。

 

 乙女ゲームではヒロインにメロメロで従順だった。

 ということはクリスティアナのことをメロメロに好きにさせれば良い。

 しかしこの世にクリスティアナを嫌うものなど(まともな人間のなかには)いるはずなかったので、好きにさせる方法がわからない。


 どうすれば……こんなに悩まされるなんてやっぱ殺すか……そう思った時、閃いた。


 (吊り橋効果!!!)


 それは二人で恐怖体験をするとそのドキドキを恋と錯覚しラブになるアレである。前世の記憶ではなくこの世界にもその考えはある。

 これを利用し、ステイヤに恋をさせる事を思いついた。合法で平和的だ。クリスティアナは天才である。


「ステイヤ殿下、この先の渓谷に吊り橋がありますの。ご一緒しましょう?」

「は!!誰がそんなとこに貴様などと!」

「お連れして」

「「「は!!」」


 ステイヤ王子は護衛により簀巻きにされ運ばれた。

 言い忘れたがここは王家の離宮の庭である。王宮の幾何学式庭園と違い、こちらはピクチャレスクというか自然美主義というか大半ふつーに森だった。

 その奥に吊り橋がある。クリスティアナは簀巻きのステイヤと護衛とともにそこへ向かった。


「き、貴様らこの私を誰だと!!タダで済むと思うな!!」

 タダで済むのだ。離宮の護衛が王子でなくクリスティアナの命令を聞いているのだ。

 クリスティアナは冷遇される王子に悲しくなった。優しいので。


「さて、ではステイヤ王子、私とともにこの吊り橋を渡りましょう」

「なぜそんな事を……ひっ!!」

「渡るのです」


 簀巻き解除された王子にクリスティアナは隠し持っていたナイフを突きつけた。刃物は淑女の嗜みである。

「ひいっ!行く、行くからっ……!!」


 王子が吊り橋に足を踏み出した。グラグラ揺れる。王子はへっぴりごしで「高い!怖い!」と怯えている。

 いける!!!!

「王子、私を見なさい」

「ひいっ!」

「私を見ながら歩きなさい」

「ひいいいっ!!!」

「ジャーンプ」

「ひいいいいいいいっっっ!!!!!!」


 クリスティアナ自ら飛び跳ねて吊り橋を揺らしなどしながら、二人は対岸にたどり着いた。

「では戻りましょう」

「ひいいいいい!!!!!!」


 帰ってきた時王子はヘロヘロであった。クリスティアナと目があうと瞳孔が開き呼吸が荒くなっていた。恋である。

 クリスティアナは成功を確信した。


 ………ところが……


 王子をメロメロにしたと確信したクリスティアナだったが、以降愛のプレゼントや手紙など、婚約者としてのあれそれがまるでない。なんならお茶会に誘っても断られる始末である。最早始末すべきか?クリスティアナは訝しんだ。

 調べさせると、王子が例の吊り橋に入り浸っているという。

(まさか……!!)

 クリスティアナは急ぎ吊り橋へ向かった。するとそこには……


「ふふふ、吊り橋…吊り橋よ…。貴様はなんと愛おしいのだ……。この脆さ、この高さ、貴様こそ我が伴侶に相応しい……」


 王子は吊り橋に恋をしていた!!!


(なんてこと…!!!ドキドキが私ではなく吊り橋の方に向けられるとは……!!)


 王子はぶつぶつ言いながら吊り橋を行ったり来たりしている。廃嫡まったなしのやばさであった。

(おのれ吊り橋め……!私へのドキドキを盗むとは……!)

 クリスティアナは王子のドキドキを横取りされてイラっとした。盗まれるのは嫌いだ。クリスティアナのものはクリスティアナのもの、他人のものもクリスティアナのもの。

 橋を落としてやろうか。そう思ったが……


「ステイヤ殿下!!」

「ひっ!!!クリスティアナ!!!」

 クリスティアナは吊り橋の上をスキップしながら王子に近寄った。

「何をなさっておいでです?」

「ひい!ひいい!揺れるううしゅきいいいい!!!」

「私というものがありながら吊り橋と浮気ですか?」

「ひいいひいい!私は真実の愛を見つけたのだあ!!貴様のような醜く恐ろしい女など揺れるううううひいいい吊り橋しゅきいいいいい」

「真実の愛ですって?笑ってしまいますわね。護衛!!」

「「「はっ!!!」」」

 

 隠れ潜んでいた護衛たちが王子を簀巻きにした。

 やめろおおはなせえ!彼女と引き離す気かあなどと喚いているがクリスティアナは確信している。こんなもの真実の愛ではないと。


 向かう先は山である。そこには……


「こ!これは……!!!」

「この国で最も高所にある吊り橋ですわ」

 幅広の河川を見下ろし山間に長い長い吊り橋がかかっている。渓谷の吊り橋などよりはるかに高くはるかに長い。ついでに見晴らしがいいのでより高さを感じられる。


「わ、私は!私はこんな橋など!!」

「渡るのです」

「んほおおおおおおお!!!!!!」

 ナイフを突きつければヨタヨタと橋を渡り始めた。途中ジャンプをしてやれば、長さから渓谷の橋よりも大きな揺れに身悶えし、この橋は古く、いつ落ちるかわからないなどと告げればヨダレをたらしてあへっていた。

 そして往復渡りきり……

「どうでした?王子。真実の愛は」

「ふっ……。私は狭い世界しかしらなかったのだ……。この美姫に比べればたかがあんな橋、路傍の花よ……」

 さすが将来浮気クソやろうであるなあ、クリスティアナは満足した。


 さてそれから、王子は足繁く山の橋に通うようになった。マメなことである。

 しかし山は遠い。渓谷の吊り橋にもそれなりに通っているらしい。手近なところで用を済ませる、いわば高貴な本命がありながら手をつけたメイドも手放さないといったところであろうか。不実である。

 やっぱ殺るかなあ。渓谷の吊り橋が気の毒ですわ。

 クリスティアナがそう考え、預かり知らぬところで命の危機に陥っていた王子だが、ある時様子が変わった。


 熊に夢中になったのだ。


「ふふ……熊よ……そなたは美しい……」

 集めた毛皮やぬいぐるみに愛を囁いている。

 どうやら山に通ううち、熊に襲われたらしい。

 隠れていた護衛が倒したそうだが、王子の背中には熊の爪痕が残された。命からがらだったのだ。

「まあ殿下。橋はもうよろしいの」

「ふっ…クリスなんとかよ……。貴様のような下賤のやからにはわかるまい。熊こそが我が真実の愛を捧ぐべき、未来の王妃に相応しい……」

 

 べつにステイヤ王子と結婚したとて王妃にはなれない。兄の王太子がいる。ステイヤはクリスティアナの公爵家へ婿入り予定だ。何をどうしたらこんなアホになるのだろうか。

 

 しかしどうやら王子は恐怖を感じたものを愛するようになったらしい。

 クリスティアナは面白くなった。


「ひいいいいいいーーーーー!!!!!!」

「殿下、狼と同じ檻に入れられたお気持ちは?」

「ひいいいいいいーーーーー!!!!!!」

「殿下、スカイダイビングはいかがでして?」

「ひいいいいいいーーーーー!!!!!!」

「殿下、ロシアンルーレットはいかが?」

「ひいいいいいいーーーーー!!!!!!」

「殿下、鉄の箱に閉じ込められて水中に沈められるお気持ちは?いつまで空気がもつかしら?」

「ひいいいいいいーーーーー!!!!!!」

「殿下、致死性の毒を飲んだお気持ちは?この部屋に隠された解毒剤を30分以内に飲まなければ臓器からただれ苦しんで死にますわ」


 真実の愛の相手は次々と変わった。獣高所閉所毒……。そしてやがて……


「おおクリスティアナ……我が愛しの君よ……!我が真実の愛……!!」


 アホにもわかった。数々の恐怖……真実の恋の相手の、本体はクリスティアナであると。


「まあ殿下。そのように申されますと私恥ずかしいですわ」

「何を言う。君こそが愛。君こそが全て。君の与えてくれる全てが喜びなのだ」

 期待した目でこっち見てくる。

 なんか一周回ってプレイだなー。まあメロメロにはなったしいいか。クリスティアナはにっこりした。

 そんなわけでクリスティアナとステイヤ王子はラブラブ?となり、仲睦まじく過ごした。15で入った学園でも評判だ。

 

 ゲームではこの学園でヒロインと出会い王子がメロメロとなる。しかしここにヒロインはいない。

 ヒロインは平民上がりの男爵令嬢。希少な魔法もちゆえ男爵家に引き取られるはずだった。しかしその男爵家にヒロインはいない。

 

 クリスティアナは不思議だった。ヒロインに手を出す気はなかった。実際何もしていない。王子を頑張ってメロメロにしたのだ。なんなら受けてたとうくらいの気持ちだったのに……

 

 ヒロインもゲームの記憶を思い出して、逃げたとか?うーん、でもなぜ?


 わからない。とはいえ男爵家に引き取られる前にどこにいたのかなどゲームの描写にもなかったので、仕方ない。まあいっか、とクリスティアナは放置することにした。

 そして二人は順調に学園を卒業し、もうすぐ結婚式という時……

 


♡〜♡〜♡〜♡〜♡〜♡〜♡〜


「たて市民よ!!悪辣な王侯貴族より我が国を取り戻すのだ!!!」


 平民たちが一斉蜂起した。武力革命である。

 クリスティアナの思考をみればお分かりだろうがこの国の上層は腐っている。積もった怒りが爆発したのだ。

 舐め切っていた王侯貴族だが、彼らは隣国の支援を受けていた。革命後に支配受けるの確定だがそんなんどうでもいいくらいの怒りが溜まっていたのだ。これだから平民は我慢がきかない。クリスティアナはやれやれとため息をついた。


 王都はあちこちで貴族の屋敷が襲われ、火をつけられた。

 クリスティアナとステイヤ王子(まだ王子)の住む公爵家のタウンハウスも襲撃された。


「村の仇!!悪女クリスティアナ、天の裁きを思い知るがいい!!!」


 先頭にたち指揮を取るのはなんとヒロインだった。頭がピンクだ。


 ヒロインが放った雷撃を結界で受け止めながらクリスティアナは尋ねた。

「村とは?身に覚えがありませんわ」

「貴様が崖崩れを人為的に引き起こし、つぶした村を忘れたか!!」


 クリスティアナははたと気づいた。王子を崖崩れに巻き込ませた時、たしか麓に村があった。

「そういえば村がありましたわね。気づかなくて申し訳ないですわ」

 ちゃんと謝れるクリスティアナは偉い。

「貴様ああああああ!!!!!!」


 ヒロインが襲いかかる。クリスティアナはその攻撃を捌きながら、そうかーあの村にいたのかー。生き延びたのは主人公補正かな。その混乱で男爵家に引き取られなかったのかーなどと積年の疑問の解決にナルホドしていた。


「ひいいクリスティアナ!クリスティアナ大丈夫なのか!?」

「ぼちぼちやばいですわね」

「ひいい!」


 王子はクリスティアナの足元にへばりついている。

 クリスティアナのはれる結界は二人を包む大きさがせいぜいで、他の家人は皆殺されていた。

 野蛮だわあーとうんざりしつつクリスティアナは攻撃を耐える。敵はヒロインだけではない。多勢に無勢である。そして待っている。

「お嬢!騎士軍が!」

「援軍か!くそっ……」

 よっしゃ間に合ったー。はよ引いてくれ。と思ったその時……


「ありゃ」


 結界が解けた。


 魔力切れ。


「そこだあああああ!!!!」


 ヒロインが雷撃を放つ。やべえ死ぬ。

 クリスティアナは思った。しかし……


「ひいいいいいいいいーーー!!!!!」


 王子がクリスティアナの前に出た。

 庇うように。


「なっ……!!」


 クリスティアナは瞠目し、雷撃の迫る中王子の頭を押さえつけ伏せた。避けれた。


「ちいっ……!」


 ヒロインが追撃を放とうとする。が、クリスティアナは先んじて懐にあった煙玉を投げ、王子を掴んで姿を消した。煙玉は淑女の嗜みである。

 そして騎士軍がなだれこみ、二人のスイートハウスは大乱闘の舞台となった……



 ♡〜♡〜♡〜♡〜♡〜♡〜♡〜


「どうしてあんな事をしましたの?」

「そ、そんなの、当たり前じゃないか!!」


 煙玉で逃げた二人は、地下道を歩いていた。タウンハウスの井戸から続く逃走用通路だ。

 王子はひいい光が……光がくるう……などとぶるぶるしている。

「恐ろしい……なんだあの女……ピカって……ピカって……ひいい……」


 クリスティアナは腹の底が冷える心地がした。


 (そんなの当たり前じゃないか、ね……)


 そう、当たり前なのだ。この男は吊り橋に通い、熊に襲われアヘる男なのだ。自ら雷撃を浴びようとするのは、当然だ。

 そして今では、吊り橋自体でなく、吊り橋を渡らせる者を愛する事を知っている男でもあった。

 つまり、雷撃を浴びせる者を……。

 明確な殺意。そのはじめての……まあ熊はいたが……恐怖に、これまでの経験は塗り潰されるのではないか…?


 (これがゲームの強制力ってやつね……!!)


 クリスティアナはぞっとした。

 あれほど手塩にかけストーリーを変えたと言うのに、やはりヒロインに出会えば彼の心は持っていかれてしまうのか……。

 

 クリスティアナは既に、クリスティアナにメロメロで、キラキラした目で己を見てくる王子を手に入れてしまっている。

 それを今更、ヒロインにメロメロになり、あの目でヒロインを見る王子に耐えられるだろうか。

 歯噛みした。

 クリスティアナは自分のものを取られるのが嫌いだ。ならば、いっそ……


 ナイフを取り出そうとした、その時……


「クリスティアナ、侯爵領に戻り、体制を整えあの卑しき愚民どもを討ち取ろう!この高貴な私の愛する君なら容易い事だ!」

「えっ……」


 なんで?


「な、なぜ……。は!またあの雷撃を受ける為ですか……?」

「何を言う!あのような下賤なピカピカなど二度とまみえたくはない!」

「えっ……」


 なんで?


「たしかに、愚かにも熊を愛した頃の私ならば、あの雷撃を愛することもあったかもしれない……。

 だが、長年の君の愛を受け、今では違うと言える。

 君の愛は、ヒリヒリと熱いものだが、安全に気をつけ、死なないように、また死んだ場合でもというか三回ほど死んだが、百人の贄を必要とし禁呪とされる蘇生魔法で生き返らせてもくれる。

 対してあのピカピカは、ただ一瞬の歓喜のみ……。なんの心尽くしもない卑きピカピカなど願い下げだ。死んでは君の愛を受けられない。君が死ぬのも耐えられない。それでは君の愛を受けられない。君を、失いたくないのだ」


 クリスティアナは息を呑んだ。

 なんてことだ。成長していた。熊の時とは違う。

 プレイとマジの違いを知り、クリスティアナの心遣いを受け取るようになっていた……!!


 クリスティアナは瞳を潤ませた。見誤っていたのは私かもしれない……。


「私が求めるのは、君だけだ。君の愛だけだ。クリスティアナ……!」

「ステイヤ様……!私の愛、この身その全て、ステイヤ様の為に……!!!」

「クリスティアナ……!!」


 薄暗い地下通路で、二人の影が重なった。

 真実の愛であった。



 ♡〜♡〜♡〜♡〜♡〜♡〜♡〜


「皆様まいりますわよ〜」

「「「「オオオオオ!!!!!」」」」


 侯爵領へ戻ったクリスティアナは、やはり暴徒に襲われていた領都で、対応にあたっていた領軍と合流し、都を平定した。

 そして同じような状態だった近隣領をも平定、暴徒どもを血祭りにあげ大軍団の長となった。

 貴族たちは生きてたり死んでたりしたが、最も力のあるクリスティアナの父がまとめあげ同盟を結んだ。というか支配下に置いた。

 対して賊軍は、王都を落とし王族を晒し首にし、復讐に燃えるヒロインを旗頭に(この求心力はやはりヒロイン補正であろう)隣国の兵を借り近隣領を手に入れた。


 まさに国は二つに割れた。


 そして今、両軍あいまみえ……国の中央、その大平原で、戦いの火蓋が切られたのだった。


「ひいいいいいいい!!!!!!!ほひいいいいいい!!!!!」

「南の方少し前へー。第二部隊隊列乱れてますわー。賊軍など皆殺しですわー。」


 クリスティアナは軍団を指揮し戦場を駆けた。若い女だからとて皆クリスティアナを知っている。当然である。

 クリスティアナは背中に長い棒を綴りつけている。その先端には王子が括られている。びよんびよんしている。

 

 クリスティアナが陣中より指揮を取らず戦場を駆けるのは王子の為だ。

 

 見るからいい的の王子に矢が、魔法が射られる。

「ほひいいいいいいい!!!!!」

 そのすべてはクリスティアナのかけた結界魔法により阻まれる。阻まれるが、これはいわば全身防弾チョッキ状態な感じで、それなりの衝撃は受ける。そのようにしたのだ。

「いかがですかステイヤ様!私の愛は!」

「しゅきいいいいいいい!!!!」

「皆様、いと気高き殿下がお喜びです!疾く賎民どもを殲滅いたしましょう!」

「「「「オオオオオオオオオ!!!!!」」」」

 まあなんかみんな、クリスティアナを知っていた。

「いきますわよー!」

 領都やなんかで血祭りにあげた愚民どもの魂はクリスティアナのもとにある。贄は充分だ。

 クリスティアナはクソデカ禁呪魔法を炸裂させた。



 ♡〜♡〜♡〜♡〜♡〜♡〜♡〜



「ぐふっ……」

「クリスティアナ!!クリスティアナ!!!」

 誰一人立つもののなくなった平原に、クリスティアナもまた、倒れていた。王子がクリスティアナの手を握り泣いている。


 贄をとりこんだクリスティアナの力は強大だったが、敵はヒロインだった。補正がすごい。

 というか、クリスティアナの打ち込んだクソデカ禁呪魔法でほとんどの賊軍が死に絶えたが、ヒロインの反射魔法でクリスティアナの魔法のいくつかが打ち返され、結果、対抗できるレベルの結界を纏ったクリスティアナと王子、そしてヒロイン以外みんな死んだのだった。


 クリスティアナがなぜ死にかけているかというと、ヒロインに刺されたからだ。

 魔法が炸裂したあと、あらまあ誰もいなくなったわーと思っていたところ、砂煙の中から自らに最後の雷撃を打ち込み遥か遠くから高速の雷矢と化して飛んできたヒロインにブッ刺された。結界はガス欠であった。腹に丸く穴が空いた。まだ生きててすごい。

 ヒロインもまた、力付き倒れている。


「クリスティアナ!クリスティアナ!嫌だ!いくな!蘇生魔法を……」

「ごほっ」


 蘇生魔法は使えない。死んですぐかけねばならず、この場ではクリスティアナしか使い手がいない。ヒロインも使えるかもしれないが使うはずがない。


「クリスティアナ、許さぬ、許さぬぞ、私のクリスティアナ、勝手は許さぬ……!!」

 王子がぐしゃぐしゃの顔でクリスティアナを見つめる。鼻水がクリスティアナの顔に落ちた。汚い。

「こんな、こわい、こんなこわいのは、いやだ。こんな愛は、いらない。クリスティアナ、クリスティアナ、愛して、いる……」

 クリスティアナは、穴のあいた腹が熱くなる思いだった。


 あなたに会えて、よかった。


 他に伏せていたヒロインが、みじろぎした。

 

 ゆっくりと、何度か倒れそうになりつつ、震える体を、傍の剣を支えに起き上がる。


 その瞳は昏く、烱々と輝いている。


 ズリズリと足を引きずりながら、幾度か倒れつつ、近寄ってくる。


 王子はまだ、気付かない。


 ———だめだ———


 ヒロインと、目が合う。

 クリスティアナが、笑う。


 ——お前には、やらない——


「ステイヤ、様……」

 クリスティアナは、王子の頬にそっと手を添える。

 王子の涙目が、クリスティアナとあう。

「私のステイヤ様……、私の全て。お慕い、申し上げます……」


 唇が、重なる。

 クリスティアナは口中に仕込んだ、自害用の毒を噛んだ。

 王子の瞳が伏す。夢見るように失われる。


 ヒロインが近づいてくる。ついに、その刀が掲げられる。

 

 振り下ろされるその前に、クリスティアナもまた、意識を幸福な闇に溶かしていった。


 

 

 

 

 




 

 

ヒロインは生き残り幸せになりました!!国は滅びました!!(´∀`*)読んで頂きありがとうございます♡

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後 めっちゃ良かった!
[良い点] クソバカコメディかと思ったら耽美なラストシーンに驚きました。
[一言] ヒロイン補正(鬼つよ)は、たぶんメンタルが最恐になってるんやろなぁ。 某「タイ〇ニック」でのヒロイン(笑)も、あの後いろんなことしながら1世紀ほど生きてたらしいし。 このヒロインも、この後ハ…
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