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21話 ファンクラブ

「こんちはー!」


 美穂ちゃんが思い切り教室の扉を開けると中では既にスクリーンが垂れ下がっており、プロジェクターで映像が写されそうになっているところであった。ここがファンクラブか。

 結局美穂ちゃんと一緒に来たけど、意外と女子多いんだね。十人くらい居る中で半分くらい女子が居る。


「美穂さん、来たんですね。それでそちらのお方は?」


「ああ、この子私の親友の姫野茉奈っていうの。この子もマナのファンだから今日は体験会みたいな?」


「なるほど。マナさまのファンの茉奈さんと言うのですね。もちろん、ファンであれば誰でも歓迎です」


「うん、どっちの事を言ってるか分かんないから私は姫野さんって呼ぶね」


 どうやら無事に迎え入れられたようだ。


「よ、よろしくお願いします」


「茉奈、そんなに畏まらないでいいのよ」


 固まる私を美穂ちゃんが笑って和ませてくれる。


「今からMV見てから配信見るつもりなんだ」


「え、配信までですか?」


「うん。まあ流石に全部は見ないけどね」


 MVなら自信をもって見てほしいと思えるし自分で見てもあんまり恥ずかしくないけど配信となれば多少自分の素が出ちゃってるところもあって恥ずかしいんだけどな。美穂ちゃんから聞いていたとはいえ一気に恥ずかしくなってくる。


「そういえば茉奈さんって声似てるよね」


「へ? 誰にですか?」


「うん? マナに」


 前に座る男の子にそう言われて一瞬ドキッとする。え、こんな早い段階でバレることなんてある?


「確かに似てるわね~。本物じゃないのは分かりきってるけど」


「いやでもよく考えたら名前が茉奈っていうのもそうだし体型も似てるような」


 男の子の言葉に端を発して周りの子達もそう言いだす。流石はファンクラブの子というかなんというか出だしから身バレの危機へと陥る。どうしようどうしよう!


「アハハ、そんなわけないよ。だってマナが配信してるとき、この子と一緒に遊んでたことあるし。ただ似てるだけよ」


 そう言って美穂ちゃんが困っている私に助け舟を出してくれる。声には出さずに美穂ちゃんへとありがとうと視線を送ると、片目だけでウインクしてくれる。


「それなら違うか~」


「まあ分かってたことだけどね~」


 美穂ちゃんの言葉に少し盛り上がったファンクラブの子達も不審がることもなく私の下から離れていく。一先ずは助かった。


「それじゃあMVから流していくよ~」


 プロジェクターを起動して垂れ下がっているスクリーンへと動画配信サイトを映し出す。ちゃんと横にはスピーカーもあるみたいで準備は万端だ。


 ピッという無機質な音とともにMVが流れ始める。曲の名は『反逆の光』だ。


「ここのシャウトが凄いんだよね」


「ちょっと落ち着くところとか歌い方マジで天才的だと思う」


 MVを聞きながらそんな声が聞こえてくる。まるでコメント欄の人達が目の前に居るみたいでなんだか不思議な感じだ。


「ここからサビだよ」


「うわ~、いつ聞いても凄すぎるこの声量」


 改めて自分で聞いてみるとやっぱり良い曲だな~。AZUSAさんの作る曲はいつも口ずさみたくなるようなメロディをしている。歌ってる自分が言うのもなんだけどね。


 それからMVの時間が終わり、ファンクラブの子達が口々に感想を言い合っていた。


「茉奈、どう? 良い感じでしょ?」


 美穂ちゃんがそう聞いてきたのはMVの事ではなくこのファンクラブの雰囲気の事であろう。


「うん、良い感じだね。楽しいよ」


 最近は否定する言葉ばかりが目立って見えていた。でもこうして目の前で存在を肯定されるとすっきりする。私のやってることは間違いじゃないんだなって。好きでいてくれる人がいるんだなって思える。


「それじゃ配信のアーカイブ流すよ~。どの配信が良い?」


「反逆の光が初出しの配信が良い」


「オッケー」


 そうして今度は私の配信がスクリーンへと映し出される。


『これでようやく50階層ですね』


 何も飾られていない私の言葉がスピーカーから大音量で聞こえてきて羞恥心が擽られる。うん、やっぱり配信はダメだな。恥ずかしすぎる。


 それからファンクラブの子達に褒められながら恥ずかしい時を過ごすのであった。

ご覧いただきありがとうございます!


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