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1話 配信者への憧れ

「今日は皆、ありがとう!」


 ステージ上に立つAZUSAの声で会場中が歓声を上げる。その中の一人に私、姫野茉奈(ひめのまな)も居た。

 AZUSAはダンジョン配信者の中でもトップレベルに人気のある男性配信者だ。私はAZUSAのファンである。そして本日、私はしっかりとAZUSAのファーストライブに参戦していた。


 ファーストライブだというのにドームを埋め尽くすほどの盛況具合である。現在、最もノリに乗った配信者はこんなにも人を集めるのだ。


 そして未だAZUSAのライブの余韻が残ったまま、退館の指示が出され、私は席から立ちあがり、ぞろぞろと出ていく人の波に乗って出口へと向かう。


「AZUSAカッコよかったな~。まさか生歌があんなに上手いなんてね~」


「強いしカッコいいしで天から何物与えられたんだよって感じだよ」


 少し外に出たドームから帰る道でそんな会話が聞こえてくる。

 一人で参戦している私にはその感動を分け合う友は居ない。代わりに一人、心の中でライブでの興奮を噛みしめている。


 私もいつかAZUSAみたいにあのステージで歌ってみたい。そんな思いが私の中にはあった。


 歌に自信がないわけではない。高校生のお小遣いではせいぜいカラオケで練習するくらいだが、それでもしっかりと歌の練習はしている。

 好きな歌を聞いて歌うテクニックを盗んだりしながら徐々にスキルが上がってきているのを感じる。


 だがオーディションに出る勇気が湧かないのだ。

 もしもオーディションで辛口の採点をされてしまえば気の弱い私は今までの努力は何だったのだろうと自己嫌悪に陥る気がする。


 オーディションに出ないのならダンジョン配信という手もある。

 実際、今日のライブを開催したAZUSAだって最初はダンジョン配信から人気を付けていってその結果、歌も出すようになっての今日だし。


 まずはダンジョン配信をして有名になろう、そんな思いも最初はあったわけだけど、それも職業鑑定の際に消え失せた。


 職業というのはこの世にダンジョンが現れたときに人々に発現した固有の能力で一生涯に一つだけ得ることができるものだ。


 それをダンジョンへと入る前に有料で鑑定してもらえるのだが、その結果私の職業は『ソングバトラー』。

 歌っている間だけ戦闘力が上がるという見たことのない不思議な能力であった。


 最初は歌の能力なんて最高じゃんとか思っていたけど、よくよく考えてみれば歌いながら戦うなんて変人だし、そんな姿を配信したらと思うと羞恥心で死にそう、という考えに行きついてしまい中々配信に踏み出すことが出来ないでいた。


 それでもダンジョン攻略自体は案外楽しかったため、配信はしないまま人目を忍んで攻略を続けていた。


 ライブ会場から出て、暗くなった夜道を歩いていく。私の家はここから歩いて15分程度で着くのだ。

 時刻は19時。早く帰らないとな。そう思って早歩きで帰っているとふと目の前にダンジョン入り口の受付である建物が見える。


「ちょっとだけ寄ってみようかな」


 ライブが終わってもなお取り残されている高揚感を体を動かすことで解消したかったのだ。だからほんの十分程度潜ればすぐに帰ろうと思っていた。


 基本的にダンジョンへ入るのは無料だ。二人くらい受付の人がいるだけで後はダンジョン攻略証を見せれば誰でも入ることができる。

 そうしてダンジョンへと無事に入れた私はいつものように頭の中でリズムを刻み始める。


「今日聞いたAZUSAの『雪恋』にしようかな」


 明らかに戦いには適していないバラード調の歌ではあるが、それでも今、私は無性にその曲が歌いたい気分だったのだ。

 それに歌う曲に属性が付いていれば私もその属性を操れるようになるし。


 たとえば激しい夏の歌を歌えば『熱』の力を使えるようになり、海をテーマにした歌を歌えば『水』の力を使えるようになる。


 そうして冬のカップルを描き出すバラード調の『雪恋』を口ずさみながら雪の力を操ってモンスターを撃破していく。

 冬の歌を歌いながら実際に自分の手から雪が生み出されていく臨場感が心地良い。まるで本当に歌の世界に居るかのような、そんな感覚が嬉しい。


 それから私は『雪恋』をリピートしながらダンジョン攻略を進めていく。今日のAZUSAのダンスを少し真似してみたりして。

 最初は体を動かす程度の気持ちで乗り込んだダンジョン攻略も気が付けば没頭してしまっていた。


「あっ、そろそろ帰らないとヤバいかも」


 気が付けば時計は22時を示していた。やっばい。流石にこの時間は遅すぎる。

 いつもならこんなことにはならないのだが今日はライブ終わりという事もあって、歌いながら戦う事に没入してしまっておりすっかり時間を忘れてしまっていた。


「お母さんに叱られちゃう」


 そうして私は急いでダンジョンの入口へと引き返していく。近くで誰かがカメラを構えていたとは知らないまま。

ご覧いただきありがとうございます!


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