罰を受けた元王子
長編を完結まで書こうとして途中で疲れたので書きました。
お楽しみいただけたら幸いです!
長編はそのうち必ず出します!
「私は真実の愛を見つけたんだ‼エリザベス・カーライル‼‼お前とは婚約破棄をする‼‼」
私、アンディ・ラルエットは金髪碧眼の超美男子だ、しかもイーリズ王国王太子である。
え?
そんな身分の人間が簡単に政略結婚を破棄するなって??
だってそんなもの、好きになってしまったんだもん。
仕方が無いだろう。
私はエリザベスにいじめられていた男爵家の令嬢、ソニアに恋をした。
彼女は勇敢でありながら儚げで、それでいて愛らしい、素敵な女性だった。
ピンク色の髪と瞳がとても印象的で可愛らしい女性。
しかし、それは全て嘘の姿だった。
彼女は私を騙していた。
エリザベスと共に現れた第二王子のエルマーがそれを証明し、私の王太子の座も、名誉も、全てが激変してしまった。
「馬鹿ね‼全部嘘に決まっているじゃない‼‼アンタが王太子だから近づいたのに‼‼王太子じゃなかったらアンタみたいな女好き、こっちから願い下げよ‼‼」
初恋の女性、ソニアはまるで下町の酒場の様な言葉遣いで私を罵り、去って行った。
そしてまぁ、色々あって平民落ちになり、現在私は路頭に迷っている。
あぁ、寒い……。
雪の降る中、私は今まで避けていたはずの下町をうろついていた。
何日も何日も様々な店を訪ねているのだが、どこも私を雇ってくれない。
そのせいで自慢の金髪は艶を無くし、肌も荒れ、服はよれて王都を歩ける恰好ではなくなったためここに落ちてきたのだ。
今日も野宿だろうか……。
季節は冬。
毎日徐々に寒くなる中、私は毎晩の様に野宿をしていた。
エリザベスにもたされた金が尽きたのだ。
私は、このままもしかすると……
良くない考えがよぎり、強く頭を振るとその拍子に倒れ込んでしまった。
???
体が動かない。さっきまで主張の激しかった頭痛は嘘の様に消えていき、意識がフワフワと浮く心地よい感覚がする。
あぁ、これで終わりか。
そして、ゆっくりと瞼を閉じて私は心地よい眠りについた。
「ちょっと‼‼こんなとこで死んでんじゃないわよ‼邪魔ったらありゃしない‼‼営業妨害よ‼‼」
真っ暗な視界の中、遠くの方で若い女性の声が聞こえた。
トントントン、コポコポコポッという不思議と心地よい音と共に、香しい食べ物の香りがした。
夢の中に居るのか、懐かしいベッドの感触すらする。
あぁ、気持ちいい。
夢なら覚めたくないなぁ。
「さっさと起きなさいよ!この営業妨害‼‼」
ガンッと何かを蹴った音と共に振動がきて私は跳び起きた。
目の前にはスープとパンをトレイに乗せた素朴な18歳ほどの女性。
栗色の髪に茶色い瞳、日に焼けた健康的な肌、王太子時代にはまず見なかった平民女性そのものだった。
「君は?」
「はぁ??アンタありがとうも言えないの?その口は飾り?」
結構可愛らしい顔立ちなのにその口から出てくる言葉は強烈だった。
ここまでの暴言、王太子時代には言われたことなどない。
というか、昔であれば間違いなく不敬罪で彼女は牢獄行きになっている。
寒くないと思い、周囲を見渡すとどうやらこの女性は私を助けてくれたらしい。
平民の中でも質素な室内の温かいベッドに私を寝かせ、暖炉に大量の薪をくべてくれている。
「すまなかった、私はアンディと言う者だ。助けてもらったようだな。礼を言う」
「アンタ馬鹿??」
「バ……馬鹿とは何だ‼君、さっきから口が悪いぞ‼」
女性は溜め息を吐き、トレイを近くの机に置くと腰に手を当ててふんぞり返った。
「礼を言うってだけで喜ぶ人間が居るとでも思ってんの??礼ってのはありがとうって言葉なの‼ほら!言って見なさいよ‼じゃなきゃこのスープあげないから‼‼」
「グッ!……ぅ」
私は再三言うが王太子だった男だ。
生まれた時から王子として育てられ、人の上に立つ者としてプライドをもってきた。
それなのに、平民女性に叱られるなんて……。
プライドが許さない。
通常ならそうだが、今は。
チラリと私は机に置かれたスープを見た。
見てくれからして具材が少ない。だがとてつもなく腹を刺激する良い匂いを放っていた。
「…………ありがとう……これでいいだろう!」
女性はフンと鼻を鳴らして私の様子を見てから、トレイをそのままくれた。
やはり具材の少ないスープだ、入っている物も芋やニンジン、玉ねぎが少々くらいで肉は無い。
「どういたしまして、これも食べていいよ。アタシはカミラ。よろしくね元王子様」
トレイを受け取りながら思わず取り落としそうになってしまった。
「その……名前で分かったのか??」
「アンタそれで隠しているつもりだったの?名前もそうだけど着ている物‼よれているけどそれ上等な布でしょう⁉装飾品が無くてよかったね。あったらアンタ身ぐるみ剝がされてたよ。
あと、手もそうだね。アンタの手、赤子の様に綺麗だもん!お貴族様ってすぐに分かるよ!」
「…………そうか」
この寒空の下、幾度となく見知らぬ男には囲まれた。
そのたびに命からがら逃げていたが、まさか着ているものだとは。
ブルリと震えながらスープを一口飲むと、体の隅々にまで染み渡る様な幸福感が頭を支配した。
「美味しい‼カミラ嬢が作ったのか?」
「アッハハハハハハ‼カミラ〝嬢〟って‼アハハハハ‼アンタ面白いね‼流石女好きの元王太子‼‼」
カミラの笑い具合に少々赤くなりながら、私はコホンと咳払いをした。
「その言葉には語弊がある。私は全ての女性を愛しているが、いわゆる女好きとは違う」
そう、初恋相手ソニアにも言われたが私は節操のない女好きではない。
女性という生き物そのものが好きなのだ。
ちなみに、エリザベスはその女性の枠から除いていた。
数多の噂で彼女が最悪な女性であることは明白だったからだ、今となってはそれも嘘だったと理解しているが。
「どう違うってーのよ⁉おんなじでしょ⁉」
「女性は私にとって花そのものだ。美しければ触れたくなるし、もっと綺麗になれるように僅かな変化にも気づけるようにしている。その……下心の様な物とは違う」
「アッハハハハハハ‼意味分かんない‼‼」
「な~んか楽しそうだなぁ!気がついたのか、兄ちゃん」
「あ、父さん!」
突然カミラの後ろにある扉から熊の様に大きく、そして丸太の様に太い腕の中年男性が出てきて目を丸くしてしまった。
父さんと呼ぶからにはそうなんだろうが、それ以上に彼のエプロンに目がいった。
「ヒィィィィイイイイイ‼ひ、人殺し‼‼」
「あぁ⁉ぶっ殺されてぇか⁉」
彼のエプロンは一面真っ赤に染まり、所々茶色くなってきている。
言うまでも無い、血だ。
しかもちょっとした血の量ではない。
人一人が死に至ると思える量だ。
「ちょっと父さん‼その恰好でうろつかないでよ‼‼クリスティーナさんに嫌われるよ‼‼」
ベッドの上で逃げる私とカミラ嬢の父君の間に、カミラ嬢が入って止めてくれる。
良かった。
彼の太い腕に捕まれれば私の細い首など一撃で折れてしまう。
それにしても……。
「…………クリスティーナとは??カミラ嬢の……ヴッゥ‼‼」
私が質問しかけた瞬間、父君はカミラ嬢を押しのけ私の胸倉を掴んでベッドから引きずり下ろし、壁に押し付けてきた。
ダンッ‼と派手な音が鳴り、背中を壁に打ち付けられる。
少々足が浮いているせいで息も苦しい。
「てめぇ、女好きってぇのは本当らしいな‼クリスティーナさんに手を出したらただじゃおかねぇ‼‼」
父君は茶色い瞳をぎらつかせて私を睨んでくる。
「…………いや、その……母君なのかを聞こうとしただけなんだが……」
父君の瞳は本当に怖い。
獰猛な野獣に睨まれた子ウサギの様な感覚に陥りながらも私はなけなしのプライドを振り絞ってポソポソと小さな声で抗議をした。
情けないとか言わないで欲しい。
これが精一杯だったんだ。
私の抗議に彼は正気に戻り、いや、なぜか顔を真っ赤に染め、手を離した。
急に手を離されたせいで私は不格好にも尻餅をつき、もはや全身を赤く染め、わなわなと震えている大男を見上げた。
「そ、そそそそそそ、そんな母君って‼‼…………そりゃあ、彼女は美人だし綺麗好きで良い女だし、良い母親になるけど気が早いっつーか、その、まだ付き合ってもいねぇし、もっと彼女のことをよく知ってからじゃねぇといけねぇっつーかなんつーか彼女とはそんなんじゃ‼‼‼なぁ‼カミラ‼‼」
問いかけられたカミラ嬢は溜め息を吐いて、頭を抱えた。
「父さん、アンディはただ母親なのかって聞いただけだから……」
言いながら彼女は私にくれたパンやスープをトレイに戻し始めた。
「アンディ、父さんが面倒臭くなっているからこの続きは皆でご飯を食べながら話しましょう?」
「み、皆で??」
「そ、アタシと父さんとアンディの三人で。それとも何?アンタ、平民にご飯をもらっておきながら平民とは一緒に食べられないっていうの??」
父君に劣らない睨みを効かせながらカミラ嬢は聞いてきた。
はい、その通りですとは流石に言えず、私は渋々了承した。
王宮では毎日、広いテーブルで一人で食べていたのに……。
私が寝ていたのはどうやら食堂の二階だったらしく、一階に降りて厨房の奥に進んでいくとそこには簡素な机と椅子が並べられた場所があった。
ここで食事をするらしく、カミラ嬢は私のトレイを机に置き、自分達の食事の準備も始めた。
最近の野宿を考えれば、そこまで不衛生な場所ではない。
しかし、机も椅子も壁も全てが安っぽいし古びている
私は一瞬この食事を断ろうと思ったが、どうしても目の前のスープがもたらす多幸感に抗えず席について親子の話に耳を傾けた。
傾けた、というよりかはカミラ嬢の父ジェフがしきりにクリスティーナという40代女性のことを話し、それに対してカミラ嬢が補足を入れているだけだった。
要約すると、まずジェフはクリスティーナが好きらしい。
ジェフの元妻は他界して10年経ち、カミラ嬢の勧めもありそろそろ客と食堂の店主という関係性から発展させたいということだったのだが…………。
「父さんにクリスティーナさんは絶対無理!」
クリスティーナはこの辺一帯のマドンナ的な存在らしく、歌を歌って日銭を稼いでいるらしい。
そのため、年齢はそこそこいっているが倍率はとても高い。
「む、無理かどうかは……やってみないと…………」
「だって父さんガサツだし!でかいし‼見た目不細工だし‼く血に塗れているし‼」
ちなみに、血は鹿の血だったらしい。
ジェフが鹿を撃ち、持って帰り、捌いたときの血らしい。
私が見るにジェフは確かにガサツに見えるが、食べ方は想像の百倍綺麗に食べていた。
カミラ嬢と同じ栗色の髪に茶色い瞳をもち、美形とは言えないが、不細工と言うほどでもない。
だが髪はボサボサ、肌はガサガサ、服は血に塗れたのをいまだに着替えていない。
「…………ジェフ……さん、女性とは花だ」
「何⁉」
「ヒィ!」
ジェフの言い方がいちいち強いため、思わず情けない声を出してしまったが彼のために言うことは言う。
「花によりそうためにはそれ相応の資格が必要だ。まずはその身なりから変えてみたらどうだろうか……良ければ指南しよう。一宿一飯の礼もしたいし」
「一宿一飯ってアンタここに泊る気⁉」
「あ、いやその……凍死から助けてもらった礼という意味で……レディの居る家に泊るなど……」
カミラ嬢に強く言われ、しどろもどろになっているとジェフはじっと私を睨んできた。
「このまま外にほっぽり出して死なれるのも寝覚めが悪いからな、丁度人でも足りなかったし泊めるのはかまわねぇが、……俺の部屋でだ。夜に一歩でも部屋から出たら絞め殺すからな」
「あぁ!肝に命じておこう……礼を言……ありがとう」
「プッ!今度は言えたじゃない!」
ケラケラとカミラ嬢は笑いながら食事を進めた。
こんなにも会話の多い食事は初めてだった。
ほんの少し、暖かい気持ちが広がっていった。
翌日から私は営業時間はジェフの食堂で給仕をすることとなった。
もちろん、自分から言い出したジェフの身だしなみの件も遂行中だ。
まず、髪は丁寧に洗い、櫛で梳いてから切りそろえ、形を整える。
「こんな女みてぇなこと初めてだ」
「私も人の身だしなみを整えるのは初めてだ」
「ハハハハ‼違ぇねぇ‼王族に身だしなみを整えてもらうなんざ良い身分になったもんだ!」
「〝元〟がつくが……」
「気にすんな!一時は気になってもほら!アレだ!……あー、何つったか人の噂も10月10日とか……」
「極東の言い回しなら人の噂も75日だ」
「ハハハハハ‼」
髪を整えたらとりあえずそのまま隅々まで顔や体は洗ってもらい、その後、お次は服だ。
シャツに簡素なズボンというのは変わりないが、どちらも洗濯をして清潔感を出す。
そして中途半端にズボンにシャツを入れるのではなく、入れる物はしっかり入れる!
袖に関してはどうせまくってしまうので、事前に着た瞬間に丁寧にまくる。
後は脱いだ後、皺にならないようにかける。
この清潔感満載の恰好をしてもらって数日後、件のクリスティーナさんはやってきた。
「ちょっとどうしたのジェフ⁉なんかこう……素敵になってるわ!」
クリスティーナさんは確かにマドンナと言われる程に美人な顔立ちをしていた。
金色の髪に金色の瞳で下町では目立つだろう。
「あ、その……変…………か?」
私やカミラ嬢の前では大口を開けて笑うジェフが、クリスティーナさんの前では縮こまった子熊の様になっていた。
蚊の鳴く様な彼の問いに彼女は満面の笑みで答える。
「とっても素敵よ!どうしたの?アハハ!好きな人でも出来ちゃった??」
「あ、えと……」
その時、女性という生き物を愛してやまない私は感づいた。
快活でおおらかに見せている女性がこういう時、大抵は笑い話に見せかけて勘ぐっている。
つまり、クリスティーナさんは脈ありの可能性が高い。
だというのに‼この子熊は‼‼
まるで可憐な乙女の様に頬を染め縮こまり、指先をちょんちょん突いているではないか‼‼
私はさっと店内を見まわした。
時刻は14時30分お昼の営業時間は終わりが近い。
元々要領は良い方で給仕はもとよりこの数日で料理の方も少しずつだが会得しつつある。
カミラ嬢に視線を送ると彼女も察してくれたらしく了承の意味で神妙にコクリと頷いてくれた。
「ジェフさん!お昼ももう終わりが近い!クリスティーナさんと外で食事をしてきたらどうだろうか!そしてジェフさんの率直な気持ちを彼女に伝えるべきだ」
「そ、率直な気持ちって……‼ジェフ!」
「う……その……」
一瞬ジェフから殺気を感じたがクリスティーナさんからの期待に満ちた声でそれは消え失せた。
そして真っ赤に茹で上がった子熊はぎこちなく右足と右手を出し、違和感のある歩きをしながら彼女を連れて出て行った。
その後まぁ、何というか、子熊は満面の笑みで帰ってきて翌年、クリスティーナさんと結婚した。
そしてこのことがきっかけとなり、私は天才的な仲人の力に目覚め、年間200組の恋人達を量産するまでに至ったのであった。
気がつけば元王太子という肩書など忘れ、今では愛する子供と愛する少々快活過ぎる妻に恵まれ幸せに暮らしている。
面白い!と思っていただけたらやる気につながるためブックマークや評価をお願いします‼<(_ _)>
下の★の所です。
よろしくお願い致します‼




