商人聖女の計画的自主追放
だんだん一人称の丁寧語が崩れていきますが、本人にとっては自然なことなのでそのままで。
はじめまして。
私、十歳の頃に見いだされてから六年間、聖女やってましたクラフティと言います。
今は、いきなり王宮に呼び出されて婚約者の第二王子殿下から婚約破棄されている最中です。
ベタです。もうベッタベタ。
「聞いておるか、クラフティ!」
あーはいはい。聞いてません。
第二王子のフロランタン殿下は、無駄に整ったお顔を嫌悪に歪めて罵詈雑言。通常営業ですね。真面目に聞くのも馬鹿らしいんで、いっつも聞き流しています。
この方、権威主義というか身分血統至上主義というかで、平民出身の私のことを初めて顔合わせして以来嫌いまくっておられるんです。それを隠そうともせずに上から目線でしかお話されません。つまんない人です。顔しか取り柄ないのに。そもそも金髪碧眼の王子様なんてのは私の好みではないのですよ。
この国というかこの世界では、子供は十歳になると神様からスキル授与の儀式を受けます。目ぼしいスキル持ちだと上に知らせが行って国が確保するシステム。
私の場合、それが聖魔法でした。治癒とか浄化とか結界とか、そんなことができる才能です。
正直、油断してました。だって、それ以外はがっつり隠蔽して一般庶民の子供として暮らしてたんですから。
はい。私、お約束の転生者です。なんか神様の実験だとかで前世記憶とチートもらって転生しました。
生まれた家が商家だったんで、前世知識で大儲けしてやる気満々なんですが、さすがに乳児や幼女では怪しすぎるので、十五歳で成人したら実家の支店作って本格活動する予定でした。
ちなみに神様からもらったチートは、<全魔法属性(魔力量無限)>。そのほかに過去の転生者からの希望に多かったという、鑑定やアイテムボックスもあります。まさに商人向け。
庶民の生まれとはいえ、なかなか可愛く産んでもらえましたので、それと合わせて人生勝ち組じゃん、とか浮かれてました。もちろんお約束ですから、スキルも前世記憶も人に話したことはありません。他の鑑定スキル持ちに見られたらやばいんで、隠蔽魔法も覚えましたし。
ただ、<全魔法属性(魔力量無限)>ですが、使わないと能力発現しないんですね。商人の娘として生活するのに聖魔法って使いどころなくて発現してませんでした。
それが、スキル授与の儀式で発現しちゃって、隠蔽する間もなくばれちゃって。
聖魔法って、すごいレアらしくて、速攻聖女指名されて神殿に拉致。国に縛り付けておかないと他国に取られると、王子との婚約も押し付けられました。
正直ね、私慈愛の心なんて持ち合わせてないんです。儲からないこともしたくありません。聖女も王族もめんどくさいから御免です。商人が天職だと思うの。
もうチート爆発させて神殿と王宮ぶっ壊してとんずらすることを真っ先に考えました。
でも、そんなことしたら残された家族が困りますよね? 一応、家族への情はありますし、実家で働いてくれてる奉公人たちにだって責任があります。
それに、生まれ育ったこの国、別に悪い国じゃないんですよ。一部の王族とか一部の貴族除いて。
だから、表面上は素直に受けました。猫を大量に被って聖女のお仕事もしてきたんです。気分は女優、ってやつですね。
見た目は可愛く、猫効果ばっちりで、愛され聖女として知られるようになりました。まあ、庶民出なんで王子受けはしませんでしたけれど。わざといつまでも庶民らしさを見せてきましたし、余計にね?
「クラフティ、貴様の聖魔法の力が衰えて今ではほとんど枯渇しているとの報告を受けている! もはや貴様を聖女とは認められん!」
うん、そうねー。だって聖魔法スキル、ちょっとずつ隠蔽かけて弱まっていくように偽装してきたからねー。自然に見えるように減らしてたら六年もかかっちゃったよ。ちょっと誤算。
「そして、治癒スキルを得て神殿に上がっていたこちらのマドレーヌ・シュゼット侯爵令嬢は、神殿での修行を経てスキルを聖魔法に昇華させ、新たに聖女として承認された!」
聖魔法までいかなくても、治癒スキルだけでも貴重でね。マドレーヌちゃんは同い年でほぼ同時期に神殿に来た子なんだけど、王子が紹介したように貴族令嬢なのよ。それも高位貴族。清楚系美少女で、おっとりさん。どんな相手にも治癒の手抜きもしない、私に対しても身分で差別しない、本当に奇跡のように良い子。ほぼ一緒に修行も活動もしてきたけど、猫なんて被ってない天然もの。侯爵令嬢でそれまで贅沢な生活していたろうに、神殿での清貧な暮らしにも文句もなく従って。まさしく聖女向きの子だったの。
だから思ったのよね。
マドレーヌちゃんが聖女になればいいんじゃない? って。
「よって、貴様との婚約は破棄とし、マドレーヌ嬢を我が婚約者とする!」
王子が代表で言ってるけど、後ろで国王夫妻も神官長も頷いてるし、これは国による決定よね。
そもそもフロランタン殿下が私の婚約者になったのは、王太子の第一王子が既婚者で、王子は他にいなかったこと、あと年回りが良かったこと。フロランタン殿下、今十八歳だし。
基本的に婚約破棄に文句はないです。殿下のこと好きじゃないし。王子妃にもなりたくないし。
でも、どうして破棄なんでしょう。解消でいいじゃない。
つまり、そちら都合で婚約者を挿げ替えると違約金が発生するからってこと? 王族、ケチくさーい。
聖女ってね、無給なんです。衣食住保障するからタダ働きしろってブラック。まあ、マドレーヌちゃんが同期だったから、彼女に劣悪な環境で過ごさせるわけにはいかないと、シュゼット侯爵閣下が寄付してくれたり働きかけてくれたんで、給料はなくてもそれほど無茶は要求されなかったわ。庶民からしたら神殿での衣食住もそう悪くはなかったし。
ま、違約金はちょっと惜しいけど、せっかくこの立場から逃げられるチャンスだもの。平民だから婚約破棄されたって傷モノ扱いにはならないし。
「はい、殿下。婚約破棄、承知いたしました」
最後くらいちゃんとしてやろーじゃないですか。一応、聖女だったからね。王族に対してだって頭下げなくても許されるんです。でもここは、こっちがオトナになって、きれいなカーテシーだってしてさしあげよう。ただし、頭下げるのは馬鹿殿下じゃなくて、聖女の役目と馬鹿を押し付けることになっちゃったマドレーヌちゃんに対してね。
「マドレーヌ様におかれましては聖女就任ならびにご婚約おめでとうございます。今後のご活躍を影ながらお祈りさせていただきます」
「クラフティ様……」
あー、マドレーヌちゃん泣かないで。私、まったく、これっぽっちも未練ないから。むしろ色々押し付けてごめんって。
「これまでの働きにより、元聖女クラフティは神殿よりの退去のみとする」
そりゃね、私に非はないもん。仕事はきっちりやってたし、世間の評判も良かったし。ただ内心で殿下を馬鹿にして軽く扱ってただけで。
あと、マドレーヌちゃんは転生ものお約束のヒドインみたいに他人に冤罪かけるような子じゃないしね。本当、いい子。彼女ならきっと馬鹿殿下であっても良いところ見つけて優しくしてくれるよ。私には無理だったけどね!
「はい。皆さまお世話になりました。それでは失礼いたします」
下手に足止めされても困るからさっさと王宮から出ていく。神殿にも別に私物ってないし、このまま実家に帰ろっと。
神殿と王宮って渡り廊下で繋がってるから、来る時はそっちから入ったけど、もう神殿所属でも王子の婚約者でもないから、堂々と王宮の正門から出てきてやった。普通ならどんなに近場でも正門の出入りは馬車でするんだけど、王宮から街中ってそんなに離れてないから徒歩で十分いける。そもそも現金持ってないから辻馬車にも乗れないんだけどさ。歩いて門を出る私は聖女のローブのままだし、門番も咎められないけど困惑の表情で見送ってくれたわ。
王宮の外には貴族街が広がっている。主な貴族の王都のお屋敷が固まってる。王宮ほどじゃないけど、どこも敷地面積広くって、歩くのちょっとだるい。でも聖女の仕事って結構体力勝負な面もあったから、全然平気。履いてる靴も踵低くて歩きやすいしね。
なので結局二時間くらいかけて街に入って(貴族街、広すぎ)。さらに歩いて二時間。ようやく実家に帰ってきました! 街に入ってから「聖女様」「聖女様」って皆が休ませてくれたり飲み物くれたりで予定よりかかっちゃった。よく歩いたからありがたくお言葉に甘えたよ。まあこっそり身体強化使ったり、自力で疲労回復もかけてたし、アイテムボックスに水筒も入ってたりで実際にはなんの苦労も疲れもなかったんだけどね。
「ただいまー! 聖女の力が枯渇したんで免職になりましたー!」
さすがにちょっと驚いた顔した両親も、すぐににやりと笑ってくれた。
「おかえり。お前がいつまでも聖女様やってられるとは思ってなかったよ」
「あ、やっぱりー?」
「部屋も元のままだし、さっさと着替えておいで。着替えもいれてあるから」
「わかった。また後でねー」
実は聖女活動中も実家とは連絡とってたのよ。近いうちにクビになって実家戻るからって知らせておいた。いきなりだと家族だって困るしさ。
街中の中堅どころの商家の自宅部分なんて、そんなに大きいものじゃない。個人の部屋があるだけ十分贅沢な部類だ。自室だって、前世でいう四畳半くらい? ベッドと机と衣装棚があるだけ。でも狭いながらも楽しい我が家、ってやつです。
部屋に入るなり、被ってたコイフ(シスターのベールみたいなの)とローブを脱ぎ捨てる。着てて苦しいドレスってわけじゃないけど、聖女の役目そのものの象徴みたいな服だったから、脱いだらすっきりした。ついでにクリーンも全身にかけて心身共にすっきり。過去は過去! これから私は本来の商人の娘!
着替えてちょっとだけとベッドに寝転ぶ。昼間っからこんなこと、聖女時代は許されなかった。まあ働かなきゃいけない商人の娘だって許されるわけじゃないけど、今日くらいは許す! 私が!
神殿に拉致されて聖女にさせられてすぐ、私は考えた。どうやって聖女をやめるか。どうやって王子の婚約者をやめるか。聖魔力は徐々に隠蔽して枯れていくように見せかけるのはすぐに決めた。ただ王命の婚約が厄介で。枯れたからといって、その素養のある血筋を王家が諦めるか確信がなかった。
だから代役を立てたのよ。
マドレーヌちゃんと会ったから、そう決めた。
治癒活動とか修行とか、とにかくマドレーヌちゃんとは一緒に行動することが多かった。彼女から貴族としての立ち居振る舞いを覚えろって意味もあったと思う。でも彼女は中も外もとびっきり聖女向きの子で。だから毎日こっそり、彼女の力を向上させるよう魔法をかけていった。過去にも治癒スキルしかなかったのに聖魔法まで昇華して聖女になった記録があったし。ただでさえ私がずっとそばにいる。それだけで彼女の能力も影響受けてたってこともある。
そして私の密かな努力の末、彼女はついに聖魔法に目覚めたのだ! ハラショー! 計画通り(にやり)。
力のなくなった庶民生まれの私と、聖魔法に目覚めた高位貴族出身の彼女。王家も神殿も、さっさと私を捨てて彼女に飛びついた。そりゃあもう見事な喰いつきだった。ふひひ。
だから私はこれからも一商人として活動しつつ、こっそり彼女のフォローもするよ! なにせ<全魔法属性(魔法量無限)>だからね!
聖女活動してた六年間だって無駄ってわけじゃなかった。何せ身分に関わらず顔が売れた。人脈は商売のキモ。そして悲劇の元聖女って看板は、絶対に使える。
お楽しみはこれからだ!
打ち切りじゃないよ、第二章がスタートするんだから。ここからが本番だ!
応援、よろしく!
読んでいただいてありがとうございます。
キャラ名は空腹時に考えました。
書きかけ放置中のものにも只今随時手を入れて投稿していく予定にしています。
よろしくお願いします。