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ここには味方がイナかった

作者: いと


 学校に到着すると、僕の机の中身がベランダに散らばっていた。コンパスや三角定規、そして電卓も散らばっていた。

 コンパスの鉛筆の先は折れてしまい、三角定規は角が欠けてしまっていた。


 周囲を見ると、目を逸らす人、まったくこっちを見ない人、そして不気味に微笑む人がいた。

「ああ? 何見てんだ?」

 不気味に笑う人がこっちを見て声をかけて来た。

「いや、何でも、無いです」

 同じ教室のいわゆるクラスメイトなのに、何故か敬語になってしまう。相手の声に怯えてしまい、声が震えてしまった。

「はははっ! こいつ、ビビってる? 大丈夫ですかー?」

 煽るように僕に近づき、顔を近づいて来る。けど、僕は怖くて何もできない。


「席に座れ」


 先生が入って来た。

 気が付いたらすでにホームルームの時間になっていた。

「何かあったのか?」

 先生の問いに、僕はベランダを見た。視線を送っただけで察して欲しかった。

「何も無いなら席に座れ」

「……はい」

 気は付いてくれない先生。そしてそれを見て笑うクラスメイト。中には心配そうな表情を浮かべてくれる人もいたけど、それ以上は何もしない。



 いじめの標的になったきっかけは謎。


 いじめっ子が『なんとなく』という理不尽な理由から、標的になり、そこから『大丈夫そう』『面白かった』という状態になったら、次が来る。

 だからこそ、防ぐことができない。いじめの標的にならなかった人は運が良かっただけ。それか、いじめの標的にならない行動を取ったのだろう。


 すでに僕は遅い。ここから巻き返すことなんて、考え付かない。


 昼休みになり、給食の時間になった。

 給食を受け取り、牛乳を取った後、箸を鞄から取り忘れていた。

 だからロッカーから箸を取りに席を立ち、箸を持って戻ると、牛乳が無くなっていた。


 周囲を見ると、全員こっちを見ていない。

 そして、一人だけ机の上に牛乳が置いてあった。

「あの、それ、僕の」

「ああ? これは貰ったんだよ」

「誰、から?」

「さあな。名無しの権兵衛さんかなー」

 それを聞いていじめっ子の仲の良い人はクスクスと笑った。

 目を逸らす人もいる。そして苦笑する人もいた。


 あきらめて牛乳が無い状態で昼食を終えて、片付ける。そして自由時間に入ると、一人の女子生徒が僕の席の近くに来た。

 何かを言いたげに硬直するも、しばらくしてその場を去った。

 何を言いたかったのだろう。

 もしかして、助けてくれるのかな。でも、もうこうなったら遅い。むしろ僕とこれ以上関わったら、その女子生徒までいじめの対象になってしまう。

 僕は関わってはいけない。標的と仲良くなれば、広がってしまう。この先の学校生活を考えたら、関わらない方が良いんだ。


 自由時間の後半に入り、生徒は戻って来た。

 いじめっ子はサッカーをしていたのか、服が泥だらけになっていた。

 その泥をわざと僕の所で払う。それを見て周囲の人は笑っていた。

「や、やめてよ」

「はあ?」

「その、キタナイ」

「うるせえ!」

 そう言って、僕を叩いた。とても痛い。


 僕は何も悪い事をしていない。なのにナゼか叩かれた。

 どうしテ叩かれたのかワカラナイ。悪いのハいじめっ子で、僕は何も悪い事をしていないはずなのニ。


 何度か叩かれた後、先程の女子生徒が戻って来た。

「熊谷君、ごめん。ちょっとそこの席、良いかな?」

「ああ?」

 女子生徒の手には水の入った花瓶。

 そして、一輪の花が刺さっていた。

「うわ、委員長、ひどっ」

「うん、そうだね。ひどいね」

「俺でも思いつかねー。流石に先生に怒られるべ」

「おこ……え、何が?」

 女子生徒は何故先生に怒られるのか、理解できなかった。


「だって、机の上に花って、死んだ人にやるやつだろ? まあ、こいつは死んでも構わないけどな」


 そのコトバに、腹の底からイカりが湧いてきた。

 今まで沢山のイジめをして、周囲は見て見ぬフリ。りーだーにドウチョウしてイッショにイジメをスル生徒までアラワレタ。

「いじめを先生に報告しなかった私が悪かったの。さっき、先生から頼まれて、この花を名倉君の机に置いてって言われたの」

「うける! 先生もグルかよ。いじめ公認とか学校として終わってんな!」


「公認? えっと、何を言っているのかわからないけど、その、聞いていて笑えない話だし、先生が後で言ってくれるけど……昨日の夜、名倉君が自室で亡くなったって……」


 女子生徒の言葉に周囲は黙り込んだ。


「は? 自室で死んだって、ここにいるじゃん」

 僕は椅子から立ち上がった。

 するといじめっ子は僕の肩を掴んだ。

「こいつだよ」


「えっと、腕を広げて……こいつって言われても……ごめん、冗談でもそのノリはついて行けない。ごめんね」

「はあ!? お、おい、昼休みに牛乳をこいつの席から取ったり、ベランダに机の中の物ばら撒いたり、皆も見てたよな!」

 いじめっ子の言葉に、一人の男子生徒が答えた。


「今日の熊谷はいつもより滑稽って思ってたよ。ベランダで腕をブンブン振り回したり、一つの牛乳を二つって言い出したり、挙句よくわからない事を大声で言いながら土をはらったり、逆にお前が怖かったよ」

「そうそう、周りの人も何か一緒になって腕を振って、ユーフォ―でも呼ぼうとしてたの?」

 いじめっ子と取り巻きは一気に顔を青くした。


 そして僕と目があった。


「牛乳、美味しかっタ?」


 ニコッと笑うと、いじめっ子はその場で尻をついた。

「死んでも構わないって言ってくれてアリガトウ。構わないという事は、死んだ後に会ってもカマワナイってコトダヨネ』

「うおおおおお! 来るなあああああ!」

 いじめっ子の周りの人は一気に僕の席から離れた。

『ナンデ逃げるノ? カマワナイんでショ?』

「ちょちょちょ、急にどしたー? うぜーんだけどー」

「熊谷が急に泣き出して、その周りも悲鳴って、何か見えるの? 冗談やめてよ」


 と、そこへ先生が入って来た。

「静かに。緊急で話がある。私もまだ信じられないのだが、名倉君が自宅で亡くなったという話が入っ……」


 先生は僕と目があった。


 先生ハ僕ト目がアッタ。


 センセイハ僕ト目ガアッタ。



 センセイハセンセイハセンセイハ。



「ぬああああ! す、すまなかった! すまなかった! いじめを見て見ぬしてた俺が悪かったから、見ないでくれ」

「ちょ、先生まで急に何!?」

「先生!?」


 ため息をついて僕は家に帰った。



 自室に入ると、そこには布団とテレビが置いてある。

 毎日掃除していたから綺麗だ。


「礼音!」


 部屋に突然父さんが入って来た。

「父さん?」

「はあ、はあ、お前、学校で何があった?」

 先生から連絡でもあったのかな。まあ、今となってはどうでも良い。


「先生も含めて、全員が僕をいじめて来たんだ。転校したいな」


 了

 はーい!(めっちゃ明るい挨拶)


 普段明るい物語を書いていて、突然暗いの書きたくなったいとです!

 暗かったので、後書きの最初は元気いっぱいでお送りしました!


 さて、今回のお話は「いじめ」を題材に書きました。

 ホラーに設定したのは、幽霊よりも人の方が怖くね? という発想からです。

 そんな今作ですが、どの視点かで考え方は変わります。

 最後のセリフだけ読めば、主人公は生きてて、全員が主人公をいじめてるという感じ。

 主人公や父親は死んでいて、いじめていた生徒や先生だけが見えるという感じ。

 委員長という第三勢力が混ざったいじめ。

 とまあ、探せば探すほど見つかります。まあ、実際のいじめはさらに多く、エゲツない物ばかりです。


 一応、現実的な矛盾として「昨日亡くなった」という話が本当なら、学校は翌日には知っているはずです。

 と言っても、それを隠蔽するという考えもあります。これは社会的ないじめ……と言うか、犯罪ですね。


 かと言って、学校は悪い場所という思いで書いたわけではありません。当然、良い思い出だけとは言えませんが、それでも友人を使って楽しく過ごした思い出の方が多いですね。


 何故いじめについて書きたくなったかと言うのは、正直突発的とも言えます。何か思い出したとか、ニュースを見たとかでもありません。

 ただの思いつきで、いじめについて書きたくなったという感じですね。

 いじめももしかしたら、ただの思いつきで始まり、それが大きくなってしまうのかもしれませんね。

 何もできなくなる前に気がついて、間に合えば良いと思います。


 当然のことですが、ここで言う「何もできなくなる」と言うのは熊谷君の言った言葉の意味を指します。


 暗い話はこの辺に、ここまでご覧いただきありがとうございます。

 最近は究極に忙しくて、創作する間もありませんでしたが、出張の移動中に書けたので、そのまま更新となります。

 楽しいお話かと言われれば……まあ、ベクトルは異なりますが、少しでも印象に残ってくだされば幸いです。


 では!

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― 新着の感想 ―
[一言] ?
[一言] うん、読む人を選ぶ作品ではありますが、しかしタイトルだけ見て「わー、知さんだ!」と思いながら先入観抜きで読みました。 ……不祥、稲村某。文章読み続けて早、ン十年。 特に難しい表現には行き…
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