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呪心〜誰かの心の収集記〜  作者: 榛原朔
行事の書 二章 怨霊を祓う日の出

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後日譚-教祖の来訪

本日2度目です。

大嶽丸様より七死に課せられていた、荒ぶる怨霊の保護。

ドグマというコードネームと共に与えられていた、責務。


彼らにだけ罪があるとは言えませんが、その影響で愛宕の街にもいくつかの問題が生じ、クロウさん達は調査にやってきました。


エニグマさんのお陰で、少し拗れてしまいましたが……

七死だけでは到底実現できなかった結末を迎えられ、怨霊は成仏。無事解決です。


あまり上手く話せませんでしたが、いつの間にか解決していてとても嬉しい。やはり笑顔は偉大ですね。


……彼の言う通り、七死の役目はすべてなくなりました。

新たに指示を出す鬼神(きじん)様はおらず、現在の妖鬼族は人間との融和を望み、怨霊も祓われた。


唯一、里と大陸の商売というものはありますが……

それもラメントさんやミラージュさんの役割です。

責務から解放された私は、とても暇になってしまいました。


そんな時に頭に浮かぶのは、クロウさんの提案です。

街に来てみないか……という提案。


アンノウンさんはよくわかりませんが、ニルヴァーナさんなどは監視の合間に出向くこともあるのだとか。


正直に白状してしまうと、私はとても羨ましいのです。

人とお話するのは苦手ですが、多分皆さんの目にもわかってしまうくらいにソワソワしてしまいます。

……ふふ、お恥ずかしいですね。


それと同時に、お話をする必要があるのでとても恐ろしくもあるのですが……七死の皆さんにお声がけするのも、少し気が引けます。


延々と教会で悩み、森を出てみて、また戻って。

その繰り返しの果てに、私はついに意を決してラーメンというお料理のお店にやってきました。


「……」

「いらっしゃい!」


のれんを潜って店内に入ると、モワッとした熱気や脂っこい香りと共に、店主さんの声が響いてきます。

おそらくお話をする必要はないのでしょうが、話しかけられるとびっくりしてしまうので、少し困りました。


思わずニッコリと笑みを浮かべてしまいます。

すると店主さんは、特に余計な会話などはせず『空いている席へどうぞ』……という風に仰ってくれました。

やはり余計な会話は必要ないみたいで、ありがたいですね。


私は人に話しかけられるとびっくりしてしまうので、急いで一番端っこにあるお席に向かいます。もちろん、教祖ですのでそうは見えないように。


……いつものように白い祭服を着てきてしまいましたが、白い服はまずかったでしょうか? よくわかりませんが、反省点ですね。次回は気をつけなければ。


お席はテーブルとカウンターがありますが、私は1人なのでもちろんカウンター。一番端っこにあるまんまるとしたお席に腰を下ろします。


……さて。お店に入るまでもドキドキ致しましたが、大変なのはここからです。注文を、しなければ。


どうやってするのでしょう?

店主さんにお声がけすればよろしいのでしょうか?

私が困っていると、店主さんは何やら冊子を手渡してくださいました。どうやら、これがメニューのようです。


お味噌にお醤油、塩ラーメン。

お肉がたくさんのものにお野菜がたくさんのもの……

ううーん、一体どれを選べばよいのやら。

わかってはいたことですが、やはり迷ってしまいます。


しかし、店主さんがお聞きになった時に答えられるように、素早く決めておかなければ……ここはやはり、お野菜?

これが一番食べやすいのかもしれません。


なんとか間に合ったので、メニュー表を指差すことでなんとか注文を終えます。これであとは、食べるだけ。

よかった、思ったよりも簡単ですね。

やはり笑顔は偉大です。待ち時間さえ笑って乗り切れば……


「邪魔するよ」

「……!!」


難所を超えてつい気を緩めていると、丁度そのタイミングに聞き慣れた声が聞こえてきます。思わずぴしりと体が凍りつき、頭が真っ白になりながら振り返れば、そこにいたのは……


「やっほー、こんにちは、ごきげんよう♪

今日は久しぶりに‥」

「黙んな、ナイトメア。店の迷惑だ」

「わっはー、常に無言の食事などつまらないだけ‥」

「言葉には配慮が必要だよ。

できないならぼくみたいに黙ってた方が得策さ」

「んん~、今はなんと仕事中でも謹慎中でもありませぬ‥」

「お前がその気なら、俺の食事は後回しでいいぜ?」

「はっはっは、ワタシも今は静かにした方が良いと思いますよ〜? せぇっかく拘束を解かれたのに、こぉんな下らないことで逆戻りだなんて馬鹿らしいですからねぇ」


やはり、ニルヴァーナさん達でした。

彼女達はいつものように喋り続けるナイトメアに対して、口々に注意を促しながら店に続々と入ってきます。


幸いにも、延々と喋り続けるナイトメアさんを注意することに意識が割かれ、私には気がついていないご様子。

仕事中ではないとはいえ、ミラージュさんまで諌める側にいるのは相当なものです。


「なんてことだっ、まさかエニグマまでほだされるとは……!!

それでもあたしはこの楽園で、1人窮屈な法則に逆らい‥」

「あいわかった、お前は出禁だ。セルフ出禁。

俺は後でまた来るけど、お前はもう帰るぞー」

「えぇっ、待って待ってよーう!? 君はあれから僕がどれだけの苦行を受けているか知らないわけでも‥」

「静かにしなかったお前が悪いな、自業自得だろ?」

「待ち給えーい!! 私ならばこの店の宣伝にも役立つことが可能だヨ? なんたって、俺は奇術師だから☆

あっ、ちょ……引っ張らないで、引っ張るのはやめるのだ……」

「はぁ……お疲れさん、ナイトメア」


騒々しく喋り続けたナイトメアさんは、ニルヴァーナさんに手を振られながら、プリズナーさんに無理やり引きずられる形で店を出ていきます。


……えっと。彼は一体、何だったのでしょうか……?

よくわかりませんが、さっきの騒動のお陰でエニグマさん達はこちらを見ることなく、遠くのテーブル席に着きました。


普段であれば、彼に話しかけられると困ってしまうのですが、今回ばかりは感謝しなければ。


……ですが、なぜ皆さんこんなところにいるのでしょう?

アンノウンさんは姿が見えないのでわかりませんが、泣いているラメントさんも後ろにいたので、どうやら私以外の七死は全員揃っているようです。


……おかしいですね。私は一度も彼女達に誘われたことはないのですけれど。もしかして、これが噂に聞く仲間外れ…というものなのでしょうか? 私はいつも笑顔なのに、なぜ……?

笑顔は世界を救うのではなかったのでしょうか……?


クロウさんはあんなに好意的に話してくださったというのに、これは流石に悲しいですね。胸がチクチク痛みます。

とはいえ、この状況ではありがたいと思うべきなのかもしれませんね。


プリズナーさんを見送ったニルヴァーナさんも、そのまま私に気付くことなく向こう側のテーブル席に向かっています。

こっそり食べて帰れば、バレないかもしれません。


「あんたら、何にする? あたしは塩ラーメン」

「はっはっは、ラーメンといえば特盛でしょう?

ナイトメアを煽るためにも、特に豪華なものを!!」

「性格が悪いなぁ、エニグマは。ぼくは海を感じたいから、魚介系にしておくよ」

「しばらく海音ちゃんに会ってないから? 悲しいね……」

「うるさいなぁ、ぼくの勝手でしょ?」

「そんなあたしは獣が恋しい。豚骨ラーメンを……悲しみ」


私がソワソワと待っている間に、ニルヴァーナさん達も注文を終えたようです。なぜ私はあの輪に入れていないのか……

不本意ですが、紛れもない事実のようですので、食べながら考えるとします。


「はいよっ、お待ちどお様!」

「……」


注文したラーメンは、タイミングよく目の前に出されます。

なんと返せば良いのかわからないので、ニッコリと笑みを浮かべて受け取り、いざ実食です。

ええと、箸はどこにあるのでしょうか……?


「……」

「……」


私が箸を探していると、なぜか箸入れが目の前に浮かんできてふわふわと揺れ始めました。愛宕にあるお店では、こんなサービスがあるのですね。少し驚きました。

クロウさんが言っていたのが、まさかこんなものだとは。


ですが、決してそれを表に出すことはありません。

私は一応ドグマというコードネームを持つ七死のリーダーですので、さも当たり前かのような顔でそれを受け取り……


「……」

「……」


私が浮いている箸入れを手を伸ばすと、何もないはずの場所には人の肌のような柔らかい感触が有りました。

どうやらこれは、浮いているのではなく持ち上げられているだけのようです。


姿は見えず、気配も感じないけれど、たしかにこの場所にはいる誰か……もしかして、アンノウンさんでしょうか?

まさか、本当に私以外の七死は全員呼ばれていたとは思いませんでした。軽くショックです。


ついつい、箸を持った手が止まってしまうくらいに。

しかし、せっかくアンノウンさんが箸を渡してくださったのですから、感謝をお伝えしなければ。


姿は見えませんが、手の位置からおそらくはいるのだろうな……という場所に向かって、私はニッコリ微笑みかけます。

感謝の気持ち、伝わっていれば嬉しいです。


……おや? アンノウンさんは唯一私に気がついてくれて、私との交流を持ってくださっている。これはもしや、友人?

とても嬉しいです。やはり笑顔は偉大ですね。


とっても嬉しくなったので、私は再度アンノウンさんがいるのだろな……という場所に向かってニッコリ微笑みかけます。

なにか言うべきでしょうか……? 言いたいことはたくさんあるのですが、やはり悩みますね。……ふむ。


「……いたのですね」


わざわざそばにいてくださって、とても嬉しい。

この気持ちが伝われば幸いです。

さて、ではいよいよ実食といきましょう。


私の目の前に置かれているのは、お野菜がたっぷりと乗せられているラーメン……これ、多くないです?

麺が見えませんけれど、どうやって食べるのでしょう?


お野菜がたくさんということで選びましたが、よく考えたらイラストも多かったのでしたっけ……

これはうっかりしていました。食べ切れるでしょうか。


いいえ、きっと大丈夫ですね。

少し不安になってしまいましたが、今の私にはアンノウンさんもついていてくださっているのですから。


とっても勇気が湧いてきました。やはり笑顔は偉大ですね。

彼女の存在に勇気づけられた私は、意を決して麺に蓋をしているお野菜を口に運びます。


「……」


シャキシャキと鳴るお野菜は、しっかりとスープの味が染みてシャキシャキとしており、とても美味です。

ああ……やはりクロウさんの提案に従ってよかった。

はい、私もうとっても満足です。



「行事の書 二章 怨霊を祓う日の出」はこれで完結となります。しばらくは化心を多めに投稿するので、おそらくは暇だと思われる三が日などに、時間潰しとしてご利用ください。

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