表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪心〜誰かの心の収集記〜  作者: 榛原朔
行事の書 二章 怨霊を祓う日の出

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/59

29-怨霊の祓れた日の出

「ふぁ……」


悪夢の中で怨霊を祓ったクロウ達は、プリズナーに拘束されていたナイトメアの能力を解かれ、次々に目を覚ます。


とはいえ、彼の能力下に入るためには眠っていることが前提にあるため、たとえ悪夢が終わってもすぐに眠りが覚める訳では無い。


悪夢が終わった後に、自分で起きなくてはいけないのだ。

そのため、クロウが教会で目を覚ました時には、もう何人かの仲間が姿を消していた。


「……七死のやつら、もうどっか行ってるよ」


チャーチチェアから起き上がった彼の周りにいるのは、まだ眠っている環とロロ、雷閃、海音など。

そして、もう起きて話し合っている紅葉と雫、怪我しているからか寝転んだままの虎熊童子などだ。


金熊童子は捕まっていた仲間の元へと向かったのか不在で、七死の大多数も、おそらくはナイトメアたち七死の男性陣をシメるために何処かへ行っている。


といっても、アンノウンに関して言えば、そもそも一度も姿を見ていないのだが。唯一この場にとどまっている七死は、最初からこの教会を根城にしている七死のボス――ドグマだけだった。


紅葉達が何か相談していることもあって、彼は起き上がるとすぐに彼女の元へと真っ直ぐ向かっていく。


「よ、ドグマ」

「……」


クロウが明るく声をかけると、ジッと立っていた彼女は彼の目を見ながらやはりただニッコリと笑う。

何を考えているのかは不明だ。


ミラージュも仕事中は話さないを徹底しようとしていたが、彼女だけは最後までブレない。


話せるのに話せないという、圧倒的なコミュニケーション能力不足を発揮していた。とはいえ、彼ももう彼女の性質をわかっているので、動じることはない。


構わず彼女の前まで来ると、雷閃がアンノウンにやっていたのと同じように寄り添い始める。


「無理に話そうとしなくてもいいぜ。もうあんたのことはわかったからな。もちろん、悪い意味じゃなく」

「……」

「とりあえず、ご先祖様が成仏できてよかった……よな?

エニグマとかのせいでごちゃごちゃしたけど、最終的に七死のお陰で問題が解決できた。大嶽丸を否定した俺達の尻拭いだったとも言えるから、本当に感謝してる。ありがとう」

「……」

「お前はこれからどうするんだ?

もう上司だった鬼神(きじん)はいないし、最後の命令も終わった。

環も人里に下りたし、七死は自由だよな?」

「……」

「俺としてはな、お前らも愛宕に来てみてほしいよ。

俺達はただの客人だけどさ、故郷を除けば1番長くいた国だから、結構愛着も湧いてるし単純に色々あるんだ。

建物も綺麗で、ご飯も美味しい。寿司とか……は食べ慣れてるかもだけど、そうだな……ラーメンとかは里にないかもな? いや、同じ島にいるからあるのかもしれねぇけど……」


神像の前に立つドグマは、ただニッコリと微笑み続ける。

そんな彼女に対して、クロウは様子を伺いながらも一方的に話しかけ続けた。


どれだけ話しかけても、返事はない。

ドグマはニッコリと微笑みながら、ただ話を聞くだけだ。

しかし、話せなくてもコミュニケーションを取ろうとしてくれる彼を見る表情は、いつもよりも確かに……




「お、そろそろ日が昇りそうじゃないか? というか、最近ゴタゴタしてたけど、よく考えたら昨日は年越しだったな」

「……」


ずっと無言のドグマに話しかけていたクロウは、日が昇ってきそうなことを確認すると、ようやく口を閉じる。

彼女は特に喋っていないので、相変わらずニッコリと微笑んでいた。


怨霊を祓うために眠っていたが、昨日の夜は年越しだ。

今昇りかけている太陽は、初日の出ということになる。


しばらく黙って明け方の空を眺めていた彼は、やがて唐突にドグマの手を取って、外に出ようと入り口に向かっていく。


「せっかくだし、初日の出見に行こうぜ。

エニグマ達が観戦してたみたいに、屋根の上から」

「……違いはありませんが」

「ん? 見やすさは変わるし……初日の出に対してか?

まぁ確かに同じ日の出だけど、今笑えればそれでいいだろ。

便利だからって1年は俺達が勝手に決めて、年の区切りも勝手に決めてる。違いがないものに特別を見出してるんだから」


負傷した虎熊童子が再び眠り、紅葉達も目を閉じている教会の中を、クロウはドグマの手を引いて進む。

ようやく口を開いた彼女はやや否定的な意見を口にするが、足を止めずに柔らかく答えていた。


「……不思議」


別に拒絶した訳でもなかったのか、彼女も手を引かれたままポツリとつぶやく。もちろん、一度も足を止めようともしていない。


彼女は素直にクロウに手を引かれて教会を出て、碧眼を輝かせる彼に横抱きにされ、ひとっ飛びで教会に登る。

下ろされた先に広がっていたのは、怨霊や悪夢などといった不吉なものとは程遠い輝きだ。


「神秘に寿命はないから、そういう意味でも無意味かもな。

けど、昨日の鬼神(きじん)みたいに死はいずれ訪れる。

この教会の上で、今この瞬間に見ることができる日の出は、確かにこの初日の出だけなんだから、ただぼんやりと綺麗だなって、それだけで良いと思うぞ。ほら、鬼人の闇と一緒に年は明けた。この先の未来は、きっと明るい」

「……祓れましたね」

「……綺麗に祓れたな」


鬼人が隠れ住む神奈備の森を、輝かしい初日の出が照らす。

そこには怨霊や怨みの影もなく、ただ眩しい日光に照らされた神秘的な光景が広がっていた。


今回は去年よりもストーリー性を重視したので、お正月要素は少なめでした。いかがだったでしょうか。

感想いただけると嬉しいです。


次回は3章なので、書くとしたらハーベストフェスティバルがいいかなぁと思っているのですが、間隔が短いのでおそらく今年のこの時期に書いて、来年の10月前後に出す感じになるかなぁと思います。


1人でソシャゲみたいなことするの、本当に大変だなぁ笑

ちなみに、まだ後日譚的なものも1話投稿します。

5時に予約投稿しているので、ぜひ楽しんでください。


(今回のクロウは、珍しく主人公ムーヴしたなぁ。

実は自分、恋愛もの以外でヒロインするためのヒロインってあんまり得意じゃないんですけど、ドグマはヒロインっぽい感じのまとまり方になったなと思いました)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ