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呪心〜誰かの心の収集記〜  作者: 榛原朔
行事の書 二章 怨霊を祓う日の出

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26-七死の目的

「スハァ……」


クロウ達を担いで教会に入った海音達は、目の前で繰り広げられる戦いを見てピタリと動きを止める。

そこで戦っているのは、もちろん笠を被った商人のラメントと2人の鬼人だ。


虎熊童子は傷を押さえて椅子の下に隠れ、金熊童子は隠れることもできずに銃弾の雨を受け続けている。


ニルヴァーナにとっては顔見知りの同族で、海音にとっては初対面の敵であるはずの者たち。

それぞれの考えていることは違うが、どちらも多少は戸惑い動けずにいた。


「えっと、手前の方々は……?」

「うちのラメントと、鬼人の虎熊童子と金熊童子だね。

無抵抗に撃ちまくられてるのが金熊童子だよ」

「はぁ……あの、助けた方がいいやつですか?」

「……まぁ、多分味方ではあるんだろうしね。頼むよ」

「わかりました、では……」


敵だと認識しているラメントが、なぜか知らない人と戦っていることに困惑を隠せずにいた海音は、ニルヴァーナに頼まれたことで迷わず一歩踏み出す。


担いでいたクロウをニルヴァーナに預け、流れるように。

腰に差している刀に手を添え、力を抜いた全身に神秘的な力を込めて、一瞬だけ手元を煌めかせる。


"我流-叢時雨"


瞬間、放たれたのは前方に飛ぶ小雨の如き細かさで大雑把な水の斬撃だ。下手に人を傷付けないように抑えめで、しかし確実にラメントの銃弾を撃ち落としていく。


いきなり攻撃をすべて弾かれた彼女は、自身もまた弾かれたように海音のいる方を向いた。


「っ……!? ニル、ヴァーナ? 悲しい……」

「悲しかないよ。別にあたしは裏切ってないんだから。

スハァ……どちらかと言や、そりゃエニグマだ。

あいつはあたしらが揉めるように、嘘を教えた。

彼女達は七死も怨霊も殺そうとはしてないよ」

「そう、なの……?」


邪魔をされたことで、ニルヴァーナが裏切ったと思った様子のラメントだったが、彼女がクロウを返しながら言葉を返すとすぐにそれを受け入れる。


銃撃が止まってもしばらく頭を抱えていた金熊童子は、そのやり取りを聞いて恐る恐る目を向けていた。


「そうだよ。あたしらは怨霊を殺したくはないが、抑えたり祓ったりできるのならそうしたい。彼女達は怨霊やあたしらを殺しに来たんじゃなくて、怨霊が原因で起こって……いや、起こさざるを得なかった問題を解決したいだけ。

殺す必要はなく、祓うのであれば目的は一致している」

「……うちは、かつて同族喰らった大嶽丸様と同じ鬼神(きじん)なら、やっぱり人側についた魂鬼様はうちらを殺すのかと思った。

エニグマは、それを肯定するようなことを言った」

「そう、ただの勘違いだったのさ。スハァ……」


ラメントが騙されたことを理解し、落ち着いたことを確認すると、ニルヴァーナは担いでいたミラージュを下ろす。

隣の海音もそれに倣い、クロウを数人がけのチャーチチェアに彼を横たえた。


「ドグマは相手と何か話してるようだし、とりあえず勘違いについては一件落着かね。これからのことを話すためにも、まずはこの子らを起こさないと。あんたらの傷は平気かい?

銃なら致命傷はないと思うけど」


殺し屋であるはずのニルヴァーナは、だからこそなのか冷静にミラージュ達の負傷を診ながら、起き上がった金熊童子達にも声をかける。


この場に回復系の神秘はいない。

あくまでも傷を見て、できる範囲で軽く手当をするだけだ。


クロウとミラージュは意識を失っているが、どちらも急所を強打されて昏倒しているだけなので、軽く診てから起こされ、虎熊童子達は彼女が懐から取り出した包帯で銃創がある辺りを応急処置された。


「うーん……? あれ、海音? 着いたのか」

「はい、先程。七死は敵ではありませんでした。

これから、この後の予定のために話し合いをします」

「え……? はぁ」


虎熊童子と金熊童子が、バシバシとじゃれ合っている中。

海音はクロウが暴れ出さないように釘を差しつつ、彼女達との話し合いのために立ち上がらせ、手を引いていく。


隣では彼がさっき戦っていたミラージュもニルヴァーナから説明を受けており、疑ってはいない様子だがかなり戸惑っていた。


頭痛もまだ治っていないのか、頭を押さえながら脳震盪でふらつく足を教会の奥――神像の前に向けている。

そこにいるのは、当然2人の鬼人――紅葉とドグマだ。


倒れそうになりながらも、海音に支えられてチャーチチェアに倒れるように座ったクロウは、七死のボスであるドグマに揺れる視線を向けた。


「えーっと、なんか敵じゃなかったって聞いたんだけど……

元々敵視はしてなかったし、事情を教えてくれ」

「……」


彼はまだ頭が働いていないのか、戦いを始める前にも会話を試みて挫折した相手に普通に話しかけた。

いきなり攻撃されたとは思えないくらいに友好的である。


しかし、相手はあのドグマだ。この短期間でもわかるくらいに話せない。紅葉が疲れた表情を浮かべている横で、彼女は相変わらずただニコリと笑いかけていた。


「はぁ、そいつはまともに交流できるやつじゃないよ。

うちのトップはワンツー揃ってまともじゃないんだ」

「ニルヴァーナ」


実際に目の当たりにしたことで彼女のことを思い出したのか、クロウが頰を引きつらせて固まっていると、少し遅れて来たニルヴァーナは容赦なく彼女達をそう評する。


振り返った彼が名前を呟くと軽く驚いていたが、すぐに後ろで隠れている虎熊童子らを見ながら話を続けた。


「ん。名乗ってなかったが、この子らに聞いたのかい。

スハァ……まぁ、説明とかはあたしがするよ」

「ありがとう、頼むよ」


クロウがお礼を言うと、彼女はタバコの火を消しながら手をひらひらと振り、説明に入っていく。

まず説明するのは、もちろんさっき海音にも話していた敵対に至るまでの経緯の話だ。


彼女たち七死にとっての鬼神(きじん)とは何か、エニグマが嘘の報告をしたこと、今はプリズナーが捕らえていることなどなど、必要な情報はパパっと伝えられる。


次は、海音もまだはっきりとは聞かされていない、彼女達の真意についての話だ。


「あー……そもそもあたしらは、引きこもっている鬼神(きじん)様方に代わって、里外の活動をするための暗部だ。

まー最後は大嶽丸様だけだったし、万が一の場合には人間を滅ぼす任務もあった。が、環様はそちらについた。

ならあたしらはそれに従うまでさ。完全に納得した訳でもないけど、人が変わるならあたしらも変わる。

ここまではいいかい?」

「あぁ」


珍しくタバコを吸っていないながらも、相変わらず怠そうに話しているニルヴァーナに、チャーチチェアに並ぶクロウ達はうんうんと頷いて見せる。


最初は特にドグマに怯えていた虎熊童子達も、クロウと海音に挟まれて座っているのでご機嫌だ。

ラメントとミラージュがぺちゃくちゃ喋って存在感を示している中、そんな2人もドクマも気に留めず話を聞いていた。


もちろん、落ち葉船でふわふわと空を飛びながら聞いていて目立つ紅葉も、ガン無視だ。人数が多いだけあって、かなりカオスになってきた空間で、殺し屋の講義は続く。


「ただ、大嶽丸様からの命令にはそれ以外のものもある。

かつてあの方々が喰らうことで、生の苦しみから解放された鬼神(きじん)……その方たちの魂を見守ることだ。

あの方たちは、遥か昔に寿命がない神秘であることに疲れ、死を選んで復讐を大嶽丸様達に任せたモノらしい。

だが、特に怨みの強い者は現世に留まり、精霊としてあの方々の戦いを見ていた。もちろん、その敗北も。彼らは怨みを膨らませ、怨霊として今にも暴れ出そうとする。

その怒りを抑えるために、あたしらはナイトメアの悪夢で人を殺すことを夢見させた。その影響で暴れ出す同胞を抑えるために、ミラージュの幻で拘束し、誤魔化した。

つまりあたしらの目的は、大嶽丸様に託された方々を殺すことなく、納得して成仏してもらうことだ」

「なるほど……」


ようやく事件の全貌が見えたことで、クロウ達は真剣な表情で考え込む。悪夢や幻はたしかに七死の仕業ではあったが、本当の敵は恨みそのもの。


この後の予定を話し合うためにと聞いた話だったので、問題が明確になりつつも、難易度が上がったことに頭を悩ませることになった。


といっても、人間との敵対や熊童子が捕まったことへの抗議が目的だった虎熊童子達は、あまり関係がないので気にしていない。


それどころか、『なんだよお前ら良いやつだったのかー』と、満面の笑みを浮かべているくらいである。


「……ところで、精霊ってなんだ?」

「ん。一般的には、山や川などの自然が意識を持ったものが精霊だ。それ以外でも、人が死後幽霊となるように、神秘が死後なる場合もある。あまりにも意志が強ければね。まぁ、あんたら魔人や聖人とそう変わらないものと思って良い」

「死後……」

「それから、そう気を落とす必要もない。人間の手が借りられるのなら祓う方法は簡単だ。今晩、実行するよ」


数少ない真面目に話を聞いている人物であるクロウに対し、ニルヴァーナは再びタバコに火をつけながら語りかける。

彼が『もうあんたがリーダーやれよ』と呟く中、タバコの煙は2人の人が手を取り合う形を作り出していた。



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