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呪心〜誰かの心の収集記〜  作者: 榛原朔
行事の書 二章 怨霊を祓う日の出

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25-傍観する戦犯

本日3度目です。

「キャーキャー、おっもしろ〜い♪

殺し屋と囚人が、束になって1人の侍に襲いかかっているよ?

二人がかりで押されているなんて情けないねぇ。だが、それも無理からぬことであると、この我が宣言しよう!!

なぜなら、相手は鬼の子だから〜♪ 無力なワタシ達はもちろんのこと、満ち足りた未知も道を拓けはしないのサ☆

将軍サマでもまだ分が悪い? うんうん、そうであろうとも! 彼は負けないことをより重視し従事し‥」

「少しは黙れないのかーい? せーっかく観戦できているのに、これじゃあ後でシメられかねないよ」


1人でも延々と喋り続ける黒い道化師のような服装をした男――ナイトメアに、隣に座っている茶色いトレンチコートを着た男――エニグマは面倒くさそうに文句を言う。


彼らがいるのは、現在ドグマやラメントが紅葉達と戦っている教会の上だ。里の中で最も立派で、高い建物である教会の屋根に陣取る彼らは、片や両手を広げて騒がしく立ち、片や座り込んでじっくりと観戦している。


だが、どちらにも言えることは、自らが蒔いた種が芽吹いているのを心の底から楽しんでいるということだった。

といっても、揉め事が起こっている今が終わってしまえば、彼らは処罰を免れることができない。


その未来が見えているため、エニグマは湯悦に浸りながらも殊勝な態度を心がけ、悪意の見え隠れするナイトメアに注意を促しているのだった。


しかし、探偵がつるんでいるのは奇術師だ。未来のために今を楽しまないはずも、人の話をまともに聞くはずもない。

彼はその場に立ったまま全身をグニャグニャと曲げ、見た目にも声にも騒がしく否定していく。


「フッフッフ、キミはせっかく煽った結末を全力で楽しまないというのかい? 愚かなりエニグマ!! たとえ後で半殺しにされるとしても、僕は今この瞬間を楽しむことをやめられはしないっ! だって、その方が断然楽しいから〜♪

あたしはどんな状況でも笑顔を忘れない奇術師サ☆」

「ほーう。では、万が一の場合はあなたが主犯ということでお願いしますね。ワタシは協力者だ」

「いいでしょう。面白おかしく君の生み出した物語を語ってみせようじゃあないか!! 俺のショーの見せ場だネ☆」

「ちょっとちょっと、それじゃワタシが主犯……」


七死の男性陣は、激しい戦闘が行われている教会の上でただ笑う。自分達がした悪事を押し付け合い、眼下で行われている二組の殺し合いを眺め、愉悦に浸る。


だが、そんな彼らの元にも戦闘の余波は訪れた。

教会を斬るつもりはなかったのか、足場となる教会や彼ら自身に直撃することはないが、天を斬る一撃は彼らにスレスレの位置を勢いよく飛んでいく。


座っているエニグマはまだ近くを通った程度で済んでいたが、立っているナイトメアは目と鼻の先を掠めており、全力で騒ぎ出す。


「うぎゃーっ!? 何だよ何だよ、とんでもない威力だね!?

僕じゃなかったら死んでるよ!? いやいや俺にゃ当たっておりませんけどもー♪ 鼻の皮がツルンと剥けて肝が冷えたよ、あはぁ参ったネ! だけどもけれども私は動じなーい!

なんてったって、常に危険をショーする奇術師だからサ☆」

「……」


彼を囮にするかのように黙ったままのエニグマとは真逆で、ナイトメアは屋根を転げ回って騒ぐ。

当たっていないからこその物言いなのだろうが、きっと彼は直撃しても騒ぐだろうという確信を覚えさせる。


そんな彼は、一体どんな悪夢を見ているというのか。

ひとしきり騒ぎ終わって立ち始めた頃、天を斬る水の斬撃とは別の方向から、鋭い雷が彼めがけて飛んできた。


今度もまた、当たり前のように殺し合いの余波だ。

彼の姿など見えていないはずなのに、的確に彼めがけて飛んでくる。


「うぎゃーっ!? 何だよ何だよ、とんでもない精度だね!?

僕なにかしたかなぁ!? どちらかというと、エニグマの指示に従って楽しんでるだけなんだけどー? だけどもそれすら受け入れよう!! なにせ私は、常に余裕の道化師だから☆」

「……」


またしても騒ぐナイトメアに、何やら考え込んでいる様子のエニグマは、彼を囮にするかのように黙り込んだままだ。

チラリとその様子を見たナイトメアは、流石に懲りたらしくいそいそと彼の隣にちょこんと腰掛ける。


だが、彼に降りかかる悪夢は終わらない。

今度はまた侍と殺し屋、囚人が戦っている方向から、砕けた岩とそれを運ぶように飛んでくる水刃が迫ってきた。


1つ目よりも威力はないが、その分数が増えた水刃と岩の礫は、しかしエニグマには当たらず、なぜかナイトメアにのみ襲いかかっていく。


「うぎゃーっ!? 何でワタシにだけ当たるんだい!?

え、もしかして狙ってる!? いーやいや、そんなもの可能性すら信じないよっ! なにせ、驚かせて笑わせるのはあたしの専売特許なんだからサ☆ へい、奇術師は動じなーい♪」

「スハァ……じゃあ、一体どんなことなら驚くのか、ちょいとあたしに聞かせておくれよ。ナイトメア」

「ギョエーッ!? ニ、ニルヴァーナァァァ!?」


座ってもなお己の身に降りかかる不幸を、彼が相変わらずのテンションで笑い飛ばしていると、唐突に彼らの背後からは低い女性の声が投げかけられた。


道化師らしく大袈裟な動作で振り返ってみれば、そこにいたのは刀を肩に担ぎながらタバコを吸う、スーツ姿の殺し屋――ニルヴァーナだ。


これにはエニグマも驚きを隠せず、考え込むように顎に手を添えた格好で目を見開き、固まっている。

さらには、彼とナイトメアは見えない何かに押し倒されたかのように体勢を崩し、屋根に顔を押し付けられていく。


そんな彼らを見下ろす殺し屋は、疲れた表情のまま怠そうにタバコを吸っていた。


「スハァ……」

「ハハ、なぜ狙い澄ましたかのように飛んでくるのかと考え込んでいたら、まさか本当にもうバレているとは」

「ん。割りとすぐに負けたし、明らかに手加減されてたからね。目的も聞いたし、魂鬼様……いや、環ちゃんに問答無用でこちらを殺す意思がないことも聞いた。スハァ……

あんた、全部推理した上で嘘を伝えたね? お互いに殺しはしないだろうって、自分が楽しむために」

「フフフフ……さぁて、それはどうでしょ‥いででで……!!」


すべて理解した様子で明かしていくニルヴァーナに、それでもエニグマは素直に悪事を認めない。

往生際悪く誤魔化そうとして、見えない何かにより強く押さえ付けられて苦しみ始めた。


しかし、ぼんやりと地上を眺めながらタバコを吸う彼女は、既に解決した探偵の悪事になど興味がないようだ。

もはや視線を向けることもなく、淡々とテンション低く言葉を紡ぐ。


「スハァ……真意はどうでもいいよ。とりあえず、あたしらは人間と協力して怨霊を祓いにかかる。邪魔したあんたらは後でお仕置きな。まぁ、半殺しくらいは覚悟しといてくれ。

あぁ……逃げられるとも思わないことだね。

あたしがここにいる以上、突然プリズナーもここに来る」


地上を眺める彼女に視線の先には、無傷の海音と共にやってくる囚人服姿のイケメン女性――プリズナーがいた。

彼女はコードネームの通り、牢獄を造り出す鬼人だ。


ここに到着してしまえば、もう逃げ出すことなど不可能になる。ニルヴァーナの言葉を聞いたエニグマは、流石に諦めたのか快活に笑い始めた。


「おっす、お前ら。うちの男共は相変わらずだよなぁ。

ま、自業自得なんだし、しばらく大人しくしててくれな」


岩を操って足場を伸ばし、屋根に登ってきたプリズナーは、散々荒らし回った彼らを見ても普段通りだ。

爽やかに笑いかけると、不可視のモノに変わって彼らを押さえつけ始める。


「ハッハッハ、いいですよぉ? もう十分に楽しみました」

「嫌だぁ!! たとえエニグマが諦めようと、私だけは決して諦めないよっ!! なにせ私は奇術師だから☆

いざ見せようではないか、世紀の大脱出ショーを‥」

「はいはい、牢屋の中で好きに言っててくれ」


"ジェイルコール"


ニルヴァーナ達が離れたのを確認してから、彼女は屋根の上まで伸ばした岩を操って牢獄を造る。

自分もろとも閉じ込めてしまうが、彼女はすり抜けられるので関係ない。


紅葉達との関係を悪化させて楽しんだエニグマ、ナイトメアの両名は、無事プリズナーによって投獄された。


「スハァ……しばらくそいつらを見ててくれ、プリズナー。

あたしらはドグマと話してくる。あと、ラメントか」

「おう、任せときな」


プリズナーに七死の男性陣を任せたニルヴァーナは、教会の下で待っている海音を見つめながら飛び降りていく。

着地音は1つだが、海音の前には彼女の降りた場所の隣にもう1つかすかな足跡が現れていた。


「待たせたな。じゃあ行こうか」

「あの、雷閃さんは?」

「ん、たしか迷子になるんだったか。アンノウン」

「……」


ニルヴァーナが名前を呼ぶと、音もなく足跡は森に向かって伸びていく。風が動く感じもない。

無音無風で、不可視の何かは森へと戻っていった。


「……あいつに任せておけば問題ないよ。

じゃ、改めて行こうか?」

「はい」


アンノウンが雷閃の案内に向かったことで、海音の心配事は消え失せる。

外で倒れているクロウとミラージュを回収した彼女たちは、今度こそ後顧の憂いなく教会の中に入っていった。




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