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呪心〜誰かの心の収集記〜  作者: 榛原朔
行事の書 二章 怨霊を祓う日の出

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24-七死の信念・後編

本日2度目です

クロウが教会のステンドグラスを突き破り、外に出ていったことで、標的にされたミラージュが見せる霧は消えていく。


鮮明になった視界で繰り広げられるのは、二組の戦いだ。

片や、ヒステリックに泣きながらも二丁拳銃を乱射している商人と、彼女に接近戦を仕掛ける2人の鬼人。

そして、もう一組は……


「……」

「初めまして、ドグマさん? 今更ながら1つ聞きたいのですが、あなたはなぜ口を閉ざしているのでしょうか?

攻撃を避ける素振りも見せませんし」


教会内に真っ赤な紅葉(もみじ)の吹雪を生み出している紅葉と、彼女の前でニッコリと微笑むだけのドグマだった。

だが、彼女達の戦いというのはかなり異様だ。


戦い自体はもう数分も前に始まっている。

本来ならば、少し離れた位置で殺し合っている3人と同じく、武器や能力でぶつかり合って然るべきだろう。


だというのに、ドグマは神像の前で笑みを浮かべるだけで、紅葉の操る紅葉(もみじ)は彼女に直撃することはなく周囲を避けるように舞っていた。


その光景は殺し合いというにはほど遠い。

2人を中心にして舞い散る紅葉(もみじ)は、芸術作品か踊りの舞台かのようである。


かといって、対話をしているかと言えばそんなこともなく、ドグマは相変わらず無言だ。ニッコリと微笑む彼女と、なぜか攻撃を当てない紅葉。


この空間で行われているのは、戦いなのか、対話なのか。

どちらとも取れるが、どちらとも言えない不可思議な空間がこの場にはあった。


「……攻撃が当たらないのは、あなたの力ですか?」

「……」


微笑むドグマと攻撃を当てない紅葉。

しかし、実際にはニッコリと微笑むドグマと、なぜか攻撃が当たらない紅葉だったようだ。


彼女は草花の神秘……より細かく言えば赤い紅葉(もみじ)の神秘であり、それを操れないというのは異常事態である。

何度攻撃しても彼女を避けるように舞う紅葉(もみじ)を見ると、紅葉は苦しげな表情で問い質す。


とはいえ、もちろんドグマが返事をすることはない。

クロウや虎熊童子と話していた時もそうだったように、彼女はただニッコリと微笑むだけだった。


「静寂が満ちた森は、あらゆる真実を隠す偽りの御伽噺。

いい加減何か答えてくれませんか?」

「私はただ、望んでいるだけです。

貴方様が、邪魔を……するとおっしゃるので」


どれだけ攻撃してもあらぬ方向に向かう紅葉(もみじ)に、ついに紅葉が痺れを切らしたように問うと、彼女はやはり曖昧で理解のしにくい言葉で短く返す。


ようやく喋ってもこれだ。

無言だった間にどれだけの質問を投げかけても、答えるのはその中でも彼女が選んだ1つだけ。


合間があったことでどの質問に対する答えかもわからないのだから、理解できないのは当たり前。

この会話もどきに苛立ちを覚えない方が難しい。


紅葉の攻撃はより苛烈になり、だがその全ては不自然な動きで流れ行く。苦虫を噛み潰したような表情になった彼女は、諦めたように会話を続けることを試み始めた。


「……っ!! はぁー……!! それは何に対しての言葉ですか?

あなたは何を望み、わたくしは何の邪魔をしていると?

少なくとも、わたくし達から手出しはしていません。

いきなり環ちゃんを撃ったのはそちらです。

ちゃんとあなたの望みを教えてください」


畳み掛けるような言葉に、ドグマは相変わらずただニッコリと微笑む。しかし、今回は紅葉の機嫌を損ねただけあって、彼女なりに会話をしようという気があるようだ。


どれだけ攻撃されても微笑みながら立つだけだった彼女は、珍しく言葉に困っているようにパタパタと手を動かす。

笑顔はそのままだが、今までとは少し違った反応に、紅葉もじっくりと待つ体勢になっていた。


「私は、大嶽丸様の意志を継ぎました。

あなた方が怨霊に手出しすることは、認められません」

「……? つまり、あの方と同じく人間を敵視している。

怨霊を使って何かしているので、わたくし達は邪魔をするなということですか?」


やがて告げられた言葉も、ちゃんとすべて伝えているような雰囲気を漂わせながら、どこか欠けたようにわかりにくい。

そのため、紅葉は念のため自分なりに理解した解釈で確認を取るが、彼女は再びニッコリと微笑むだけだ。


その解釈は合っているのか間違えているのか。

ちゃんと伝える気があるのかないのか。

ドグマは無言を貫き、ただニッコリと微笑む。


とはいえ、今回もこれまでとはほんの少しだけ違う。彼女の解釈を聞いたドグマは、これまで通りの笑顔でありながらも、どこか困ったように首を傾け、手を口に添えていた。


「……? 違うのですか? それでは、人間への敵意はないし、怨霊を使って何かしているということもないのですか?

手出しを認められないというのは、無実だから?」

「……」


本当にかすかな機微を読み取り、先程とは真逆のことを聞く紅葉だったが、それでもドクマはニッコリと微笑むだけだ。

肯定も否定もせず、彼女はただ笑みを浮かべ続ける。


ここまで来ると、もうどうしょうもない。紅葉はドグマよりも遥かにわかりやすく困り顔になると、疲れたように口を開いた。


「首を縦か横にふるだけでもいいので、答えてくれませんか? 七死はわたくし達の敵ですか?

まだ人間との融和は認められませんか?」

「……私は、平穏のために動いていますよ?」

「いまいち要領を得ないのですが……もしかすると、あなたはコミュニケーションに難があるだけなのでしょうか?」


変わらずズレた返答をするドグマに、紅葉もついにそもそも彼女とは意思疎通に困難があると認識する。

その言葉を聞いたドグマは、ただやはりニッコリと微笑むだけだった。




~~~~~~~~~~




神像の前で、やけにシュールなやり取りが行われている中。

教会の入り口に寄った辺りでは、涙を流す商人――ラメントが二丁拳銃を乱射していた。


その銃口を向けられているのは、もちろん名前を襲名している2人の鬼人――袖が旗のように長い和服を着ている虎熊童子と、ミニスカートタイプの和服を着ている金熊童子だ。


霧は外のクロウに重点的に向けられているため、彼らという的を隠すものはチャーチチェアなどの物質のみ。

対して、彼らを狙う狙撃手を隠すものは皆無である。


生まれながらに科学の武器などほとんど効かない神秘である彼らなので、両腕で銃弾を受けながら、大きな籠を背負っていて動きにくそうなラメントに接近していく。


「あたしが受ける!! 虎熊、ゴー!!」

「おーっす!!」


二丁拳銃を乱射しまくるラメントは、籠だけでなく頭に笠も被っているため、どちらを狙っているのかわかりにくい。

だが、金熊童子が率先して前に出れば彼女を狙わざるを得ず、結果目論見通りに彼女が肉壁となっていた。


そして、指示を受けた虎熊童子は、その小柄な体を活かして素早く接近、まさに虎のような鋭い爪牙で襲い掛かる。

ずっとじゃれていた通り、抜群のコンビネーションだ。


とはいえ、彼の武器はその爪牙の鋭さであるため、同じ神秘でもまともに受けるのは誰の目から見ても得策ではない。

直前まで乱射していたラメントは、すぐさま飛び退って銃口を彼に向けた。


「あはっ、あはははっ!! 危ない、悲しいっ……!!」

「どおぅあっ!? あぶねーのはこっちだばっきゃろー!!

どれだよ神秘にもきくじゅうだん!!」


チェアに飛び乗った彼女は、すぐさま乱射を再開する。

神秘には科学の武器など効かないはずだが、虎熊童子は必死の形相だ。


わたわたと飛び跳ねながら、危ないものは爪で防御をしていた。科学の武器は神秘には効かない。それは確かだ。

しかし、大陸との商売を一身に担う彼女の持つ弾丸は……


「……あはっ、これだよ」


4〜5人は座れるであろうチャーチチェアを蹴り飛ばした彼女は、誘導した先を狙って銃弾を撃ち込む。


すると、その弾丸を食らった虎熊童子は、重傷にはならないはずの弾を受けて貫通した腹部と背部から、派手に血を飛び散らせて倒れ込んでしまった。


普通の弾丸であれば弾く、最悪でも軽く切れるくらいで済むはずだが、その弾丸はとある科学者のお手製だ。

常に乱射することはできないとしても、十分に神秘を相手にできるだけの代物である。


止まらない出血に傷を押さえる虎熊童子は、荒い息を吐きながら椅子の下に避難していく。


「虎ちゃんっ……!!」

「あはっ、悲しい…悲しいですねぇ……」

「もうあたしにその弾丸は効かないっ……!!」

「でも、涙は抑えられない」


弟分が傷つけられた金熊童子は激昂し、全身を金剛石のように硬くしてラメントに迫っていく。

たとえ神秘にも効く弾丸であろうとも、防御に特化した神秘であれば弾くことが可能だ。


しかし、椅子を破壊しながら直進する彼女の目からは、なぜかラメントと同じように涙が溢れ出してくる。

視界が潰されたことで、もう敵に向かって真っ直ぐは進めない。


彼女が戸惑う間に場所を移動したラメントは、効かない弾丸を雨のように浴びせかけ、衝撃で攻撃し始めた。


「悲しい、悲しい……あはっ、みんな死んで、みんな苦しんで、みんな迷って。あはははっ、悲しいっ……!!」


虎熊童子は神秘の守りを貫かれ、金熊童子はラメントの姿を捉えられずに乱射に曝される。


他の戦いでは最低でも相打ちに持ち込んでいたが、彼女達はもはやまともな抵抗すらも封じられ、攻撃を耐え続けることになってしまった。



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