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呪心〜誰かの心の収集記〜  作者: 榛原朔
行事の書 二章 怨霊を祓う日の出

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12-悪夢の名前・中編

「おいおいおいおい、何だあれ……!? いや、何だあれ……!?」


再びナイトメアが黒煙となって消え去り、剣がその体だったものをすり抜けて残滓を吹き飛ばしている中。

自然とその剣を力強く握りしめているクロウは、彼に促された方向にそびえ立つ巨体を見上げ、唖然としていた。


視線の先にあるのは、順当に行けばもちろん鬼人だ。

しかし、今彼の目の前にいる巨大すぎる人型は、本来の鬼人があるべきサイズではない。


たしかに頭部には立派な角があり、全身は硬質化した鬼人のように鱗のらしきものが覆っている。四肢も鬼人らしく太く逞しく、見た目だけなら鬼人以外の何者でもなかった。


だが、その角だけでも彼の体の数倍はあるだろうし、足だけでもそこら辺にある建物より大きい。

2階建ての建物が大きくて10メートル弱だとしたら、巨人かと見紛うほどの鬼人は100メートル近くはあるだろう。


この八咫では、現実にいる鬼人ではありえないような怪物と化した悪夢のような存在が、彼の目の前にはいた。


「いやいやいや、ここは八咫だぞ……? 前にガルズェンスで戦った巨人よりも巨大な鬼人がいてたまるかよ……

あれよりも2〜3倍デカいとか、冗談にもならねぇって……」


悪夢の中は熱くも寒くもない適温ながらも、クロウはそれを見上げながら震え、冷や汗を拭う。


巨大な鬼人は動かないが、たしかにそこにいる。

その威容を呆然と見上げるクロウは、これまでの経験を思い起こしてなお放心状態だ。


ここがたとえ悪夢であろうとも、あの鬼人が脅威であることに変わりはない。もう悪夢の元凶であるナイトメアの逃走など気にする余裕もなくなっていた。


「化け物みたいな鬼人が蹂躙しに来るとは聞いたけど、鬼人の枠を超えた化け物じゃねぇか……!! こんなもん、俺みたいなちっぽけな幸運が太刀打ちできる相手じゃねぇぞ……!?」


とはいえ、彼がこの悪夢の世界にわざわざやってきた理由は、この悪夢の調査だ。たとえ痛みはあるとしても死ぬわけでもなし、何かしら問題解決の糸口を得なければならない。


ナイトメアは逃げてしまったが、あの巨大な鬼人が出てくる事自体が疑いを固めることにもなる。

あれはただ道化師が見せているものなのか、現在起きている問題に関係のあるものなのか。


打ち倒して人々を守ると同時に、その判断を。

また、ナイトメアの次の行動を引き出すことや、彼を見つけ出すことにも繋がるため、すぐに意を決して立ち向かい始めた。


「デカくてわかりにくいけど、距離は数キロ以上あるか……?

あれだけ目立ってれば流石の海音も気づくはずだし、俺に何かできるとも思えねぇけど、とりあえず向かうしかないな。

……よし、動いてないうちにどうするか考えねぇと。冷静に」


幸い、ナイトメアを追って屋根の上に登っていたことで、彼は地上の人々の騒乱に巻き込まれることもない。

あの巨大な鬼人には太刀打ちできないまでも、ひとまず接近はできる自身の幸運を噛み締めながら進む。


現状の問題は、この悪夢の世界の元凶……ナイトメア、突如として現れた巨大な鬼人。


彼が果たすべきなのは、ナイトメアの目的、この悪夢の意味や性質などの情報を知ること。


今までは放置されていたであろう巨大な鬼人を倒すと、この悪夢はどうなるのか、そもそもあれが巨大であることに意味はあるのか、などの謎の解明。


他にこの悪夢へやってきているのが、今までも常に同行者でしかなかったロロと脳筋の海音なので、彼は必死に脳みそをフル回転させていた。


「夢でも鬼人が暴れることが確定したとして、今さらながら証拠なんかにはならねぇな。幻も悪夢も形がない。目的とか意味を聞き出すか、見たって事実のみで押し通るか……

現実で暴れ出す鬼人っていうのも、なぜか幕府が駆けつける前に消えているみたいだし、一体何がどうなってんだか」

「クローっ!」

「……!! ロロ!」


彼が動かない巨体に向かいながら思考を続けていると、少ししてから幼く高い声で名前を呼ばれる。

声がした方向を見てみれば、向かってきていたのはもちろん子猫の神獣――黒猫のロロだ。


彼は念動力を使い、屋根の上を駆けるクロウの元まで飛んでくると、その肩にぽすっと乗っかった。


ただ、念動力で固定しているとはいえ小さな体なので、走る勢いで今にも跳ね跳びそうで危なっかしい。

それを見たクロウは、反対の手で彼を軽く押さえていた。


「ねぇねぇねぇ、あれなに!? すっごいのいる!」

「あれが何かは俺が知りてぇよ。それよりも、お前には他にやってほしいことがあるんだけどいいか?」

「え? 念動力でサポートじゃないの?」

「それは今してくれればいいだろ? その後のことだ。

実はさっき、俺はナイトメアっていう黒い道化師と会ってたんだ。そいつがこの悪夢の元凶だから、捕まえてきてくれ」

「えぇっ……!? オイラ、たたかう力ないよ……?」


クロウの頼みを聞いたロロは、その小さな顔を驚愕に染めながら彼の肩に軽く爪を立てる。

だが、まだ力の強くない子猫の爪だったこともあって、足が鈍らないどころか意識に上ることもない。


むしろ、全力で走っているクロウから振り落とされる心配がなくなり、彼もまっすぐ鬼人を見上げながら口を開いた。


「ナイトメアにもないみたいだぜ。多分、あいつにできるのは悪夢の世界を作ることと、その中で色々な物を出すこと。

防御とかせずに逃げるだけだったからな。

仮に何かできるとしても、炎を出してぶつけるとかそのくらいのはず……炎の神秘みたいに、炎を操るとか炎で何かの形を作って攻撃するとか、ガチの戦闘能力はないはずだ。

それなら、ロロの念動力で捜索も拘束もできるだろ?」

「そ、そうだね……がんばってみるよ!」


クロウの言葉を聞いたロロは、決意を固めるようにより強く爪を立てると、彼の顔を見上げて頷く。


ナイトメアの戦闘能力がどれ程のものかは未だ不明だ。

しかしそれでも、規模を考慮しなければこの時代の人間ですら小さな火を出す程度はできる。


もちろん油断はできないが、必要以上に恐れることもまたないので、ロロは励まされた勢いのまま駆け出していった。


「ナイトメアにはロロ、あの化け物には海音……

くそ、あいつちゃんと悪夢の中に入ってるんだろうな?

あんなの、俺じゃ一撃だって耐えられないぞ」


ちらりとだけロロの背中を確認したクロウは、屋根から屋根へと飛び移りながら再び鬼人を見上げる。

それは見た目だけの飾りなのか、やはり動き出していない。


だが、神秘としての身体能力を遺憾なく発揮している彼は、既に元の場所から半分ほど距離を詰めていた。

威圧感は数倍増しで、止まらない冷や汗を拭いながら走っていく。


「本当に動かないけど、何してるんだ……?」


鬼人は作り物のように動かないといっても、男性の証言からあれが襲ってくるのは確実であり、当然いずれは動くことが確定している。


なぜか動かないそれを見上げ、彼は止めることのできない身震いを抑え込みながら進んでいく。

それの元に辿り着くための道のりは、残りは約半分だ。


「iy:@yf0;oを6eqwq>大嶽丸i2hd(4をjtpqse4ki<c;romdlc@:w7zof平和i生gwe.>許rjd@<許rjd@……」

「……!?」


しかし、動かない鬼人を不思議に思いながらも彼が走り続けていると、唐突に鬼人は動き出す。

この世界を引き裂くような風の音を響かせながら、街を叩き潰すべく右腕を振り上げる。


なぜいきなり動き出したのかも、その口から漏れ出た言葉の意味も不明だが、明らかに人間を敵視している目をしていた。


「くっそ、だから何なんだよあれは……!?

ずっと止まってたのに、いきなり動き出すんじゃねぇ……!!」


顔を引きつらせたクロウが流石に立ち止まり、あの攻撃をどうするべきか考え込んでいる中。街の一区画程度なら一撃で潰してしまえる巨大な拳は、容赦なく迫ってくる。


ここが悪夢の中だからか、その拳は本当に世界を引き裂くかのような歪みを生んでおり、防御しないなど考えられない。

意を決した彼は納めていた剣を抜き、自分にできる最大限の抵抗を……


"天羽々斬"


「いっ……!?」


彼が剣を構えて力を溜めていると、数十メートル先から神秘的な水で形作られた刃が飛び出してくる。

ちょうど鬼人の拳の真下から放たれたそれは、巨大すぎる拳と真っ向から激突し、それを見事に両断した。



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