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呪心〜誰かの心の収集記〜  作者: 榛原朔
行事の書 二章 怨霊を祓う日の出

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29/59

1-不穏な気配

夕方というか、夜になってしまいましたが……

年末イベントストーリー、開幕です。

(話数が多いので、クリスマスよりも前に連載開始という噛み合いのなさ。ソシャゲならもっとちゃんとしてるのになぁ)


これは化心二章の後の物語で、三章との間を埋める物語になります。新キャラが多く、前回よりもストーリーがあるので問題はないですが、二章を読んでから読むことをおすすめします。


それから、去年のクリスマスイベントストーリー同様、実質化心の2.5章に当たるものなので、三章……最悪でも終章の前には読むことをおすすめします。


クロウ達が鬼神(きじん)-大嶽丸を殺し、少しずつ人間と妖鬼族との共存が始まり出してから、しばらく経った頃。

もう年越しが目の前に迫ってきていた頃。


まだたまに起こる鬼人の問題を解決してきた彼らは、休憩のために白兎亭でのんびりと団子を食べていた。

といっても、その問題は小さないざこざが起こり、その仲裁をしたという程度だ。


百鬼夜行の夜のようなガチの殺し合いではないので、解決に向かったメンバーはクロウとロロだけである。


ローズの体調が優れず、ヴィンセントとライアンが看病。

リューとフーは単純に遊び回っているという理由もあるが、ともかく。彼はロロと2人で問題を解決し、休んでいた。

のだが……


「あむ……んで? なんでお前がいるんだ? 因幡」

「えぇ〜? そんな水くさいことを言わないでよー。

ポクとクロウくんたちのなかじゃない」


店の外に置かれている、赤い布のかかった縁台に座って団子を食べていたクロウ達の真横には、全身真っ白い和服を着た少年――因幡こと、白兎大明神が座っていた。


クロウがなんでと聞いているのだから、もちろん彼らと同行していた訳でも待ち合わせていた訳でもない。

なぜかタイミングよく現れ、当たり前のような顔をして彼らの隣に座っていたのだ。


しかし、訝しげな目で見つめられる彼は平常運転である。

何でもないことのように笑い、クロウ達の皿から団子を掠め取っていく。


「あっ、勝手に取るなよ!」

「そうだぞー! それはオイラたちの団子だー!」

「えぇ〜? いろんな味を食べられるっていうのが、しぇあのだいごみだよ? ポクのも1本だけあげるからさー」

「俺達のとこからはもっと取ったよな!?」


当然抗議していくクロウ達だったが、それでも因幡は自分のペースを崩さない。彼らからは何本も奪ったにも関わらず、たった1本だけを差し出している。


当然1本と数本では、考えるまでもなく不釣り合いだ。

とはいえ、既にクロウ達の団子は食べられているし、因幡の皿からはいつの間にか他の団子が消えていた。


クロウ達にはそれを受け取る以外の選択肢はなく、顔をしかめながらも渋々団子を受け取っていく。


「お前の他の団子消えてるし、マジでそのちっこい体のどこに入ってるんだ……」

「このおなかの中さ。おねーさーん、もう5皿ちょうだーい」

「オイラわかったよ、次のお皿からもらえばいいんだ!」

「ほほう、ロロくんなかなかやるねぇ〜」


クロウ達にお返しを渡したことで因幡の団子は尽き、彼は次の団子を注文し始める。この店が白兎亭というだけあって、自分の家であるかのようなくつろぎ具合だ。


その言葉に反応してやり返そうとしているロロを相手にして、とても楽しそうに争奪戦を始めていた。

愛宕(おたぎ)の街に住む鬼人も少しずつ増え始めており、細々とした問題こそ起こっているが、穏やかな日常である。


だが、その穏やかな日常は決していつも通りの日常ではない。もちろん異常という程でもないが、ほんの些細な違和感としてクロウの表情を怪訝なものに変えていた。


「……5皿? お前にしては少なくないか?」

「えー、そうかなー? いつも通りだと思うケドナー」

「……お前自身がもうどっか行くのか?

それともまさか、面倒な縁を結んだか?」

「ロロくんにとられないようにしているだけだよー」


お返しをすべてロロに食べられているのも気にせず、クロウは因幡に質問を繰り返す。しかし、当然彼はのらりくらりと躱すばかりだ。


一向にクロウの求める答えを返さずに、どこか怪しさの残る態度で押し通そうとしている。

そんな因幡に対して、彼も嫌な予感の正体をはっきりさせるべく詰問を続けていくのだが……


「あ、よかった。ようやく見つけました」

「ん……?」


クロウが感じていた嫌な予感は、因幡を問い詰め終わる前に彼の前に訪れた。よく通る声に彼らが顔を上げると、店の前にいたのはキチッとした和服の女性だ。


彼女は綺麗な姿勢で縁台の前まで歩み寄ってきて、まだ状況を飲み込めていない様子のクロウ達に語りかける。


「こんにちは、クロウ様、ロロ様、白兎大明神様。以前にもお会いしたことがあるかと思いますが、念のため自己紹介を。私は雫、八咫幕府で政所次官を任されている者です」


クロウ達の前に膝をついた女性――雫は、彼らが人智を超えた存在である神秘であることで、深く頭を下げながら自己紹介をした。


それを受けたクロウは、普通の人間というある意味違う生物である彼女に対して、いつもとは違った丁寧な言葉で受け答えをしていく。


「こんにちは雫さん。えっと、俺はそこまで大した神秘じゃないんで、あんま畏まらないでほしいんですけど……

それはそれとして、何か用事でもあるんですか?」

「そうですか。では、クロウさん。

度々鬼人の問題に手を貸していただいているということで、一つあなた方に頼みたいことがあるのです」

「た、頼みたいこと……」


雫の要件を聞いたクロウは、錆びた機械のようにぎこちない動きで首を動かし、隣に座る因幡を見やる。


彼は誰かと誰かの縁を結ぶ神獣だ。

この縁を結んだのは、彼である可能性が高い。


しかも、普段は山のような量の団子食べているのに、今回はたった5皿しか頼まなかったのだから、ほぼ確定だろう。

そんな彼から感じていた嫌な予感は、見事に的中していた。


おまけに、わざわざ彼らの前に現れていることから、明らかにいい縁でもない。悪い縁だとも言い切れないが、少なくともいい縁じゃないことだけは間違いない。


少し面倒な頼み事か、何か不利益のある頼み事か。

悪い想像はいくらでもできるので、我関せずといった態度で団子を食べ続ける因幡を見るクロウは、ピクピクと頬を引きつらせていた。


「あの、どうかしましたか?」

「……いや、なんでも。頼み事ってなんです?」


クロウの様子がおかしくなったのを見て雫は首を傾げるが、因幡は完全にスルーしているので、すぐに彼も諦めた。

ため息を付きながらも視線を雫に戻し、続きを促していく。


それを受けた雫は、少し戸惑いながらも気を取り直して話を再開する。


「先程の言葉から察しているかもしれませんが、鬼人関係の問題がいくつか起こっていまして。少し協力していただけると助かるな……とあなた方を探していました」

「はぁ、鬼人の問題。でも、別にそんな珍しいことでもないんじゃ……俺達さっきもいざこざ収めて来たし」

「はい、珍しくはありません。いざこざが起こること自体は、元々想定されていたことですしね。問題はその件数と、その他にも気になる訴えがあるということで……コホン。

詳しい話はともかく、あるのです。既に数名協力者を集めているのですが、クロウさんも手伝っていただけませんか?」


雫の説明を聞いたクロウは、あまりいつもと変わりなさそうでありながら、若干不穏な気配のする問題に顔をしかめる。


件数というのならその解決は当然面倒だ。

しかも、それに加えて気になることがあるのなら、そちらが本命の可能性も高かった。


普段やっていることよりも面倒なことに、詳細のわからない本命まであるとなれば、彼が渋らない方がおかしい。

とはいえ、彼らは長期間幕府に世話になっており、そもそもこうなった原因の一端は彼らにあるとも言える。


いずれなっていたにしろ、彼らが来たことで鬼神(きじん)は動き出して愛宕が燃えた。結果共存という未来に繋がったとしても、起こっている問題は問題だ。


放り出すことなどできるはずもなく、彼はしばらく悩んだ後控えめに首を縦に振った。


「……まぁ、とりあえず話を聞くぐらいなら」

「ありがとうございます。では、早速案内しますね」

「わかりまし……因幡?」


雫に促されるがままに立ち上がったクロウだが、その途中で異変に気がついて辺りを見回す。

するとその目に映ったのは、因幡が注文していたはずの団子を頬張るロロと、誰もいなくなった縁台だ。


もちろん、ロロが食べている団子は丸ごとではない。

食べ残りの数本だけである。因幡はきっちり注文した団子の大部分を食べ終わり、そのまま逃走していた。


「あーっ!! あいつ面倒事引き寄せといて逃げたな!?

無理に引き合わせたんだから、てめぇも来いよ馬鹿野郎!!」

「オイラ、団子もらってて気づかなかった……」

「団子放り出してでも逃げるとか相当なやつじゃん!?

ちくしょう、今日は白兎亭に来るんじゃなかった……」


因幡が全力で逃げたことを理解したクロウは、雫の目の前だということを忘れたように嘆く。団子につられていたロロも、ショックを受けたように固まっていた。


さっきまで協力を得られそうだとホッとしていた雫は、2人がいきなり取り乱したことに、かなり戸惑っている様子だ。


「あの、面倒事に巻き込んですみません。

ですがその……お礼はしますから……」

「くっ……はい、別に雫さんは責めてないんで」

「あと、クロウさんこそ気楽に接してください。

私は仙人ではありますが、あなたのように神秘そのものではありませんから」

「わかったよ……案内、頼むよ……」

「えっと、一応そこまで困難な問題でもないですからね……?

私が言うのもなんですが、ぜひお気楽に」


すっかり意気消沈してしまったクロウは、雫に元気づけられながら八咫幕府の御所へと向かっていった。



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