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呪心〜誰かの心の収集記〜  作者: 榛原朔
行事の書 一章 霧晴らす知恵の樹

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12-霧晴らす知恵の樹

本日2度目の投稿です

クリスマスパーティが始まると、クロウ達は自由気ままに料理を手に取り始める。


テーブルの上にあるのは、チキンやピザ、デニスが焼いてきた数々のパンに、酒やジュースのようなドリンク、ケーキやアイス、ワッフルなどのデザートまでよりどりみどりだ。


巨人であるアルキュオネウス用の巨大な肉まである。

人でも神秘でも猫でも巨人でも、この場にいるすべての存在が楽しんでいた。




「眠いか? アル」

「……ネムイ」


座り込んでゆっくり肉を頬張るアルキュオネウスの足元で、彼を見上げながらオレンジジュースを飲んでいるクロウが、少し心配そうに声をかける。


「最初に会った時から言ってたもんなぁ……」 

「でモ、賑ヤか。気分、良い」

「そっか」


軽く頭を前後に揺らしながらも楽しそうなアルキュオネウスを見て、クロウも嬉しそうに笑う。

しかし、頭上から聞こえてくる声を聞くと、ムッとしたように顔をしかめて頭上を見上げた。


『あっはは! いやぁ、すごい高さだぁ〜……!』


はるか上空、20メートル近くあるアルキュオネウスの肩に乗っているのは、片手に持ったおぼんに大量の食べ物を載せてグラスを呷っている雷閃だ。


しかも、アルキュオネウスは少し気を遣って動いているようだったのに、雷閃はまるで気にしていない。

左手のおぼんをまったく揺らすことなく、1人で飲み食いしながら騒いでいた。


「だとしても少しは遠慮しろよ雷閃ー!!」

『もう少し〜……!』

「ったく……」


堪らず注意したクロウだったが、自分が登っていって降ろすという選択肢は簡単には取れない。

そのため、雷閃の否定の声を聞いた彼は諦めたようにため息をついた。


すると……


「苦労ちゃーん!」

「うわっ……!!」


彼が料理に目を移し、背中を丸めたのを見計らって、アトラが袖余りを首に巻きつけるようにして抱きついてきた。

首が絞まるほどではないようだったが、それでも十分に危険な行動だ。


彼女の接近にまったく気がついていなかったクロウは、危うくグラスを倒しそうになる。

しかし、ギリギリのところでどうにか耐えると、振り返ってうんざりしたように呟いた。


「アトラかよ……」

「もちろんそうよー。今日はおめでたい日みたいだしー?

嫌なことは全部吹き飛ばしましょー! あ、空飛ぶー?」

「嫌だよっ!!」


首に巻き付けた白衣の袖を外されると、アトラはくるくる回りながら楽しそうに笑う。

そんな彼女のは対照的に、ひとまずグラスを置いたクロウは面倒くさそうにため息をつき、彼女を追い払うために話を振った。


「師匠はどうしたんだよ師匠は?」

「師匠はあっちにいるよー」

「ん……?」


クロウがアトラの指差す方向を見ると、そこにはぼんやりと空を見上げているテレスがいた。

彼は右手にグラスを握っているが、あまり飲んでいる様子もなく、料理もほとんど口にしていないようだ。


少なくとも、彼がじっと見つめていた数十秒間はピクリとも動いていない。何故か周りには大量の料理があるが、食べているような形跡もなかった。


テレスの奇行が理解できず、戸惑っていたクロウは、やがて耐えかねたようにアトラに聞く。


「……あの人何してんだ?」

「星は永久に貴方のそばに」

「いや、知らねぇよ!?」

「うふふー、あの人は星を見てるの。

気になるなら話しかけてみたら?」

「ふーん……」


アトラに促されたクロウは、改めて空を眺め続けるテレスを見つめ始めた。




しばらくして、結局テレスのもとにやってきていたクロウだったが、彼は銅像のように固まって空を見上げているため、なかなか声がかけられずにいた。


隣には引っ付いてきたアトラがいるが、彼女は料理に夢中で頼りにならない。

少しテレスの前でウロウロした後、意を決して声をかける。


「なぁあんた‥」

「星を!! 見ている……」

「そ、そうか……」


だが、彼は質問を言い切る前に断言されてしまう。

どうやら、クロウとアトラが近くに来ていたことには気がついていたようだ。その上で無視していたらしい。


話しかけられても我を通すテレスに、クロウは戸惑いながらも無理やり納得する。

しかしやはり気になるらしく、今度は何をしているかではなく飲み食いしないのかと聞き始める。


「食べたり‥」

「星を!! 見ている……」

「ああ……そう……」


当然テレスはピシャリと一喝するが、クロウも流石に予想できていたため力なくうなずくだけだ。

最終的に、ずっと上を向いていることに対して心配し始めた。


「首痛く‥」

「星を!! 見ている……」

「……ああ、うん。そっか……」


心配すら跳ね除けるテレスに、クロウは呆れ返って投げやりに返事をした。

そしてそのまま、笑顔で料理を頬張っているアトラのもとに行くと、戸惑いを隠すことなく話し始める。


「なぁ、あんたの師匠って話できないのか?」

「神秘ってね、とっても丈夫なのよー? だからね、これ食べてみてほしいの。はい、あーん」

「そういやあんたも大概話が通じねぇんだった……って待て、無理やり口に料理を押し込もうとしてくるな!!」

「えー? だってあなたも陽葵ちゃんと同じように、寂しそうな光が見えるのよー? ほら、あーん」

「ヒマリ……? って、自分で食うっての!!」


しかし、もはや話ができないレベルであるテレスの弟子が、このアトラである。もちろん彼女との会話も難しい。

一瞬疑問符を浮かべたクロウだったが、それを考える暇はなく、食べさせようとしてくるアトラとの格闘を始めた。




クロウ達のいる場所から少し離れると、そこにはパンの山の前にいる海音とヨンがいた。


会場にあるパンはデニス達が焼いてきたもので、その目の前にいるということは、もちろんそれを食べようとしていた、ということである。


しかし彼女達は、その中から他と少し違うものを発見していたようで、ヨンは赤くなって、海音は不思議そうにそれを見つめていたのだった。


「これは……?」

「そ、それは……私が作った、パン……」

「手作りですか? すごいですね」

「え、えへへ……」


海音が手に取っていたのは、少し不揃いだが星型をした砂糖がかかっているパン。

明らかに他のパンとは違ったのだが、それはパン屋ではないヨンが作ったからだったらしい。


手放しで褒められたヨンは、赤くなっていた顔をさらに赤くして照れており、心の底から嬉しそうだ。


すると、それを見たリューは何を思ったのか、適当に目に入ったパンを手に取り、デニスに見せながら聞き始める。


「おっさーん、これはー?」

「おっさんじゃなくてデニスなー? それは俺の作ったパンだよ。俺はプロだから、期待して食いな!」

「……当てつけ?」

「それもちゃんと見ててやったろー? どれも旨いさ」

「そ、そう……」


プロを強調したデニスをジト目で見つめたヨンだったが、彼は自分が見守っていたから旨い、と暗にヨンの腕を褒め始めたので、平静を装いながらも視線を泳がせて照れ始めた。




「ローストビーフ、アップルパイ。

チョコムースにシチューにチキン〜」


今までと同じく、体調の悪いローズの看病をしているライアンは、ふんふんと鼻歌を歌いながら料理を盛り付けていく。

ローズの体調は少しずつ良くなってきているし、ここには他のみんなもいるため気楽そうだ。


「ん、そういやローストビーフとかチキンは食うか〜?」

「そうだね、少しもらおうかな」

「はいよ〜、ロロはどうする〜?」

「オイラ、ねみゅい……けど、食べりゅ……」

「ふふっ、私が食べさせてあげるね」


ローズの返事を聞いたライアンは、口元を綻ばせながら少しだけ多めに料理を盛り付ける。


もともとそれなりの量を盛っていたのだが、膝で丸まっているロロを撫でるローズも、特に止めることはない。

ニコニコと歩み寄ってくるライアンを、愛おしそうに見つめていた。


「研究塔は……正常に……いつでも……開発を再開できる……」

「うわっマキナさん!?」

「災いを忘れず……なおかつ、発展を……恨まれる、科学……

望まれる、科学……望む、科学……氷を、溶かす……」

「マキナさーん……?」


大人しくライアンを待っていたローズだったが、近くからブツブツと聞こえてきた声を聞いて思わず肩が跳ねる。

その声の主は、ニコライに促されて料理を取りに来たらしいマキナだ。


しかし会話をする気はないらしく、ローズが何度か呼びかけてみても完全に無視。

いくつかのパンを取りながら、生気なくブツブツとつぶやき続けていた。


無視された上に近くでつぶやきを聞かされているローズは、少し居心地が悪そうに笑う。

だが、マキナの後ろからやってきた人物を見ると、パッと表情を輝かせた。


「あ、ニコライさんも」

「よっ。楽しんでるか〜?」

「ははは、もちろんだよ。

掃除が楽に終わって、実に清々しい気分だからね」

「あはは、そっちかよ〜」

「でも、手伝いはしたんじゃないの?」

「たしかにしたが……ヴィンセントくんが優秀だったからね。

ほとんど彼がやっていた気がするよ」

「ふふ、そうでしょ? あの子は優秀!」

「後で労ってやんねぇとな〜……」


マキナにこの場を離れる様子がなく、ニコライもそのまま留まっていたため、彼らはそれからしばらく和やかに談笑を続けた。




研究塔の掃除、パーティの準備。

その全てにおいて多大なる貢献をしていたヴィンセントは、依頼を請け負ってくれたマックスと共にのんびりとくつろいでいた。


「ん、これはサンドイッチだな? 紛れ込んでるぞ」

「あはは、そんなに嫌い? 美味しいと思うけどな」

「嫌いだ。普通のパンをくれ。あとスープ」

「はいはい、こぼさないようにね」

「うん、わかってる。ありがとう」


サンドイッチに目ざとく気が付いたマックスは、ヴィンセントの皿にそれを移して交換を要求する。

料理を盛り付けたのはヴィンセントだったので、特に意識しておらず入ってしまっていたようだ。


そのためヴィンセントは、特に気にせずパンを譲り、スープも器に盛って彼に渡す。


「でもね、君が持ってきてくれた飲み物。

俺は未成年だからお酒は飲めないよ」

「そういえばそうだった。俺は別に、リューみたいに過剰に飲むつもりも無理やり飲ませるつもりもないけど……

そんなに大人なのに、お前なんで若いんだ?」

「えぇ? 年齢にケチつけられてもね……」


同じように飲み物に指摘を受けるマックスだったが、ヴィンセントのことを、同年代以上の相当頼りになる人物と認識していたらしく、まだ未成年であることに逆に驚いている。


特に大人だと言ったわけでもなく、一緒に酒を飲んだ覚えもないため、ヴィンセントも困り顔だ。


「まぁいいや。俺のも酒だし……なんか取ってくる」

「あはは、よろしくね。いってらしゃーい」


すぐに気を取り直したマックスは、グラスを置くと他の飲み物を取りにトテトテと歩いていった。


「……」


1人になったヴィンセントは、手持ちぶさたになって視線を泳がせる。すると彼の目に入ったのは、霧を発生させてしまっているヘーロンと、それを空に飛ばしているフーだった。


彼は無言でチーズをつまむと、少し考えてから彼女達の方に歩いていく。


「調子はどうですか? ヘーロンさん」

「ヴィンセントさん……」


ヴィンセントが控えめに声をかけると、ヘーロンは悲しげな視線を彼に向ける。

フーは戦闘中以外喋れないので、いつも通り無言だ。


「調子……調子ですか……」

「……」

「記憶の蓋は外れませんし、霧も制御できず、消えません。

よい……とは言えないのではないでしょうか」

「そうですか……」


グラスを傾けてしばらく考えを巡らせていたヘーロンは、黙って自身を待つヴィンセントに目を向けると、どこか他人事のように呟いた。


それを聞いたヴィンセントは、特に何を言うでもなく隣に座ってツリーを見上げている。


「知っての通り、俺も神秘に成りました。貴方とは違って祝福ですが……その能力のおかげで、少しだけ未来が見えます」

「…………」


しばらく沈黙が続いた後、ヴィンセントは軽く目を押さえながら静かに口を開く。


彼が何をしているのか察した様子のフーだったが、今回は先日のように物理的に非難することはない。

彼女はいつも通り黙ったまま、彼らを見守っていた。


「……再会した日にも伺いましたね。とても便利な力です。

……今も見ているようですが、なにか見えましたか?」

「そうですね……先日も伝えたのですが、改めて。

未来の貴方が見えていますよ」

「……どうですか? 未来の私は」

「笑ってます。ちゃんと記憶を取り戻して、呪いも制御できるようになっているようですよ。

それに、他の皆さんも一緒に笑ってます」

「そうですか」


ヴィンセントの予言めいた言葉を聞いたヘーロンだったが、彼女はあまり大きな反応を示さない。


会場で騒いでいるアトラ、爽やかに笑っているニコライなどを見つめた後、彼と同じようにツリーを見上げた。

彼らの頭上で輝くツリーは、相変わらず星空の如く自然に、だが圧倒的な存在感を放っている。


(マキナさんは相変わらずだけど、この国の王として、いつでも私達を見守ってくれている。ニコライさんはいつでも私達の光。テレスさんは自分を曲げない人だけど……アトラさんは引きこもっていた時にお世話してくれていた。

忘れて、制御できずにいても。いつかどうしようもない自分と向き合ったとしても、あの方達は……

……私は魔人だけど、私も、あの方達やヴィンセントさんのように。この、ツリーのように。

悠久を乗り越えるような、輝ける意志を……)


「霧は、晴れましたか?」

「……どうでしょう」


自身の願いや未来に思いを馳せていたヘーロンは、優しげなヴィンセントの声でちらりと隣を見ると、かすかに微笑んだ。


クリスマスケーキとかプレゼント交換とかも書きたかったんですけど、人数多いし諦めました。

あと、0時にも投稿します。

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