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呪心〜誰かの心の収集記〜  作者: 榛原朔
行事の書 一章 霧晴らす知恵の樹

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11-メリー・クリスマス

それからパーティ当日までの数日間、彼らはそれぞれの役割を果たした。


まずは雷閃のお守りを任されていたクロウだ。

彼はこの数日間、海音と3人でガルズェルスの観光、アルキュオネウスを含めた4人で会場の飾り付けなどを行っていた。


観光でも飾り付けもで、共に行動している面子のほとんどから目を離せないとはいえ、基本的に楽しむことばかり。

当日までの日々を、程よく活動をしながら心安らかに過ごすことができていた。


そんな彼とは打って変わって、その間、仲間内でもっとも過酷な日々を送っていたのはヴィンセントである。

まず彼は、狩猟ギルドに機械類掃討の依頼を出すことで、若干無理矢理ではあるがマックスを引っ張り出すことに成功。


その流れのまま、彼と2人で研究塔掃除依頼の大元、ニコライを捕獲して強制的に掃除させることにも成功していた。

彼は、自身の研究の邪魔になるからと、ない報酬を無理やり作って依頼していたにも関わらず……である。


しかも、彼らが引っ張り出したのはニコライだけではない。

星にしか興味のないテレス。

ヘーロンが閉じこもっていた部屋から漏れる蒸気すら無視して、延々と星の写真を眺めていた彼すらも引っ張り出していた。


マックスは依頼で他よりも遥かにすんなりと。

より難物であるニコライは、そんなマックスと協力して捕獲することで。


もはや話ができないテレスは、星の話という共通言語を使うことでなんとかコミュニケーションをとっての説得だ。


そして、テレスが動いたのだから、その弟子であるアトラも当然駆り出されることになった。

ローズ達の看病をするライアンと雑談していた彼女だったが、テレスを出しにニコライが道連れにしたのだ。


そんなこんなで、ヴィンセント達に押し付けられた研究塔掃除の仕事は、彼とリュー、フーという本来のメンバーに加えて、ヘーロン、デニス、ヨン、マックスという協力者、ニコライ、テレス、アトラという変人達も加えた合計10名で迅速に行われたのだった。


彼らは自身の能力をフルに活用することで、瞬く間に塔を片付けていった。リューだけは、たまに荒らすこともあったのだが……


ともかく、研究塔の片付けは速やかに終了し、ほとんどの者にとってあとはクリスマスパーティ当日を待つだけである。


しかし、ヴィンセントの激動の日々は終わらない。

片付けを終えたリューがほっつき歩き始めた頃、彼は食材の調達や料理の仕込みを行っていた。


もちろん店で買うものもあるのだが、大体のものは手作りだ。協力者や変人は去り、彼の手伝いをしていたのはフーくらいのものだった。


そして、仲間内でもっとも穏やかな日々を過ごしていたのはライアン達である。


ローズはここ最近ずっと寝込んでおり、ロロも寒さで昼寝ばかりだったので、その看病をしていたライアンを含め、何1つ変化のない日々だったのだ。


しかし、そんな日々を過ごしていても、結局ローズの体調は万全とは程遠かった。


もちろん時間が彼女だけを待ってくれることはない。

彼女達は忙しくしていた他の仲間と同じく、クリスマスパーティ当日を迎えた。




~~~~~~~~~~




クリスマスパーティ当日――日が沈みきった頃。

雷閃や海音と街を回っていたクロウは、雪の結晶がキラキラと輝く街を抜けて、パーティ会場にやってきていた。


今まで観光をしていただけあって、彼らの手にあるのは様々な科学の品々だ。

例えば、ホログラムの蝶や鳥を飛ばしたり、雪を見せる機械、遠くのものがつかめる手袋など。


クロウ以外の2人はすべてが完全に初見であり、雷閃は満面の笑みを浮かべてその感想を楽しそうに語っている。

さっきまで街中を遊び回っていた上に、この後もパーティがあるため、かなりハイテンションだ。


「いやぁ、陰陽師の作る札よりも便利だなぁ科学ー!」

「大多数にとってはそうですね」

「……うん? 僕にとってもそうだよ?」


海音の返事を聞いた雷閃は、不思議そうに彼女の顔を見返すとやんわり訂正した。

今まで一緒に色々見てたけど、あまりどんなものかわかっていなかったのかな……? とでも言いたげな様子である。


しかし、海音もまた不思議そうだ。

彼女は小さく小首をかしげると、今まで見ていた科学ができていて、雷閃ができることもいくつかあげていく。


「そうですか? あなたは普通に空も飛べますし、やろうと思えば属性ごとに色々創れますよね? 特に雷の相は」

「あは〜、無茶言わないでよ。1人で飛んだらどこにつくかわかったもんじゃないし、こんな生物みたいなのどうやるのさ。作れたとしても、適正の有無に関わらず呪文でイメージ固めなきゃ無理じゃない?

わざわざそんなのやってらんないよ」


彼女の言いたいことを理解した雷閃は、機械からホログラムを出しながら改めて否定する。

反対の手では、雷で形だけの蝶を創るという証拠付きだ。


どうやら彼女の言う大多数とは、神秘に成った人ではなく普通の人、ということだったらしい。

つまりは神秘ならば、科学でも陰陽道でも同じことができるということだ。


たしかに八咫の陰陽道は、御札さえもっていれば誰でもその札の相を使えるが、神秘の方が簡単に使うことができる。


だが、神秘であっても適性外の相は呪文でイメージを固めるし、適性があってもホログラムの蝶のような、生命を模したものは難しいだろう。

それらのことを案外すぐに納得した海音は静かにうなずく。


「それもそうですね。私の場合普通に跳んでいますし、水神の相以外はほぼ使わないので失念していました」

「あは〜!」


無事誤解を解くことのできた雷閃は、海音が科学どころか自国の術すら覚えていなかったことを知り、朗らかに笑う。

しかしすぐに我に返ると、今度はずっと黙り込んでいたクロウに対して不思議そうな視線を向けた。


「クロウくん、どうかした?」

「んー? いや、よく見たら別物になってんなーと思ってよ。1日しか経ってないのに、誰がやったんだろう?」


彼が見ていたのは、綺羅びやかに飾り付けられたクリスマスパーティの会場だ。

それも、夜であることやライトアップされていること、天候的に雪で彩られていることを抜きにしても、彼らが朝見たときとはまるで別物であった。


普通の飾り付けだったはずのクリスマスツリーには、いつの間にか頂点で爛々と輝く星があり、その下部も星空のように幻想的な装飾がされている。


クロウ達がした準備の否定であるともとれるのだが、明らかにレベルが違うので文句は言えない。


しかもその他にも、空中に張り巡らされた天の川のような装飾、天にも昇る心地にさせられるBGM、至る所に浮かんでいる

星光、飛び回る流星、中空に張られた星空のような幕など、人間業とは思えない飾り付けの数々だ。


せっかく準備してきたものを変えられたクロウ達だったが、感心するしかなかった。


「さぁ、誰でしょう? ですが、どうせ上書きするなら最初からやってほしかったですね」

「そうだな。ま、綺麗だからいいけど」

「それに、いい匂いもするよねー!

胃がね、空腹を叫んで轟いているよ!」


続けて雷閃がそう言うと、同時に彼の腹から雷のような轟音が轟く。もちろん、雷のように耳を押さえたくなる程の音量ではないが、思わず引いてしまうようなゴロゴロという音だ。


幻想的な光景に目を奪われていた2人は、一気に現実に引き戻されて笑い声を上げる。


「あっはは、すげぇ音だ。街で色々食べてたのに!」

「ふふふ、本当ですね。開始時間は料理の出来具合でしょうし、ヴィンセントさんのところに行ってみますか?」

「お、行こぅ! 今すぐに!」


海音の提案に空腹の雷閃が飛びついたので、彼らは擬似的な星空を眺めながらヴィンセントが作業している場所に向かっていった。




~~~~~~~~~~




彼らが野外キッチンに到着すると、そこで行われていたのは巨大ケーキの仕上げだった。

どういうわけか少し浮かび上がっているケーキに、アトラが光り輝く粉を振りかけている。


粉はアトラが操っているようで、側面に模様を描いたり上に乗っている板に文字を書いたりと、それだけで絵になる光景だ。


クロウと海音はその作業に魅入り、その間に雷閃は満足そうに眺めているヴィンセントに近寄って話しかける。


「やぁ、ヴィンセントくん。ご飯はまだかなぁ?」

「あ、雷閃さん……料理は完成してますよ。あとはお嬢やマキナさん達がくればすぐにでも」

「そっかぁ……早く来るといいなぁ。

ところで、会場の飾り付けって誰がやったのかな?」

「あれはテレスさん達が……あ、他の人達も来ましたね」


彼らがヴィンセントが示す方向を見ると、そこには示し合わせて来たのかと言いたくなるほど、見事に全員揃った残りの面々がいた。

しかも、それぞれがやってきた方向はバラバラだ。


星見の塔方面からは、ローズをおぶってロロを懐に入れたライアン、蒸気を空に逃しながらやってくるヘーロンと彼女を呼びに行ったリューとフー、それからマキナとニコライが。


研究塔――バース方面からは、お使いに行っていたもこもこコートの狩人マックスに、店でパンを焼いてきたデニスとヨンが。南東方向から横長に並んで歩いてきた。


彼らは会場に入ってくると、各々適当な場所に落ち着いてくつろぎ始める。


「ヴィンセント、依頼されたものはこれで全部だな?」

「ピザ、サンドイッチ、ドリンク等々……うん、ありがとう」


まず、お使いに行っていたマックスは、宙を浮く荷台をヴィンセントの目の前に持ってきて確認を取った。

滑らかに開いた扉の中には、1ミリの乱れもなく並べられた料理などがある。


倒れる心配がないため、並べ方は多少無茶でもわかりやすく整頓されており、確認はひと目で終了だ。

マックスは、そのまま荷台を片手にテーブルまで歩いていく。


「どうもーヴィンセントさん。パンも焼いてきましたよ」

「ありがとうございます、デニスさん。

ヨンさんも手伝っていたんですか?」

「別にそんなんじゃ……仕事終わりに寄っただけよ」

「そうでしたか、お疲れ様です」


パン屋のデニスも同様に。

焼いてきたパンをヴィンセントに見せると、マックスに続いてテーブルに向かっていった。


そして他の面々は、マックス達と違ってパーティ直前に仕事はない。マキナは隅でブツブツと何か呟いているし、リューはフーが見守る中ヘーロンから出る霧で遊んでいる。


ニコライはクロウ達のところに来て笑っているし、ライアンは疲れた様子のローズに飲み物を渡している。

みんな、各々好きにくつろいでいた。


しかし、ヴィンセントが声をかけると、すぐにビュッフェスタイルで料理が並べられているテーブルに集まってくる。

まだ隅にいる人もいるが、そんな人にも手渡す人がいたためドリンクだけは全員が持っていた。


「じゃあ、パーティを始めよう」

「よっしゃあ、飯ー!!」

「はいはい落ち着いてね。それじゃあまずはみんなで……」


料理を運び終わったヴィンセントは、それらに飛びついていこうとするリューの頭を抑えると会場を見回す。

立っている人も座っている人も、みんなグラスを持っており準備は万端だ。


『メリー・クリスマス!!』


しんしんと雪が降る中、彼らはグラスを掲げて満面の笑みで挨拶をすると、クリスマスパーティを開始した。



今日は夜にも投稿します

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