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呪心〜誰かの心の収集記〜  作者: 榛原朔
行事の書 一章 霧晴らす知恵の樹

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7-ツリー探し

ヴィンセントがヘーロンを連れ出した頃。

クロウと海音は、晴れ渡る青空の下、雪が積もる森の中を歩いていた。


その目的は巨大なクリスマスツリーを作るための大木探し。

ニコライからの依頼はすべてヴィンセント達が請け負ってくれたため、彼らよりも遥かに気楽な仕事だった。


とはいえ、気楽なだけで楽ではない。

雪に足を取られながら進むクロウは、穏やかな表情をしながらも少しだけ額に汗を浮かべてつぶやく。


「雪は積もってるけど、降ってないから前より楽だなー……」

「そうなんですね。どっちにしろ斬れば楽ですが」

「……雪以外斬るなよ?」


そんな彼に対して、雪を斬り飛ばしながら歩いている海音は汗一つ流さず、済まし顔だ。

クロウは念のため釘を刺すが、彼女は特に気にせず進んでいく。


しかし実際、今のところ問題は起こっていないので、彼もそこまで強く抑えつけることはしない。

どうにか海音についていきながら、当てのない捜し物に悩んでつぶやいた。


「はぁ……一番でっけー木、どうやって探すかなぁ」

「すべての木を斬り倒して比べるのが一番簡単ですよ」

「真面目に言ってんのか……?」

「もちろんです。幼い頃は、よく邪魔な山を斬り崩して近道していたものですが、気がついたら元に戻っていました」


(え……な、なんで……!? だいだらぼっちとかがいたからか?

八咫って、ここより人と神秘が共存してる感じするし……

ありえる……のか……?)


「……へ、へー。でも八咫の外ではやっちゃだめだからな?」

「そうですか。気をつけます」

「うん、最優先事項だ」


海音の発言に驚愕の表情を浮かべるクロウだったが、人の国であるガルズェルスとは違って、八咫は人と神獣の国であるため無理やり納得したようだ。


目を泳がせながらも、この場では深く追求することはなく、先程と同じく釘を刺すだけに留めた。


そして、話すときに後ろを振り返ったことで早すぎたことに気がついたらしく、立ち止まって待っている海音に追いつくと周囲を見回し始める。


「まぁこの国の木はどれもデカいし、どれでもいいかな」

「たしかに、八咫の木のような繊細さはないですね。

雪に抗うためかどれも雄大です」

「ウプサラ神殿に向かって進んでたから、なおさらな。

変なのに会っても困るし、そろそろ決めてもいい気がする」

「ではここら一帯を‥」

「一本を選んでから斬ろうな?」

「そうですか」


現在地は星見の塔とウプサラ神殿の間――どちらかといえばウプサラ神殿に近く、少し傾斜になり始めている辺りだ。

神殿に何があるのかは謎だが、おそらくはその影響で他よりも立派な木が多くある。


彼らはこの国の隅々まで知っている訳ではないが、少なくともこの近辺で探すのならば最適なのはこの辺りだろう。

彼は一帯を斬り倒そうとする海音をたしなめると、どの木をツリーに使うか考え始めた。


「登る……? それとも太さを比べるのがいいかな? チルは最近、呼んだ時どころか死にかけても出てこないし……」

「斬れば‥」

「だから荒らすのは無しだって」


クロウが選び方を悩んでいると、思考を放棄してぼんやりしていた海音が懲りずに提案してくる。

もちろんすぐに却下されるのだが、だからといって良い案が浮かんでくる訳ではない。


クロウは案を考えるため、海音は斬ることを止められるも他を考えるのは面倒くさいため、黙り込んでしまう。

すると……


「……ん? せっかく神殿に近寄らなかったのに何か来た?」

「そのようですね」


辺りから、木の葉が揺れる音、木の葉から雪が落ちる音、木が倒れるような音、そして巨大な足音が聞こえてきた。

彼らの言う通り、何かが来た……足音的には、明らかに巨人が来てしまったようだ。


とはいえ、聞こえてくる足音は1つ。

クロウが危惧していたような、ツリー探しができなくなる程の群れではなさそうだった。


面倒くさそうにため息をつく彼らだったが、特に焦ることなく相談を始める。


「はぁ……まぁでも、1人ならそこまで邪魔でもないかな」

「多くても斬れば……」

「……お前なら本当にやれそうで怖ぇよ。でも戦わずにすむならその方がいいからな。とりあえず様子見だ」

「了解です」


ひとまず様子を見るということで合意した彼らは、今にも現れるであろう巨人から隠れるため、木の裏に身を潜めた。




~~~~~~~~~~




クロウ達、ヴィンセント達が、それぞれ分担した役割をこなしていた頃。星見の塔の一室では、ライアンが具合の悪いローズと寒さで眠っているロロを看病していた。


部屋は程よく温められ、テーブルの上にはたくさんの果物や薬、冷蔵庫にはよく冷えたお茶やゼリーなども完備されている。


ローズの体調不良は能力の使いすぎが原因ではあるが、万が一何か起こっても問題ないほど完璧な準備だった。

もちろん、見守っているライアンの負担も少ない。


雪や風がほとんどないため、ふかふかのベッドで眠る彼女たちは安らかな表情を浮かべている。

看病とはいうものの、彼がしていることはただ果物を食べるくらいのものだった。


だがしばらくして、そんな穏やかな空間の空気が唐突にふわりと動く。


「こんにちはー……」


ライアンがあくびをしていると、ドアが静かに開いた。

その隙間からひょっこりと顔を出したのは、ダボダボの白衣を身にまとった女性――アトラだ。


彼女は寝ているローズ達に配慮してか、小さな声で挨拶をするとゆっくりとドアを閉めて中に入ってくる。


「ん〜? なんだよアトラ、クロウ達についていくんじゃなかったのか〜?」

「うふふー、外は寒いからねー。掃除もやりたくないしー」

「つまりはサボりだな〜?」

「あなたも食べてるだけじゃなーい」

「まぁ病気って訳でもないからな〜」


ソファに座っているライアンは、いきなりやってきたアトラに驚きながらもりんごを剥く手を休めない。

彼女がトコトコやってきて向かいのソファに座る間に、うさぎの耳のような形に切り終わってしまう。


そして、自分でもりんごを食べながら、アトラの側にその皿を移動させた。


「ありがとー」

「ははは、ついでだついで〜。……まぁ、聞きたいこともあったしな。別にあいつの過去を詮索したい訳じゃねぇんだけどよ〜……天文学者は、あいつに何を見た?」


りんごをかじりながら笑うライアンは、アトラのお礼を軽く受け流すと真剣な目を彼女に向ける。

その視線を受け止めるアトラも、微笑みながらもどこか悲しげだ。


「占星術の話かしらー?」

「そうそう。前から気にかけてはいたんだけどな〜?

家族を覚えてなくて、廃村に1人でいて、呪いであるチルを除けば、俺が何年ぶりかの話し相手。ヒマリって子のことで泣いてるし、あれから段々壊れ始めてる気がする。

まぁ自覚なさそうだし、俺のもただの直感だけどな。

……その占星術ってのは、過去を見れたりするのか?」

「そうねー……はっきりわかるのは、陽葵ちゃんと似ているってことくらいかな。あの子と同じで、人為的……悪意の中に善意がある。助かったのは、本当にあの子達なのかしら?

思惑……期待……一番辛い呪いは、背負わされること」

「いつかローズみたいに暴発すんのかね……」

「星の軌道予測から、大まかな未来予測はできるわ。

今までのものが合っていることが前提ではあるけど……」


彼らに血の繋がりはない。

しかし、神秘の多くは生物を超越した存在であり、信念の違いから生存競争にならなければ、数少ない同種……家族とも呼べる存在になる。


そんな彼らは、年長者として、保護者的な立ち位置の者として、とある神秘の未来を憂いて話し続けた。


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