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呪心〜誰かの心の収集記〜  作者: 榛原朔
根源の書 一章 氷雪の権化、望郷の狂人

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11-研究塔、その是非を問う

巨人を狩ったり氷煌結晶を採集するつもりが、ソンに色々と教えてもらうことになった翌日。


いつものようにアトラの面倒を見てきた陽葵は、先日のように受け付けでセドリックと会い、彼に連れられてニコライとマキナの前にやってきていた。


「それで、今日は何の用だろう?

昨日は巨人を狩ってきてくれたようだが……」


セドリックが去ったのを見届けてから、戸惑った様子のニコライが口を開く。現在地は研究塔の高層、マキナの部屋だと思しき暗い部屋だ。


奥の暗い机にマキナがかじりついている中、様々な機械の発する音や光、配線の下で意を決した陽葵と彼らの対話が開始される。


「うん、ニコさん。だけど、ソンさんにいくつか気になる話を聞いたの。今日は、その確認」

「気になる話……?」

「そう。科学の発展で人類は一度滅びたんじゃないかって話と、ウプサラ神殿に眠るなにかの話……知ってる?」


対話を開始した陽葵は、早速本題に入る。

ソンから聞いた、発展により滅びたという科学文明の話と、発展で呼び起こされるものが、この国では神殿にあるのではないかという話。


これらは、研究塔の首脳部であるニコライが知らないはずのない内容だ。しかし、約一ヶ月前に目覚めた陽葵が知っているとは思えない話である。


まっすぐ問いかけられたニコライは、眉をひそめながら慎重に言葉を選んで返事をした。


「科学文明滅亡の話は、私が生まれる前の話だ。

詳しくは知らないが……少なくとも、原因ではないと聞いている。きっかけにはなったのかもしれないが……」

「マキナさん、そこのところはどうですか?」

「……」


まず、一つ目。

発展により人類は一度滅びたのかもという部分で、ニコライの認識を確認した陽葵は、その正誤を当事者に問う。


しかし、問い詰められたマキナは、奥の暗い場所で机に座ってノートに釘付けのままだ。

あまりこの問答に興味がないのかもしれない。


とはいえ、ニコライがしっかりと陽葵に向き合っている以上、無視してばかりもいられなかった。しばらく口をつぐんでいた彼は、やがて渋々顔をあげるとゆっくり口を開く。


「マキナ様」

「……はぁ。あの文明が……滅びた原因は……天からの、光。

しかし……それを、呼び寄せたのは……確かに、むやみな発展……だったのだろう……」

「前回言っていた『地球は間違えた』。

それはやっぱり、発展のことなんですね?」

「そう、なるな……」


マキナの肯定に、陽葵は悲しげに表情を歪める。

これで1つ目は確定だ。発展させすぎたら文明が滅ぶ。


現在のガルズェンスも他よりは発展しているはずだが、その分雪に閉ざされている。それを溶かして、より発展させていくという目標は良くない可能性が高かった。


その事実を知った陽葵は、続いて2つ目の話について促し始める。


「じゃあ、2つ目。ニコさん、神殿に何があるの?

あなたはそれを知っている?」

「ウプサラ神殿にあるのは、科学文明から残るコールドスリープの機械と、とある巨人の王だ。どちらも過去のもので、今この国が発展しようと影響はないと考えている」

「とある、巨人の王……? それって、ベガさんが言っていたこの国に現れたっていう巨人王……?」

「その残滓だ。氷を溶かしたからといって、いきなり目覚めるようなものでもない。この国の発展で呼び起こされる可能性のある脅威とは言えない」


ニコライが答えたのは、ベガの授業にも出てきたような内容だ。しかも、今回は問題ではないと確信しているのか、堂々と答えている。


最初はその内容に驚いていた陽葵も、彼の態度を見て何かを感じたのか、それ以上問い詰めることはしない。

話を切り上げて、ソンに言われた通りに神殿へ行く許可を取り始めた。


「とりあえずわかったわ。私は、その神殿に行ってみる。

立ち入り禁止ではないんだよね? 行っていい?」

「ああ……しかし、君が行くのであれば我々も行こう。

保護者として同行する」

「わかった。今すぐ行ける?」

「もちろんだ。アトラ以外はここにいるからね」


ソンの言う通り、ウプサラ神殿へ行く許可はすぐにとれる。

ニコライ達科学者の同行はあるが、それもこの時代での保護者としてだ。


星見の塔からアトラを招集し始めたニコライを尻目に、陽葵はセドリックやアレクなどの友人を待ちつつ準備を始めた。




~~~~~~~~~~




最終的に陽葵のもとに集った面々は、ニコライ、アトラ、アレク、セドリックの4人だった。


前回の陽葵解凍の時は調査として行っていたため、それなりの大部隊であったが、今回は陽葵が神殿に行くというだけなのだから当然だ。


巨人王の残滓というものを見に来た彼女の隣では、なんとなくついてきただけの面々が思い思いにくつろいでいる。


「陽葵ちゃーん、用事はまだ終わらないのー?」

「暇なら紅茶淹れるっすよ、急かさないであげてください」

「俺にもくれー、アレク。正直、なんで来たのかわからん」

「君も陽葵ちゃんと友達なんじゃないんすか?」

「そりゃそうさ。だけど、それは別に陽葵がここに来た理由じゃねぇだろ? 俺はやっぱり知らねぇ」


現在地はウプサラ神殿その深奥。

だが、神殿というだけで危険区域になる訳ではないし、陽葵と議論していたのはニコライだ。


調査に呼ばれた訳でもない彼らは、陽葵とニコライが神殿を観察しながら話し合っているのを横目に、ダラダラとおゃべりを始めていた。


とはいえ、彼らの和やかな雰囲気は彼らだけのものである。

少し離れたところにいる陽葵達には関係がなく、彼女達は彼女達で先程の話を続けて暗い雰囲気を醸し出していた。


「これが……?」

「そうだ。死体という訳でもない、実体があるのかもわからない。存在しない幻覚のようなこれが、巨人王の残滓」


彼女達が見ていたのは、神殿からはみ出している巨大な腕。

明らかに強力な神秘が滲み出しているが、どう見てもここに存在していないものだった。


これには、発展で何かが目覚める可能性を危惧する陽葵も、強く何かを言うことはできない。

もちろん、ニコライの対応によっては敵対もやむなしというところではあるが、彼がやらかすこともないだろう。


じっくりと巨人王の様子を観察する陽葵は、特に何かするでもなくただそれを見続けた。


「確かに、これを認知して気をつけているのなら発展も問題なさそう……全部溶かすのは怖いけど、ここは辺境だし……

でも、私達の文明は発展したせいで……私達の、文明……?」

「気は済んだかな?」

「……ねぇ、もう一つ何か言ってたよね? 科学文明から残るコールドスリープの機械って」


ハラハラとした面持ちで問いかけるニコライに、どこか遠くを見ていた陽葵はどうにか焦点を合わせて確認する。

口に出したのは、彼女が忘れているはずのコールドスリープの機械についてだ。


忘れているながらも何か引っかかっていたのか、先程ニコライが正直に答えたものを覚えていたらしく、強めに詰問していた。


すると、ニコライはさらに心配の色を深めながらもやはり正直に頷く。ただ発展のみを望んでいる彼には、後ろめたいことなどなかったのだ。


「あ、ああ……」

「案内して」

「……了解した。すぐ、そこだ……アトラ達は放っておこう」


命令口調の陽葵に、ニコライはやはり逆らわない。

少し離れているアトラ達を放置すると、彼女と共にさらに奥にある機械のもとへと足を踏み入れていった。



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