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空の冒険者  作者: ソラオン
第1章
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第1話 父の姿

基本的には週一投稿で行こうと思っています。学校とかもあって、夏休みが終わった後はそれすら守れなくなるかも・・・

まずは、スイレンが12歳まで一気に成長します。まあ、物語なんでね。時間の流れは簡単に飛んだり戻ったりしますもんでね。

・・・何言ってんだろ。

「ふっ!・・・ふっ!」


修練用の木剣を振ると、そのたびに空気を斬る音がビッ!と響く。

木剣はそれなりの重さではあるが、今のスイレンにとってはそれほどの重さではない。

とは言え何百回と剣を振れば疲労もたまる。今、スイレンは汗をたくさん流しつつも、それを拭うこともなく一心に剣を振り続けている。

心の中で数える剣を振った回数が500に達したとき、スイレンは剣を振る手をとめ、顔に流れる汗を拭った。


「ふう・・・」


家の外壁に手を付き、一息つく。

3年前に初めて剣を持たされてからスイレンはずっと剣の練習を続けてきた。

単純な素振りだけでなく、型、父との打ち合いを通した実践など。

だが、前よりも腕が上達しているという感覚はあるものの、スイレンとその家族が住んでいるのは国の中でも田舎のほうだ。同年代の子たちもあまりおらず、実感が湧きづらい。


「レン!今、休憩中?」

「ニルか・・・。まあ、休憩中かな。素振りが終わったとこだよ」

「いつもの日課だもんね。ほら、これで汗拭きなよ」


そういって差し出されたタオルを、スイレンは礼を言って受け取る。

この女の子の名はニル。スイレンにとっては、普段からかかわりのある数少ない(唯一といってもいい程だ)幼馴染だ。家が隣にあるので、幼いころから一緒に遊んだり、剣や魔術の練習をしたりしていた。お互いの親同士も昔から関係が深かったようで、なにかは詳しくは教えてくれないが、何やら以前彼らが関わることでなにやらいざこざがあったらしい。その影響で、両親たちはこの辺境の地(と彼らは言っていた)に来ることを決めたのだそうだ。その「いざこざ」とやらが何なのかは、スイレンやニルは知らない。

 辺境の地とは言っても、住人が30人程度の小さな村ではあるものの活気はそれなりにある。定期的に祭りや宴会のような催しもあって住人同士の交流も盛んで、魔物の類は現れることがない(どうやらスイレンとニルの両親たちが周辺の警備にあたっていて、魔物の討伐を行っているらしい)いたって平和な村だ。

両親の惜しみなき愛情、ほかの村人たちとの交流、そして何より、可愛らしくも頼もしい、相棒のような存在であるニルがいたことで、スイレンはこの地での生活に何ら不満を抱いたことはない。

だが12歳になった今、その生活ももうじき終わりを告げることになる。


***

スイレンたちが暮らすタートス王国では、子供たちは皆12歳になるとタートス王国の各地に存在する学園へと入学することになる。裕福な家庭は子供がまだ小さな頃から家庭教師を付けるなどして教育を受けさせているが、そのせいで貧しい家庭の者たちが不利になることをできるだけ少なくするために、学費はほぼ無料に等しいくらいに設定されている。

 その分、貴族たちにはその階級に応じた税金を国へ納めさせており、そこから学園の運営資金へと回されて成り立っているのだ。国王の采配も相まって各学園の運営は円滑に行われ、優秀な人材の輩出という点においても常に一定の成果を挙げている。講師や運営の大部分を国が管理し、一部を民間からの希望制で募るという方針が功を奏したようだった。

 とはいえ、学習の効率、速度は人によって違う。当然、同じ学び舎で勉強する者の中でもその習熟度には差が生まれてしまう。スイレンたちが数か月後に受ける試験は、そういった理由から、学園への入学のための試験というより、個人の能力に応じたクラス分けの意味合いが強い。スイレンはその試験で十分な力を発揮できるか不安なのだが、両親たちは心配ないと言い切っていた。何が根拠なのかは分からない。


「よう、スイレン。おはよう」

「父さん、おはよう」

「おはようございます、ライさん」

「うん、ニルも、おはよう」


いつの間にかそこにいたのはスイレンの父、ライだ。

かなり大きめの体格にがっしりとした体つき、引き締まった筋肉。それに恥じぬ剛力と逆にその体格に似合わぬ俊敏さで両手に持つ大剣を振るって敵をばっさばっさと斬り倒していくその姿に幼いスイレンは憧れを抱いたものだ。

 以来スイレンはニルやほかの村人たちと交流しつつも常に鍛錬を怠らず、父のようになりたいと日々過ごしてきたのだが、肝心の体格が、いつまで経っても大きくならない。成長はしているのだが、父のような大きさまでは到底なりそうもない。母が小柄なため、そちらに似てしまったのだろうか。父は「体の大きさや力の強さだけが全てではない。技術的、数値的、そして精神的強さも全部含めてそいつの力だ。お前は今の時点で、十分強い」と励ましてくれるが、父の姿を見てしまうと実感しづらいところだ。

 そんなスイレンの内面を知ってか知らずか、ライはいきなりスイレンの顔をまっすぐ見つめた。


「よし、スイレン!お前たちももう2週間後にはタートス学園に行っちまうのだ。ここらで一度、俺と立ち合いでもしないか?」


そう言われ、スイレンは迷った。

 あの父だ。スイレンが生まれる前のことは知らないが、父の何者をもよせつけない気迫と強さをずっと目の当たりにしてきたスイレンにとって、立ち合いをしても一瞬で打ち負かされてしまうようにしか思えない。

・・・いや、でも。

ライがあんなにも強いのはなぜか。

単純な力の強さだとは思えない。だが、それが何かはよく分からない。

今ここで父と立ち合いをすることで、彼の強さの源が分かるかもしれない。


「分かった。やるよ」

「おう、そうか。どうする?お前が良ければすぐに始めようと思うが」

「それでいいよ」

「よし、始めよう。ニル、すまないが、離れたとこで見ているか、嫌なら帰ってくれてもかまわないが、どうする?」

「見ています。二人がどんな風に戦うのか、私も見てみたい」

「うん、いい心がけだ」


ニルが離れていくのを見届けるとライはスイレンのほうに向き直り、不敵な笑みを浮かべた。両腕を胸の前で組み、余裕そうな雰囲気を出している。その余裕綽々な様子に触発され、スイレンも闘志を燃やす。

正直なところ、現時点で父に勝てるとは思えない。でも、簡単に負けたくもない。

スイレンが修練用に使っていた木剣を構えるとそこでようやく、ライもどこからか取り出した木剣を取り出し、体の前で構えた。

親子の間に徐々に張り詰めた空気が流れる。目と目で見えない火花が散ったように感じられ、遠くにいるはずのニルがその雰囲気を感じて体をのけ反らせた。

直後、スイレンが動いた。

少し離れた位置にいるライへ一度の跳躍で目前まで迫り、剣を大上段に振りかぶる。


「ハッ!」


予想以上の速度だったらしくライは少し目を見開いたが、それでも余裕な笑みを崩さず、スイレンが繰り出した斬りおろしに合わせて構えた剣を少し左にずらす。

スイレンとしては振る剣にそれなりの力を込めたつもりだったが、あまり力を込めた様子もないライにたやすく剣をそらされ、スイレンは一瞬体を停止させてしまう。

その隙を逃さず、ライの剣が最小限の動きでスイレンへと迫る。


「くっ!?」


刹那の硬直から解けたスイレンは咄嗟に体をぐっと縮め、足で地面を蹴り飛ばしてライから大きく距離をとる。


「ほお、今の攻撃を避けるか。まだ実戦経験がないにしてはいい判断力だ」

「褒めてるの?それ」

「ああそうさ。俺の期待以上に、な」


小手調べだと思いつつもそれなりの力を込めて打ったのにそれをなんなく躱されたうえ、下手をすれば一撃で仕留められていたかもしれない状況で褒められても素直に受け入れ難いものがある。

なら、今度は。

スイレンは剣を素早く横に倒しながら再び突進する。これなら、剣がどの方向から振られるのか判断がつかないはずだ。

間合いに入る直前、スイレンは剣の切っ先を少し上に持ち上げた。それに反応し、ライが上段で剣を受けようとする。だがスイレンは持ち上げた切っ先を瞬時に元に戻し、がら空きの胴体へ向けて水平斬りを繰り出した。見事なフェイント。

だが、剣がライの腹を薙ぎ払う直前で、ライがすぐさま引き戻した剣でスイレンの攻撃は防御された。


「んなっ!?」

「いいフェイントだな。並のやつなら引っかかってもおかしくないだろうな」


じゃあなぜ。なぜ父はこうも軽々スイレンの攻撃を受け止めてしまうのだ。

その問いに答えるかのように、ライは言った。


「だがな、お前にはまだ経験が足りない。お前はさっきの突進の時、俺の腹しか見てなかったな。それじゃあ、今からそこを攻撃しますって言ってるようなもんだ」

「・・・」


つまり、ライはこう言っているのだ。フェイント自体は良かったが、目が一点にしか向けられていなかったから予測が簡単にできた、と。

これは、ライがスイレンの剣の動きだけでなく、スイレンの目や顔、体の動作全体に目を向けていなければできない芸当だ。つくづく、父の強さに圧倒される。そして同時に、これが、自分が憧れた父なのだとも思う。


「実際、動きは悪くなかったさ。俺の想像以上に鍛えているみたいだし、12歳にしては立派なものだと思うぞ」

「そう、かな」

「ああそうさ。あとは、より一層の鍛錬を積むことだ。何より、経験が大事だ」

「うん!」


歯切れのよい返事に、ライは満足そうにうなずく。

そして、ライはいきなり大きく踏み込むと剣でスイレンを大きく吹っ飛ばした。


「うっ!?」

「俺も忘れかけてたが、今は立ち合いの途中だったな。さあ、続きだ!」

「えおっ!?」


そういうが否や、ライは不敵な笑みを崩さないまま、スイレンへと襲い掛かってきた。


***

「はあ・・・、はあ・・・」

「れ、レン、大丈夫?」


庭に大の字に倒れこむスイレンにニルが駆け寄ってくる。


「ま、まあ、なんとかね・・・」


なんとかそう答えるスイレンだったが、その体は既に限界だった。


・・・あの後スイレンはライの猛攻を3分以上も凌いだ。ほとんど反射的な動きだったが、どうにかライの攻撃を直撃はせず、何とかいなし続けたのだ。しかし、隙を突いて攻撃をするもそれはいとも簡単にかわすか受けるかされてしまう。その時点でスイレンにフェイントをしかける余裕はあるはずもなかった。そしてスイレンはまだ12歳だ。体力も大人なライと比べると絶望的に少ない。徐々に苦しくなっていき、最後にはこの様だ。完敗といっていいだろう。

 しかし、今の少しの時間でスイレンは数多くのことをライの言動から学べたように思える。元々勝てるつもりはなかったとはいえ、今の自分の能力でここまで食い下がれたのは、素直にうれしかった。


『現時点でそんなにやれるとは思ってもいなかったよ。よく頑張ってきたみたいだな。お前の強さはそこにある』


ライは去り際にそういった。その声に若干苦笑が混じっていたのは気のせいだろうか。

だが、もう体は限界だ。碌に動かせない。

ニルに体を起こしてもらいつつ、ライの言葉を心の中で反芻する。


「ねえニル、父さんのあの言葉って、どういう意味だったんだろう?」

「え!?急に聞かれてもなー。うーん・・・」


少し考えるしぐさをしたニルだったが、すぐに得心したように顔をこちらへ向けた。


「分かった。さっきの言葉は、きっとレンへの贈り物だったんだよ。今はまだ意味が分からないのかもしれないけど、学園での生活の中でその意味を見つけろっていうさ」

「確かにね・・・」

「それに、さっきの見てたら私も負けられなくなっちゃった。私ももっと頑張らないとね!」

「うん、そうだね。よし、もっと頑張って、いつか父さんを超えてやる!」

「おー!」


二人は拳を突き上げ、顔を見合わせて笑いあった。


1話にして早速父と手合わせをしたスイレンですが、まあ普通にボコされましたね。それも当然でしょう。なんせ、ライはもう30代にかかるバリバリ大人なのに対し、スイレンはまだまだ育ち盛りの12歳です。体もまだ発展途上ですし、まともにやったら普通に負けますよ。

でも、手合わせはこの一回だけではないですからね。今日負けたとて、次負けるかどうかは分かりません。彼の成長が、楽しみです。


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