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異邦人狩りーーユウキとアオイ  作者: グレファー
第13話 温泉宿での休息
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13-3

 ハイラントにて湧いている温泉はアルカリ性の透明な温泉であり(この世界の人間は酸性もアルカリ性も知らないが)、傷に良く効き、不妊にも効果があるとされている。そのため東大陸の各国および各町の兵士たちや、新婚カップルがこぞって温泉街に集まり、賑わっていた。


 “日の本の湯”の温泉に案内されたユウキは脱衣所で服を脱いでいた。その所作はどこかウキウキしており、さっさと服を脱ぎ終わり、体に巻いていた包帯を乱雑に外すと、ダッシュで浴場に向かっていった。


「うわっほーい!!! マジで温泉だーーー!!!」


 ユウキは両手を広げ、喜びで小躍りしていた。屋内には洗い場と木の浴室があり、そして屋外には石造りの露天風呂が用意されていた。その風景もまさに日本の温泉そのものであり、ユウキははやる気持ちを抑えつつ、洗い場で身体を洗い始めた。


「石鹸使って体洗うのも久しぶりだー! ちくしょう今までせいぜい水と布で身体拭くくらいか、川に飛び込むくらいしかなかったから、お湯と石鹸で洗えるのが気持ちよすぎる!!!」


 女将であるミカが宿を離れていたこともあり、ユウキ達が宿に入るまで宿が閉まっていたため、今の温泉はユウキ達の貸し切り状態だった。そのこともあってかユウキのテンションはいつもの3倍増しになっており、独り言を叫びながらゴシゴシと身体を洗う。


「あーちくしょう! 垢がすっげえ落ちる! めっちゃ気持ちいい!!! 早く風呂入りてぇーーー!!!」


 ユウキは身体を洗い終えると、お湯を組んで身体の泡を流し、風呂に入る準備を整える。そして屋内の木の浴室か、いきなり露天風呂に行くか迷いはしたものの、露天風呂を選択し、勢いをつけて露天風呂に向かい、音を立てて風呂に入った。


「っっっつあああああ~~~。い……生き返る……」


 一か月以上ぶりの風呂にユウキは感動していた。ここのところ無茶ばっかりしてきて強張った身体がほぐれていくのを感じる。“湯治”という言葉を知ってはいたが、今までピンときてはいなかった。しかし今はその言葉の意味を身をもって理解していた。


「旅は急ぎたいけど、ちょっとしばらく休むのもいいかもな……ホント……」


× × ×


 変わって女湯の方では、シーラとコニールとアオイの3人が身体を洗いあっていた。アオイはどっちに入るか悩んだ挙句、結局女湯に入ることにした。タイミングをずらすことも検討したが、“この身体”での風呂の入り方に不安を感じ――というよりシーラとコニールの強い希望で一緒に入ることにしたのだった。


「兄さんうるさいっすね……」


 男湯の方で騒ぐユウキに対し、シーラは小言を言う。アオイの髪の毛を洗っていたコニールは、シーラを宥めるように言った。


「まぁまぁ。彼の故郷では毎日風呂に入るのが習慣だったようだからね。それにこの宿も、異邦人が建てたこともあってか、彼の故郷にある風呂にそっくりなようだし。だろ? アオイ君」


 コニールはアオイに肯首を求めるが、アオイはただ俯きながら小声で言った。


「え……ええ。そうですね」


 アオイのあまりの恥ずかしがりようにシーラはアオイをからかうように言う。


「ちょっとちょっと姉さん~。別に女の子同士なんだから恥ずかしがらずに仲良くしましょうや~」


 からかうコニールにアオイは少しキレながら答えた。


「女の子同士ってな……! 確かに今は女の子の身体だけども、男だったことも事実なもんだから感情の持って行きようがないんだよ……!」


 アオイは身体の洗い方が未だに慣れない――というより言葉に出しづらい部分についての洗い方を教わりようがなかったため、コニールに今その洗い方を実技で教えてもらっていた。ただ絵面もそうだが、感触がアオイにとってあまりに刺激的すぎることもあり、非常に気まずい状態になっていた。


 コニールもただの女の子同士であればさして気にすることはないが、アオイが元男という事実もまた頭の隅には残っており、とりあえず気にしすぎない程度にさっさと洗うように心がけていた。


「しかし……随分と綺麗な肌だな」


 洗っている中で、コニールはアオイの肌の綺麗さが気になりふと口に出した。


「ユウキ君はそこまで綺麗な方だったか……? 結構がさつなイメージがあったが」


「それだけじゃない。前も思ってたけど、姉さんの身体やけにメリハリがあんのよね。……それはコニールにも言えるけどさ」


 シーラは少し不満げにコニールに言う。以前インジャに襲われたときにも同じ感想を抱いていたが、アオイの身体は元々ユウキだったということを感じさせないほどに、女性から見ても魅力的なものになっていた。――ただアオイはまだ超常現象的な何かが起きてこうなったのはわかるが、コニールの方はもはやそんな説明がつかないくらいに完璧な身体付きであり、シーラとしてはそっちに文句を言いたかった。


「シーラ……君も充分可愛い部類に入るだろう……? 学校じゃそれなりにモテる方じゃなかったのか?」


 コニールの反論にシーラは正直かなりムカッときていた。アオイとコニールを前にして、シーラの身体付きはあまりにも惨めなものであったからだ。しかしコニールの口調が嫌味らしいものは一切なく、本気でシーラのことを可愛いと思っているのが伝わってきたため、シーラは言い返す言葉を失ってしまった。


「…………とりあえず身体も洗い終わったし、風呂入ろ……」


 落ち込むシーラを見て、コニールはアオイに小声で話しかける。


「ど……どうしたんだシーラは?なんかすごい落ち込んでるようだけど……」


 シーラの落ち込んでいる理由がわかっていないコニールに、アオイは呆れながら答えた。


「……コニールさん、自覚のない謙遜は人を傷つけるもんですよ……」


 アオイも流石にシーラが落ち込んでいる理由はわかっていた。――しかし自分の身体がやけに魅力的なものになってしまっているのも、アオイからしたら受け入れづらいものではあった。多分自分が男だったころの好みが思いっきり反映されてしまっている。そんなことは口が裂けても言えないからだ。


× × ×


「「「ああぁぁぁ~~~」」」


 身体を洗い終わり風呂に入ったアオイたち3人は、その気持ちよさに一斉に声を上げた。オレゴンでの戦いが終わって一週間経つが、その間は町の復興に手を貸したりもしており、それにハイラントに来るまでに1日中馬車に揺られていたこともあって、女性陣3人もそれなりに疲れていたのだった。


「やっぱ長旅の間の風呂はこたえるなぁ~……」


 シーラは呻きながらお湯で顔を洗う。コニールもこの時ばかりは顔が崩れており、気持ちよさにとろんとしていた。


「ああ……ほんとそうだな……」


「はぁ……本当に気持ちい……」


 アオイも腕と足を伸ばして温泉を満喫する。そしてしばらく黙りこくっていたが、その沈黙に耐えかねたのか、シーラがアオイに尋ねる。


「ねえ姉さん……あのイサクの奴の下にいたとき、何かされました?」


 あまりの直球の質問にアオイは足を滑らせてお湯に全身を突っ込んだ。そして顔を上げるとゲホゲホしながら言い返す。


「ちょ……何されたって、何の答えを期待してるのよあんたは!?」


「そりゃあ……ほら、あのエロデブ野郎の毒牙にかかったって女兵士の話をいくつも聞いていたので……。姉さんも何かされてなかっただろうかと……」


「あ……あのねえあんた……!」


 アオイは言い返そうとするが、その直前にイサクに洗脳されていた時のことを鮮明に思いだしてしまった。あの時の自分は正気ではなかったとはいえ、イサクのためなら何でもしようとしていたし、ましてやプロポーズもされ、口づけまでされていた。――そして。


「…………うぅ」


 アオイは今まで考えないようにしてきたことを思い出してしまい、温泉の熱さと恥ずかしさでのぼせてしまい、一度お湯から出る。そして近くに置かれている椅子に座り、涼みながらこれから発しようとしている言葉を必死に編み込んでいた。


「……その……さ。こういう場で、ユウキもいないから二人に聞きたいことがあるんだけど」


「ん? なんすか?」


「……二人とも……その……」


 いやにもったいぶるアオイに、コニールも心配して声をかける。


「どうしたんだい? 別にだいたいのことは答えるから気にしなくてもいいよ?」


「う……うう……」


 アオイはしばらく悩んだものの、意を決して二人に問いかけた。


「その……さ、二人とも……ムラっと来た時とか……どうしてるの?」


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