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異邦人狩りーーユウキとアオイ  作者: グレファー
第1話 異邦人狩り〜ユウキ・アオイ〜
3/120

1-3

 マイルたちが暴れ始めてからまず町のゴロツキ達が十数人やられ、騒ぎを聞きつけて何人もの兵士が駆けつけていたが、彼らも全員力尽き倒れていた。広場には巻き込まれた住民たちも含め、数十人の人々が倒れていた。


 広場に立っているのはマイルとヤードの二人のみであり、マイルの腕には炎が纏われており、ヤードの周りには水球がいくつも浮かんでいた。


「王国の兵士ってもこの程度か」


 マイルは近くで倒れている兵士の頭を蹴っ飛ばしながら言う。


「地方の兵士のレベルが低いだけかと思っていたが、どうやら俺たちは本当に“この世界”の連中では相手にならない力を手に入れたらしいな」


 ヤードも目の前の惨状を何も気にせずに言い放つ。マイルはスマートフォンを取り出すと、電源を入れて画面を確認する。


「おっ、でもこいつら倒して”レベル”が上がったみたいだぜ。俺のステータスが上昇してら」


 ヤードもスマートフォンを取り出すと、呑気に画面を確認していた。近くで倒れていた兵士が目を充血させ、二人の殺戮者たちを睨んでいた。


「こいつら……!」


 懐に持っていたナイフを取り出し、動きを悟られないようにゆっくりと近づいていく。


「よくも俺たちの街を!」


 そしてナイフを持って立ち上がり、マイルに突き立てようと足を踏み出す。――しかし。


「なっ!?」


 マイルに突き刺さったはずのナイフの切っ先に水の球が出現しており、マイルの身体に突き刺さらずに盾になっていた。マイルは顔を歪ませて笑いながら兵士の顎を右手でつかむ。


「無駄な努力ごくろうさん」


 甲冑を着込んでおり、剣なども装備している兵士の重量は100kg近くある。そして見た目にもさほど筋肉がついているとはいえないマイルが、兵士の身体を右手だけで持ち上げる。持ち上げられた兵士は必死で抵抗するが、マイルの力に抗うことができず、顎の骨がメキメキと音を立てていく。


「ンググググ!!!???」


 兵士は涙目でジタバタとするが、その様がマイルの嗜虐心がさらに刺激されていく。


「お前程度が抗ったって無駄なんだよ!」


「ンガアアアアア!!!」


「アハハハハ!!! 最高だぜ!!!」


 マイルが兵士のとどめを刺そうと右手に力を込めた瞬間、衝撃を感じ手を離してしまう。


「なっ!?」


 マイルの右手にはレンガがぶつかっていたが、その軌道が全く“見えなかった”。どこから飛んできたのかもわからず、周囲を探す。――そしてすぐに見つけることができた。なぜなら周りに倒れている人間しかいないにも関わらず、その女性は一人だけ立っていたからだ。マイルは唇をゆがめ、その女性を指さして言う。


「その黒い髪! 間違いねえ! お前が話に聞いてた“異邦人狩り”だな!」


 指刺された黒髪の女性は俯いたまま何も言わずに佇んでいた。


「お前を誘い出すためにこの騒動を起こしたが、どうやらビンゴだったようだな!」


 マイルは両手から火を出しながら女性に近づいていく。


「お前の“ギフト”は何か物を飛ばす能力か!? さぁ何か飛ばしてみろよ!オイ!」


「魔力も無しに、火を起こしている……!?」


 今まで黙して喋らなかった女性だったが、マイルの火を見て思わず目を見開いて見てしまった。ようやく女性の言葉を聞いたマイルは一旦足を止める。


「そうだ、俺のギフトは火を操る能力。まぁ、本来こういうのはベラベラしゃべるもんじゃねーとは思うが、俺の能力の性質上、隠すってのも無駄なんでなぁ!」


 マイルは更に勢いよく火を起こし、その火が生じる熱風に女性は腕をかざすが、腕の下から不適な笑みがこぼれていた。そしてその様子を後ろからヤードが目ざとく見ており、違和感を感じてマイルを止める。


「待てマイル!」


「なんだヤード!?」


 マイルはヤードから声を掛けられ動きを止める。だがそれはその女性――“シーラ”の想定内の動きだった。


「はい、バーカ」


 次の瞬間、マイルの上空からガラスの雨が降りそそいできた。


「なっ!?」


 マイルは火を操作し、上空にあるガラスを溶かそうとする。そしてシーラは黒髪のかつらを投げ捨てると、全速力でその場から離れていった。その行動と、ガラスに混じった何かを見て、ヤードは叫んでマイルを行動を制止しようと手を伸ばす。


「マイル、やめろ! そのガラス片は……!」


 だがその言葉は遅く、マイルはガラスに向かって火を放ってしまった。――それが中身の入った“酒瓶”を砕いたものだと知らずに。そしてガラス片は溶けたものの、火のついたアルコールがマイルに対して降り注いでいく。


「ぐああああっっっ!!!???」


「火を操る不審者が暴れているって、情報は掴んでたからね! そりゃとーぜん対策はするでしょうよ!」


 シーラは逃げながらも、捨て台詞のようにマイルたちに言い放つ。マイルの頭上から火の雨が降り注ぎ、ヤードは急いで消火しようと水球を出現させ、それをマイルにぶつける。燃え広がる前にマイルについた火は消されたが、突然の攻撃にマイルもヤードも足を止めてしまっていた。


「姉さん! 今です!」


 マイルたちの行動の予想していたシーラは叫んで言った。そして次の瞬間、マイルたちの頭上から今度はナイフが何本も降ってきた。


「ヤード!」


 先ほどの事があり、マイルは今度は火を使った行動はできなかった。ヤードが頭上に水の盾を出現させると、落ちてくるナイフは水に飲まれ動きを止める。そしてここまででマイルたちは上からの奇襲に意識を取られ、足元の注意が完全に疎かになっていた。


「あああっっっ!!!」


 そしてその隙を付き、ヤードの足元にいた金髪のカツラを被ったアオイが立ち上がり、叫びながらナイフを突き立てて襲い掛かる。マイルもヤードも完全に足元を警戒していなかった。“異邦人狩りは黒髪”という情報から、黒髪の人物がいないことで油断をしていた。


 ここに来るまでに詳しい事情を知らずとも、アオイが狙われているという話を聞いていたシーラが、道中で見つけた黒髪のカツラを被り、意図的に目の前で脱ぎ捨てたことでその意識を強めていたこともあった。――が。


「残念だったな」


 ヤードは勝利を確信した笑みを浮かべていた。アオイは嫌な予感を感じ動きを止めようとするが、それをする必要がなかった。――なぜならもう身動きが取れなくなっていたから。


「がっ……! な……何……?草が……!?」


 アオイの身体に草の蔓が巻き付いており、身動きが全く取れなくなるほどに食い込んでいた。呼吸もうまくできなくなり、アオイは力を失い地面に倒れる。ヤードたちはスマートフォンを取り出すと、アオイをカメラで写していた。そしてヤードが画面を見ながら、情報を読み上げるように言う。


「えーと……結城葵。うむ、確かに事前の情報通りのようだ。年齢は17歳。ステータスは……魔法に関する能力値がかなり高めだが、その他の身体能力に関する値は普通の女性並……。先ほどの戦い方からするに、“瞬間移動”のギフト能力以外は、戦闘手段を持ってない……で合っているか?」


 アオイは呼吸困難な身体で、顔を真っ青にしながらヤードたちを見上げる。マイルはアオイの服の襟首をつかむと、身体を持ち上げて顔を近づけた。


「お前が最近、この大陸の異邦人たちを倒して回っているとかいう“異邦人狩り”だな? お前の目的はなんだ? 他に仲間がいるのか?」


 アオイは意識が遠くに跳びそうになりながらも、気丈な顔を崩さずにマイルを睨みつけていた。


「あんたたちが……何にもしてない人たちを傷つけるからでしょう……! それ以外に理由なんてないわよ……!」


「そうか……」


 マイルはアオイを地面に叩きつけ、舐めまわすようにアオイの身体を見た。


「なら、俺らは俺らのクエストを終わらせるだけだ。お前の身柄を攫えってのが目的だからな」


 アオイは何か逃げる方法はないかと周囲を探る。助けを求めようにもシーラもすでに周囲にはいない。アオイ自身がここに来る前の作戦会議で、囮の役目を果たしたらすぐ逃げるようにとシーラに言っていたからだった。


「うぐっ……ぐっ……!」


 逃げようともがくが、身体に巻き付いた蔓がさらに食い込んでいくだけだった。敵もバカではなかった。二人で暴れることで二人しかいないと意識させ、もう一人の伏兵を忍ばせていた。騒ぎを聞きつければノコノコやってくる“異邦人狩り”を倒すために。


「たす……けて……」


 アオイの助けを懇願する言葉に、マイルとヤードも下卑た表情を浮かべる。粗暴なマイルに比べヤードは落ち着いた雰囲気を見せていはいたが、あくまでそう見せているだけにすぎなかった。アオイのその弱弱しい態度が彼らの嗜虐心を強く刺激した。


「事前の写真では女に見えなかったが……よく見りゃ結構な上玉ってやつじゃねえか。本部の奴らに引き渡す前に、俺らで楽しんじまうか?」


 マイルは興奮しながらヤードに言い、ヤードも同様の気持ちで答える。


「ああ、そうだな。インチにも褒美をくれてやらなきゃな……!」


 戦いの終わりを確信した二人は不用心にアオイに近づいていく。怯えていた表情を浮かべていたアオイだが、その視線の先に何かを見つけ、そして徐々にその表情を変えていった。


「……? なんだ?」


 アオイの表情が変わっていったことを受け、ヤードの手が止まる。だがマイルはそんなことに一切気づかず、周囲に全く目を向けていなかった。そしてアオイは目に涙を浮かべながらも、意志を取り戻した表情をして二人に言い放つ。


「……伏兵がいるのは、そっちの……専売特許じゃないって……こと。私……いや、俺私おれたちが実際何人だったかって……そっちはわかっていない……!」


「何?」


 マイルはようやくアオイの不審な行動に気づき動きを止める。そしてアオイは残った力を振り絞って、大きな声で叫んだ。


「ユウキ!!! 助けて!!!」


 近くの建物の屋上から、黒マントを羽織った少年がマイルたちを見下ろしていた。そしてその少年は建物から飛び降りると、空中で一回転して壁に足をつける。――そして。


「うおおおおっっっ!!!」


 壁を蹴り、一気に跳躍をかける。人間離れしたスピードで飛んでいき、マイル達とアオイとの間に塞ぐように着地した。


「「!!!???」」


 突然の乱入者にマイルもヤードも反応できず、そして黒マントの少年――ユウキはマントをたなびかせながら、着地した衝撃により舞い上がった土煙の中心に立っていた。


「貴様は……!」


 ヤードは冷や汗を流しながらユウキを見た。反応できないほどのスピードによる移動、十数メートルを一足で跳躍するような異常な脚力。そして確信する。――間違いない。あの女が“異邦人狩り”ではない。こちらが今回の“討伐対象”だと。そしてユウキは怒りの表情をヤード達に向け、冷たく言い放った。


「お前達は……“異邦人”……だな!?」

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